米製薬大手ファイザーと独バイオ医薬品企業バイオエヌテックが共同開発した新型コロナワクチンの実用化が英国で始まり、世界中でワクチンへの期待値が高まっている。世界のワクチン開発の最前線とともに、開発レースに出遅れた日本が逆転出来る可能性について見てみよう。

目次

  1. 世界のワクチン開発の最前線
  2. 日本はアンジェスが最有力候補?
  3. 臨床研究が発展しない環境、実態把握の延滞 日本は「弱点」を克服できるのか?
  4. 日本のワクチンにも逆転のチャンス有り?

世界のワクチン開発の最前線

ワクチン開発の最前線 日本は「弱点」を克服できるのか?
(画像=AntonioDiaz/stock.adobe.com)

現在、世界中で生ワクチン・不活化ワクチン・VLPワクチン・組み換えたんぱく質ワクチン・mRNAワクチン・ウイルスベクターワクチンなど、さまざまな種類のワクチン開発が進んでいる。

WHO(世界保健機関)の 12月8日のデータによると、米国ノババックスやジョンソン&ジョンソン傘下のヤンセンファーマ、中国のシノバック・バイオテクなど、52種類のワクチン候補が臨床評価(有効性と安全性をヒトで評価する)段階で162 のワクチン候補が前臨床評価にある。

開発レースの先頭を走るのは、前述のファイザーとバイオエヌテックのmRNA 型や11月30日に欧米での緊急使用許可を申請した米モデルナのmRNA 型、追加臨床試験を予定している英アストラゼネカとオックスフォード大学のウイルスベクター型だ。また、ロシアで承認を受けた国立ガマレヤ疫学・微生物学研究所のウイルスベクター型「Sputnik V(スプートニクV)」なども挙げられる。

ファイザーとバイオエヌテックのワクチンは12月10日現在、英国・バーレーン・カナダで承認を受けたほか、モデルナのワクチンとともに、早ければ来年初旬に欧州連合(EU)でも承認・実用化される。

第三相臨床試験データによると、ファイザーとバイオエヌテックのワクチンの予防効果は95%、モデルナは94.5%、ガマレヤは中間データで92%と極めて高い有効性が報告されている。アストラゼネカのワクチンは投与量によって62~90%と異なる結果が報告されたため、効果の信頼性を確立するための追加臨床試験が、承認のカギを握っているといえそうだ。

日本はアンジェスが最有力候補?

一方、世界のワクチン開発レースに出遅れた感が否めない日本だが、安全性・有効性・高品質を追究する画期的なワクチンの開発が加速している。

国内初の第三相臨床試験を開始したのは、大阪大学とバイオベンチャー企業アンジェスが共同開発するDNAワクチンだ。ウイルスの表面にある「スパイクたんぱく質」のDNAを人工的に作り出し、摂取することで免疫をつけるという仕組みである。

塩野義製薬は傘下UMNファーマの技術を活用し、国立感染症研究所などと遺伝子組み換えワクチンを開発している。これは、スパイクたんぱく質を人工的に作り出し、免疫をつけるというものだ。

同社いわく、「mRNAワクチンなどの新技術と比べて、効果と安全性がすでに確立されている」点がアピールポイントのようだ。2020年内の臨床試験開始、2021年末までに最低3,000万人分のワクチン生産を目指している。

KMバイオロジクスは国立感染症研究所や東京大学医科学研究所などと共に、毒性を排除したウイルスを投与するタイプの不活化ワクチンの開発を進めている。2023年の発売を目指し、年内に臨床試験を開始する予定だ。

独自の新規核酸送達技術を用いたmRNAワクチンを開発中の第一三共は、2021年3月頃の臨床試験開始を目指している。新規核酸送達技術とは、感染防御に必要な抗原を形成する核酸を免疫細胞内に送り込む技術で、ワクチンの免疫効果を高める効果が確認されているという。

臨床研究が発展しない環境、実態把握の延滞 日本は「弱点」を克服できるのか?

国内の開発状況が遅れているのはなぜなのか。医薬品医療機器総合機構理事長の藤原康弘氏などの専門家は、「感染者追跡システムの脆弱性による実態把握の延滞」と「大規模な臨床試験をできない環境」を、二大要因として挙げている。

他国がデジタル技術を駆使して、早期から軽症者を含む感染者の追跡を徹底的に行ったのに対し、日本は報告漏れや重複が相次ぐなど、実態を把握して適切な対策を講じる上で欠かせない、基礎データの収集に苦戦した。

また、臨床研究に対する政府や企業による支援体制が不足しており、臨床研究が発展しない環境であることも、開発を遅らせている要因といえる。

自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長の讃井將満教授によると、医学研究は基礎医学研究と臨床研究に大きく分類されるが、日本の医学研究は基礎研究中心に発展したという。そのため、患者データを用いて統計解析を行って実証する臨床研究が、これまで十分に重視されていなかったと指摘している。

コロナで日本の弱点が明るみにでた今、改善のきっかけとしてポジティブに転じる動きが活発化すること祈るばかりだ。

日本のワクチンにも逆転のチャンス有り?

海外のワクチンが日本に普及した場合、国内のワクチン開発にどのような影響が出るのかも気になるところである。

日本ワクチン産業協会理事長今川昌之氏は、「危機管理の一環として国内でワクチン開発を進める体制を確保する」とする一方で、ファイザーなど海外ワクチンが日本で普及した場合、「国内企業の進める治験にいい影響は出ない」との見方を示している。

折しも12月8日から、高齢者と医療従事者を対象に英国で摂取が開始されたファイザーとバイオエヌテックのワクチンは、接種直後に2人の医療従事者からアナフィラキシーショック反応が出たと報告されている。

アナフィラキシーショックとは、アレルギー成分が体内に侵入することにより、複数の臓器や全身にアレルギー症状が表れ、場合によっては命に危険が生じる重度のアレルギー反応だ。

英国側は、両者ともに過去に複数のアレルギー反応体験があったこと、今後は重度のアレルギー体質者への投与を行わないことなどを発表した。しかし、それでは重度のアレルギー体質者はアレルギー体質者にも安全なワクチンが承認されるまで、摂取の対象から除外されることになる。また、大規模接種が本格的に開始された後、新たな副反応が出る可能性も否定できない。

有効性が高く、万人に安全なワクチンが待たれる中、日本がワクチン開発レースで逆転するチャンスを期待したい。

文・BUSINESS OWNER LOUNGE編集部