2020年のコロナ禍により「働き方改革」はより注目度がアップした。雇う側も雇われる側も「面倒=効率の悪い仕事」への嫌悪感はますます強まっている。そうした時代の空気を素早く取り込んで急成長してきたSaaSスタートアップ企業の魅力を紐解いてみたい。

目次

  1. 今さら聞けない!?SaaSとは?
    1. SaaS = Software as a Service
    2. スタートアップ企業がSaaSに着目する理由
  2. 日本発SaaS企業6選
    1. グループウェアで働き方改革を提案し続ける「サイボウズ(cybozu)」
    2. 名刺で市場を開拓した「Sansan」
    3. 電子メールに取って代わった「Chatwork」
    4. 労務管理市場で手を握った「SmartHR」と「freee」
    5. サイト訪問者にその場のベストな体験の提供にこだわる「プレイド」
    6. 他にもSaaS有望企業は目白押し
  3. SaaSスタートアップは今後どうなる?
    1. SaaSスタートアップの今後の潮流
  4. SaaSスタートアップは、やはり時代を映す鏡

今さら聞けない!?SaaSとは?

SaaSスタートアップを見れば、時代の潮流が見える!注目の企業6選
(画像=thodonal/stock.adobe.com)

急成長するスタートアップ企業の多くが主要なビジネスモデルとして展開している今を時めくITビジネスがSaaSだ。

ほとんどの読者はSaaSの概念を「何となく」理解されているだろうが、「正確に答えるのは難しい」と多くの人が思うかもしれない。

まずは読み方、「サーズ」「サース」最後の「ス」が濁る・濁らない、どちらが正しいのか? 日本経済新聞では2018年10月29日の記事で「サース」と濁らない表記をしている。

SaaS = Software as a Service

英語の直訳を日本語でわかりやすく言うと「アプリケーション・ソフトウェアを利用者のハードウェアに取り込むのではなく、提供者のサーバーで管理されているアプリケーション・ソフトウェアをインターネット経由(クラウド上)で利用するサービス」となる。

パソコンでは、ここ10年ほどでソフトウェアをインストールするという作業自体が大幅に少なくなり、あらゆるサービスがWebブラウザ上で利用できるようになった。高速・大容量で安価なネット利用環境、すなわち時代に適合した情報流通の申し子のようなビジネスモデルがSaaSに他ならない。

スタートアップ企業がSaaSに着目する理由

所有するのではなく使いたい時だけ利用する「シェア」サービスが、自動車や服などリアルな製品でも潮流になりつつある。SaaSはソフトウェアを「シェア」するものであり、リアルな設備投資や流通網構築の必要がないため、短期間での事業規模拡大が実現しやすい。

ビジネスの「アイデア」が市場の潜在ニーズを刺激さえできれば、ネット上で瞬く間に評判が拡大する可能性も秘めており、広告宣伝費を大幅に低減できることもある。「無料お試し期間」といったプロモーションも容易に実現でき、顧客にとっての利用に踏み切る敷居も低い。

また日本においては、事務処理やコミュニケーションに無駄が多いといわれて久しい。稟議を通すためにいくつもの「ハンコ」を押したり、文書をファイルでなく「紙で保管」する文化が根強く残っているのが典型例だ。

日本のスタートアップでは、この「無駄」にビジネスチャンスを見出して成功している創業者も多い。これから紹介する日本で成功しているSaaSスタートアップ企業は、法人向けサービスを提供する企業が目立つ。こうした時代背景に起因するのかもしれない。

日本発SaaS企業6選

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ベーシックな機能を無料で提供することでMicrosoft Officeの地位を脅かすGoogleドキュメントやスプレッドシート、CRM(顧客情報管理システム)のSalesforce、オンライン会議のZOOMなど、アメリカ勢がSaaSにおいても世界市場を主導していることは間違いない。そうした中、日本発で急成長するSaaSスタートアップ企業もあるためしっかりチェックしておこう。

グループウェアで働き方改革を提案し続ける「サイボウズ(cybozu)」

組織内で情報を共有するグループウェアで、1997年というインターネット黎明期に創業した「老舗」としてSaaS業界では知られている。青野社長は「チームワークあふれる社会を創る」という経営理念の下、社内のワークスタイルを変革し離職率を1/6に低減した実績で、スタートアップ企業の老舗としての社会貢献を問い続けている。

新型コロナウイルスによる環境の激変で、日本でも急速に進んだ働き方が「テレワーク」だ。サイボウズは10年前からテレワークを導入し、業績を伸ばし続けている。 最新の2020年4-6月四半期決算を見ても、前年同期比で連結売上高17%増、営業利益30%増と、コロナ禍でのテレワーク需要を着実に取り込み、業績は絶好調だ。主力サービス「cybozu.com」の利用増が力強い。また独自の業務システム(アプリ)を簡単に構築できる「kintone」も堅調だ。日本企業がこだわる「カスタマイズ」を上手に突いている。

名刺で市場を開拓した「Sansan」

社内の名刺をクラウド上で一括管理し、顧客情報共有を効率化するサービス「Sansan」は名刺管理の市場で8割のシェアを握る(シード・プランニング調べ)。俳優・松重豊の「早く言ってよ」の決めゼリフでおなじみのTVCMで受注を大きく伸ばした。B2Bスタートアップでは珍しく、マス広告をうまく活用した企業としても知られる。

他社サービスと提携することで顧客の利便性を高めることにも積極的だ。日経テレコンから名刺交換相手の異動情報を自動取得、セールスフォースのCRMから商談実績参照・二重登録の防止、帝国データバンクの企業情報を閲覧、といった連携機能をすでに提供している。

2020年5月通期決算では連結売上高17%増、営業利益も黒字化と業績は好調だ。一方コロナ禍でユーザーによるリアルな名刺交換が大きく減少しているのに対し、「オンライン名刺交換」機能をリリースするなど対策には余念がない。日本のSaaSスタートアップを代表する企業としてコロナの逆風をどう乗り切るか、注目が集まっている。

電子メールに取って代わった「Chatwork」

国内利用者数No.1(Nielsen調べ)のビジネスチャットツールで、実際に利用されている読者も多いだろう。電子メールが複数相手や共通テーマでのやりとりの使い勝手がよくないことから、まずは社内コミュニケーション・ツールとして普及し始めた。近年はコミュニケーション頻度が高い社外とのやりとりにも多く利用されている。

ビジネスにおけるチャットツールは、LINEやFacebookなどSNSも交えて乱立しているのが現状だ。利用者数が多いツールほど、社外とのチャット(複数の人が同じ目的のコミュニケーションを行う場)を作りやすくなる。そのためいったん顧客を獲得すると解約率が低く、ビジネスモデルとしては手堅い。

Chatwork(チャットワーク)は中小企業や士業事務所に利用者が多く、日本国内だけで完結するコミュニケーション・ニーズには強い。昨年2019年のマザーズ上場時に「ビジネスチャットの国内普及率は3割、市場規模は今後5年で3.7倍に膨れ上がる」と山本社長が語っている。

一方グローバルまで広げたコミュニケーション・ニーズでは、アメリカ発のSlack(スラック)が日本ではよく知られている。ユーザーが世界150ヵ国以上に渡るため、世界市場を見据えるような企業には採用されやすい。ビジネスチャットツールは、SaaSの中でも目指す市場の違いが如実に表れている分野だ。

労務管理市場で手を握った「SmartHR」と「freee」

SmartHR(スマートエイチアール)は、雇用契約・社会保険手続き・年末調整といった雇用者に義務付けられている労務手続きを、紙ではなくクラウド上で一括管理するサービスで急成長した。人事業務の中でも労務管理は、採用とは異なり組織の付加価値を創出する仕事とはとらえられにくく、人手不足の時代にあって効率化ニーズが大きい業務だ。

一方freee(フリー)は、クラウド会計サービスとして知られるが、主要顧客である中小企業向けに勤怠管理や給与計算を行う「人事労務freee」の利用企業も多い。いわば、中小企業の経理と人事を一括してサポートする体制で業界に一定の地位を築いている。

一見同じ市場で競合するように思えるが、2019年に両社は互いのサービスの連携を始めた。SmartHRは年末調整など手続きの頻度が低い業務に強く、freeeは給与計算など手続きの頻度が高い業務に強い。主要顧客企業の規模の違いもあり、呉越同舟に踏み切った形だ。

サイト訪問者にその場のベストな体験の提供にこだわる「プレイド」

プレイドは、CX(カスタマー・エクスペリエンス=顧客体験)プラットフォーム「KARTE」(カルテ)を通じて、企業のマーケティング効率を究極にまで高めようとしている。サイト訪問者の行動をリアルタイムで解析することで、過去の行動に依存することなくその場に最適なプロモーションを提案できるのだ。

企業規模にかかわらず顧客を獲得していることも特徴的だ。ターゲットのペルソナではなく、利用シーンにこだわったビジネスモデルの成功例と言える。

他にもSaaS有望企業は目白押し

フロムスクラッチは、マーケティングデータ設計・統合支援ソフト「b-dash」(ビーダッシュ)で、データ加工の大幅な工数削減を実現し、生産性向上と働き方改革という時代のニーズの波に乗った。お笑い芸人コンビ「おぎやはぎ」を起用したCMで知られる。

bellFace(ベルフェイス)は、営業マンが顧客に電話をかけた際に、簡単にオンライン商談ができるサービスで注目されている。営業マンの属人性に依存して訪問アポを取るのではなく、電話をかけたその場で営業マンのトーク動画やプレゼン資料を顧客に見せることができるという、ユニークなビジネスモデルが面白い。

SaaSスタートアップは今後どうなる?

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飲食や観光といったリアルな体験を売り物にするビジネスは、人との接触にNGを突き付けた2020年のコロナ禍で致命的な影響を受けた。

SaaSは基本、ネット上でビジネスが完結するためコロナの影響は限定的だ。Sansanのようなリアルな対面に起因する影響を受けたビジネスモデルはわずかだ。逆にテレワーク需要で業績を伸ばした企業もある。

SaaSスタートアップの今後の潮流

スタートアップと言えば、上場が晴れの舞台とイメージされがちだが、経営のかじ取りの制約や情報開示義務に縛られる上場をあえて選択しない企業もある。上場せずとも第三者増資の様な資金調達に応じてくれるベンチャーキャピタルの心を、斬新なビジネスモデルでしっかりとつかんでいるためだ。 業務提携など重要な経営判断もとにかく早い。スタートアップが切り開いた市場が安定するまでは、離合集散を繰り返しながら、勝ち組への生き残りをそれぞれが目指していく。

SaaSスタートアップは、やはり時代を映す鏡

インターネットにより新規事業の立ち上げのハードルが格段に低くなったことは言うまでもない。時代のニーズを敏感にくみ取った創業者が、果敢にチャレンジを続ける。SaaSスタートアップを見ている限り、時代の波に乗り遅れることはないだろう。

文・大西洋平(ジャーナリスト)