企業の福利厚生も近年ではアウトソーシングの時代となっている。多種多様な福利厚生サービスを提供する代行業者が多数登場しているのである。福利厚生代行サービスの利用により、企業は自前の福利厚生よりはるかに豊富なメニューを低コストで、労力をかけずに導入できる。この記事では、福利厚生代行サービスの概要、導入のメリット・デメリット、およびおすすめの制度を詳しく解説していこう。
目次
福利厚生代行サービスとは?

福利厚生代行サービスとは、企業の福利厚生を一括して代行するサービスだ。近年では福利厚生をアウトソーシングする企業が増えており、さまざまな代行サービスが登場している。
福利厚生はもともと、労働力確保のために宿舎や食堂を提供するところからスタートしている。戦後の高度経済成長期には、保養所などの整備に力を入れる企業も多かった。しかし、バブルが崩壊してコスト削減せざるを得なくなったため、多くの企業は保養所などの福利厚生施設を手放すこととなった。一企業が自前で福利厚生施設を維持し、また福利厚生に関する事務手続きを行うには厳しい時代になったのだ。
ところが近年になり、福利厚生の企業にとっての重要度はふたたび高まりを見せている。就職や転職の求職者は仕事だけでなく生活の充実も目指す、ワークライフバランスを重視するようになっているからだ。単に給与などの待遇面が良いだけでは、優秀な人材を獲得し、定着してもらうことが難しくなり、福利厚生の充実が採用の決め手になりつつある。
そこで登場したのが福利厚生の代行サービスだ。福利厚生代行サービスの運営業者は、多くの企業クライアントを集めることにより、良質な福利厚生を低コストで提供している。企業にとっては、自前で保養施設を維持するなどのコストをかけずに、福利厚生の充実を図ることが可能となっているのである。
福利厚生代行サービスは大きく2種類
近年続々と登場している福利厚生サービスは、大きく分けて、「パッケージプラン」と「カフェテリアプラン」の2種類がある。それぞれについて詳しく見ていこう。
1.パッケージプラン
パッケージプランとは、福利厚生代行サービスの提供を所定のパッケージとして受けるものだ。旅行会社のパッケージツアーを思い浮かべるとわかりやすい。
パッケージプランでは、旅行やレジャー・エンタメ、スポーツ、グルメ、育児・介護、自己啓発などさまざまな分野の福利厚生サービスがパッケージになっている。多くは松・竹・梅のようにランク分けされたコースが用意されている。
企業は、そのコースのなかから自社のニーズに合ったものを選択する。従業員は、パッケージされたサービスのうち希望のものを利用する仕組みである。費用は、従業員1人を単位とした定額制が一般的だ。
【パッケージプランが向いている企業】
パッケージプランが向いている企業は、
「大多数の従業員が満足する福利厚生サービスを手軽に導入したいと考える企業」
となるだろう。
パッケージプランにセットされる福利厚生サービスは、多くの人が満足すると一般的に考えられるものが選ばれている。企業の従業員は年齢層も幅広く、ライフスタイルも多種多様であり、その大多数が満足する福利厚生サービスを提供するのは簡単なことではない。その点、パッケージプランを利用すれば、社員にとって満足度の高い福利厚生サービスを手軽に提供できることになる。
2.カフェテリアプラン
カフェテリアプランとは、提供する福利厚生サービスのメニューを企業自身がカスタマイズするものだ。旅行会社の「フリーツアー」をイメージするとわかりやすいだろう。
パッケージプランの福利厚生サービスメニューは、大多数の人が満足すると一般的に考えられるものが選ばれているとはいえ、従業員の年齢層やライフスタイルに偏りがある企業などだと、従業員のニーズと合致しないケースもある。その場合には、メニューをカスタマイズすることで、従業員のニーズに合うようにするのである。
費用については、カスタマイズしたメニューのそれぞれに定額料金を設定するのは、代行業者としても困難だ。そこで、多くの場合「ポイント制」が採用される。従業員に、1ポイントあたりの金額が設定されたポイントを支給する。従業員はポイントの範囲内で、カスタマイズされた福利厚生サービスを自由に利用するわけだ。
【カフェテリアプランが向いている企業】
カフェテリアプランが向いている企業は、「サービスメニューカスタマイズの必要性が実際にあり、カスタマイズのための労力を惜しまない企業」となるだろう。
パッケージプランのサービスメニューが自社の従業員のニーズと明らかに合わない場合は、メニューはカスタマイズされなければならないだろう。また、福利厚生の内容は前述の通り、従業員の獲得・維持に大きなポイントとなっている。福利厚生の内容に自社として独自性を出したい場合も、メニューをカスタマイズする価値がある。
ただし、サービスメニューのカスタマイズは、従業員のニーズを調査などにより把握する、あるいはサービス代行業者と入念な打ち合わせをするなど、それなりの時間と労力が必要だ。時間と労力を厭わないことが、パッケージプラン導入の条件だといえる。
福利厚生代行サービスのメリット・デメリット
福利厚生代行サービスを利用するメリットとデメリットを見てみよう。
福利厚生代行サービスのメリット
福利厚生代行サービスのメリットは以下のようなものとなる。
・福利厚生を充実させられる
福利厚生代行サービスのメリットは第一に、福利厚生を充実させられることである。一般に従業員のそれぞれは、福利厚生についてのさまざまなニーズがある。それらのニーズを満たせるだけの多種多様なサービスを自前で用意するのは、一企業にとっては困難だ。
福利厚生代行サービスでは、「数十」におよぶ豊富なメニューが用意されている。そのメニューを手軽に利用できるのはメリットだ。特に、多様な福利厚生サービスを到底提供できない中小企業にとっては、代行サービスの利用は大きなメリットがあるといえるだろう。
・福利厚生のコストを削減できる
代行サービスの利用により、福利厚生のコストを削減できるのもメリットだ。企業が自前で多様な福利厚生サービスを提供しようと思えば、コストは大きなものになる。代行サービスは企業クライアントを多く集め、スケールメリットを活かすことで、福利厚生のコストを大幅に低下させているのである。
・人事担当者の労力削減・業務効率化できる
福利厚生を企業が自前で行う場合は、人事担当者にサービスの選定や利用申し込みの受け付けなど、大きな労力がかかってくる。福利厚生代行サービスの利用により、これらの労力を削減し、人事担当者の業務を効率化できる。サービス利用はWebからの申し込みができるのが一般的であるため、従業員にも申し込み手続きなどで負担をかけることはないだろう。
福利厚生代行サービスのデメリット
福利厚生代行サービスのデメリットは以下の通りだ。
・従業員が利用しないケースもある
福利厚生代行サービスのデメリットは、サービスのメニューと従業員のニーズが合致しない場合などでは、従業員がサービスをあまり利用しないケースがあることだ。その場合には、メニューのカスタマイズなどが必要になるだろう。
・他社と差別化できない
代行サービスの福利厚生メニューは、どの業者もだいたい似たようなものである。したがって、代行サービスを利用する限り、福利厚生の内容について他社と差別化することは困難だ。差別化したい場合には、代行サービスの利用と並行し、自社独自の福利厚生サービスを設けるなどが必要になるだろう。
福利厚生制度おすすめ6選
福利厚生の制度でおすすめの6選を見てみよう。
1.育児・介護支援
近年では、女性の社会進出が進んでいる。また、介護離職などが発生し、介護も大きな社会問題となっている。そのため、福利厚生制度として、育児・介護は定番といえるものになっている。
育児・介護では、育児休暇や介護休暇などの法定休暇や、事業主にたいする「両立支援助成金」などにより公的な支援もある。それとあわせて、企業が育児・介護について福利厚生サービスを提供する場合には、次のようなものが考えられるだろう。
- 休業期間の延長
- ベビーシッター利用の補助
- 企業内託児所
- 男性社員への育児休暇取得推進 など
2.社食など食事関連
社食など食事関連の福利厚生メニューは、従業員から人気が得られやすい。勤務時間中の食事は、毎日欠かすことができないからだ。食事関連の福利厚生サービスには、次のようなものがある。
- お弁当のデリバリー
- ビュッフェ型のデリバリー
- 会社内に設置の冷蔵庫などへの食事の配達
- 提携飲食店の食事券などの配布
3.医療・健康
健康経営銘柄や健康経営優良法人が選定されるなど、従業員の健康への配慮は企業価値に直結するようになっている。そのため、医療・健康についてのサービスを福利厚生に取り入れる企業は増えている。具体的なサービスメニューは以下のようになるだろう。
- 人間ドックなど法定外健康診断
- 医療室・診療所などの設置
4.旅行関連
旅行関連も、福利厚生の制度として定番だ。福利厚生代行サービスでも、旅行関連のメニューは多く扱われている。
5.自己啓発
近年ではキャリアアップを真剣に考える人も多くなっている。スキルアップや資格取得などのための自己啓発は、福利厚生サービスの定番メニューだ。具体的には、書籍の購入費用補助や各種eラーニング支援などとなる。
6.給与前払い
給与前払いとは、会社の給与支払日を繰り上げて、すでに働いた分の給与を先払いでもらう仕組みのことだ。引っ越し、冠婚葬祭、旅行など突然の出費が発生した際などに給料前払いがあれば従業員に喜ばれるため、福利厚生サービスとして注目を集めている。給与前払いを導入すると、採用応募数の増加や離職率の低下なども見られるといわれている。
給与前払い受取サービスはさまざまあるが、仕組みとしては、すでに働いた分の給与を従業員から申請を受け付け、サービス会社が立て替えをしたうえで本人名義の口座に振り込むというものだ。立て替え払いであるため、給与計算サイクル・支給サイクルを変更する必要がない。また、勤怠管理ツールとの連携が可能で、初期費用・月額利用料が無料のところが多いのも導入しやすさのポイントだ。社内の経理担当者の負担軽減にも繋がるだろう。
手軽にできて従業員満足度が高い福利厚生サービスとして、利用を検討してみてはいかがだろうか。
文・高野俊一(ダリコーポレーション ライター)