アリババグループの金融子会社であり、2020年の大型IPO(新規株式公開)になると大きな注目を集めていた中国アント・グループ(Ant Group)。しかし直前になって唐突にIPOが中止される事態となり、この騒動は「アントショック」として世界の投資家たちを大いに驚かせた。アントショックはなぜ起きたのか。

目次

  1. アント・グループが香港と上海での上場を中止
  2. なぜアントショックは起きたのか?引き金は?
  3. 「国 vs フィンテック企業」という構図
  4. アント・ショックから分かったこと

アント・グループが香港と上海での上場を中止

アリババグループ金融子会社の歴史的なIPO中止「アントショック」はなぜ起きた?
(画像=maxsim/stock.adobe.com)

アント・グループは、2020年11月5日に香港証券取引所と上海証券取引所で上場するはずだった。しかしその2日前の3日夜、アント・グループは香港と上海での上場を延期すると発表した。アントグループは本来、今回の上場によっておよそ3兆6,000億円を市場から調達する計画だった。

なぜアント・グループの上場が中止されたのかを解説する前に、アント・グループがどのような企業なのかを簡単に説明しよう。

アント・グループは中国杭州市西湖区に本社を構える、アリババグループ傘下の金融子会社である。アリババが独立系企業を買収して傘下に収めたという形ではなく、アリババからスピンアウトする形で誕生した企業だ。

オンライン決済サービス「支付宝(アリペイ)」を主な事業として展開しているほか、世界最大級のマネー・マーケット・ファンド(MMF)「余額宝(ユエバオ)」の運用も行っていることで知られる。個人の信用をスコア化する「芝麻(ジーマ)信用」もアント・グループのサービスだ。

アリペイの利用者数は2019年6月の時点で12億人を超え、世界有数のスマホ決済サービスとして定着した。このこともあり、アリババ本体だけではなくアント・グループへの注目は世界的にも非常に高くなっていった。そんな中でのIPO計画だっただけに、多くの投資家が関心を寄せていたわけだ。

なぜアントショックは起きたのか?引き金は?

なぜ今回のアント・ショックは起きたのだろうか。その引き金は、アリババ創業者のジャック・マー(馬雲)氏のある発言にあると言われている。

ジャック・マー氏は2020年10月下旬、上海で行った講演の場で中国の金融当局の監督手法の遅れを揶揄する発言をしたとされている。報道などによると、金融業界がテクノロジーによる進化を急スピードで遂げる中、金融当局がそのスピードについてこられていないという趣旨の発言だったようだ。

この発言を中国の中央銀行に相当する中国人民銀行などが問題視し、ジャック・マー氏は金融当局から11月2日に聴取を受けることとなった。そして、同氏が聴取を受けた翌日、アント・グループはIPOの中止を発表した。IPO実施に対して金融当局が何らかの圧力をかけたのでは、という臆測が広がった。

そして11月13日になって、ある報道が流れた。中国の国家首席である習近平氏が直接、アント・グループの上場中止を決めたというのだ。報じたのは米ウォールストリート・ジャーナルの電子版で、政府関係者がそのように話をしているという。

習近平氏による上場中止命令が本当のことであれば、国家による経済への強権的な介入であると言える。中国マーケットにおける今後のさまざまな企業のIPO計画にも暗い影を落とすことになるのではないか。

「国 vs フィンテック企業」という構図

フィンテックに力を入れる企業は、金融当局側と対立する構図になりやすい。モバイル決済や電子決済のほか、最近ではブロックチェーン技術を活用したデジタル通貨(仮想通貨)を手掛ける企業も、日本やアメリカ、ヨーロッパで金融当局と対立するシーンが目立ち始めている。

今回のアント・グループの上場中止も、ジャック・マー氏が金融当局に批判的な発言をしなければ起きなかったかもしれない。そう考えると、今回の一件は「国 vs フィンテック企業」の構図を如実に感じさせる出来事であると言えるだろう。特に国が強権を有している中国のような国では、フィンテック企業側に難しい舵取りが迫られるのだ。

しかしジャック・マー氏ほどの経営の天才が、こうした中国の性質を無視して金融当局に批判的な発言をしたとは思えない。IPOの中止はアリババにとってはマイナス面が大きいはずであるし、この点は腑に落ちない。ただ、それほどジャック・マー氏の鬱憤も溜まっていたということだろうか。あるいは、つい口が滑ってしまったのだろうか。

アント・ショックから分かったこと

今回のアント・ショックの騒動で分かったことは、中国においては金融当局への批判がIPO中止という事態につながりかねないということだ。今後もジャック・マー氏のような批判を展開した企業に対しては、習近平氏が再び鶴の一声でIPOの中止を命令するかもしれない。

今後注目すべき点は、ジャック・マー氏と中国当局の関係悪化の「雪解け」がいつになるか、という点であろう。雪解けが進めば、アント・グループの上場計画は再び動きだすことになるはずだ。その行方に世界の投資家が関心を寄せる状況がしばらく続くのではないだろうか。

文・BUSINESS OWNER LOUNGE編集部