採用・評価といった人事業務は、判断者の属人性に依存する部分が多いアナログで定性的な業務であり、デジタル化が進んでいなかった分野の代表例だ。HRテクノロジーは、そんな日本的でもある因習に大きく風穴を開けようとしている。

目次

  1. HRテクノロジーとは?
    1. HRテクノロジーが必要とされる理由1.人事部門の生産性向上
    2. HRテクノロジーが必要とされる理由2.従業員ニーズの多様化
  2. HRテクノロジーにはどんな種類がある?
    1. AI(人工知能)
    2. RPA
    3. ピープル・アナリティクス
    4. クラウド
    5. ニューロテクノロジー
  3. HRテクノロジーのメリットと注意点は?
    1. メリット1.業務効率化と生産性の向上
    2. メリット2.人事業務の成果を可視化でき、経営管理の効率が向上
    3. 注意点1.運転するのはあくまで人間、誤れば事故になる
    4. 注意点2.扱う対象はヒト、倫理・感情を無視してはならない
  4. HRテクノロジー注目の企業3選
    1. ネオキャリア(neo career)
    2. ビズリーチ(BIZ REACH)
    3. KAKEAI(かけあい)
  5. HRテクノロジーにより、人事評価の仕組みや業務が大きく変わる

HRテクノロジーとは?

HRテクノロジーによって人事業務や評価も大きく変わる?注目の企業3選
(画像=Gorodenkoff/stock.adobe.com)

HRとはHuman Resource、直訳すると「人的資源」となるが、日本語では「業務としての人事」を主に意味する。その人事業務に最先端技術を活用するのが「HRテクノロジー」だ。略して「HR Tech」と呼ばれることも多い。

クラウドを活用したデータ共有、AI(人工知能)を活用した解析、VR(仮想現実)によるシミュレーションといったあらゆる最先端技術を駆使し、人事業務の効率化と属人性の排除を目指す。

HRテクノロジーが必要とされる理由1.人事部門の生産性向上

人事部門も生産性やコストが重視されだし、下記のような問題の解決にHRテクノロジーの活躍が期待されている。

  • 日本企業は従業員評価基準があいまい、上司が紙の査定シートに定性的に記入する評価では、客観的だと部下に納得させられない
  • 面接官の属人性に依存する採用判断では、採用人材品質を一定に保てず、入社後の研修・育成プロセスも非効率になる
  • 日本人の労働人口が減り続ける中で、優秀な人材確保と離職率の低減が人事部門の生産性に大きく影響する

一昔前までは「結果はこうだ」とだけ言い切れば、従業員や採用応募者はその場では黙ってこらえた。その夜に居酒屋で愚痴を言い、「長いものには巻かれろ」と自身に言い聞かせてくれたので、雇う側の会社は楽だった。

しかし令和の今は甘くない。多大なコストと労力をかけて採用・育成した優秀な人材でも、評価や労働環境に不満を持たれるとすぐに転職する。転職サイトに「ブラック企業」と書き込まれれば、目も当てられない。

採用条件提示や選考が不透明だと思われると就職・転職情報サイトに書き込まれ、優秀な人材確保に大きな支障をきたす。生産性やコスト意識で聖域だった人事部門にも、ついにメスが入るようになっているのだ。

HRテクノロジーが必要とされる理由2.従業員ニーズの多様化

従業員のニーズが多様化し、今までの評価基準では判断できないケースも登場している。下記のような多様な働き方でも評価できる新たな仕組みが求められている。

  • 子育てや介護など家庭事情の制約がある中でも最大限のパフォーマンスを発揮したい
  • 通勤という時間の無駄をなくしたい
  • 自宅でのテレワークなど仕事する場を柔軟に選択したい
  • 労働時間ではなく成果で評価してほしい

決められた時間と場所でみんなが揃って仕事する場合は、評価のすべてはいかに上司に気に入られるかにかかっていた。遠い昔の昭和の価値観が今ようやく変わろうとしている。

HRテクノロジーにはどんな種類がある?

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HRテクノロジーは、人事業務における生産性向上を目指す概念だが、人事業務特有の技術に起因するものではない。汎用的な技術を応用したものが基本だ。

AI(人工知能)

膨大な過去の経験をデジタルな手順(アルゴリズム)としてコンピュータに学習させることで、人間にしかできないと考えられてきた知能に基づく判断や創造を、コンピュータに行わせようという技術だ。デジタルな判断は適さないと長年信じ続けられてきた人事業務にも、革命を起こそうとしている。

AIの活用は、新卒採用時のエントリーシート選考でまずは注目を浴びた。大企業ともなると万を超える新卒求職者からの応募がある。人間がすべてに目を通して判断するには量的負担は極限にまで大きくなり、質的にも判断へのばらつきが避けられない。

このほか育成・評価・異動・昇進といった従業員のスキルや経験に基づくタレント(その人が身に付けた才能)による判断が必要な業務でもAIの活用が進んでいる。AIの判断の精度を高め、人間の納得度がより高まるよう、AIの判断を助けるデータの蓄積やアルゴリズムの調整を真摯に続けられるかがカギを握る。

RPA

Robotic Process Automationの略語で、直訳すると「ロボットによる業務の自動化」という意味になる。AIは命題に対する判断を主体的に行うのに対し、RPAは自ら判断はしない。定例的なルーティンワークを自動化するのに適している。

人事では応募者データを採用管理システムに自動で登録したり、自動で個人の人事考課表を作成しメールで送ったりすることにも活用されている。 現状のRPAは、AIと組み合わさず人間が指示を出し、定型的な業務を淡々とこなす簡便なシステムが中心だ。今後AIの進歩に伴ってRPAの機能も高度化し、AIにより人間の判断を代替させることで、さまざまな人事業務が自動化されていくものと見られている。

ピープル・アナリティクス

「人の解析」と直訳できるように、従業員や組織に関するデータを収集・解析し、人事を含めた経営全般の戦略的な意思決定に役立てようとする手法だ。

人事では下記のような課題への活用が進んでいる。

  • 従業員の適材適所への配置
  • 次世代リーダーの発掘と育成
  • 退職者の予測と要因分析
  • 結果を出す、出せない従業員の要因分析
  • 自社に必要な人材像の明確化

AIとともに人間の意思決定をサポートするシステムとして、注目度はさらに上がっていくだろう。

クラウド

クラウドはアプリケーション・ソフトウェアを自社内のサーバーやパソコンにインストールして利用するのではなく、サービス提供者のサーバー上で動くソフトをインターネット経由で利用する。業務から生活まで、あらゆる分野で普及する最新のインターネット利用環境を象徴する仕組みだ。

ご存じの方も多いだろうが、専用のハード・ソフトウェアを自前で用意する必要はなく、初期費用が安くなる。常に最先端技術が利用でき、メンテナンスも必要ない。クラウド型の人事管理システムも急速に普及している。

ニューロテクノロジー

日本語に訳すと「脳神経科学を活用した技術」となる。人事業務での応用はこれからだが、うつ病などメンタルヘルスの管理やヒューマンエラーの防止といったきわめてアナログ的だととらえられている課題の解決が期待されている。

HRテクノロジーのメリットと注意点は?

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実際にHRテクノロジー導入をイメージするにあたって、どんな点をチェックすべきか? 前述したように人事業務における効率化と生産性の向上というメリットははかりしれない。一方メリットとデメリットは紙一重である場合も多い。導入企業の将来像に合わせて適切な選択と判断をされたい。

メリット1.業務効率化と生産性の向上

人事部門スタッフの「ルーティン作業」時間を減らすことで、戦略立案や業務の見直しといった司令塔としての役割に時間をより費やせるようになる。日本のホワイトカラーの生産性は世界的に低いと言われて久しく、労働人口がますます減少していく状況下ではテクノロジーの必要性が大きい。

メリット2.人事業務の成果を可視化でき、経営管理の効率が向上

採用・評価といったヒトに対する評価は、日本では面接官や上司の属人性に長らく依存してきた。基準はあいまいで指標として管理してこなかったため、失敗も多い。人事業務の生産性が向上しないと指摘される大きな要因と考えられる。

HRテクノロジーは、データに基づいて業務をこなすものであり、曖昧さが排除されることで指標化が進む。指標の信頼性が向上すれば、採用・異動・昇進対象者の選択におけるミスマッチは少なくなる。

人事の目標が社内に浸透すれば、エンゲージメント(組織と従業員の円滑な関係)のさらなる向上も期待できる。

注意点1.運転するのはあくまで人間、誤れば事故になる

HRテクノロジーは決して万能ではなく、利用企業の将来像やルールに合わせて、扱うデータや運用のアルゴリズムを担当者が決めなければならない。

決め方が正しい(組織全体で納得が得られる)のであれば順調に運用が続けられるが、ひとたび不満が噴出すればシステムとして信頼されなくなり、途端に業務に大きなブレーキがかかってしまう。

一度決めたルールが永遠に有効であることもありえない。時代や会社の実情に合わせ常に変革させていかねばならない。これからの人事部門は、ルーティン業務をRPAなどに任せ、組織の成長に必要なこうした業務見直しにより時間をシフトさせるべきだろう。

注意点2.扱う対象はヒト、倫理・感情を無視してはならない

「成果を出す社員は休日の時間の使い方が充実している」。一般論としても違和感を持たれにくい仮説だが、これを検証するために「すべての休日の時間の使い方を人事DBに入力せよ」と言われたら、ほぼ100%の従業員は猛反発する。

これは極端な例だが、HRテクノロジーを活用するためには倫理・感情的に扱ってよいか微妙となる指標も出てくるだろう。慎重な判断に加え、従業員を巻き込んだルール策定が極めて重要になる。

HRテクノロジー注目の企業3選

人事業務支援サービスを提供する会社は、HRテクノロジーの活用に多くがしのぎを削っている。数ある中でも特にHRテクノロジー活用が注目される企業を紹介したい。

ネオキャリア(neo career)

あらゆる人事に関する顧客ニーズにワンストップで応えようとするビジネスモデルで、リーマンショック後の急成長が著しい。自前ビジネス以外にも有力就職・転職支援サービスの販売代理業など、同社の公式サイトのサービス一覧を見ると、その多様性に驚かされる。

HRテクノロジーを活用した業務支援サービスはもちろん、人口減少社会でニーズが高まる介護・医療・保育分野での採用支援や、今後の成長エンジンとなるアジアでの事業展開など、次世代を見据えたビジネスモデル構築は素速い。

ビズリーチ(BIZ REACH)

年収1,000万円超のようなハイクラス人材の転職に強いサービスとして知られる。ハイクラス人材の転職は、従来はヘッドハンター会社の仲介に依存していたが、ビズリーチは求人企業と求職者情報を集約する良質なデータベースを構築することで、マッチングの機会を増やし公平性を高めることに成功した。

業界では異例の求職者から手数料を取るプランもあり、良質な求職者の確保へのこだわりを強く印象付けられる。並行してクラウドを活用した採用・人事管理システムの展開にも余念がない。

KAKEAI(かけあい)

上司と部下の面談「1on1」の効率化を支援するシステムで注目されている。このシステムの利用により、属人的な人事業務を変革することで、業績のアップや離職率を下げるという結果を出している。

HRテクノロジーにより、人事評価の仕組みや業務が大きく変わる

部下の頃は「その評価に納得できない」と強く感じていたが、上司になった今「評価基準をうまく説明できない」と感じている人もいるだろう。「人事評価の基準を決めるのは困難だ」、日本社会を永らく支配してきた価値観が今、HRテクノロジーによって破壊されようとしている。

文・高千穂一也(ビジネスライター)