スタートアップの多くは、株式市場への上場を目標に掲げている。国内最大手の日本取引所グループが運営する市場の中で最短ルートとして挙げられるのは「東証マザーズ」だ。しかしながら、実際に上場を目指す場合どのような基準を満たせばよいのだろうか。

東証マザーズとは何を指すのか?

日本国内には、4ヵ所に株式市場(東京証券取引所、名古屋証券取引所、札幌証券取引所、福岡証券取引所)が設けられている。東証という略称をよくニュースなどでも耳にするように、上場企業数や売買高で他を圧倒しているのは東京証券取引所だ。

東京証券取引所には、東証1部、東証2部、JASDAQ(ジャスダック)、東証マザーズの4市場がある。厳密にいえばTOKYO PRO Market(プロマーケット)という市場も存在するが、こちらは企業規模が小さい銘柄で構成され、参加できる投資家も限定されている。

さらにJASDAQは、一定の事業規模と実績を有する成長企業が属しているスタンダードと、成長可能性に富む新興企業で構成されるグロースに市場が分類されている。また、東証マザーズも高い成長力を秘めた新興企業を対象としている点は同じだ。

東京証券取引所内に設けられたこれら4つ(JASDAQの分類も含めると5つ)の株式市場は、各々で上場のための基準が異なっている。基準を満たす難易度の高さで並べると、以下のような順番になる。

東証1部 東証2部 JASDAQスタンダード JASDAQグロース 東証マザーズ

JASDAQグロースと東証マザーズの違い

ここまで読んで、JASDAQグロースと東証マザーズの違いがピンとこない方も多いかもしれない。JASDAQグロースでは純資産額の規模は問われないものの、赤字決算でないことが前提となるのに対し、東証マザーズはまだ黒字化を果たしていない状況でも上場が可能だ。

とはいえ、それでも一般的にはなかなか区別がつかないだろう。一方で、東証1部市場の上場銘柄が増えすぎたことを踏まえて、日本取引所は後述する市場改革を進めている。

なお、名古屋証券取引所にもセントレックス、札幌証券取引所にもアンビシャス、福岡証券取引所にもQ-Board(キューボード)という新興企業向けの市場が設けられている。CMでもお馴染みのRIZAPグループはアンビシャス上場だが、これらのローカルな新興企業向け市場は地元と関連のある企業が対象となっている(セントレックスは例外)。

2022年4月から東証の市場区分は大きく変わる

東京証券取引所を傘下に持つ日本取引所グループは、大がかりな市場再編について協議しており、2020年2月下旬にその概要を明らかにした。前述した従来の区分を廃し、プライム、スタンダード、グロースの3市場に再編するというものだ(いずれも現段階では仮称)。

プライムに属するのは、これまで東証1部に属してきた銘柄だ。ただし、詳細な上場基準の決定次第では除外される銘柄も発生する可能性がある。スタンダードは、東証2部とJASDAQスタンダードに上場していた銘柄を主体に構成される見通しだ。

残るグロースは、東証マザーズとJASDAQグロースに属していた銘柄を中心に構成されることになる。つまり、新興企業向け市場が集約されるわけだ。

こうした市場再編に並行して、各々の上場基準の見直しや上場廃止基準の強化などが実施される。これから上場を目指す企業だけでなく、既存の上場企業もある一定の猶予期間を経て、新基準を満たすことが求められる。

現状のスケジュールでは、すでに上場している企業が2021年9〜12月に新たな市場の選択手続きを行う。そして、2022年4月には新市場へと移行するという。

これから東証マザーズの上場基準などについて詳しく触れていくが、こうした制度改正があること念頭に置きながら読み進めていただきたい。

東証マザーズに上場するとはどういうこと?

そもそも上場とは、株式のような有価証券などを広く公開された市場(取引所)において売買の対象とすることを意味する。株式を新規上場すれば、大勢の投資家に自社株式を購入してもらうことで大がかりな資金調達が可能となる。

しかも、真剣に株式の上場を目指しており、手がける事業自体にも成長性があると評価されれば、もっと早い段階から多額の資金を調達する道も拓かれる。ベンチャーキャピタルによる出資だ。

未上場企業に出資し(株式の購入による資金提供を行い)、経営への助言なども行って企業価値を高め、新規上場を実現させることがベンチャーキャピタルの目的である。それを果たすことで、彼らは保有株を高く売り抜けて大きな売却益を上げることができる。

無論、売却益を得られるのはベンチャーキャピタルだけではない。自社株を保有している創業メンバーも、上場時の売り出しで同様の果実を得られる。

また、上場基準を満たして株式市場に上場していることは、企業としての信用力向上にも結びつく。金融機関からの融資が受けやすくなる上、ビジネスの取引先開拓も円滑になりやすい。さらに、世の中にも企業名が浸透しやすくなるという効果もあるだろう。

一方で、株式を上場すれば誰でも売買できるようになるため、企業側にとっては都合の悪い投資家が大株主となって、何かと経営に注文をつけられる恐れもある。加えて、M&A(企業買収)のリスクも生じることになろう。

もっとも、企業経営にそういった支障が生じた場合には、MBO(マネジメントバイアウト=経営陣による企業買収)を実施して再び未公開企業となるという選択肢もある。

東証マザーズの上場基準

では、東証マザーズは具体的にどのような新興企業に門戸を開き、どういった上場基準を定めているのだろうか。すでに何度となく述べてきたように、同市場では今後の高成長が期待される企業を求めている。

成長性があれば、前述したように現時点では赤字経営でも差し支えない。ただし、新規上場申請日から数えて1年以上前から取締役会を設置して継続的に事業を営んでいることが大前提となる。

加えて、株式の流動性も重視しており、株主数200人以上(上場時までに500単位以上の公募を行うことが前提)、流通株式数2,000単位以上、流通株式時価総額5億円以上、流通株式数(比率)が上場株券等の25%以上、上場時の時価総額(見込み額)10億円以上といった条件をクリアする必要がある。

自社の成長性についても、きちんとした資料を開示して説明することが義務づけられている。より多くの投資家が納得できる内容の「成長可能性に関する説明資料」という名称の資料を作成しなければならないのだ。

経営の透明性や情報開示の徹底も求められており、事業計画の進捗状況を投資家に周知させるために、四半期ごとの業績発表を義務づけている。併せて、年に2回以上投資家向けの説明会を開催しなければならない。

東証マザーズに上場するには、どのようなことが必要になるのか?

株式の新規上場を目指すなら、遅くとも目標とする時期の3年前には準備を始めるべきだろう。社内に上場準備室を設置した上で、これまでの財務状況の把握・整理を進めつつ、社内の体制作りや今後の資本計画策定などを行うことになる。

併せて、主幹事証券会社や監査法人の選定も求められる。いずれの会社に託すのかによって結果が大きく左右されかねないため、慎重に検討することが大切だ。また、ベンチャーキャピタルから出資を受けて経営に関してもアドバイスを得られていれば、そういった点に関しても相談できるだろう。

当然ながら、主幹事証券会社や監査法人には相応の費用を支払うことになる。コンサルティング報酬や監査報酬、申請書類作成費、事務手数料などを合計すると、少なくとも数千万円単位になるため、こうした負担も念頭に置く必要がある。

理想をいえば、新規上場を検討し始めた時点で、ファイナンスに詳しい人物を外部からスカウトし、CFO(チーフフィナンシャルオフィサー=最高財務責任者)に就任してもらうのが賢明だろう。そして、主幹事証券会社や監査法人の選定、折衝といったプロセスをプロに委ねるのだ。

「とりあえず顧問の税理士に相談する」というパターンも見受けられるが、法人税などの税務処理に長けているからといって、必ずしも株式の新規公開(IPO)にも精通しているとは限らない。むしろ、そういった分野に詳しい税理士は限られている。

なお、証券取引所から上場が認められた後も、経営者やCFOには最後の大きな務めが待ち構えている。機関投資家を訪問して事業内容などの説明を行い、彼らから株式の公開価格が妥当であるかどうかをヒアリングする「ロードショー」というイベントを遂行しなければならない。

ロードショーの内容次第で、公開価格がかなり変わってくる可能性もある。主幹事証券会社と連携を密にしながら、最後まで気を抜けない局面が続くだろう。

株式の上場はあくまで通過点で、むしろその先が本番!

株式を上場するメリットについていくつか列挙したが、その中でも特に大きな魅力を放っているのが資金調達だろう。もっとも、上場を果たして巨額の資金も獲得したところまで順風満帆だったが、それから先が期待外れとなっている新興企業も少なくない。

本来、上場はあくまで通過点であり、期待して株式を購入した投資家が求めているのは今後の成長だろう。ところが、上場した途端に業績が下方修正となったり、「成長可能性に関する説明資料」に書かれていたような展開がうかがえないなど、投資家を失望させる企業が出てきているのも事実だ。

当然、そういった企業の株価は新規上場時をピークに右肩下がりを続け、株式市場で「上場ゴール」と揶揄されている。上場を目指す上では、株主の期待に応えて必ず成長させるという意気込みが不可欠となろう。

文・大西洋平(ジャーナリスト)