起業から何年か経過してビジネスが軌道に乗ってくると、「株式上場」が視野に入ってくることだろう。
しかし、上場に向けてどんな準備をすればよいのかわからないままに、漠然と「上場に憧れているだけ」という経営者もいるのではないだろうか。
目次
そのような方は、上場するための要件やステップを把握してみよう。そうすれば、上場に向けて具体的な行動を起こすことができるようになり、上場が現実味を帯びてくるだろう。
株式上場とは?

株式上場とは、株式会社が自社の発行する株式を証券取引所で自由に売買できるようにすること。株式公開、IPO(Initial Public Offeringの略)ともいう。
株式上場により、経営者をはじめとする少数の関係者に限って株式が所有されている状態から、外部の投資家に譲渡できる状態になる。
なぜ株式上場か?上場によるメリット・デメリットは?
では、株式上場にはどんな意義があるのだろうか。メリット、デメリットをそれぞれ確認してみよう。
株式上場のメリット
主なメリットとして、以下の4点が挙げられる。
1.資金調達能力の増大
外部の投資家から広く出資を受けられるようになることで、自己資本を充実化させることができる。
また、企業の信頼性も増すため、新たな融資も受けやすくなる。
2.知名度の向上
株式市場に公開されることによって企業名が知られる機会が多くなるため、知名度の向上につながる。
また、株式上場しているということは、厳しい審査を乗り越える力がある企業とみなされるため、社会的信用力も向上する。
3.社内管理体制の充実
上場審査を通過するためにはコンプライアンス遵守や適切な財務報告に向けた内部管理体制の構築が求められる。また、上場後は多数の株主による厳しい目線にさらされ続けることになる。
その結果、パブリックカンパニーとして、組織的な企業運営や内部体制の充実が図られるようになる。
4.従業員の士気向上
株式上場によって、従業員は「上場企業に勤めている」という満足感やステータスが得られるため、士気向上につながる。これにより、優秀な人材も集まりやすくなる。
株式上場のデメリット
一方でデメリットとしては、主に以下の3点が挙げられる。
1.コスト負担
上場申請時には上場審査料、新規上場時には新規上場料や株式数に応じた料金を証券取引所に支払う必要がある。上場後にも、年間上場料を支払わなければならない。
また、内部体制を充実化させるための人員確保などにも継続的にコストがかかる。
2.企業情報の開示
上場後、市場に評価される企業であり続けるためには、投資家に向けた情報開示を行う必要がある。
これにより、監査法人等のコストや諸経費や事務の負担が増えることになる。
3.企業価値向上へのプレッシャー
上場後は株主からの業績向上・企業価値向上へのプレッシャーを受け続けることになる。そのため、中には短期的な利益追求に走ってしまう企業もある。
上場申請で求められる要件(形式基準)とは?東京証券取引所(東証)の場合
形式基準とは、上場申請を行うにあたって求められる要件のことだ。上場申請時に証券取引所へ資料を提出して、要件を満たしていることを示す必要がある。
求められる要件は市場によって異なる。東京証券取引所が運営する市場の例を見てみよう。
市場第一部
株主数:2,200人以上
流通株式数:20,000単位以上
流通株式時価総額:10億円以上
流通株式比率:35%以上
時価総額:250億円以上
事業継続年数:3年以上
純資産額:10億円以上
その他要件:以下のいずれかを満たすこと
- 直近2年の経営利益の合計額が5億円以上
- 時価総額500億円以上、直前期売上高100億円以上
市場第二部
株主数:800人以上
流通株式数:4,000単位以上
流通株式時価総額:10億円以上
流通株式比率:30%以上
時価総額:20億円以上
事業継続年数:3年以上
純資産額:10億円以上
その他要件:以下のいずれかを満たすこと
- 直近2年の経営利益の合計額が5億円以上
- 時価総額500億円以上、直前期売上高100億円以上
マザーズ
株主数:200人以上
流通株式数:2,000単位以上
流通株式時価総額:5億円以上
流通株式比率:25%以上
時価総額:10億円以上
事業継続年数:1年以上
その他要件:公募500単位以上
JASDAQ
株主数:200人以上 流通株式時価総額:5億円以上 純資産額:スタンダードでは2億円以上、グロースでは正の値であること その他要件:
- 1,000単位以上または上場株数10%以上のうち、いずれか多い数の公募・売出し
- 直前期1億円の利益または時価総額50億円
TOKYO PRO Market
形式基準はない。その代わりに、東京証券取引所から上場審査業務の委託を受けているJ-Adviserが以下の上場適格性要件を確認する。
- 東証に上場するに相応しい会社であること
- 事業を公正かつ忠実に遂行
- コーポレート・ガバナンスおよび内部管理体制
- 情報開示の適切な実施と体制整備
- 反社会的勢力との関係を有しないこと
審査で確認される適格要件(実質基準)とは?東京証券取引所(東証)の場合
実質基準は、上場会社として必要とされる5つの適格要件で構成されており、審査時にヒアリング等を通じて確認される。
ここでもやはり、求められる要件は市場によって異なる。東京証券取引所の例を見てみよう。
市場第一部、市場第二部
- 継続的な事業運営と安定的な収益基盤
- 公正かつ忠実な企業経営
- コーポレートガバナンスおよび内部管理体制の適切な整備と機能
- 企業内容等の開示の適正性
- その他公益または投資者保護の観点から取引所が必要と認める事項
マザーズ
- 事業計画遂行のために必要な事業基盤の整備または整備の合理的な見込み
- 公正かつ忠実な企業経営
- 企業規模や成熟度に応じたコーポレートガバナンスおよび内部管理体制の整備と機能
- 企業内容、リスク情報等の開示の適正性
- その他公益または投資者保護の観点から取引所が必要と認める事項
JASDAQ
スタンダード:
- 企業の存続性
- 企業規模に応じた企業統治および内部管理体制の確立
- 市場を混乱させる企業行動を起こす見込みのないこと
- 企業内容等の開示の適正性
- その他公益または投資者保護の観点から取引所が必要と認める事項
グロース:
- 企業の成長可能性
- 成長の段階に応じた企業統治および内部管理体制の確立
- 市場を混乱させる企業行動を起こす見込みのないこと
- 企業内容等の開示の適正性
- その他公益または投資者保護の観点から取引所が必要と認める事項
TOKYO PRO Market
実質基準はない。取引所に代わって、J-Adviserが前述の上場適格性を判断する。
株式上場までの6ステップ
株式上場の準備は、一般的には以下の流れで行われる。
STEP1.株式上場予定時期の決定
まずは上場予定時期を決定する。準備期間としては3~4年程度を見ておく。
STEP2.株式公開に向けた社内体制の整備
社内から上場準備業務を担う人材を集め、役割分担を行う。必要な役割は、経理担当、経営計画担当、書類作成、審査対応といったものがある。
併せて、必要に応じて外部のパートナー(金融機関、上場支援や会計監査を行う監査法人、上場申請を支援する証券会社など)も決定する。
STEP3.経営計画の策定
上場審査では、中期経営計画の内容はもちろんのこと、経営に有効に機能しているかという点や、立案・決定・修正・社員への周知といったプロセスまで総合的にチェックされる。
経営理念や経営方針を明確にし、外部環境の変化や自社の現状を分析した上で、将来進むべき方向性を定性的・定量的な具体的計画に落とし込む必要がある。
STEP4.申請書類・審査書類の作成
上場申請や審査に必要な書類を作成し、提出する。申請書類の内容に基づいて、形式要件に適合するどうかを確認される。
必要な書類は多岐にわたるため、ここでは一部の紹介にとどめておく。
上場申請時に必要な書類
- 有価証券新規上場申請書
- 新規上場申請のための有価証券報告書
- 定款
- 新規上場申請者に係る各種説明資料等
上場承認や公表までに必要な書類
- 株券上場契約書
- 取引所規則の遵守に関する確認書
- 新規上場申請のための有価証券報告書および新規上場申請のための四半期報告書の適正性に関する確認書等
STEP5.事前審査
形式要件に適合すると判断された場合、上場審査が行われる。ヒアリングなどを通じて、適格要件に適合するかどうかを確認される。
STEP6.株式の公募・売出し
無事に審査を通過すれば、晴れて株式の公募・売出しとなる。
株式上場に必要となる主な費用
株式上場に伴い、さまざまな費用が必要となる。どういった費用がどれくらい必要になるのか、主要なものを確認しておこう。
ここで挙げたものは一部であり、他にもいろいろと必要になることを頭に入れておいてほしい。
上場審査料
上場審査のために証券取引所に支払う費用である。東京証券取引所とJASDAQの場合、上場申請日の翌月末日までに400万円を支払う必要がある。マザーズの場合は200万円の支払いが必要だ。
新規上場料
証券取引所に支払う費用である。東京証券取引所の場合、上場申請日の翌月末日までに上場する市場に応じた金額(市場第一部で1,500万円、市場第二部で1,200万円)を支払う必要がある。 マザーズは100万円、JASDAQは600万円だ。
公募または売出しにかかる料金
証券取引所に支払う費用である。東京証券取引所の場合、上場申請日の翌月末日までに、株式数と価格に応じた金額を支払う必要がある。
監査法人への支払い
上場を支援してくれる監査法人に対して支払う監査報酬などが発生する。
証券会社への支払い
証券会社を通して株式の募集や売出しを行う際には、引受手数料が発生する。他にも、上場申請書類の作成指導、内部管理体制の整備指導、公開価格の決定といった支援への報酬などが発生する。
株式上場のスケジュール
一般的に、上場準備には3年以上が必要だ。その大きな理由は、上場審査準との関係上、上場申請までに、申請直前2期間分の監査証明が必要になるためである。
また、審査に必要な期間は、東京証券取引所の場合、市場第一部と市場第二部では3ヵ月程度、マザーズとJASDAQでは2ヵ月程度となる。
上場に向け要件とステップを理解して入念な準備を
株式上場の準備には多大な労力、コスト、時間が必要になることをご理解いただけたのではないだろうか。
上場することで知名度や資金調達力の向上といったさまざまなメリットを享受できるが、その道のりは平坦ではない。将来的に上場を目指す可能性があるならば、早いうちから社内体制などを整えていく必要がある。
要件や手順を理解して入念な準備を進めることが、スムーズな上場や市場での人気につながり、ひいては会社の成長にもつながっていくことだろう。
*本記事は2020年10月時点での情報です。
文・BUSINESS OWNER LOUNGE編集部