決算期を迎え黒字になったとき、気になるのは法人税の額だ。「従業員に決算賞与を支払う」という節税策はよく知られているが、役員への決算賞与はどうなのだろうか。実は役員への賞与を損金計上するには条件を守らないといけないのだ。

この記事では、決算賞与の支給条件や役員への決算賞与を損金にするための制度・事前確定届出給与の概要や注意点などについて解説する。

目次

  1. 会社の節税策としてよく行われる「決算賞与」
    1. 従業員はOK
    2. 役員は原則不可
  2. 役員と従業員の違いとは
  3. 役員に支払う報酬で損金算入できるもの3選
    1. 1. 定期同額給与
    2. 2. 事前確定届出給与
    3. 3. 業績連動給与
  4. 事前確定届出給与なら役員への決算賞与も損金に
    1. 事前に提出すべき届出書は?
    2. 届出書の記載内容
    3. 届け出の期限
  5. 事前確定届出給与の4つの注意点
    1. 1. 事業年度ごとに提出が必要
    2. 2. 届け出したのなら赤字でも支給が原則
    3. 3. 定期同額給与を支給している役員が対象
    4. 4. 株主総会などでの決議が必要

会社の節税策としてよく行われる「決算賞与」

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決算賞与を役員に支給できる?認められる条件を詳しく解説
(画像=memyjo/stock.adobe.com)

会社の節税策として知られているのが「決算賞与」だ。決算賞与とは会社の事業年度の業績に応じて支給される賞与を言う。

会社の利益を還元することで社員のモチベーションアップにつながるだけでなく、支給額が全額法人税法上の経費(損金)になるというメリットがある。ただし条件に気を付けなくてはならない。

従業員はOK

決算賞与を全額損金計上できるのは、支給対象が従業員のときだけだ。しかも、特定の従業員だけでなく従業員全員に支給しなくてはならない。事前通知も必要だ。

役員は原則不可

役員に支給した決算賞与は損金の対象にならない。「役員賞与」として損金不算入となる。役員賞与は臨時に役員に支給される給与のことだ。

ただ、後述するように役員への報酬の条件はかなり厳しく、規定よりも増額された報酬も役員賞与として扱われる。

なお、損金不算入であっても所得税・住民税・社会保険料の源泉徴収の対象になる。要するに、役員賞与として扱われると、法人税の経費にならない上に所得税が課税されてしまい、メリットが全くないのだ。

ただし、役員へのボーナス支給が全くダメなわけではない。後述するが役員へ支給する報酬にはいくつかパターンがある。法人税法が定めるルールに則れば役員へのボーナスも損金に計上できる。

役員と従業員の違いとは

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なぜ役員への賞与が認められないのだろうか。それは役員と従業員とでは、会社への影響力が全く違うからだ。

役員は会社の方針や人事、利益処分に関与できる立場にある。利益操作もしようとすればできる。一方、従業員は原則そういった会社の方向性への影響力を持たない。

法人税法もこの違いを踏まえている。そのため、法人が役員に対し経済的な利益を与える行為については厳しい制限を設けているのだ。

なお、法人税法上では次のような地位の人を「役員」と定義している。

【1】法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人 【2】1以外で次のいずれかに該当する者 (1)法人の使用人以外でいながら法人経営に携わっている者  例えば、取締役や監査役ではないけれど、総裁・副総裁、会長・副会長、理事長・副理事長、合名会社や合資会社の業務執行社員、人格のない社団等の代表者、相談役などがこれに当たる。

(2)同族会社の使用人であるけれども、同族会社の株式を一定割合以上保有していて、実質的に会社経営に関与していると見られる人 

(1)(2)の「使用人」とは従業員としての地位だけを保有している人だけで、使用人兼務役員は含まない。この他、「法人の代表者など経営参画の度合いが高い役員は、仮に『部長』『課長』を兼任しても使用人兼務役員にはなれない」といった制限がある。

決算賞与を支給するなら、対象者が何らかの形で経営に関与しているかどうか、どのような地位であるかを十分注意しなくてはならない。

【参考】 役員の範囲(国税庁) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5200.htm 役員のうち使用人兼務役員になれない人 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5205.htm

役員に支払う報酬で損金算入できるもの3選

法人税法では、役員に支給する報酬で損金計上できるのは以下のものだけに限定している。

1. 定期同額給与

定期同額給与とは、平たく言うと「毎月定期的に支給する給与」である。具体的には次のような条件が設けられている。

支給時期が1ヵ月以下の一定期間ごとであること 所得税や住民税、社会保険料を源泉徴収した後の支給額がほぼ同額であること

株主総会などで決議する必要があるが、税務署への届け出は不要だ。ただし、定時改定以外で自由に金額を変更することは原則できない。分掌変更などによる臨時改定とコロナ禍による業績悪化だけが臨時の期中の改定事由になる。

2. 事前確定届出給与

事前確定届出給与とは、役員に対し一定時期に支給する金銭等のことだ。従業員で言うところの定期のボーナスに近い。

ただ、文字通り「いつ・いくら支払う」といった内容を税務署に届け出なくてはならない。さらに定期同額給与と同じく、株主総会などでの決議も必要だ。

会社の利益操作をしようとすればできてしまうのが役員である。だからこそ、そのボーナスは従業員への賞与よりずっと縛りが厳しい。条件が守れないと損金に計上できない。

なお、後述するが、税務署への届け出には期日がある。期日内に届け出を行い、かつ届けた内容通りの日程と金額で支給しない限り、役員へのボーナスは原則として損金計上できない。また、後述する業績連動給与と併用することはできない。

3. 業績連動給与

業績連動給与は利益の状況や株価、親会社の業績などに連動した形で算定した報酬だ。業務執行役員に支給したものが対象となる。従業員への決算賞与に近いイメージだ。

ただし、これは未上場企業に多い同族会社が活用できるケースは稀だ。同族会社でもこの制度の恩恵を受けられるのは非同族会社の完全子会社に限られる。

また、算定の根拠も示さなくてはならず、事務負担が大きいので中小企業ではあまり用いられない。

事前確定届出給与なら役員への決算賞与も損金に

役員への報酬で損金計上できるものを比較すると、事前確定届出給与の制度を活用するのがベストだ。実際に活用している中小企業も少なくない。

ただし、届け出や支給の条件が厳しいので慎重さが必要だ。

事前に提出すべき届出書は?

事前確定届出給与に必要な届出書は本表と付表の2つだ。付表は「金銭交付用」と「株式交付用」の2種類がある。

【参考】 事前確定届出給与に関する届出書 https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/010705/pdf/068-1.pdf 付表1(事前確定届出給与等の状況(金銭交付用)) https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/010705/pdf/069-1.pdf 付表2(事前確定届出給与等の状況(株式交付用)) https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/010705/pdf/070-1.pdf

届出書の記載内容

届出書の本表と付表にはそれぞれ、主に次のような内容を記載する。

【本表】 法人名と住所、法人番号 代表者の氏名と住所 株主総会等で給与に関する決議をした日と決議機関 届け出の給与に関する職務執行開始日 臨時改定事由があるならその内容と発生日 届け出期限

【付表】

届け出の給与の受給者の氏名と役職 届け出の給与に関する職務執行開始日とその期間 届け出に関する事業年度 届け出の職務執行機関開始日の属する会計期間 届け出の給与の支給時期、支給額など

届け出の期限

この届け出の期限は次のようになっている。何もなければ原則通りだが、分掌変更や組織再編などといった事由が生じたときは、別途定められた期限に従う。

1.原則

次のいずれか早い日が期日となる。

(1)株主総会などで決議をした日から1ヵ月以内 (2)事業年度開始日から4ヵ月以内

ただし(1)に関しては、決議日が役員の職務執行開始日より遅いのなら職務開始日となる。つまり「職務開始日から1ヵ月以内」「事業開始日から4ヵ月以内」のどちらか早い日が届け出期日となる。

なお、新たに法人を設立したケースでは、設立日から2ヵ月以内が届け出の期日だ。

2.臨時改定事由が生じたとき

役員の分掌変更や組織再編、会社の不祥事などといった臨時改定事由が生じたときは上記1で決まった日か、臨時改定事由が生じた日から1ヵ月以内のいずれか早い日が届け出期限となる。

3.事前確定届出給与に関する定めそのものに変更が生じたとき

上記1又は2の届け出をしている法人が、届け出対象となる事前確定届出給与に関する定めについても変更するのであれば、その定めの変更に関する届け出も必要になる。その期日は変更の理由に応じて、次のようになっている。

(1)臨時改定事由(分掌変更など):事由が生じた日から1ヵ月以内

(2)業績悪化改定事由(支給額を減額したときのみ):定めの変更に関して株主総会などで決議をした日から1ヵ月以内。ただし定めを変更する前の内容に基づいて定期同額給与を支給するなら、その支給日の前日が届け出期日となる。

ただし、期限内に届け出ができなくてもやむを得ない事情があると認められるときは期日後の届け出であっても損金算入してよいとされている。このときも「届け出した通りの日に、届け出した通りの支給額を」が条件だ。

事前確定届出給与の4つの注意点

事前確定届出給与の制度を上手に使えば決算賞与のように使うこともできる。決算の結果かなり利益が出たことが分かったのなら、急ぎ株主総会を行って支給時期と支給額を決議し、届け出を行えばよいのである。

メリットは大きいが、次のような点には要注意だ。

1. 事業年度ごとに提出が必要

届け出が必要な事前確定届出給与は、支給を検討する都度、届け出が必要になる。税務関連の届け出は「1回提出したら後も全部適用」というものが多い。他の届け出と混同しないように注意しよう。

2. 届け出したのなら赤字でも支給が原則

「決算の結果、黒字がかなり出たから届け出を行ったけれど、その直後、急激に資金繰りが悪化した」といった会社もあるかもしれない。

特に2020年のように、コロナ禍で経済全体の動きが悪化したときは資金繰りへの心配から支給を止めたくなるだろう。しかし一度届け出たのなら届け出通りの支給をするのが原則だ。

資金繰りが悪化し返済のリスケジュールをせざるを得なくなったなどの事情が生じ、事前確定届出給与を減額せざるを得なくなったのなら、取り急ぎ届け出をし、支給額を減額したほうがいい。

3. 定期同額給与を支給している役員が対象

事前届出確定給与は普段から定期的に役員報酬を受け取っている役員、つまり定期同額級を受け取っている役員が対象だ。非常勤役員で普段は役員報酬をもらっていない人に支給しても損金計上できない。

4. 株主総会などでの決議が必要

事前届出確定給与は定期同額給与と同様、株主総会での決議が必要だ。これは税法上のルールであるだけでなく、会社法上のルールでもある。役員は株主から信任を得て会社経営を任されている立場である以上、その報酬の決定には株主の同意が必要なのだ。「株主=役員」の一人会社であっても株主総会を行い、議事録を残しておこう。

ここまで、役員へのボーナスを損金計上する方法を紹介してきた。決算時期にうまく合わせられれば決算賞与として活用もできよう。きちんとルールにのっとり、くれぐれも不当な利益操作と見られないよう注意したい。

文・鈴木まゆ子(税理士・税務ライター)