「最近の若者はすぐ辞めてしまう」という悩みを抱える経営者は少なくない。しかし実際には、離職率が低い業種や企業はあるため、従業員にばかりに問題を責任転嫁するのは疑問だ。離職率が高い状況が続くと業績面でデメリットが発生してしまう可能性がある。そのため従業員のせいにするのではなく自社内にある離職率を高くしている原因を洗い出し一つ一つ的確に解決することが必要だろう。

本記事では、離職率が高くなる原因や業種、離職率を下げる具体的な方法を詳しく説明していく。離職率の高さに悩んでいる経営者は必見だ。

離職率が高いことで生じる3つのデメリット

そもそも企業にとってなぜ離職率が高い状態は好ましくないのだろうか。この章では、離職率が高いことで生じるデメリットを3つ解説する。

・事業運営の進行に支障をきたす ・人事分野の負担増加 ・自社のイメージ低下

1.事業運営の進行に支障をきたす

従業員が辞めてしまうと他の従業員への業務の引き継ぎや業務を行える人材の採用が必要となるため、その都度業務の進行が滞ってしまう。離職率が高い状態は、従業員が頻繁に辞めてしまうことを意味する。つまり離職率が高いほど業務の進行がストップする頻度も高いため、事業運営の進行に深刻な支障が出てくる可能性があるわけだ。

場合によっては、取引を継続できなくなったり本来得られるはずであった案件の受注が困難となったりするなど業績の大幅な悪化にもつながりかねない。

2.人事分野の負担増加

離職率が高い企業では、採用活動や人材配置、配置転換などの手間が増えてしまう。そのため離職率が低い企業と比べて人事部門の負担が大幅に増加する。人事部門の手間や労力が増えることで今度は人事部門内でモチベーションの低下や満足度の低下が生じてしまいさらなる離職を招きかねない。

3.自社のイメージ低下

近年は、SNSや口コミサイトなどの普及にともない手軽に企業の待遇や職場の雰囲気などをスマホ一つで把握できる時代だ。そのため離職率が高い企業は、SNSや口コミサイトを通じて「労働環境が悪い」「ブラック企業」といった悪いイメージを持たれる可能性が高まる。自社のイメージが低下した結果、求人を出しても優れた人材が集まりにくくなる場合もあるだろう。

離職率が高くなる5つの原因

離職率が高い企業を見わたすといくつかの共通点を見出すことができる。ここでは、離職率の高い企業に共通する主な原因を5つ紹介する。

・労働環境が劣悪 ・ノルマが厳しい ・給与が少ない ・努力や結果が正当に評価されない ・仕事をしっかりと教えてもらえない

1.労働環境が劣悪

離職率が高くなる最たる要因は、労働環境の劣悪さである。例えば残業時間が長かったりサービス残業を強いられたりするような労働環境では、基本的には誰も働きたいとは思わないだろう。近年は仕事に人生をささげるのではなく仕事と私生活のバランスを重視する労働者も増えているため、劣悪な労働環境下ではもはや人材の定着は見込めなくなっている。

2.ノルマが厳しい

厳しいノルマが設定されるような企業では、離職率が高まる傾向だ。例えば優秀な社員に合わせて全体のノルマを設定するとそれ以外の従業員はノルマの達成が困難となる。ノルマの達成が困難となった従業員は、劣等感や精神的なプレッシャーを感じてしまい耐えきれずにある日突然離職してしまうケースは少なくない。

3.給与が少ない

仕事は「やりがいや楽しさが大事」とよく言うがそれと同じかそれ以上に「給与の金額」も重要だ。なぜなら日々の生活を問題なくこなしたり趣味を充実させたりするにはお金が必要だからである。そのためやりがいがある仕事で労働環境が整備されていても給与が少ないと「独立」や「他社への転職」を考える従業員は増えてしまうだろう。

4.努力や結果が正当に評価されない

努力や結果が正当に評価されないことも離職率の高さにつながる大きな原因の一つである。自分と比べて「結果を出していない」「仕事量も少ない」という従業員がいたとしよう。この従業員が「上司から気に入られているから」という理由だけで昇進したりたくさん給与をもらっていたりした場合はどう感じるだろうか。当然正当に評価されていないと考えて不満が募り転職も視野に入ってくるだろう。

人事評価に不満を持つ従業員が多いほど離職率は高い傾向があるため注意が必要だ。

5.仕事をしっかりと教えてもらえない

離職率が高い企業には「従業員や部下の教育をおろそかにしている」という原因がある可能性もある。特に若い社会人ほど将来的なキャリアアップや収入アップを視野に入れて就職先や転職先を選ぶ傾向だ。そのため今後につながるスキルやノウハウなどを上司からしっかりと教えてもらえる職場ほど人気が高い。

反対に放任主義で仕事をしっかりと教えてもらえない企業は「得られるものがない」と思われ一度入社してもすぐに離職されるケースもある。

離職率が高い業界

厚生労働省が公表している「平成30年雇用動向調査結果の概要(2018)」には、各業界別の離職率が掲載されている。そのデータによると、離職率が高い上位5種の業界は以下の通りである。

順位 業種 離職率 月間給与額
(2018年度)
1位 宿泊・飲食サービス業 26.9% 12万6,225円
2位 生活関連サービス・娯楽業 23.9% 20万6,667円
3位 サービス業(その他) 19.9% 25万5,907円
4位 教育・学習支援業 16.6% 38万4,106円
5位 医療・福祉業 15.5% 29万8,135円

第1位:宿泊・飲食サービス業

最も離職率が高いのは、宿泊・飲食サービス業で26.9%だった。離職率が高い原因としては「業界全体に対するイメージの悪さ」「給与の低さ」「24時間営業」「年中無休」といった労働環境の劣悪さが考えられるだろう。また顧客からのクレーム対応も精神的苦痛による離職を招いている一因といえる。

第2位:生活関連サービス・娯楽業

離職率が2番目に高いのは、生活関連サービス・娯楽業で23.9%。具体的には、冠婚葬祭やフィットネスクラブ、旅行業などが該当する。宿泊・飲食サービス業と同様に労働環境が過酷にもかかわらず給与水準が低いことが離職率の高さにつながっている傾向だ。事実、総務省統計局が公表している「日本の統計2020」によると2018年度の「産業別常用労働者1人平均月間現金給与額」は生活関連サービス・娯楽業の月間給与は20万6,667円だった。

この数字は全業種で2番目に低い。(最も低いのは宿泊・飲食サービス業)このように給与額が離職率の高さに直結するかが理解できるだろう。

第3位:サービス業(その他)

離職率が3番目に高い業種は、上記2つの業界に含まれないサービス業で19.9%だった。具体的には、警備やワープロ入力などのサービスが該当する。2018年度の月間給与額が25万5,907円と全業種中下から3番目であることや業務内容がハードで精神的なストレスがたまりやすい点が離職率の高さにつながっていると考えられる。

第4位:教育・学習支援業

サービス関連の3業界に次いで離職率が高かったのは、教育・学習支援業で16.6%。学習塾や英会話教室などがこの業界に該当する。離職率が高い背景には、教育業界に特有の残業時間の長さや生徒やその両親への対応で精神的なストレスがたまりやすいなどが原因といえるだろう。

第5位:医療・福祉業

5番目に離職率が高い業界は、医師や看護師、介護などの医療・福祉業で15.5%だ。やりがいや社会貢献度は高いものの精神的なプレッシャーや重労働で身体的な疲労がたまりやすいことが理由で離職率が高い傾向がある。特に介護業界に関しては、労働環境の大変さに賃金水準が見合っていないため、人材が定着しにくくなっているのが現状だ。

離職率が高い状況を改善する方法

離職率の高い状況は企業にとって好ましくない状態であるため、なるべく早めに改善しなくてはならない。離職率が高い状況を改善するにあたっては以下の5つの方法が役に立つだろう。

・休日・休暇制度の充実、残業の削減 ・働き方の多様化 ・福利厚生の充実 ・能力や成果に応じた人事評価の導入 ・従業員教育の充実

1.休日・休暇制度の充実、残業の削減

最優先で取り組むべきは、労働環境の改善である。具体的には、休日は確実に休めるようにしたり残業時間を削減したりするといった基本的な施策を行う。また1年に数回は長期間の休暇を取れるような制度を充実させるのが効果的だ。基本的な施策であるものの実践できていない企業は非常に多い。逆に労働環境を最低限整えさえすれば離職率の高さは大幅に改善されるため、ぜひ実践していただきたい。

2.働き方の多様化

労働環境を改善したうえで多様な働き方を認めるようにすれば、より一層離職率を下げる効果が期待できる。例えばテレワークや時短勤務を導入すれば介護や育児を理由にフルタイムで働けない人にも離職せずに働いてもらえるだろう。

3.福利厚生の充実

福利厚生の充実は、離職率が高い状況を改善する王道の方法だ。具体的には「資格取得手当」「育児手当」といった手当制度や社員食堂、レジャー施設の割引制度の導入が効果的である。福利厚生の充実は、従業員にとって居心地の良い労働環境を整備できるだけでなく給与の低さをカバーすることにもつながる。

4.能力や成果に応じた人事評価の導入

給与の低さに不満を持つ従業員が多いからといって結果や努力面で問題のある従業員の給与まで増やすのは好ましくない。重要なのは、結果を残したり努力をしていたりする従業員に対してその結果や努力、能力に見合った報酬を与えることである。そのためには、明確な評価制度を設けて努力や能力、成果に応じて報酬が決まる仕組みにすることが望ましい。

公平感のある人事制度を確立するのは難しいが優秀な社員を定着させるためにもこの部分は根気強く取り組むべきである。

5.従業員教育の充実

離職率の高い状況を改善するには「この職場では得られるものが多い」と社員に思ってもらえるような環境にすることも必要だ。そこで重要となるのが従業員教育の充実である。上司がその都度部下に対して丁寧に仕事を教えるのはもちろん研修やセミナー制度も充実させ従業員のキャリアアップやスキルアップにつながる教育を施すのが重要だろう。

離職率の高さは企業の危険信号!早期に離職率低下の策を講じよう

離職率が高い状況を放置するとコストの増加や収益の減少といった事態を招きかねない。場合によっては大幅に業績が低下するリスクもあるため、早い段階で対処することが必要だ。特に今後事業規模の大幅な拡大や上場を検討しているベンチャー経営者にとっては、離職率の高い状況は死活問題となりかねない。

事業の成長を妨げないためにも福利厚生の充実や評価制度の明確化などにより離職率の低下に取り組んでいくことが大切だ。

文・鈴木 裕太(中小企業診断士)