B2B (B to B=Business to Business)やB2C (B to C=Business to Customer)については今さら説明するまでもないだろうが、最近になってにわかにD2Cという言葉が取り沙汰されていることをご存じだろうか。いったいどのようなビジネスの形態を指し、既存の枠組とはどういったところが革新的なのかについて探ってみたい。

そもそもD2Cとは?

D2Cがスタートアップの飛躍を加速! そのメリットと活用のコツをわかりやすく解説
(画像=dashu83/Shutterstock.com)

B2Bが企業間の取引、B2Cが企業と消費者との取引を意味しているのに対し、D2C(D to C)はDirect to Consumerの略で、「消費者に直接届ける」といった意味合いになる。消費者を顧客としていることはB2Cと共通しており、その意味では同じカテゴリーに入ると言えるだろう。

B2Cとの明確な違いは、先述したように「直接届ける」というポイントにある。従来のB2C、とりわけ製造業では卸売や小売といった業者が介在しており、消費者と直接的にはつながっておらず、厳密に言えばB2Bだった。

純粋なB2Cは卸売や小売となるが、彼らは自分たちでプロダクトを生み出しているわけではなく、いわゆるサービス業である。製造業において、消費者に自社製品を直接届けるというのは極めてレアケースだった(一部の直販などに限られていた)が、それを大前提としたのがD2Cなのだ。

つまり、流通業などの第三者を経由せず、「製造業が自ら自社商品の販売・配送(手配)を手掛けるビジネスモデル」という解釈になる。おそらく、このような説明に対し、「ユニクロのファーストリテイリングやニトリ、海外で言えばGAPやZARAなども同じではないか?」と疑問を抱いた読者も少なくないはずだ。

ユニクロなどのビジネスモデルは、SPA(Specialty store retailer of Private label Apparel=製造小売)と呼ばれている。D2Cとの違いは、自社で店舗販売を行っていることだ。

D2Cはリアルの店舗ではなく、自社が運営するeコマースサイトを通じて商品を販売している。もっとも、近頃はD2Cに属していた企業が店舗販売にも乗り出すケースが出てきた。

D2Cが急速に台頭した背景とは?

D2C台頭の背景には、eコマースが人々の暮らしにすっかり定着したことがある。先にも述べたように、製造元が消費者に自社製品を販売する際には卸売業者や小売業者が仲介するのが通常だった。

ところが、インターネット上で比較的簡単に商品・サービスを出品できる時代が到来。しかも、Amazonや楽天といったプラットフォームを利用しなくても、自社のホームページに集客して販売する手法も確立されてきたことから、相次いで消費者に直販する企業が登場するようになった。

ひと昔前までeコマースサイトを構築するためには、専門のエンジニアを採用するか、外部にアウトソーシングを行うしか術がなく、相応のコストが発生していた。しかし、今はBASEなどが提供しているプラットフォームを用いれば、比較的ローコストですぐにも自社運営のeコマースサイトを立ち上げられる。

また、かつてのeコマースはAmazonや楽天の強力な集客力を借りなければなかなか成り立たなかったが、その点についても大きな変化が生じている。SEO(検索エンジン最適化)、SEM(検索エンジンマーケティング)、SNSなどの活用によって、自社サイトに顧客を導くことが可能となっているのだ。

D2Cのメリットとは?

D2Cのメリットとして筆頭に挙げられるのは、中間マージンや手数料などの諸経費が発生せず、その分だけ利益率が高くなることだ。卸売業者や小売業者を介するケースはもちろん、Amazonや楽天を通じてeコマースにおいても、販売手数料や出店料などといったコストが発生するが、D2Cはそれらの負担から解放される。

コスト負担が大幅に軽減すれば、自社サイト限定で販売価格を引き下げるという戦略も可能となる。直販サイトで購入するほうがお買い得だということが周知されれば、集客力もいっそう高まることになる。

SEO対策やSNSによる情報発信が大いに効力を発揮するのもD2Cのメリットだと言えよう。特に後者はD2Cと親和性が高く、意図的に他のメディアには露出させず、SNSを通じて自社製品へのこだわりやストーリーなどを訴えかけるとともに、インフルエンサーやアンバサダーを巧みに利用して購買意欲を刺激できる。

顧客とダイレクトに接しているので、ニーズや嗜好などもリアルに把握しやすくなるし、詳細な購買記録データを社内に蓄積できることも大きな利点だ。データを緻密に分析したうえで、顧客の心に刺さる新たなマーケティングやキャンペーンを展開できる。

キャンペーンなどの取り組みについて、Amazonや楽天といったマーケットの主催者側による制約を受けないことも好都合だ。スーパーセールなどと称するマーケット全体のイベントに同調する必要もなく、独自の方針に基づいてキャンペーンを打つことが可能となる。

特定の製品に的を絞り、ピンポイントで効率的に販売促進を行えるのもD2Cの魅力だろう。対象を絞ることで効率性が高まる(開発コストや在庫リスクを軽減できる)ことに加えて、ブランドイメージをより強く定着させるという点でも効果的だ。

まずは特定の商品にターゲットを絞り、SNSを通じてその魅力を強く訴求するのだ。そして、支持増を獲得したうえで、他の商品も投入して横展開を図っていくわけである。

D2Cの成功例は? 成功に導くためのコツとは?

グローバルにD2Cのビジネスで成功している事例として挙げられるのはAllbirdsだろう。Instagramを上手く活用しながら、天然ウール素材のスニーカーなどを販売している。

その巧みさを象徴するのが新製品発表時のエピソードだろう。Instagram上で事前に製品を公開し、それを閲覧した人たちからの感想・意見をフォローして、発売時にはそれらの要望を反映した仕様にアップデートさせていることもあるのだ。

一方、日本国内における成功例がバルクオムだ。メンズ向けのフェイスケア・ヘアケア・ボディケア製品を手掛けており、その品質へのこだわりが高く評価されている。

D2Cの先駆け的な存在で、いち早くSEO、SEM、インフルエンサーマーケティングなどを活用して認知度を高めてきた。最近ではサッカーのフランス代表選手をアンバサダーに任命し、海外展開を意識した展開に打って出ている。

D2Cで成功を収めている企業に共通しているのは、SNSの活用に長けていることだ。言い換えれば、SNSによっていかに自社製品のよさを伝えられるのかにコツがあるわけである。

自社製品の魅力を訴求するうえで肝心なのは、すでに使った人に良質の顧客体験を提供することだ。特にインフルエンサーがそれを得られれば、高評価が一気に拡散されていく。

D2Cのデメリットとは? 失敗しがちなポイントとは?

もちろん、D2Cの手法を用いれば誰でも簡単に成功を手に入れられるわけではない。裏返せば、良質の顧客体験を提供できない薄っぺらなプロダクトはD2Cで通用しにくい。

また、従来と比べれば自社運営のeコマースサイトを容易に立ち上げられるようになったと前述したが、内製する場合には相応のセンスや仕掛けが求められてくるのも確かだろう。取り扱う製品の魅力もさることながら、SNSに誘われて訪れたサイトの見栄えがイマイチであったり、わかりづらかったりするようでは、その時点で購買欲が減退する。

成功を導くうえでは、自分たちが手掛ける製品へのこだわりが客観的にも評価されうるものであることが大前提となってくる。そして、こだわりを訴求するための自社サイトの製作やSNSの活用においても、相応のセンスやテクニックが求められてくる。

すでにD2Cで実績を上げていく企業のサイトやSNSをつぶさに観察し、しっかりと学びとっていくことが求められよう。それでもピンとこない場合は、相応のコストを払ってAmazonや楽天といった巨大なマーケットで店を開くのが無難だ。

もう一つ、D2Cの展開にも順序というものがある。いきなり自社販売サイトを立ち上げ、それからSNSでブランドの浸透を図るというプロセスでは、なかなか初期投資の回収は適わない。

まずはSNSで地道に訴求活動を続け、それなりに認知度が高まってファンも獲得したタイミングで、自社販売サイトの運営に乗り出すのが順当策だ。D2Cに対する過信も禁物で、マニュアル的な戦略を打てば必ずSNSでの拡散を期待できるというものでもない。

eコマースのさらなる拡大やDXの進展でD2Cが定着へ

もともとeコマース市場は拡大の一途を辿ってきたうえ、コロナ禍で“非接触”の経済活動へのシフトが進み、いっそうその需要は高まっている。一方で、SNSは情報の発信や共有の場として社会に定着してきた。

しかも、これら2つの事象はどちらもグローバルな規模で進んでいることだ。新型コロナウイルスがDX(デジタルトランスフォーメーション)を加速させている側面もあり、マーケティングなどに関してもさらに革新的な手法が生み出される可能性も考えられる。

そのような世の中ではD2Cのビジネスを展開する企業がさらに増え、ビジネスモデルとして完全に定着していくかもしれない。そういった時代の到来を見据えて、今のうちからD2Cによる新規ビジネスを模索してみるのも一考だろう。

文・大西洋平(ジャーナリスト)