経営上のリスクに備えるうえで事業保険は有効な手段の一つである。しかし事業保険には、デメリットもある。さまざまな種類があるため、目的や会社の状況にあわせてベストな保険を選ばなければメリットを享受できない。そこで今回は、事業保険の種類やメリット・デメリット、選び方を解説する。事業保険に入りたいと考え中の経営者は必見だ。

目次

  1. 事業保険とは?
  2. 事業保険の種類
    1. 1.損害保険
    2. 2.生命保険
  3. 事業保険の5つのメリット
    1. 1.事業上のリスクに備えることができる
    2. 2.経営者の退職金を準備できる
    3. 3.緊急の事態で必要な資金を確保できる
    4. 4.保険料を損金計上できる
    5. 5.福利厚生としても活用できる
  4. 事業保険の3つのデメリット
    1. 1.資金繰りが悪化するリスクがある
    2. 2.仕組みが複雑で理解しにくい
    3. 3.解約のタイミングを誤ると損失を被る
  5. 事業保険の選び方
    1. 目的に応じて最適な保険を選ぶ
    2. 経営を継続できるだけの保障が用意されている保険を選ぶ
    3. 保険金を受け取るタイミングに気を付ける
  6. 万が一に備えて事業保険への加入を

事業保険とは?

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事業保険とは?メリットやデメリット、選ぶポイントを解説
(画像=oatawa/stock.adobe.com)

事業保険とは、経営上のリスク軽減や節税を目的に法人が入る保険である。主に法人が入る点やそれを前提に保険の内容が作られていることから「法人保険」とも呼ばれる。具体的には、社員や社長の死亡保険や退職金の積み立てなど一般的な保険にはないサービスを受けられる点が特徴だ。なお事業保険というのは「法人向けの保険全般を意味する用語」であり、そうした名称の保険があるわけではない。

事業保険の種類

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事業保険には「損害保険」と「生命保険」という2種類の保険がある。この章では、それぞれの特徴や具体的な保険の内容をお伝えする。

1.損害保険

損害保険とは、災害や事故によって損害を受けたときに補償を受けられる種類の保険のことだ。補償の内容によって損害保険はさらに4つの種類に大別される。

・業務災害補償保険 業務災害補償保険は、業務中の災害(交通事故や作業中の転倒など)により社員がケガや精神的な損害を受けた場合に補償を受けられる事業保険。治療費の補償はもちろん会社に対する損害賠償の請求にも備えることが可能である。

・賠償責任保険 賠償責任保険とは、事業上の活動を通じて第三者に損害を与えた際に補償を受けられる事業保険。例えば自動車で人との接触事故を起こした際に賠償金を補てんすることが可能だ。

・企業財産保険 自社で保有する機械設備や不動産、在庫などに損害が生じた際に補償を受けられる事業保険。例えば火災により在庫が焼失した際に補償を受けられる保険などが該当する。

・事業活動総合保険 取引先の倒産による貸し倒れや天災や事故による事業活動の停止に対して補償を受けられる事業保険。

2.生命保険

生命保険とは、経営者や従業員の死亡や障害について補償を受けられる種類の保険のことだ。補償内容により生命保険は主に以下の3つの種類に大別できる。

・長期平準定期保険 長期の保険期間を設定できる生命保険。解約返戻率がピークに到達するまでに時間がかかりピーク後の下降も緩やかである点が最大の特徴である。以上の特徴から経営者の退職金確保や死亡リスクに備える目的で使用されることが多い。

・逓増定期保険 一般的には契約時の最大5倍まで掛け金が逓増する特徴を持つ生命保険だ。資産形成の点ではメリットが大きいものの保険料が比較的高額となりやすい点に注意が必要である。

・養老保険 養老保険とは、保険期間内に死亡した場合は死亡保険金、満期を迎えた場合は満期保険金をもらえる生命保険だ。最大のメリットは、どのような形でも保険金をもらえる点にある。確実性の高さから経営者の老後や退職金への備えとして使用される傾向だ。

事業保険の5つのメリット

事業保険に加入することで得られるメリットは、主に以下の5つだ。

1.事業上のリスクに備えることができる

最大のメリットは、事業で生じ得る多様なリスクに備えることが可能な点だ。経営者の死亡や従業員のケガはもちろん天災や事故による業務の停止や第三者からの損害賠償請求など多くのリスクをカバーしている。仮にリスクが顕在化しても対処に多額のコストや労力を割かずに済むため、資金繰りの悪化や倒産などの事態を回避できるだろう。

2.経営者の退職金を準備できる

企業に勤めるビジネスパーソンの場合、会社側が退職金を準備してくれる。一方で経営者は、自身の創意工夫により退職金を貯めなくてはならない。しかし自力で貯めるとなると事業への投資や売り上げの変動などにより順調に貯めたくても貯められない可能性がある。しかし事業保険に加入しておけば保険料の支払いを事業活動の一環として考えることが可能だ。

そのため自力で貯める場合と比べて順調に退職金を積み立てやすい。順調に積み立てれば解約時に多額の「解約返戻金」を退職金代わりにもらえるわけだ。

3.緊急の事態で必要な資金を確保できる

緊急事態に備えて必要な資金を確保できる点も事業保険へ加入するメリットの一つだ。会社経営では、資金繰りの悪化や事業への投資により突然多額の資金が必要となる可能性がある。あらかじめ資金を潤沢に貯めておかないといざというときに対応が困難となりかねない。一方で事業保険に入っている企業は、支払った保険料を保険会社に貯めている形となっている。

保険を解約すれば約1~2週間で貯めていた資金をもらえるため、緊急事態への対応も可能である。

4.保険料を損金計上できる

事業保険では、保険料の一部またはすべてを損金として計上できる点もメリットだ。税金は、益金から損金を差し引いた所得に対して課税される。つまり損金を多く計上するほど、その年度の税金を減らす効果が期待できるわけだ。ただし最終的に保険金が支払われた際に税金が課税されるため、長期的に見ると節税の効果はほぼない。

とはいえ税金の支払いを先延ばしできるため、資金繰りを安定させる点ではメリットがあると言える。

5.福利厚生としても活用できる

事業保険には「従業員の医療費を補てん」「従業員に何かあった際に遺族へ保険金」といった商品もある。こうした事業保険に加入すれば福利厚生の制度を充実させる効果を期待できるだろう。福利厚生を充実させれば従業員のモチベーションがアップしたり優秀な人材を獲得したりすることにつながる。

さまざまなメリットを享受できる点から見れば事業保険は積極的に使用すべきだろう。

事業保険の3つのデメリット

事業保険に入る際には、メリットだけでなく以下のような3つのデメリットもある。

1.資金繰りが悪化するリスクがある

事業保険に加入すると毎月(もしくは毎年)保険料の支払いが発生する。支出の増加に伴い資金繰りが悪化するリスクがあるため注意が必要だ。対象年度の税金を減らすことができても保険料が高ければ加入しないほうが資金繰りの面では好ましい。事業保険へ加入するときは、長期的な視点から資金繰りをシミュレーションするのが賢明だ。

2.仕組みが複雑で理解しにくい

先述したように事業保険には多様な種類がありそれぞれに特徴が異なる。また保険金の支払いや仕訳、申告に際しては税務や会計に関する専門的な知識も必要だ。事業保険の仕組みは、非常に複雑なため、すべての商品を正確に理解したうえで使用するのは難しい。そのため仕組みを正しく理解しておかないと想定していた利益を得られない可能性もある。

3.解約のタイミングを誤ると損失を被る

事業保険には、解約のタイミングを誤ると損失を被るデメリットもある。なぜなら解約するタイミングで返戻される金額が変わってくるからだ。事業保険の種類によって解約返戻金のピークは異なる。先ほどの話にも関連するが、十分に仕組みを理解したうえでベストなタイミングで解約しないと損失を被ってしまうため注意が必要だ。

事業保険の選び方

事業保険は多岐にわたるため、やみくもに加入すると損するリスクがある。この章では、事業保険で利益を得るための選び方を3つ紹介する。

目的に応じて最適な保険を選ぶ

最も重要なのは、目的に応じてベストな事業保険を選ぶことだ。前述した通り事業保険によって保障の対象や解約返戻金がピークになる時期、保険金の金額などは大きく異なる。そのためまずは事業保険に入る目的を明確化し目的を達成するうえで最も適した保険を吟味することが重要だ。例えば以下のような基準で選定するようにしよう。

・災害などによる業務停止のリスクに備える場合:事業活動総合保険 ・経営者の死亡に備えたい場合:生命保険

経営を継続できるだけの保障が用意されている保険を選ぶ

事業保険には多様な種類があるものの、まずは経営の継続に役立つ保険を最優先とするのがおすすめだ。損金算入や福利厚生の充実を目的に事業保険へ加入することは悪いことではない。ただしどれほど節税や福利厚生の施策を充実しても経営の続行が不可能となれば無意味である。そのため「経営者の入院・死亡」や「災害」に備える事業保険に加入し経営を続行できるだけの体制を確立するのが最優先だ。

保険金を受け取るタイミングに気を付ける

受け取った保険金は収入とみなされるため、その年度の税金は高くなる傾向がある。そのため保険金をもらうタイミングには十分に注意が必要だ。例えば事業が軌道に乗り海外進出や上場に向けて準備を進めるタイミングで保険金をもらうと出費がかさんでしまい資金繰りが悪化するおそれがある。

以上を踏まえると事業保険へ加入する際には、長期的な事業計画を立てたうえで資金繰りに余裕がある時期に保険金をもらうのがおすすめだ。

万が一に備えて事業保険への加入を

経営上のリスク軽減や退職金の確保など事業保険の持つ利点は多岐にわたる。制度の複雑さなどのデメリットはあるものの、万が一の事態に備えて事業保険には積極的に入ることが望ましい。どのような事業保険に入るべきか自分で判断できない人は、保険代理店に相談すると良いだろう。数ある保険代理店の中でも三井住友やアクサといった大手企業が運営する保険商品を網羅している保険サービスを選ぶのが良さそうだ。

文・鈴木 裕太(中小企業診断士)