グローバル化が進むにつれて、近年ではビジネストラベルマネジメントが重視されてきている。その波は世界中に広がっており、いまやサービスとして打ち出している企業も珍しくない。特に出張の機会が多い経営者は、これを機に正しい知識を身につけておこう。
目次
ビジネストラベルマネジメントとは?

ビジネストラベルマネジメントとは、海外渡航に関するリスクやコストを管理する考え方のことだ。「BTM(Business Travel Management)」とも呼ばれているこの考え方は、グローバル化を目指している企業を中心として世界中に浸透しつつある。
企業が自らBTMに取り組む例もあるが、一般的にBTMと言えば旅行会社などが提供する"BTMサービス"を指すことが多い。たとえば、海外出張の多い企業がBTMサービスを利用すると、旅費削減や出張管理などを手広くサポートしてもらえる。
国内とは事情が大きく異なる海外出張において、新たに発生する業務を専門家にサポートしてもらえるメリットは意外と大きいため、特に海外出張が多い経営者はこれを機にBTMの基礎を学んでいこう。
BTMが注目されるようになった背景
BTMの考え方は、1980年代のアメリカで誕生したと言われている。もともとはコスト削減のみが重視されていたが、海外渡航の手間やリスクの大きさが注目され始めたことをきっかけに、次第に「コスト・手間・リスク」の3つが総合的に重視されるようになった。
そして1990年代になると、日本国内でも一部の旅行会社がBTMサービスを開始。当初は外資系企業の要望に応えるためのサービスだったが、2000年頃になると日本企業からの注目度も上昇し、国内にも少しずつBTMの考え方が浸透していった。
日本国内でBTMが浸透し始めた要因としては、バブル経済崩壊後の景気低迷が大きいと言われている。この時期には多くの企業が経営危機に直面し、全体的なコストの削減を余儀なくされた。そのなかでも、特に出張の多い企業がBTMに注目し始めたのだ。
そして、サービスを提供する側の旅行会社にとっても、いまやBTM事業の重要度は非常に高い。2009年頃には航空会社からのコミッション(発券手数料)が廃止されたが、この失われた収益源をカバーするための事業として、いくつかの旅行会社はBTMサービスに力を注いでいる。
つまり、今後もBTMサービスが拡充されたり、種類が増えたりする可能性は十分に考えられるので、出張の多い企業は最新情報を常にチェックしておきたい。
BTMサービスの詳細とは?導入するメリットを解説
企業がBTMサービスをうまく活用するには、サービスの詳細をしっかりと理解しておくことが必要だ。そこで以下では、BTMサービスを「出張手配サービス」「出張管理サービス」の2つに分けて、それぞれを導入するメリットや概要をまとめた。
出張管理サービス
出張管理サービスとは、出張に伴って発生する精算や会計、実績報告などを効率化するサービスのことだ。たとえば、仮払金や売上、その他出張費をデータ化し、それぞれのデータを連携させることによって、経理業務を大幅に省けるようなサービスが展開されている。
また、過去の出張データを「個人別」「部門別」のように分けて一元管理できる点も、出張管理サービスの大きな魅力と言えるだろう。出張データがわかりやすく整理されていれば、過去の出張データを検索・比較することによって経費削減に向けた対策も立てられる。
さらに、出張管理サービスを利用する企業側にとっては、ペーパーレス化を促進できる意味合いも大きい。特にこれまで紙や印鑑をベースとして申請業務をしていた企業は、データを主体とした管理体制に変更することで、チェック漏れなどの人的ミスを防げるだろう。
出張手配サービス
一方で出張手配サービスとは、宿泊施設や移動手段の手配を一元化することで、手配業務の負担を大きく軽減してくれるサービスだ。基本的には、ひとつの行き先に対して複数のプランやビジネスパックが用意されているため、最適な出張プランも設計しやすくなる。
また、利用するサービスにもよるが、上限金額などの「出張規定」を設定できる点も魅力的なポイント。企業側からすると無駄な出張(=経費)を防止できるので、出張手配サービスを導入すれば内部統制の強化にもつなげられる。
そのほか、ホテルや移動手段のデータ、現地での支払いを一元化できるなど、出張手配サービスの導入にも数多くのメリットがある。
出張管理サービス・出張手配サービスのメリットまとめ
上記で解説した以外にも、出張管理サービス・出超手配サービスにはいくつかのメリットがある。そこで以下では、ここまで解説した内容も含めて各サービスのメリットを分かりやすくまとめた。
出張管理サービスのメリット |
出張手配サービスのメリット |
・申告書作成業務や経理業務を効率化できる ・ペーパーレス化が促進される ・チェック漏れなどの人的ミスを抑えられる ・スマートフォンなどの機器を使えば、どこでも申請や承認、却下ができる ・過去の出張データを簡単に検索できる ・経費削減に向けた対策を立てやすくなる |
・手配業務の負担を抑えられる ・最適な出張プランを立てやすくなる ・内部統制の強化につながる ・キャッシュレス化が促進される ・出張中のリスク管理が容易になる ・経費削減に向けた対策を立てやすくなる |
出張管理サービス・出張手配サービスの両方が備わっているBTMサービスを利用すれば、出張時のコストやリスク、手間は大きく抑えられる。ただし、業者によっては出張管理サービスのみ、もしくは出張手配サービスのみしか扱っていないため、サービス詳細は契約前にしっかりと確認しておくことが必要だ。
BTMには具体的にどんなサービスがある?大手サービスの特徴を紹介
では、実際に各旅行会社はどのようなBTMサービスを提供しているのだろうか。一口にBTMサービスとは言っても、業者によってサービス詳細は大きく異なるので注意が必要だ。
各サービスの違いを押さえるために、以下ではBTMサービスの実例をいくつか紹介していこう。
1.じゃらんコーポレートサービス/株式会社リクルートライフスタイル
「じゃらんnet」でおなじみのリクルートライフスタイルは、2013年10月から法人向け出張宿泊予約サービスである「じゃらんコーポレートサービス」を提供している。このサービスでは宿泊費用の一括精算のほか、国内のホテルや航空券のスムーズな手配、出張規定に合わせた表示制御などが可能だ。
さらに、宿泊施設や代金をはじめとした「宿泊実績」を一元管理できる点も、このサービスの大きな魅力。出張の動向をリアルタイムで監視できるため、トラブル時の安否確認はもちろん、内部統制の強化にもつながる。
また、登録時の初期費用や月額費用は発生しないので、導入コストを抑えながら出張環境を整えられる。
2. J’sNAVI NEO/株式会社JTB
旅行会社JTBが提供する「J'sNAVI NEO」は、出張管理・出張手配の両方を兼ね備えたサービスだ。宿泊施設や移動手段の手配はもちろん、出張データや経費の一元化、リスク管理の強化など、非常に幅広いサポートが備わっている。
このサービスの最大の特徴としては、精算データと請求データが自動マッチングされる点が挙げられるだろう。この機能により、繰り越しや消し込みなどの作業が発生しなくなるため、経理部門の負担をぐっと抑えられる。
初期費用・月額費用はかかるものの、購買データの分析や規定チェックなど経費削減に役立つ機能も充実しているため、うまく活用すれば導入コスト以上のメリットを感じられるはずだ。
3.SAP Concur/株式会社コンカー
「SAP Concur」は、世界中の法人が利用しているBTMサービス。こちらも出張管理・出張手配の2つのサービスを兼ね備えており、出張費をはじめとしたさまざまなコストを管理できる"経費管理システム"が提供されている。
このサービスの最大の魅力は、社内のさまざまな情報をデータ化できる点だ。宿泊先などの出張データはもちろん、スマートフォンを使えば出先で領収書をデータ化できるため、領収書の紛失や入力ミスなどのトラブルもしっかりと防げる。
さらに、「Concur Expense」と呼ばれるシステムによって、データとして取り込んだ経費は自動精算されるので、経理の手間も大きく抑えられるだろう。
4.Racco -ラッコ-/楽天株式会社
楽天トラベルの一事業として展開されている「Racco -ラッコ-」は、初期費用・月額費用がかからない出張手配タイプのBTMサービス。サポート範囲は国内出張のみとなるが、ホテルや航空券、レンタカーなどをまとめて予約できる。
そのほか、予約データの一元化や経費の一括請求、出張規定の設定など、基本的な機能はしっかりと備わっている。BTMサービスとしてはシンプルだが、導入コストを抑えやすいサービスであるため、高い費用対効果を期待できるだろう。
会社請求・個人精算の2タイプの精算スタイルが用意されている点も、このサービスの利便性を高めているポイントだ。
5.GBT NTA/株式会社日本旅行
日本旅行が提供している「GBT NTA」は、出張手配タイプのBTMサービスだ。出張手配やデータ一括管理など、基本的な出張手配サービスはしっかりと網羅されており、主に海外出張をサポートしてくれる。
さらに、定量・定性データの分析や戦略的提案など、将来のビジネスプランに活かせるサポートが充実している点もこのサービスの魅力。たとえば、戦略的提案では最適化したロードマップを提案してもらえるため、出張時のムダを大幅に削減できる可能性がある。
また、日本旅行は世界中にネットワークを有しており、トラブルの際にもサービスの継続提供を目指しているので、安心して利用できるサービスと言えるだろう。
最後にチェック!大手のBTMサービスを一覧表で比較
上記では5つのBTMサービスを紹介したが、単に読み進めただけでは違いが少し分かりづらいかもしれない。そこで以下では、各サービスの特徴を一覧表としてまとめた。
サービス名 | タイプ | 対応地域 | 主な特徴 |
じゃらんコーポレートサービス | 手配 | 国内 | ・初期費用、月額費用がかからない ・宿泊実績を一元管理できる ・出張動向をリアルタイムで監視できる |
J’sNAVINEO | 管理・手配 | 国内外 | ・管理と手配の両方のサービスを兼ね備えている ・精算データと請求データが自動マッチングされる ・購買データを分析できる |
SAPConcur | 管理・手配 | 国内外 | ・管理と手配の両方のサービスを兼ね備えている ・領収書をはじめ、社内のさまざまな情報をデータ化できる ・経費が自動精算される |
Racco-ラッコ- | 手配 | 国内 | ・初期費用、月額費用がかからない ・機能としてはシンプル ・2タイプの精算スタイルが用意されている |
GBT NTA | 手配 | 海外 | ・海外特化型のBTMサービス ・将来の戦略立案に利用できる ・世界中にネットワークを有している |
このように各サービスを比較してみると、提供会社によってBTMサービスの詳細は大きく変わることが分かるはずだ。料金はもちろん、対応地域やサポート内容も異なるため、行き先や目的に適したBTMサービスを選ぶことが重要になる。
ほかにも、BTMにはさまざまなタイプのサービスがあるため、BTMサービスの利用を検討している経営者は、しっかりと情報収集をしたうえで自社に最適なサービスを選ぶようにしよう。
出張の多い企業は、BTMサービス利用の検討を
グローバル化が世界的に進む現代では、市場開拓を求めて海外に進出する中小企業も増えてきている。そのため、中小企業にとってもBTMの重要性は高くなってきており、出張をスムーズに管理・手配することが求められてきている。
多少のコストを支払ってでも、BTMサービスを利用したほうがトータルコストを抑えられる可能性は十分に考えられるため、特に出張の多い企業はこれを機にBTMサービスの利用を検討してみよう。
文・片山雄平(フリーライター・株式会社YOSCA編集者)