最近では範囲の経済によって、急成長を遂げた企業がいくつか見受けられる。そこで今回は戦略的経営に欠かせない知識として、範囲の経済の意味やポイント、成功事例をまとめた。スピード感をもって会社を成長させたい経営者は、ぜひ最後までチェックしていこう。

目次

  1. 範囲の経済とは?
  2. 「範囲の経済」とほかの用語の違いを徹底解説
    1. 1.シナジー効果との違い
    2. 2.規模の経済との違い
    3. 3.経験曲線効果との違い
  3. 範囲の経済を活用した3つの成功事例
    1. 1.設立初期の巨額な投資により、成長のための土台を構築/Amazon.com, Inc.
    2. 2.既存事業の店舗を活用し、金融業界で成功を収める/株式会社セブン銀行
    3. 3.仕入れたものを事業間で共有し、全体的な仕入れコストを削減/株式会社ゼンショーホールディングス
  4. 安易な経営戦略は範囲の不経済につながる?経営者が理解しておきたい注意点
    1. 1.すべての資産が有効活用できるとは限らない
    2. 2.事業を広げ過ぎると、その分リソースが分散する
  5. 事業規模の拡大にはリスクもある!範囲の不経済を引き起こさない経営計画を

範囲の経済とは?

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戦略的経営に欠かせない「範囲の経済」とは?意味や重要性に加えて、3つの成功事例も紹介
(画像=PIXTA)

範囲の経済とは、別々の企業がそれぞれの事業に取り組むよりも、同一企業がその全ての事業に取り組んだほうがコストを抑えられる現象のことだ。それぞれの事業に関連性がなかったとしても、各事業で共有できる資産や固定費が存在するため、事業をひとつの企業に集約するとトータルコストを抑えられる可能性がある。

例えば、飲食業と運送業の2つの事業に取り組むケースを考えてみよう。運送業に使用する車両は、飲食業の仕入れや配達にも使用できる。また、腐敗しやすい食料品以外のものであれば、どちらの事業の在庫も同じスペースで保管できるだろう。事業の組み合わせ次第では、ほかにも人件費や賃貸料など、さまざまな資産や固定費を共有できる。

ただし、ひとつの企業が複数の事業に取り組むと、かえって効率が下がってしまうケースもある。具体例としては、生産システムを共有したことで各商品の生産数が減り、全体的な売上が下がるようなケースが挙げられるだろう。このように、範囲の経済と逆の効果が生じる現象は「範囲の不経済」と呼ばれている。

「範囲の経済」とほかの用語の違いを徹底解説

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ビジネスの世界には、範囲の経済と似た意味をもつ用語がいくつか存在する。それぞれの用語を正しく理解しておかないと、経営計画を立てる際に深刻なミスをしてしまう恐れがあるため注意が必要だ。

そこで次からは、範囲の経済と特に混同しやすい用語の意味を解説していく。

1.シナジー効果との違い

範囲の経済と最も混同しやすい用語が、「シナジー効果」と呼ばれるものだ。シナジー効果は、複数の企業や事業を統合することで、売上や価格が上昇する現象を指す。

範囲の経済とシナジー効果は、いずれも企業の利益が増える現象だ。しかし、利益が増えるまでの過程に着目すると、その要因に大きな違いがある。

範囲の経済では資産などを共有し、「コストを削減」することで利益を増やす。一方で、シナジー効果は「売上の増加」によって利益を増やす現象であるため、この違いは正しく理解しておこう。

2.規模の経済との違い

規模の経済とは、ある製品の生産個数を増やすことで、ひとつひとつの製品にかかる生産コストが下がっていく現象だ。つまり、コストを抑えるために製品の「生産規模」を拡大する考え方である。

一方で、範囲の経済では「事業(製品の種類)」を増やすことで、事業全体の生産コストを下げていく。規模の経済は、範囲の経済に比べるとメジャーな考え方であるため、経営者はこれを機に意味や仕組みをきちんと理解しておきたい。

3.経験曲線効果との違い

経験曲線効果とは、同様の作業を何度も経験することによって、生産コストが下がる現象のこと。事業の数ではなく、「従業員のスキルの向上」に着目している点が範囲の経済との大きな違いだ。

例えば、1種類の商品を手作業で大量に生産する事業では、個々の従業員のスキルによって生産性が変わってくる。したがって、同じ作業を繰り返すことで従業員のスキルが上がれば、必然的にその事業の生産コストが下がっていく。

範囲の経済を活用した3つの成功事例

では、ここまで解説した範囲の経済は、どのような形で経営に活かすことができるのだろうか。そのヒントをつかむために、以下では範囲の経済を活用した成功事例を3つまとめた。

自社の状況と照らし合わせながら、成功に導くポイントを学んでいこう。

1.設立初期の巨額な投資により、成長のための土台を構築/Amazon.com, Inc.

世界最大級のECサイトを運営するAmazonは、いまではあらゆるジャンルの商品を取り扱っている。しかし、設立当初は現在の形ではなく、書籍のネット販売のみを行っていた。

Amazonがあらゆる商品を取り扱うようになったきっかけは、物流倉庫やITシステムに巨額の投資を行ったことだ。この投資を成功させたことで、Amazonはさらに多くの書籍を販売し始め、ひとまずは「規模の経済」を実現させた。

その後、Amazonはこれまで構築してきた資産を活かし、あらゆるジャンルの商品を取り扱うようになる。そして、見事に「範囲の経済」を実現させ、世界中の人に認知される企業にまで成長した。

この成功事例で押さえておきたいポイントは、設立初期の投資によって会社を成長させた点だ。物流倉庫などへ巨額な投資をすることで、Amazonは成長するための土台を築いた。この事例のように、範囲の経済にはある程度の土台が必要になるため、将来的に会社を成長させたい経営者は、余剰資金の投資を積極的に検討しておきたい。

2.既存事業の店舗を活用し、金融業界で成功を収める/株式会社セブン銀行

セブン銀行と言えば、日本全国にあるコンビニチェーン「セブンイレブン」にATMを設置している銀行だ。ATMの設置場所が限られているにも関わらず、2020年3月期には1,202億円の経常収益を計上するなど、セブン銀行は金融業界において大きな収益をあげている。

実はこのセブン銀行の成功も、範囲の経済によるものだ。ATMの設置場所として、セブンイレブンの既存店舗を活用することで、設置コストを大幅に節約している。また、セブンイレブンに訪れる消費者をそのまま顧客に引き入れられる点も、セブン銀行を短期間で成長させた要因だろう。

この成功事例のように、既存事業の資産をうまく活用できれば、範囲の経済が実現する可能性は高まる。セブン銀行にはさまざまな魅力があるものの、やはり日本全国のセブンイレブンの店舗がなければ、ここまでの成功を収めることは難しかったはずだ。

したがって、新規事業を立ち上げる際には範囲の経済を強く意識し、既存事業によって築いた資産を活用することがポイントになる。

3.仕入れたものを事業間で共有し、全体的な仕入れコストを削減/株式会社ゼンショーホールディングス

牛丼チェーンの「すき家」で有名なゼンショーホールディングスは、40近くの事業ブランドを抱える大企業だ。現在では「なか卯」や「ココス」をはじめ、あらゆるジャンルの外食チェーンを展開しており、それぞれのブランドが高い知名度を獲得している。

実はこのゼンショーホールディングスのように、同業界の事業を増やしてコスト削減を狙う方法も、範囲の経済には含まれる。同業界で事業展開をすれば、各店舗で培ったノウハウや注文システム、調理方法などを全ての店舗で共有できるためだ。

さらに、この事例では複数の事業でひとつの食材を共有できる点も、意外と大きなメリットになっている。例えば、1店舗だけでは牛1頭を丸々使うことは難しいが、さまざまな飲食店を運営すれば、部位ごとに分けることで余すことなく食材を使い切れる。

つまり、普段から仕入れるものを別の事業と共有する方法でも、範囲の経済は実現できる。今回は飲食業界を例にしたが、ほかにも土地や機械の部品など、アイディア次第ではさまざまなものを事業間で共有できるだろう。

安易な経営戦略は範囲の不経済につながる?経営者が理解しておきたい注意点

ここまで紹介したように、経営者にとって範囲の経済は魅力的な現象だ。しかし、安易な経営戦略を練ると、かえって範囲の不経済を招いてしまう恐れがある。

そこで以下では、経営者が理解しておきたい範囲の経済における注意点をまとめた。売上を維持したままコストを削減するには、綿密な経営戦略を練る必要があるため、行動を始める前に以下の注意点をしっかりとチェックしておこう。

1.すべての資産が有効活用できるとは限らない

範囲の経済を実現するには、既存事業の資産を活用することがポイントになる。しかし、新規事業を立ち上げる際には、すべての資産を有効活用できるわけではない。

例えば、新たに運送業を始める場合に、これまで荷運び用として使っていた大型車両は問題なく有効活用できる。その一方で、軽自動車などの小型車両は有効活用することが難しいため、仮に保有していても競争優位性を築けるとは限らない。

このように、資産には新規事業に有効活用できるもの・できないものの2種類があるので、保有資産が多いからと言って無闇に新規事業を始めるべきではないだろう。新規事業を始める前にはそれぞれの資産の役割を見直して、「本当に新規事業の役に立つか?」を冷静に判断する必要がある。

2.事業を広げ過ぎると、その分リソースが分散する

範囲の経済には限界があり、事業を増やす度に大きなコスト削減を実現できるわけではない。あまりにも事業を増やすと、既存の人材や資産だけでは対応しきれなくなるため、かえって設備費や不動産取得費、人件費などがかさむこともある。

つまり、範囲の経済を狙った結果、社内のリソースが分散し過ぎることは望ましくない。場合によっては既存事業の競争力が下がり、企業全体のブランド力が下がってしまう恐れもあるだろう。

したがって、保有する資産を有効活用できる場合であっても、事業規模の拡大は慎重に判断すべきだ。事業規模を拡大する際には、範囲の経済によって削減できるコストだけではなく、新たに発生するコストやリスクにもしっかりと目を向けよう。

事業規模の拡大にはリスクもある!範囲の不経済を引き起こさない経営計画を

範囲の経済が実現すると、その会社は短期間で成長できる可能性がある。実際に、新規事業を始めることでトータルコストを削減し、収益を飛躍的に伸ばした企業は数多く存在している。

しかし、事業規模の拡大にはリスクがあるため、保有資産が多いからと言って安易に新規事業に手を出すべきではない。範囲の経済の実現を目指す経営者は、最後に紹介した注意点も意識しながら、慎重に今後の経営計画を立てていこう。

文・BUSINESS OWNER LOUNGE編集部