近年、ユーグレナが食品や化粧品として注目を集めている。ユーグレナ(和名 ミドリムシ)を商品化し、さらなる研究開発を続けている株式会社ユーグレナ 代表取締役社長 出雲 充氏にお話を伺った。

ユーグレナの屋外大量培養に成功し商品化するまでには、失敗の連続だったという。それがどのように現在の成功に結び付いたのか。起業するまでのいきさつや諦めずに繰り返すことの重要さ、量が質に転嫁するということを実体験からお話しいただいた。またそれとともに、現在日本が置かれている状況や、将来を生き抜くためのヒントについても今後の参考にしていただきたい。

(※本記事は2020年9⽉15⽇(火)18時から行われたウェビナー「『僕はミドリムシで世界を救うことに決めました』~1%の成功確率でも459回やると99%になる、繰り返すことの重要性〜」をもとに執筆されています。)

目次

  1. イノベーションが生まれない厳しい日本の現状
    1. 平成の30年間で競争力世界一位から落ち続ける日本
    2. 変化の速い社会の中で日本のとるべき道は?
    3. 私たちがコロナ禍で迫られる選択
  2. 出雲氏が考えるイノベーションを起こすために必要なこと
    1. イノベーションを起こすためには「繰り返し努力する」ことが大事
    2. イノベーションを成功させた人は、みな努力を継続している
  3. 「努力を継続する」ために必要な2つのこととは?
  4. イノベーションに必要なのは「人とのつながり」と「努力の継続」

イノベーションが生まれない厳しい日本の現状

【特集#03】日本経済は大ピンチ? 「ミドリムシ」でイノベーションを起こした株式会社ユーグレナの代表が今日本に対して思うこと
(画像=株式会社ユーグレナ代表取締役社長 出雲充氏)
ユーグレナ_3
(画像=naka/stock.adobe.com)

ユーグレナを商品化した後、2014年にまた再びバングラデシュに戻り、そこでユーグレナ入りのクッキーを小学校の子どもたちに給食として届ける「ユーグレナGENKIプログラム」をスタートしました。今では毎日およそ1万人の子どもたちにこのクッキーを届けています。

この活動を多くの人が見て応援してくれたおかげで、今では、日本の民間企業では初めてWFP(国連世界食糧計画)と包括連携の契約をいたしました。FAO(国際連合食糧農業機関)にもUNDP(国連開発計画)にもサポートをして頂いています。

また今、80万人を超すロヒンギャ難民の人たちが、ミャンマーからバングラデシュに避難しています。このロヒンギャ難民の人たちが元気に健康に過ごせるように、彼らにも食料を届けるプロジェクトに取り組んでいます。

SDGsが掲げる、2030年までにこの地球で暮らす人を、誰ひとり取り残さない「No one will be left behind」という理念に向かって強力に事業と研究を進めていくために必要なものは、言うまでもなくイノベーションであります。

平成の30年間で競争力世界一位から落ち続ける日本

1989年、平成元年、私は小学校3年生でした。ですから当時の日経平均の株価なんて、まったく知りませんでしたが、当時の平成元年の大納会の日に歴代の最高値3万8,915円をつけました。日本はIMD(国際競争力ランキング)でも平成元年から3年連続で世界一の国でした。世界一の生産性、世界一の国際競争力の国、それが我が国日本でした。

平成の30年間を経て、今日本はどこにいるでしょうか。令和元年、日本はこの競争力ランキングでも、一人当たりの労働生産性においても30位です。一番新しい令和2年の数字では、過去最低の34位まで落ち込みました。

何故このような結果になってしまったのか、原因はいくつかあります。 まず、若者の勉強と能力開発に対する投資が足りていなかったということです。日本の大手企業では、大学を卒業して就職した人が1年間勉強のために、成長のために、投資をした金額は一人当たり5万円です。一方アメリカでは、大学を卒業して働いている社会人に企業や政府が能力開発のために投資している金額は、一人当たり1年間に440万円です。毎年の投資額が5万円の日本と、440万円のアメリカ、その結果が今の日本であります。

大学生の勉強時間を見てみますと、日本の大学1年生の80%は、1週間の勉強時間がゼロです。一方、アメリカの大学1年生は、80%が毎日1時間以上、1週間で平均すると6時間以上勉強しているということがわかっています。このようなことがどんどん積み重なって、これは一人当たりの労働生産性の結果として出ており、アメリカは世界1位です。 日本はアメリカと同じG7の1ヵ国ですが、高生産性、高所得のグループのなかに、日本を見つけることはできません。

変化の速い社会の中で日本のとるべき道は?

日本の一人当たり生産性は、実はお隣の韓国よりも、そして財政破綻を起こしたギリシャよりも下なのです。今、このようなポジションにいる日本が、このあとどうなっていくのか、次はこの社会の変化が今非常に速くなってきているということをお話します。

飛行機は、ライト兄弟が発明をしてから5,000万人が飛行機に乗るまでに68年かかりました。次に、テレビが発明されて5,000万人がテレビを観て楽しむのにかかった時間は22年です。そして、ツイッター。ツイッターで5,000万人がアカウントを作って楽しむまで、相当時間が短いだろうということは、想像していることでしょうが、わずか2年なのです。

じゃあ、ポケモンGOはどうか。ポケモンGOをスタートして、5,000万人がポケモンGOを楽しむまでに何年かかったでしょうか?飛行機が68年、テレビが22年、ツイッターが2年となると、ポケモンGOは、もう年単位ではなく、19日なのです。

今我々は、信じられないくらい変化の速い社会、昔とは比べ物にならないくらい変化のスピードが速い社会で暮らしています。この変化に対応するのが、一番上手なのは、デジタルネイティブでソーシャルネイティブの若者であります。

ですから私どもはどうしたら変化の速い社会において、素早く社会の変化に対応できるかということを、素直に若者に、未来の担い手に聞いてみることにしました。 当社はその取り組みとして、昨年、18歳以下限定でCFO(Chief Future Officer 最高未来責任者)を募集し、この変化の速い未来に合わせて自分たちを変化させ続ける、というミッションをこのCFOに託しました。高校2年生(当時)の小澤杏子さんを中心にした若者ばかりのメンバーに集まってもらって、この変化の速い社会についていけるように会社のトランスフォーム、変化対応を一生懸命進めています。

私たちがコロナ禍で迫られる選択

しかし、それでもなお追いつかない、信じられない社会の変化とショックが、起こりました。今、そのショックの真っただ中に我々は追いつめられているわけです。それが新型コロナウイルス感染症の影響であります。このコロナ禍においては、必然的に誰もがこのコロナという社会の変化から逃げることはできません。

すべての人が、この一つの問いに答え、選択しなければなりません。自由を選ぶのか? それとも経済を取るのか? この問いからは、我々は逃れることはできません。ましてや、両方のいいところだけをとることもできません。それをコロナが我々に問いかけているのです。

自由のためだったら、どんなに貧しくてもいいのか。そんなことないですよね。非常に両立し難い2つの矛盾を解決するために必要なのは、いままでの解決策ではなくて、いままでの延長線上にないイノベーションです。だから今、このイノベーションなくして、矛盾する大きな2つの問題を、同時に解決することは不可能でしょう。

出雲氏が考えるイノベーションを起こすために必要なこと

絶対に必要なイノベーションですが、イノベーションを生み出すために必要なものはいったい何なのでしょうか。

イノベーションを起こすためには「繰り返し努力する」ことが大事

イノベーションを起こすために必要なものをお尋ねすると、ほとんどの人は、「自分にはイノベーションを起こせません。起こしたいけど無理です。」という。なぜなら、イノベーションのためには、大変なお金がかかるけど、自分はお金持ちじゃないから、イノベーションなんか起こせませんということなのです。ノーベル賞を取るような頭のいい人や世界で一番賢い人が、イノベーションを起こせるのであって、自分には無理だと思われています。イノベーションを起こすためには、いい家で、いい暮らしをして、そもそもいい家柄にいないと、そんなチャンスが自分に回ってくるわけはない、と思っている人が大多数です。

自分には無理なんじゃないかとおっしゃる方に、いつもお伝えしているのは、私自身がごく平凡な中流家庭で育ったということです。特別なお金持ちの家に生まれたわけでもなく、いい家柄の人間でもありません。それでもイノベーションを起こすことができました。 では、イノベーションのドライバーとは、いったいどのようなことでしょうか。

1回やって、はい、イノベーションできた、と、そんなことは、なかなかありません。1%もないのです。けれども、2回挑戦して2回ともイノベーションができずに失敗する確率は、99%、0.99の二乗ですから、100%から引いて1.99%はうまくいくのです。3回、4回、5回と繰り返して、うまくいくのは4.9%です。100回繰り返せば63%です。 それならば、一度やって99%失敗するということは、459回繰り返し努力すれば、99%の確率でうまくいくということと同じ意味なのです。世の中、いかに繰り返し努力する人が少ないか、ということであります。

適切な科学と何回でも繰り返し努力する力、この2つによって、すべての人が奇跡とイノベーションを起こすことができる。これが、私の信念であります。

イノベーションを成功させた人は、みな努力を継続している

ユーグレナ_4
(画像=chaiyapruek/stock.adobe.com)

先日、応用物理学会の年次総会があり、そのシンポジウムでノーベル物理学賞を受賞された天野先生と一緒に出席しました。そのテーマは、いかにしてイノベーションを成功させるか、という私の人生のテーマでありました。

このシンポジウムの最後に天野先生がおっしゃいました。

「出雲くん、あなたは、2年間で500社、伊藤忠商事に巡り合うまでよく営業しました。ところで、名古屋大学というのは、日本で一番お金持ちの大学じゃないね。名古屋大学は、世界で一番優秀な、勉強ができる人が集まる大学でもないね。世界で一番格式の高い大学でもないね。しかし窒化ガリウム固定法で青色LEDを発明するに至ったのは、私です。その私が、この青色LEDを発明するまで、何回努力したか。そして何回失敗したかを知っていますか?」と、お尋ねになりました。

私は不勉強で、まったく存じませんでした。ですので「先生、申し訳ないです。何回なさったのですか?」とお尋ねしたら、「出雲さん、私は1,500回やったのですよ。私以外に1,500回繰り返し努力をした人は、いませんでしたね」と、笑っておっしゃいました。

天野先生にそう言われて、私は本当にうれしかったですね。なぜなら、お金持ちとか、勉強の才能とか、家柄、格式、それらはイノベーションとはなんの関係もないということがわかったからです。繰り返し努力する力、これがイノベーションに一番大事なものだと。

「努力を継続する」ために必要な2つのこととは?

繰り返し努力するためには、必要なものがあります。必要なものは気合と根性ではありません。人が何回でも、500回でも、もしかしたら1,000回でも1,500回でも頑張るために必要なのは、メンターとアンカーであります。

メンターとは、心の底から尊敬している先生、先輩、師匠のことです。メンターと出会うことが一番大事です。「ああ、この人すごいな」と思える人や、「この人のためだったら、この人と一緒に仕事ができるなら、自分はどんな苦労をしても、何回でもチャレンジしよう」と思わせてくれるような偉大な先生、先輩、師匠と出会うことで、努力を続けることができるのです。

そして、人はすぐに忘れますから、心の底から尊敬している先輩と出会って、自分ががんばろうと思ったその気持ちの原点、出発点をいつでも思い出させてくれるようなアンカーが必要です。アンカーとは、メンターを思い出させる品物、手紙、お守りなどのことです。この2つが揃っていると、人は何回でも繰り返し努力することができます。

私のメンターは、ムハマド・ユヌス先生です。そしてユヌス先生と一緒に約束したのです。この貧困、栄養失調の問題を解決すると。しかし、約束しただけでは、人はがんばれないのです。

私も日本に戻って、何回やっても実験が、研究がうまくいかないことがありました。何社にお願いに行っても、誰も買ってくれないことがありました。もうやめようと毎日思いました。でも私はユヌス先生の元でインターンをしている時に現地でTシャツを購入しました。これが私のアンカーになっています。

このTシャツを今でも、自分の家のクローゼットにしまってあります。やる気がなくなって、へとへとになって家に帰り、それで寝間着に着替えるときに、必ずこのTシャツが目に入るのですね。このTシャツを見ると、全部思い出します。自分はなんでこんなに「ミドリムシ」が好きなのか、なんでこんなに一生懸命やっているのか、ということすべてを鮮明に思い出すのです。

まだユヌス先生は諦めてない、まだユヌス先生が走り続けているのに、自分だけがレールから降りていいのか、そんなことできないと思い直すのです。あと1回だけ、あともう1日だけがんばろう。そのように再度気持ちを奮い立たせるために、人には必ずメンターとなる心の底から尊敬できる師匠と、そしてその師匠と出会って自分が感動したときのことを思い出させてくれるようなアイテム、品物、手紙、お守りなどなんでもいいので、アンカーとなるものが必要です。

この2つが揃っていれば、人は何回でも繰り返し努力することができる。何回でも繰り返し努力することができれば、必ず人はイノベーションを起こすことができる。これが今日、私が「ミドリムシ」から学んだイノベーションの極意です。一番みなさんに知っていただきたかったことです。

イノベーションに必要なのは「人とのつながり」と「努力の継続」

どんな人だって、繰り返し努力することによって、459回がんばれば、99%うまくいくのです。459回やってうまくいかなかったら、どうしたらいいのか。460回、461回、あともう1回、もう1回だけがんばろう。そのような気持ちにさせてくれるメンターとそしてアンカーさえあれば、人は何回でも繰り返し努力することができます。

もう、そのような素敵な先輩と、メンターと会っているよ、自分が尊敬している先輩がいる、という方は思い切って、その先輩に、自分の勇気が奮い立つような、悔しいときに、悲しいときに原点を思い出させてくれるような、そういうものを何かくださいって頼んでみたらいかがでしょうか。

まだそういう人に出会ってないという方は、がむしゃらにイノベーション、イノベーション、と気合と根性で突き進むのではなく、自分が心の底から尊敬できる先生、先輩、師匠、仲間、メンターと出会うこと、メンターを探してみてください。これが、イノベーションを起こすにあたっては一番大事なのではないでしょうか。

今、ものすごく難しい課題を抱えていて、イノベーションが必要だという方は、ひとりでその課題にタックルするのではなくて、一緒に取り組んでくれる、そして本当に心の底から尊敬できるようなパートナーを探してみてください。人はひとりでは偉大なことは成し遂げられませんから。そのパートナーは、1人、2人、3人では見つからないと思います。私の場合、100人に声をかけても見つかりませんでした。けれども、459人、500人、大勢の人に声をかけることによって、パートナーを見つけました。

メンターと出会い、そしてそのメンターからアンカーを受け取って、それぞれおおいなるイノベーションを成功させることによって、この日本に活力のある社会を取り戻したい。30年後に平成元年と同じような、世界で一番競争力のある、世界で一番幸せな国になる、そういった道筋が実現することを、心から祈念申し上げております。