就労に対する価値観の変化によって、新入社員の3年以内の離職率は高くなっていると考える経営者も多いだろう。しかし、実は新卒の離職率はほぼ同水準で推移している。ここでは、新卒社員の3年以内離職率の現状やその理由、対策について解説する。

目次

  1. 新卒の3年以内離職率の現状
  2. 新卒社員が3年以内に会社を辞めてしまう理由とは
    1. 労働時間や休日取得など労働条件が悪い
    2. 職場の人間関係が好ましくない
    3. 給与などの収入が少なかった
    4. 仕事の内容に興味が持てなかった
    5. 能力や個性、資格が生かせなかった
  3. 初めての就職に伴う「リアリティ・ショック」も大きな理由の一つ
  4. 新卒の3年以内離職を防ぐために企業が採用時に行うべきこと
    1. 採用試験では「リアリティ・ショック」を減らす関わりが重要
  5. 新卒の3年以内離職を防ぐために企業が採用後に行うべきこと
    1. コミュニケーション教育を行いハラスメント対策は確実に実施
    2. 「働き方改革」への対応は必須!職場環境改善が定着につながる
    3. 職業能力開発のための支援を行う
  6. 新卒の3年以内離職を防ぐためには企業側の努力も必要

新卒の3年以内離職率の現状

>>会員登録して限定記事・イベントを確認する

新卒3年以内の離職率は3割超え!離職を防ぐために企業が行うべき対策とは?
(画像=hikdaigaku86/stock.adobe.com)

新規学卒者が会社に入社して3年以内に、どれくらいの割合で離職しているかについては、厚生労働省が毎年発行している『新規学卒就職者の離職状況』において、学歴別で確認できる。

2019年に発表された『新規学卒就職者の離職状況』では、離職率について過去31年以上のデータがまとめられている。2016年入社者の3年以内離職率は、中学卒が62.4%、高校卒が39.2%、短大等卒が42.0%、大学卒は32.0%となっている。これを見ると、実に3割以上の新卒社員たちが、3年以内には就職先の企業を退職していることがわかる。

「最近の若者は忍耐が足りない」と考える経営者もいるかもしれないが、実は新卒者の離職率は、30年以上ほぼ同程度で推移している。

平成元年にあたる1989年の学歴別3年以内離職率は、中学卒が65.7%、高校卒が47.2%、短大等卒が39.6%、大学卒は27.6%となっている。また、1989年以降で学歴別の離職率の最高値は、中学卒が73.0%、高校卒が50.3%、短大等卒が44.8%、大学卒は36.6%である。

景気の好不況によって離職率が多少上下するとはいえ、学歴別で最も離職率の低い大学卒ですら、3年以内離職率が3割を超えているのが実情なのだ。

新卒社員が3年以内に会社を辞めてしまう理由とは

>>会員登録して限定記事・イベントを確認する

新卒の3割以上が3年以内に離職してしまうのは、何故なのだろうか。

2020年に厚生労働省が発表した『雇用動向調査』では、転職入職者が前職を退職した理由の統計が紹介されている。退職理由の中から、結婚や介護・看護、会社都合などのやむを得ない理由を除いた項目について、19歳以下から30代後半までの年齢別にまとめたグラフは以下のとおりである。

新卒3年以内の離職率は3割超え!離職を防ぐために企業が行うべき対策とは?
(画像=雇用動向調査結果)

参考:2019年(令和元年)雇用動向調査結果

新卒に対応する年齢を、概ね19歳以下から24歳までと仮定した場合に、退職理由の上位5つの詳細を説明する。

労働時間や休日取得など労働条件が悪い

会社で働く以上は、すべての仕事が定時内で終わるとは限らず、残業はもちろん休日出勤しなければならない会社もあるだろう。法定時間を超えるような残業は論外であるが、たとえ基準内であっても、その頻度が本人の許容を超えるような場合は、退職する原因の一つとなる。

職場の人間関係が好ましくない

人間関係を理由に離職を決断する者は、年齢を問わずに多い傾向にある。職場での人間関係は、学校とは違って自分の好きなようにはできない。上司はもちろん、仕事上関わらざるを得ない人が、自分の価値観と合わない場合は、精神的にもストレスとなるだろう。

また、男性に比べて女性の方が特に人間関係を理由として退職を選択する者が多いという特徴がある。

給与などの収入が少なかった

給与については、入社前にある程度の水準を把握することはできるものの、社会保険や税金納付などを差し引いた手取り金額についての認識があまりない新卒社員も多い。実際に手元に残る金額が少ないと感じる者は多いだろう。

給与については、初任給に限らず、昇給額の低さが給与に対する満足を得られない理由にもなり得る。

仕事の内容に興味が持てなかった

新卒者の就職は、中途採用と違って業務内容が明確になっているとは限らない。最初から配属先が決まっていることもあるが、採用試験での適性などを考慮した上で、希望とは違う部署や業務に配属されることも少なくない。

また、新卒社員の場合には、職場環境やシステムに慣れる意味でも、雑務レベルの仕事を依頼されることがある。自分が望む仕事だけができるとは限らないため、仕事への興味を失ってしまう事態にもなりかねない。

能力や個性、資格が生かせなかった

就職活動の際には、学生自身も自分の経験やスキルをアピールし、採用する企業側も試験や面接を通して、その能力や個性をある程度把握した上で雇用することとなる。

しかし、必ずしも業務と本人の能力がマッチングするとは限らない。また、得意と思っていたことも、業務上で失敗を経験すれば自己効力感を下げる結果になり、自分の能力を生かせない環境であると感じてしまうこともあるのだ。

初めての就職に伴う「リアリティ・ショック」も大きな理由の一つ

新卒の退職理由の上位5つを紹介してきたが、この中のいくつかには共通の原因が潜んでいる。

新規学卒者たちは、基本的には学校生活では就労経験がなく、就職によって初めて社会人生活がスタートする。そのため、自分が学生時代に理想としていた社会人像と、実際に就労して経験した社会との間のギャップに苦しむ「リアリティ・ショック」を受ける者も少なくない。

比較的離職率の低い大学卒の場合は、アルバイト経験などで働くことを経験し、労働の対価として給与をもらう社会経験をしている。それでも、自分が選んだ会社で働く理想の自分とのギャップがあるため、そのズレがしだいに無視できないレベルになるのである。

就職活動中に、どれだけ企業について情報を集めて、自分の学校のOBに職場環境を質問したとしても、実際に自分が体験しなければ理解できないことは多い。自己分析はもちろんだが、仕事に対する理解を深めることができないと「リアリティ・ショック」は大きくなってしまう。

新卒の3年以内離職を防ぐために企業が採用時に行うべきこと

新卒社員の3年以内の離職を防ぐためには、採用前後での対策が必要となる。ここでは、採用試験での注意点について確認しよう。

採用試験では「リアリティ・ショック」を減らす関わりが重要

新卒社員は、就職した際に少なからずリアリティ・ショックを経験する。これを企業側で完全に防ぐことは困難である。どうしても、就職活動における新卒社員の自己理解や仕事理解の程度によって左右されてしまうからだ。

そのため、企業側としては、募集段階で企業情報の開示方法の工夫が必要である。事業内容はもちろん、会社の理念に基づいた求める人材像の明確化は必須だ。「働き方改革」が進む現在では、自社の取り組み状況などを開示することも重要だろう。

また、採用面接においては、応募者側のスキルやポテンシャルだけでなく、自社に対するイメージやどのようなキャリアを構築したいかという具体的な質問を意識することも必要だ。応募者側が望んでいる業務への従事が難しいならば、いずれ退職する理由となってしまうことも考えられる。

新卒の3年以内離職を防ぐために企業が採用後に行うべきこと

新卒社員を採用した後に注意すべきなのは、先に紹介した転職理由の中でも、「人間関係」や「労働環境」、「能力や個性」といった面へのケアである。それぞれについて、対策を紹介する。

コミュニケーション教育を行いハラスメント対策は確実に実施

人間関係については、完全に解消できるとは限らない問題だ。どうしても相性はあるし、うまくいっていた人間関係も、ちょっとしたすれ違いで悪化に転じることもあるだろう。そのため、新卒者のコミュニケーション能力やストレス耐性の把握は重要である。

また、社員同士の相互理解は必須であり、既存社員も含めた上で定期的なコミュニケーション教育も必要となってくる。

人間関係のトラブルの中には、セクハラやパワハラといった問題が関わってくる。これらは、明確に人間関係に影響を及ぼす行為であるため、新卒社員の退職を防ぐためにも対処が必要である。

セクハラは、『男女雇用機会均等法』において、企業側の対策構築が義務付けられており、厚生労働大臣の指針10項目も定められている。罰則もあるため、中小企業であっても対策は必須だ。

パワハラについては、『労働施策総合推進法』において、大企業は2020年6月1日から防止が義務付けられており、中小企業も2022年4月1日から義務化される。パワハラの対策について詳細を把握したい場合は、厚生労働省の『パワーハラスメント対策導入マニュアル』を参考にしてほしい。

「働き方改革」への対応は必須!職場環境改善が定着につながる

労働時間については、「働き方改革」の施行によって規制が強化されている。具体的には以下の2つが制度化され、罰則も設けられている。

・年次有給休暇の時季指定:年5日の取得義務 ・時間外労働の上限規制:月45時間、年360時間上限(原則)

いずれも2020年4月以降は中小企業であっても遵守しなければならないため、これらを守ることは当然である。

また、労働時間をはじめとする労働環境の整備は、社員のメンタルヘルスの改善にもつながる。ストレスチェック制度の実施などを通して、社員の適正な労働時間を把握するのも重要であろう。

職業能力開発のための支援を行う

厚生労働省では、労働生産性の向上を目的とした人材育成のために『第10次職業能力開発基本計画』が定められている。この中では、若者の職業能力開発のために、セルフ・キャリアドックの導入推進などが具体的な指針として記載されている。

セルフ・キャリアドックでは、キャリアカウンセリングなどの機会を設けて、若手社員のキャリア形成を支援し、自ら会社における将来設計を描けるような支援を行うことが求められる。

また、働く上で必要なスキル習得の支援も重要であり、今後もさらに進んでいくIT化やグローバル化に対応できるような人材育成計画の構築も必要となる。人材開発支援助成金などの制度も利用しながら、新卒社員が成長を実感して能力を生かせる機会を増やすことが重要だ。

新卒の3年以内離職を防ぐためには企業側の努力も必要

新卒社員の3年以内離職率は、最も離職率の低い大学卒でも3割を超えており、実に30年以上もその傾向は変わっていない。ただ、必ずしも全ての会社で3割以上が3年以内に退職するわけではない。

企業側は、人間関係や労働環境、新卒社員の育成といった課題に向き合うことが必須である。また、学生自身の「リアリティ・ショック」も離職理由の一つではあるが、採用試験において企業側がどのような情報を提供し、適性を見極めるかも重要であることを忘れてはならない。

文・隈本稔(キャリアコンサルタント)