役員ボーナスは、企業によって出し方が決められる。一方でどのように決めているのかは、気になるところだ。そこで今回は、役員ボーナスの支給をする際に必要な決め方、出し方、支給日、届け出など手続きと注意点、今後の展望について解説する。
役員給与と役員ボーナスの違い

役員給与と役員ボーナスの違いについては、法人税法で取り扱いが決められている。まず役員給与は、1ヵ月以下の一定期間ごとの支給とされている。役員ボーナスは、役員に支払う役員給与と退職時に支払う役員退職金以外の報酬のことを指す。企業経営の実務上で「役員ボーナスが損金算入できるのか」と気になっている人もいるだろう。
現状では、条件付きで損金算入が認められる。役員ボーナスを考えるときには重要なポイントになるので注意したい。また役員ボーナスには、企業業績と連動するインセンティブとして支給される出し方もある。企業経営者は、役員は企業業績の向上を目指した考え方と行動を取ることは当然と考えているかもしれない。
しかし企業としての決めごととして企業業績と連動するインセンティブとして支給される役員ボーナスの割合を高めることは、さらなるモチベーションアップにつながる可能性があることを考慮する必要があるだろう。
役員ボーナスの出し方
損金算入可能な役員ボーナスの出し方には「事前確定届出給与」と「業績連動給与」がある。
1.事前確定届出給与
事前確定届出給与は、役員に対して決められた支給日に事前に確定した金額や事前に確定した株式などを支給する給与という形式で役員ボーナスを支給する出し方である。事前確定届出給与は「事前確定届出給与に関する定め」に基づいて支給しなければならず所轄の税務署長宛てに事前確定届出給与に関する定めの内容に関する届け出をしなければ損金算入は認められない。
損金算入という視点のみで考えれば事前届出給与で役員ボーナスを支給する出し方は有効であろう。しかし企業経営という観点から見てみると事前届出給与は、役員のモチベーションにはつながりにくいボーナスの出し方になるだろう。12ヵ月間、1ヵ月ごとに支払われる役員給与の回数がボーナス分増えるといったイメージで捉えられる出し方になりかねないのである。
2.業績連動給与
業績連動給与とは、企業の業績に連動して支払われる役員ボーナスを支給する出し方だ。役員ボーナスの支給額を決める指標には、企業利益の状況や株式の市場価格などが使われる。業績連動給与として役員ボーナスを支給する出し方は、事前確定届出給与と比べると企業の業績の向上が役員ボーナスに反映されやすい。同時に役員のモチベーションにもつながるだろう。
しかし日本企業の多くは業績連動給与を採用している割合が少ない傾向だ。経済産業省は、この傾向を日本企業の収益力と中長期の企業価値の向上に対する問題点として捉え改善に向け施策を実行している。業績連動給与導入を推進するために法人税法が2017年度に税制改正されているので以下に引用しておく。
項目 | 改正前 | 改正後 |
算定指標 | 利益の状況に関する指標のみが対象(営業利益、当期純利益、ROE 等) | 株価等を指標に追加 |
計測期間 | 単年度の指標のみが対象 | 複数年度の指標も対象に |
グループ経営 | 非同族会社であることが必要(子会社は同族会社に該当するため対象外) | 同族会社であっても非同族会社である親会社の完全子会社であれば対象に |
出典:経済産業省「攻めの経営」を促す役員報酬 ~企業の持続的成長のための インセンティブプラン導入の手引~ (平成29年9月時点版)
役員ボーナスを支給した企業はどれくらいある?
役員ボーナスを考える場合、実際に役員ボーナスを支給した企業がどのくらいあったのかは参考になるデータだろう。
役員ボーナスの支給状況
日本の民間企業の役員報酬(給与)は、国家公務員の報酬を検討するためのデータとして人事院事務総局により全国の企業を対象として毎年調査が行われている。ここでは2019年(令和元年)民間企業における役員報酬(給与)調査の中から2018年の年間賞与の支給状況を確認していく。
第6表 平成30年の年間賞与の支給状況
項 目 調査年 | 計 | 賞与制度がある | ||||||||
支給した | 支給していない | 賞与制度がない | 未記入 | |||||||
前年に比べて | ||||||||||
増額 | 減額 | 変わらない | 未記入 | |||||||
令和元年 | % | % | % | % | % | % | % | % | % | % |
100.0 | 66.9 | 58.7 | 26.7 | 11.6 | 16.6 | 3.8 | 8.2 | 31.9 | 1.2 |
事前確定届出給与の支給を損金算入するには、所轄の税務署長あてに事前確定届出給与に関する定めの内容に関する届出書を提出が必要だが届出には期限があるので注意したい。事前確定届出給与の届出期限は「定時株主総会による決議から1ヵ月以内、または事業年度開始の日から4ヵ月以内のいずれか早い日」となる。 ### 3.過大な役員ボーナスは損金算入されない 税務上の規定に従って役員ボーナスを支給していたとしても同業他社の役員ボーナス支給金額や社内の役員と比較して突出して高額の役員ボーナスが支給されていた場合は、損金算入が認められない場合がある。役員ボーナスの金額を決める際には、税理士などの専門家に相談する必要があるだろう。 ## 役員ボーナスの決め方で考慮したい今後の展望 経済産業省では、日本企業を発展させるために役員ボーナスのあり方に課題を見つけ改善を提案している。2017年9月に経済産業省が公表した「『攻めの経営』を促す役員報酬」によると日本企業の役員ボーナスの決め方に世界の先進国と異なる傾向が見られ、それが企業業績の向上を妨げる要因になっていると指摘している。 ### 日本企業の役員ボーナスの決め方と世界の先進国との違い 日本企業の役員ボーナスの決め方と世界の先進国との大きな違いは、役員ボーナスの支給額を占める企業業績に連動する業績連動報酬の割合だ。比較している先進国は、米国、英国、ドイツ、フランスの4ヵ国であるが、業績連動報酬の割合が最も高いのが米国の89%であった。次いで、英国の74%、ドイツ72%、フランス70%となっている。 一方で日本の業績連動報酬の割合は、42%と極端に小さい。グローバルな視点で考えると日本企業の役員の報酬は、企業業績とリンクする割合が極端に小さいことが分かる。同報告書では、業績連動報酬の割合ともう1点、日本企業の役員ボーナスの課題を指摘している。それは、業績連動報酬の中に占める短期指標と中長期指標の割合だ。 日本企業では、ボーナスの支給を決める指標に中長期指標を導入している割合が14%とこちらも極端に少ない。世界の先進国では、中長期指標の割合が短期指標より大きいか、同様であり最も中長期割合が大きい米国では69%、次いで英国が44%となっている。 ### 業績連動報酬の推進 業績連動報酬の割合が小さく中長期指標の割合が小さい役員ボーナス制度の場合、企業はどのような経営方針を取りやすいであろうか。役員ボーナスは企業業績にリンクする割合が小さくリンクする部分でも短期的な業績を反映する割合が大きい。企業の経営に影響力がある役員のボーナスの決め方は、企業経営の方向性に大きく反映されてきたことが予測される。 日本企業経営がリスクを取らずローリスク・ローリターンの経営を続けてきた要因の一つと考えられるだろう。 ### 企業の競争力向上 現在および将来に向けて日本企業の置かれている状況は、グローバル化した世界の企業との競争の中にあるだろう。企業が勝ち残っていくためには、短期的な視点だけでなく中長期を見据えて攻めの経営が必要である。役員の考え方にリンクするであろう役員報酬の決め方は企業の競争力向上を左右する可能性があるのだ。 ## グローバル化を見据え役員ボーナスは中長期インセンティブを見直そう 役員ボーナスの決め方で実務的に注意しなければならないのは、税金面である。特に損金算入については税金対策のための利益操作とみなされてしまわないように注意したい。日本企業にありがちな現状をふまえると企業経営者が役員ボーナスを考えるときには、決め方のポイントとして業績に連動する割合を高めることが必要だ。 さらに中長期的の業績向上に対するインセンティブの割合を考慮していくことが望ましい。今後は、自社の役員ボーナスの決め方を見直すポイントにもなるだろう。 文・小塚信夫(ビジネスライター)