ビジネストレンドの移り変わりは速い。かつて企業は利益を追求することで成長してきたが、現在は顧客の満足度を向上させながら事業を展開する方向にシフトしている。また、近年では社会的問題の解決をうながすソーシャルビジネスが新たなトレンドとなりつつある。

目次

  1. ソーシャルビジネスとは?
  2. どのような分野にソーシャルビジネスが参入?
    1. 高齢化
    2. 過疎化
    3. 待機児童
    4. 貧困
  3. ソーシャルビジネスの課題
    1. 金融機関からの融資
  4. ソーシャルビジネスで活躍する事業主
    1. 株式会社おてつたび
    2. 一般社団法人RAC
    3. Rennovator株式会社
  5. ソーシャルビジネスの存在感は今後も増加の見込み

ソーシャルビジネスとは?

利益追求は時代遅れ?ソーシャルビジネスの隆盛
(画像=AA+W/stock.adobe.com)

企業が提供するサービスや製品によって消費者の生活の質が向上し、それまで存在しなかった未知の領域を開くことで利便性がアップしてきた。ビジネスが展開されるためには、新たな需要を喚起して企業に利益をもたらすことができるかという考えがベースにある。裏を返せば、利益につながらないような分野はビジネスに見向きもされないことがある。

しかしながら、企業が活動をする社会には、子育て支援・高齢者問題・環境問題・地域の活性化など様々な課題が存在する。こうした社会的な課題の解決に向けて、ビジネスの手法を用いながら取り組む事業のことを「ソーシャルビジネス」と呼ぶ。その事業主体は、企業に加えて特定非営利活動法人(NPO)なども幅広い分野においてソーシャルビジネスを展開している。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2015年に発表した「我が国における社会的企業の活動規模に関する調査」によると、社会的企業は20万5,000社に上り、給与を受け取る従業員は577万人となっている。

この調査で社会的企業と定義されたのは、事業の主目的が利益の追求ではなく社会的課題の解決であること、ビジネスを通じた社会的課題の解決・改善に取り組んでいるなどの条件を満たした企業である。調査対象の事業者数は合計174万社であり、このうち11.7%がソーシャルビジネスを展開していたというのが実態である。

この数字から分かるように、ごく一部の企業がソーシャルビジネスに取り組んでいるというよりは、一定程度の社会的企業が既に存在していることが読み取れるだろう。

どのような分野にソーシャルビジネスが参入?

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ソーシャルビジネスの存在感が高まる中、実際にはどのような社会的問題を課題として取り組んでいるのだろうか。主な参入分野と取り組む課題は次のとおりである。

高齢化

少子化が進む中で、社会は人生100年時代を迎え高齢者の数は増加の一途をたどっている。健康を持続しながら、自立して生活を送ることができる高齢者がいる一方、介護が必要となるケースもある。介護の現場では人材不足にも悩まされており、ソーシャルビジネスの果たす役割は大きい。

現在では、介護計画策定支援や介護を実施する家族の相談に応じるサービスなどが提供されている。

過疎化

2020年7月には、コロナ禍の影響でこれまで東京に一極集中だった傾向にも変化が訪れ、東京圏(東京、埼玉、千葉、神奈川)への転入より転出が上回る結果となった。このトレンドが一過性のものか、長期的に継続するのか見通しは不明であるが、多くの地方都市では依然として人口の流出に歯止めがかからない。

過疎化や65歳以上の住民が半数以上を占める限界集落のコミュニティーが今後も増えていくことが予測され、インフラや住民サービスの提供が大きな課題となっている。過疎化地域の生活をサポートすべく、乗り合いタクシーや買い物代行サービスなどのソーシャルビジネスが住民を支えている。

待機児童

女性の社会進出により出産後も仕事を継続できる環境が整備されつつあるが、待機児童の問題は依然として女性の職場復帰を阻む大きな壁でもある。待機児童は社会問題として取り上げられ、政府も2020年度末までに待機児童ゼロを目標に掲げた。

しかしながら、その目標達成は困難であると先送りされており、乳幼児を抱える家庭にとっては深刻な問題だ。ソーシャルビジネスは、複数の児童を家庭で預かるサービスや病児保育の空き情報の検索サービスなどを通して、待機児童問題の解決に貢献している。

貧困

日本の労働者の典型であった年功序列、終身雇用型のモデルが転換期を迎え、非正規社員の割合は労働者の約4割に上る。正社員よりも給与水準が抑えられ、またシングルマザーの非正規社員の場合は特に経済的に厳しさが増すケースが多い。こうした家庭で育った子どもは、教育の機会などが限られ、貧困が世代をまたいで連鎖するリスクがある。

こうした悪循環を断ち切り、次世代の支援のためにこども食堂や貧困世帯向けのオンライン学習サービスなどに取り組むソーシャルビジネスが台頭している。

ソーシャルビジネスの課題

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ソーシャルビジネスは、利益の追求よりも社会的問題の解決が優先されるため、事業で利益が上がった際もその取り扱いが異なる。ソーシャルビジネスを営む株式会社の場合、通常の株式会社であれば、会社は株主のものであり、利益は株主に還元するのがビジネス界のルールである。しかし、ソーシャルビジネスを展開する株式会社の場合、利益は株主配当よりも事業への再投資に向けられることが多い。

また、前述の三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査では、ソーシャルビジネスを展開する株式会社のうち約8割は配当を実施していないと回答している。

このように、事業形態が株式会社であれ、NPO法人であったとしても利益を確保して事業を継続できている場合は問題ない。しかし、ソーシャルビジネスの性格上、利益の追求よりも社会的問題の解決が優先されるため、理念としては崇められても、事業で赤字が続けば持続可能性はなく、せっかくの誇り高き理念も台無しになってしまう。

株式会社がソーシャルビジネスに乗り出す場合、目的は社会的問題の解決だとしても、利益を確保して事業を持続的に継続させるビジネスマインドは少なからず存在するであろう。株式会社以外の形態でソーシャルビジネスに取り組むケースでは、理念はしっかりしていても、事業資金が追い付かないケースが散見される。

利益の追求はソーシャルビジネスの理念ではないにせよ、事業を継続できるための資金繰りを確保することは最低限求められる。このマインドを、ソーシャルビジネスを展開する事業主が心得ておくことが課題として挙げられるだろう。

金融機関からの融資

ソーシャルビジネスを通して事業資金が回転するような仕組みを確立することと同時に、金融機関からの融資も活用することも選択肢に入る。一例として日本政策金融金庫では、ソーシャルビジネス支援資金として融資制度を設けており、最大7,200万円(このうち運転資金4,800万円)の資金の提供を受けることができる。

社会問題の解決という志は高くても、資金不足から事業撤退に追い込まれれば、高い志も水の泡である。こうした融資枠も積極的に活用しながら、ソーシャルビジネスを持続可能にすることも社会問題を解決すると同等に重要である。

ソーシャルビジネスで活躍する事業主

実際にソーシャルビジネスの世界で台頭し、社会的な問題の解決に貢献している事業主を紹介しよう。

株式会社おてつたび

長年の伝統が受け継がれた文化的に豊かな地域でも、過疎化による人手不足によりビジネスは厳しい環境に置かれている。こうした地域へ、知らない場所に行ってみたいという若者が入り込むサービスを提供しているのが株式会社おてつたびだ。人手が足りない地域では若者の訪問が歓迎される一方、地域を訪れた若者はSNSなどを通して地域の魅力を発信することで、地域活性化に一役買うこともできる。

一般社団法人RAC

虐待や育児放棄(ネグレクト)で命を落とす子どものニュースが後を絶たない中、こうした家庭内でトラブルを抱える子どもたちを支援しているのが一般社団法人RACである。様々な事情で家族と一緒に暮らせない子どもが、慣れ親しんだ地域で生活ができるようにショートステイや短期里親を始める方を支援している。

里親と聞くと、子どもの受け入れにハードルが高いような印象を受けるが、そうした固定概念を変え里親の担い手を増やし、社会全体で子どもを育てるような仕組みづくりに従事している。

Rennovator株式会社

空き家問題は全国各地で深刻化している。放置すれば景観上の問題から地域にマイナスのイメージを与えるばかりか、防災の観点からもリスクが存在する。こうした空き家が全国で増え続ける一方で、単身高齢者や外国人、生活保護世帯など住居の確保に困窮する人が存在する。

Rennovator株式会社は、空き家を購入し、リノベーションした上で住居の確保に困窮する人たちに低価格の家賃で提供するソーシャルビジネスを確立している。空き家問題と生活困窮者の住宅確保という2つの社会問題を結び付けることで社会問題の解決を図っている。

ソーシャルビジネスの存在感は今後も増加の見込み

利益一辺倒の企業経営はもはや時代遅れともなりつつある。特に、高度成長期やバブル期を知らない世代は、利益の追求よりもビジネスを通した社会的な問題の解決への関心が高い。社会問題を解決するためのニーズを、ITを駆使して掘り起こすこともでき、ソーシャルビジネスが展開しやすい環境も整備されつつある。

これまでは社会的問題の取り組みの中心だった公的機関も、ソーシャルビジネスを展開する事業主に一目置いており、融資の対象に含めるなど、ソーシャルビジネスの存在感は益々増加している。日々のニュースなどで接する社会問題のアンテナを張ることで、ソーシャルビジネスの行方にも精通することができるようになるだろう。

文・志方拓雄(ビジネスライター)