人材市場が売り手と言われ、転職による人材の流動化は以前より高まっている。しかし、大企業に比べて、中小企業の中途採用が難しいという現実もある。ここでは、中途採用が難しいと感じている中小企業向けに、中途採用の現状や中途採用が難しい理由はもちろん、その対策法を紹介する。

目次

  1. 企業の中途採用の現状
    1. 企業の中途採用者数の推移
    2. 労働者の転職希望者数は増加傾向
  2. 中小企業の中途採用が難しくなる3つの理由
    1. 中小企業は企業に比べて知名度が低い
    2. 採用活動に避けるヒューマンリソースが限られている
    3. 採用活動の費用コストも限られている
  3. 中途採用を成功させるための5つの方法
    1. 自社の経営理念や強みを整理する
    2. 自社メディア制作やSNSの活用による知名度の向上
    3. 自社に必要な人材を整理する
    4. 求人媒体は求める人材に合わせて利用する
    5. 採用試験は必要な人材を見極める内容にする
  4. 中小企業の中途採用は戦略的に行おう
隈本稔
隈本稔
長崎大学生産科学研究科を修了後、大日本印刷と東レにて製品開発・生産技術職に従事。現在は、長崎にて中小企業を中心にプロジェクト計画・実行支援やスタートアップ支援を行なっている。また、国家資格キャリアコンサルタントを取得し、求職者や企業における社員のキャリア設計・採用定着・対人トラブル改善のコンサルを行なっており、webメディア「職りんく」(https://syokulink.com)を運営している。

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企業の中途採用の現状

中途採用が難しい3つの理由!採用活動を成功させるための具体的な方法は?
(画像=Drobot Dean/stock.adobe.com)

企業にとって、新規事業への取り組み強化や退職者の人員補充などの面で、即戦力としての活躍が期待できる中途採用は非常に重要である。

それでは、近年の企業の中途採用の状況はどのようになっているのだろうか。厚生労働省の『中途採用に係る現状等について』(令和元年9月27日 厚生労働省職業安定局発表)の資料や、『雇用動向調査』などの統計データを参考に確認してみよう。

企業の中途採用者数の推移

2019年発表の『雇用動向調査』(令和元年9月27日 厚生労働省職業安定局発表、中途採用に係る現状等について:P.3-6)によると、2018年に就労した入職者数は、一般労働者とパートタイム労働者を含めて約767万人で、その中の65%にあたる約496万人が転職による中途入社であった。

企業の中途採用者数は景気の影響によって増減するが、1994年の中途採用者数が300万人を切っている中で、34年で実に倍以上に増加していることがわかる。特にパートタイム労働者の転職割合が多くなっているが、一般労働者の中途採用者数も上昇傾向にある。

特に中途採用者数が増えているのは、従業員が1,000人以上の大企業であり、2017年には実に120万人に迫るほどの転職入職者数となっている。従業員が300人未満の中小企業は緩やかな増加傾向であったが、リーマンショック直後に減少に転じ、2010年以降はほぼ横ばいという状況である。

大企業は新卒採用者数も多いが、中途採用者数も中小企業に比べて多いという現状が伺える。

労働者の転職希望者数は増加傾向

2017年の『就業構造基本調査』によると、正規雇用労働者の約1割にあたる343万人が転職を希望しており、非正規雇用労働者も全体の16%にあたる約300万人が転職を希望している。

今後もリーマンショックやコロナ禍のような外部要因によって、転職希望者数の一時的な増減はあると考えられるが、トヨタ自動車の社長が終身雇用の限界が近いと語ったように、同じ会社で働き続けることが必ずしも可能とは限らない状況であるため、転職者は増加していくであろう。

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中小企業の中途採用が難しくなる3つの理由

『雇用動向調査』からも、大企業に比べて中小企業の中途採用者が少ないことが見受けられるが、リクルートワークス研究所の統計データ『中途採用実態調査』においても、その差は顕著である。

データによると。従業員規模が300人未満の中小企業の採用人数の平均は1.14人であり、300-999人規模の大企業の採用人数11.24人の、実に10分の1となっている。5,000人以上規模の大企業では中途採用者数が平均102人であるから、その差は明確だ。

【リクルートワークス研究所「中途採用実態調査」(2019年、正規社員)】

会社規模 社 数 【参考】1社当たり
中途採用人数(人)
2018年度 2019年度
5〜299人 1623 1.24 1.14
300〜999人 844 10.81 11.24
1000〜4999人 495 26.41 26.95
5000人以上 130 112.37 101.96

それでは、なぜ中小企業は大企業に比べて中途採用が難しくなってしまうのであろうか。

中小企業は企業に比べて知名度が低い

中小企業の中途採用が難しい最大の理由が、知名度や事業安定性の面で大企業に劣っている点である。

企業の知名度は、歴史が長く規模が大きいほど高まるのは当然であり、認知されない限り、中途採用をしたくとも応募者が少ないと考えられる。

また、中小企業の中途採用者数が、リーマンショックを境に減少に転じて横ばいであることが示しているように、転職希望者は事業に対する安定性も重視している。倒産件数が減少傾向とはいえ、倒産のリスクが大企業よりも高い中小企業は、転職先として避けられているのが実情である。

採用活動に避けるヒューマンリソースが限られている

中小企業の中途採用を困難にする要因として、採用業務に従事できる人員の限界がある。中小企業においては、人事業務を総務や事務職が兼任するなど、1人で複数の役割に従事することが多い。そのため、採用の計画立案や採用試験に専任できるヒューマンリソースが限られ、満足な中途採用を行うことが難しくなるのである。

採用活動以外の業務が滞れば、それは事業活動自体にも影響を与えることになりかねない。その結果として、採用業務に注力することが難しくなり、他社に先に優秀な人材を確保されることとなり、新しい戦力を満足に確保できないという悪循環に陥るのである。

採用活動の費用コストも限られている

中小企業では、採用活動にかけられる資金面でのコストにも限界がある。大手企業などは、有名転職サイトや転職エージェント会社などを活用して採用活動を行えるだけの資金力があるが、中小企業にはその余力がない。

求人情報誌や、リクナビNEXT、dodaなどの転職サイトに求人を掲載する場合には、掲載に費用が掛かるのは分かるだろう。ただ、中途採用で自社とのマッチ度の高い人材を紹介してくれるような転職エージェントを活用すれば、それ以上の資金が必要となる。

転職エージェントサービスを利用した場合、求職者が自社に入社した後に成果報酬を支払う必要があるのだが、その金額はおおよそ中途採用者の年収の3割程度が相場である。つまり、400万円の年収であれば120万円程度が中途採用の経費として必要になってしまう。

そのため、どうしても無料で掲載可能で、かつ雇用助成金の支給が望めるハローワークを利用することが前提となってしまうため、地域採用が多くなってしまう傾向にある。

また、大手企業などは、中途採用における交通費支給などを行う金銭的余力があるが、中小企業は交通費支給なども難しく、結果的に応募者数自体が少なくなりがちである。

中途採用を成功させるための5つの方法

中小企業の中途採用が難しい大きな理由が、知名度の低さや採用活動にかけられるコストが限られていることであり、知名度の向上はもちろん、いかに採用コストを下げるかが重要だ。

ここでは、中小企業が中途採用を成功させるための方策について説明する。

自社の経営理念や強みを整理する

直接的な採用活動の前に行うべきなのは、自社の経営理念や強みを改めて整理することである。経営理念は、自社がどのように社会と関わるかを示すものであり、中途採用者に対しても理念の共有は必要である。大手企業などの歴史ある企業は、この企業理念をしっかり実行し続けている。

自社の強みに関しては、そのまま他社と比べて自社にどのような「売り」があるかを、中途採用者に示すことにもつながる。「SWOT」や「VRIO」のようなフレームワークによって、いま一度自社の強みを整理し、他社にはない魅力を伝える必要がある。

また、「SDGs」や「ESG投資」などの言葉に代表されるように、現在は環境に対する配慮や環境改善活動は企業評価向上には必須であり、積極的に事業活動に取り入れることが重要である。

自社メディア制作やSNSの活用による知名度の向上

パソコンやスマートフォンの普及によって、情報収集の媒体は雑誌やTVからweb媒体へとシフトしている。また、SNSも普及しており、Twitterなどでの情報発信によってバズマーケティングを行う大企業もある。

つまり、中小企業も自社サイトやSNSの運用は必須という状況であり、如何にweb媒体で自社の活動を伝え、転職希望者などの興味を引くかが重要にもなってきている。

また、以前は敷居が高かったプレスリリースについても、「PR TIMES」などのwebサービスならば、比較的容易に依頼することもできる。自社の成果や社会貢献などについて積極的にweb上に情報を開示することで、知名度を向上することが可能になっているのだ。

自社に必要な人材を整理する

自社のPR強化によって認知度を上げたとしても、本当に自社に必要な人材が明確でなければ、中途採用を行う意味がない。

自社にとって何を必要としての中途採用なのかはもちろん、既存社員の能力や性格などを考慮した上で、必要な人材像を整理する必要がある。この点が疎かであれば、採用後のマッチングの不一致はもちろん、余計な教育コストなどによって事業経営に想定外の影響を及ぼす可能性もあるのだ。

求人媒体は求める人材に合わせて利用する

求人媒体にはさまざまなものがある。無料掲載が可能なindeedなどのサービスはもちろん、ハローワークやタウン誌、有料転職サイトなどだ。自社が必要とする人材が採用試験に応募してくるか否かは、求人媒体によっても違ってくる。

地域限定採用ならばハローワークやタウン誌が有力だが、掲載できる情報にも限りがある。indeedなどのweb媒体ならば、画像なども利用しながら求職者に具体的な訴求ができるだろう。どうしても経験やスキルを限定した中途採用を行うならば、長期目線では転職エージェントを活用した方がコストを抑えられる可能性もある。

採用試験は必要な人材を見極める内容にする

中小企業が中途採用を行う場合の最大の失敗は、マッチングの不一致である。先のデータが示すように、中小企業はそもそも中途採用者の雇用者数が少ない。つまり、必要な人材の明確化はもちろん、その人材を見極める採用試験も必要となるのだ。

採用計画の段階で、ある程度必要な人材を絞った上で、その採用が可能な試験を準備しなければならない。面接の質問内容はもちろん、面接だけでは見極められない能力を、筆記試験などの適性検査などを活用することで補わなければならない。

面接だけで終わらせたい気持ちも分かるが、人の勘に頼り過ぎずに評価ができる準備も必要だ。

中小企業の中途採用は戦略的に行おう

中小企業の中途採用は大企業に比べて難しい傾向にあり、その大きな理由に人的・金銭的リソースの限界がある。リソースが限られているからこそ、中途採用において必要な人材の明確化や、その人材を見極めるための採用試験の準備が非常に重要となる。

また、SNSをはじめとしたweb媒体の普及によって、中小企業であっても以前より多くの人に自社を知ってもらう手段が増えたことも確かである。中途採用が難しいと嘆く前に、できることから計画的に進めて欲しい。

文・隈本稔(キャリアコンサルタント)