売掛金未回収は経営に大きなインパクトを与える。売上は計上されているものの、仕入や販売コストは発生しており、資金繰りにも影響を及ぼす。売掛金未回収の論点について、会計・税務面を踏まえた上で、具体的に解説していく。

目次

  1. 売掛金未回収の基礎知識
    1. どのような時に売掛金が未回収となるのか
    2. 売掛金が未回収となった場合の対応策
    3. 売掛金未回収が経営に与える影響
  2. 売掛金未回収の会計・税務について解説
    1. 売掛金未回収の会計仕訳
    2. 売掛金未回収の税務処理
    3. 貸倒損失として処理することの節税効果
  3. 売掛金未回収がある場合は適切に処理しよう

売掛金未回収の基礎知識

売掛金の未回収が経営に及ぼす影響は?会計・税務面から解説
(画像=Gajus/stock.adobe.com)

売掛金の未回収とは、商品やサービスの売上が発生したにも関わらず、約束した期日までに現金が振り込まれていない状態のことを指す。売掛金の未回収の期間は、1ヵ月遅れ、3ヵ月遅れ、1年以上の遅れなどのケースがあり、それぞれに応じてとるべきアクションも異なる。

まずは、売掛金未回収について基本的な知識をおさらいしていこう。

どのような時に売掛金が未回収となるのか

売掛金の未回収は主に下記のようなパターンに分類することができる。

  1. 単純に先方が支払日を忘れていた場合
  2. 先方から少し待ってくださいと依頼されている場合
  3. 先方の資金繰りが悪化している場合
  4. 先方が倒産した場合

売掛金が未回収となった場合の対応策

売掛金が未回収となった場合、状況に応じた対応策が必要となる。上記の1や2のケースである場合、先方の担当者ベースでの話し合いで済ませるのが一般的だ。いつまでに支払えるのかの期限を再設定し、その期限までに必ず振り込んでもらうことが重要である。

一方、3の先方の資金繰りが悪化している場合には、話し合いだけでは前に進むことは少ないだろう。先方の担当者でなく、経営者と打ち合わせを行い、支払条件の変更や先方の資金繰りについてより深く質問し理解しなければならない。

それでも先方が支払う姿勢を見せない場合は、以下の対応策が考えられる。

  • 内容証明郵便を送る(法的措置の前段階)
  • 訴訟する

訴訟には時間とコストがかかるため、回収にかかるコストと回収できると見込まれる売掛金残高を見極める必要がある。そのため、法的手段はあくまでも最終手段と見込んでおくべきだろう。まずは、先方とのコミュニケーションを継続し通常のビジネスの範囲内での回収を目指したい。

また、自力での回収が難しい場合は第三者に債権を譲渡する方法も考えられる。ただし、長期にわたって回収できていない債権については、二束三文の金額でしか売れないことが一般的だ。そのため、金額的にはあまり期待できない。

売掛金未回収が経営に与える影響

売掛金未回収は、資金繰りに大きな影響を及ぼす。商品やサービスを売り上げたものの代金が支払われない場合、キャッシュは減少してしまう。販売のために広告宣伝費をかけた場合は、その分も無駄になる。

資金繰りだけでなく、売掛金未回収は財務諸表にも影響が出る。売掛金未回収の分、損益計算書上、大きな損失を計上しなければならない。損益計算書が赤字で貸借対照表の純資産も減少すれば、銀行融資が厳しくなる可能性もあり、間接的に資金繰りに影響を及ぼす。

売掛金未回収は、直接的な資金繰りと、財務諸表の数字悪化に伴う間接的な資金繰りに影響を与え、経営の大きな問題となり得る。売掛金をきちんと回収できるよう、普段から回収できるまでが仕事と考え、適切な管理プロセスを構築するようにしよう。

売掛金未回収の会計・税務について解説

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売掛金未回収の基本を押さえた後は、会計・税務について解説していく。

売掛金未回収の会計仕訳

売掛金未回収の仕訳は回収リスクに応じて異なる。

1.売掛金の回収リスクが小さい場合
回収が問題なく進むだろうと考えられている場合は、今までの貸倒実績率を用いた貸倒引当金の計上を行う。例えば、過去の貸倒実績率が3%であれば、売掛金残高×3%で貸倒引当金を計算する。売掛金100万円、貸倒実績率が3%の場合の仕訳は以下のとおりである。

借方 貸方
貸倒引当金繰入額 30,000 貸倒引当金 30,000

貸倒引当金繰入額は、損益計算書の「販売費及び一般管理費」「営業外費用」「特別損失」に、貸倒引当金は貸借対照表の「負債の部」に計上される。これまでの貸倒実績率を用いて、将来貸し倒れると見込まれる金額を費用として計上することとなる。

2.売掛金の回収リスクが大きい場合
回収リスクが大きい場合、その債権に対して今までの貸倒実績率を用いることは適切でない。個々の債権ごとに財務状況を把握し、それぞれの貸倒引当金を計上することが求められる。例えば、A会社に対する100万円の売掛金の回収リスクが大きく50%の確率で回収できない場合、仕訳は以下のようになる。

借方 貸方
貸倒引当金繰入額 500,000 貸倒引当金 500,000

損益計算書と貸借対照表における表示箇所は、回収リスクが小さい場合と同様である。

3.実際に貸倒が生じた場合
実際に貸倒が生じた場合は、「貸倒損失」という勘定科目を用いて仕訳を行う。②の事例で、個別貸倒引当金を計上した後に実際に貸し倒れてしまった場合の仕訳は以下のとおりである。

借方 貸方
貸倒損失 500,000 売掛金 1,000,000
貸倒引当金 500,000  

貸倒引当金を計上した分は相殺処理を行い、貸倒引当金が計上されていない分を貸倒損失として計上する。貸倒損失は損益計算書上、貸倒引当金繰入額と同様に、「販売費及び一般管理費」「営業外費用」「特別損失」に計上される。金額的重要性がある場合や異常性のある場合などは「特別損失」に計上されるケースが多い。

売掛金未回収の税務処理

売掛金未回収の税務処理は、会計と同様に回収リスクによって異なる。それぞれ分類して説明していく。

1.売掛金の回収リスクが小さい場合
売掛金の回収リスクが小さい債権を束ねた債権を、「一括評価金銭債権」と呼ぶ。一括評価金銭債権の貸倒引当金繰入限度額は以下のように計算される。

原則法:期末一括評価金銭債権の帳簿価額 × 貸倒実績率(小数点第4位未満切り上げ) 法定繰入率に基づく方法:(期末一括評価金銭債権の帳簿価額―実質的に債権とみられない金額)×法定繰入率

法定繰入率は業種ごとに異なり、税法上以下のように決まっている。

棚卸業及び小売業 10/1000
製造業 8/1000
金融業及び保険業 3/1000
割賦販売小売業など 13/1000
その他 6/1000

中小企業であれば、基本的には税務上の貸倒引当金繰入限度額を会計上の貸倒引当金としているケースが多い。

2.売掛金の回収リスクが大きい場合
売掛金の回収リスクが大きい場合、個別債権ごとに貸倒引当金を計算していく。未回収リスクが大きい債権の集合は「個別評価金銭債権」と定義されており、状況に応じて貸倒引当金繰入限度額が異なる点に注意が必要だ。

例えば、「会社更生法等の規定による更正手続開始等の申立て等がなされた者に対する債権」であれば、貸倒引当金繰入限度額は、債権金額×50%で計算される。

また、「債務者について債務超過の状態が相当期間継続し、事業好転の見通しがない債権」であれば、貸倒引当金繰入限度額は、取立ての見込みがないと認められる金額となる。

税法上も決まりきったルールは設けておらず、実質判断の多いルールとなっている。

3.実際に貸倒が生じた場合
実際に貸倒が生じた場合は、税務上貸倒損失として損金計上することができる。一方で税法上、損金処理できる場合は以下のとおりである。限定列挙されている点については留意が必要だ。

  • 金銭債権が切り捨てられた場合
  • 金銭債権の全額が回収不能となった場合
  • 一定期間取引停止後弁済がない場合等

例えば、売掛金が1年以上未回収である事実だけをもって、貸倒損失として損金処理できるわけではない。納税者である企業自らが、上記の3つの条件に照らして貸倒損失として処理することが妥当である旨を疎明しなければならない。

貸倒損失として損金処理するために、例えば以下のような書類が必要となる。

  • 回収努力を行ったことが疎明できる書類(内容証明郵便、催告書の写しなど)
  • 債務者の支払能力がない旨を疎明できる書類(債務者の財務諸表、信用調査会社のレポートなど)

税務署が調査するのではなく、確定申告を行う者が自ら資料を集めなければならない点は注意しておこう。

貸倒損失として処理することの節税効果

貸倒損失として処理できるかできないかで、損金算入できる金額に差異が生じ、節税効果も大きく異なる。個別評価金銭債権の貸倒引当金繰入限度額は、債権額の50%であり全額ではない。貸倒損失は全額を損金処理することであるため、債権額の50%を損金処理できるかどうかの点で相違が生じる。

例えば、100万円の売掛金が未回収となった場合、個別貸倒引当金繰入額限度額は50万円、貸倒損失として処理できた場合は100万円が損金となる。

法人税実効税率を仮に30%とすると、50万円×30% = 15万円の分だけ法人税等の金額が変わってくる。売掛金が未回収であるからといって何もしないわけでは、この節税効果を得ることはできない。決算期が近づいてきたら、未回収の売掛金について、貸倒処理するべき債権を特定し、貸倒処理に必要な書類等を準備するようにしたい。

売掛金未回収がある場合は適切に処理しよう

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売掛金未回収が経営に及ぼす影響は大きい。直接的な資金繰りだけでなく、自社の財務諸表悪化に伴い、今後の資金調達を難しくさせるなど、間接的な影響もある。会計・税務面では売掛金未回収にかかる貸倒引当金計上や貸倒損失の計算方法は、税法上の細かい規定がある。

ルールに沿った正しい計算をしなければならず、特に貸倒損失として処理する場合は、自ら先方が支払不能である旨を疎明しなければならない点に留意が必要だ。

どうしても売掛金の未回収が多額になってしまう場合は、弁護士や税理士に処理方法について相談してみるのも一つの手だ。売掛金の未回収問題を正しく早く対処することで、将来の資金繰りを正常なものとし、経営改善が期待できるだろう。

※記事中の法律・税制などに関する記載は2020年9月時点のものであり、現在は法律等が改正されている場合が考えられますのでご注意ください。

文・BUSINESS OWNER LOUNGE編集部