近年、就職や転職の求職者は、単に給与などの待遇面だけでなく、福利厚生を重視する傾向にある。そのため、優秀な人材を採用し、会社に定着させるためには福利厚生の充実が欠かせない。今回は、福利厚生制度の基本やユニークな事例について詳しく紹介する。
目次
福利厚生とは?

福利厚生には大きく分けて、「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」の2種類がある。まず初めに、この2種類の違いについて説明する。
法定福利厚生
法定福利厚生とは、法律で義務付けられている福利厚生のことで、主に社会保険のことを指す。具体的には以下のものがある。
- 健康保険 …保険料は会社と従業員が折半する
- 厚生年金保険 …保険料は会社と従業員が折半する
- 雇用保険 …保険料は会社が2/3、従業員が1/3を負担
- 介護保険 …保険料は会社と従業員が折半する
- 労災保険 …保険料は会社が負担する
- 子ども・子育て拠出年金 …保険料は会社が負担する
法定外福利厚生
法定外福利厚生とは、法的な義務はないものの、会社が任意に独自で設ける福利厚生のことである。具体的には以下のようなものがある。
- 住宅 …家賃や住宅ローンの補助、社宅・寮の提供など
- 交通費 …通勤のための交通費の一部または全額の支給
- 健康・医療 …法定項目以外の健康診断、人間ドック、仮眠室やシャワー室の設置、朝食提供、ジムやスポーツ活動の補助など
- 慶弔・災害 …慶弔金や災害見舞金など
- 育児・介護 …短時間勤務制度、託児・保育施設の設置、法定以上の育児・介護休業など
- 文化・体育・レクリエーション …社員旅行、ランチ・飲み会の費用補助、スポーツ・文化活動の補助など
- 職場環境 …食堂やカフェの設置、在宅勤務やテレワーク導入など
- 自己啓発 …資格取得支援、講座・セミナー参加費補助など
福利厚生の歴史
福利厚生は、明治時代に労働者を確保するため、従業員の生活支援をそれぞれの企業が行ったところから始まっている。大正時代に入ると、第一次世界大戦後の不景気下に企業が労働力を確保するため、有給休暇や年金、退職手当、昇進制度、あるいは職業訓練などが徐々に制度化されるようになった。
第二次世界大戦後、「法定福利厚生」が制定され福利厚生制度は大幅に整備されることになる。ただし、高度経済成長期およびバブル経済期には、社員住宅や保養施設などの「ハコモノ」建設が中心だった。
バブル崩壊後は、経済が低迷したためハコモノを手放す企業が増えている。ただし、福利厚生は優秀な人材を集めるためのポイントであり続け、近年ではスキルアップなどの自己啓発に力を入れる企業が増えているほか、ユニークな福利厚生も数多く登場している。
企業が福利厚生を導入する目的
企業が福利厚生を導入する目的は、ひとえに「優秀な人材を獲得し、定着させるため」に尽きるだろう。特に近年では、求職者がワークライフバランスを重視する傾向が強まっており、以前のように給与が高いだけでは、人を集めることが難しくなっている。したがって、企業が従業員の「生活の質」を福利厚生によってどう充実させていくかが、人材の獲得・定着を図る上で大きなポイントとなっている。
近年ではアウトソーシングが主流
近年の法定外福利厚生はアウトソーシングが主流である。1990年代のバブル崩壊で、企業は福利厚生のコストを抑制しなければならなくなった。アウトソーシングを活用すれば、最小限のコストで高い効果を上げることが可能だからだ。
アウトソーシングの福利厚生は大きく分けて、「パッケージプラン」と「カフェテリアプラン」に分けられる。パッケージプランとは、業者と定額で契約し、従業員は業者が提供するサービスの中から好きなものを利用する形である。それに対してカフェテリアプランとは、従業員にはポイントを支給して、ポイントの枠内で従業員が好きなサービスを利用するものだ。
福利厚生を充実させるメリット
福利厚生を充実させるメリットには何があるだろうか。ここでは4つのポイントに絞って説明する。
1.採用時に応募者が増える
まず、採用時に応募者が増えることがメリットとして挙げられる。近年では求職者は仕事だけでなく生活を充実させることを求め、単に給与などの待遇が良いだけでなく、福利厚生が充実した就職先・転職先を選ぶケースが増えている。他社にないユニークな福利厚生は、採用活動を行う上で大きなアドバンテージになる。
2.社員満足度が向上し定着しやすくなる
社員満足度が向上し定着しやすくなることも、福利厚生を充実させるメリットとして挙げられる。ワークライフバランスがうまく取れて生活が充実すると、従業員の働く意欲が向上する。また、福利厚生が充実していてかつ仕事のしやすい労働環境では、仕事の集中度も高くなる。結果として社員の満足度が高くなるだろう。
3.社員の心身の健康を維持し労働生産性が向上
福利厚生を充実させ、十分な休養を取ったり規則正しい生活を送ったりすることで、社員の心身の健康を維持することが可能となる。その結果として、労働生産性が向上する。近年では社員のメンタルヘルスに配慮することが企業の義務ともなっている。社員の心身の健康維持は、生産性の高い組織づくりに必須の課題だ。
4.企業の社会的信頼度が向上
福利厚生の充実は、企業の社会的信頼度の向上にもつながっていく。企業の福利厚生への社会的注目度が高まっているからだ。福利厚生により健康経営を実践し、従業員重視の姿勢を示すことは、企業ブランドの確立にも大きく寄与することとなるだろう。
福利厚生を導入する際の3つの注意点
福利厚生を導入する際の注意点としてどのようなものがあるのだろうか。
1.福利厚生を導入した目的を明確にする
福利厚生を導入する際にまず重要なのは、導入目的を明確にすることだ。どのような福利厚生であれ社員に利用してもらわなければ意味がない。会社として何のためにその福利厚生を導入するかを社員に理解してもらい、積極的な利用をうながすことが大切だ。
2.導入後にどれくらい利用されているかをチェックする
導入後にどれくらい利用されているかもしっかりとチェックしよう。社員に利用後のアンケートやレポートを提出してもらうのも方法の1つとなる。
3.定期的に内容の見直しをする
定期的に内容の見直しをすることも重要だ。導入後しばらく経つと、社員の年齢構成やライフスタイルなどの変化により、利用状況が変わってくることがある。利用されなくなった福利厚生は廃止し、その時々で社員が求めるものを新たに導入していくことが必要だろう。
ユニークな福利厚生事例
ユニークな福利厚生の事例をいくつか見てみよう。
Chatwork株式会社
ビジネスチャット「チャットワーク」を運営するChatwork株式会社は、ユニークな福利厚生を多数実践していることで知られている。福利厚生の内容は、社員の声を反映させて決めており、具体的には以下のようなものがある。
- 一歩先の働き方支援制度 …PC周辺機器や在宅勤務のためのグッズ費用の一部を支援
- ヘルシー部活制度 …健康維持・促進をうながすため運動をする部活動に対して四半期に部費として1万4,000円を支援
- ゴーグローバル制度 …海外旅行の費用を1万4,000円支援
- 出産立ち会い制度 …産前4週、産後8週まで在宅勤務が可能
- 採用紹介制度 …社員の紹介で入社につながった場合は50万円を支給
- セミナー受講制度 …セミナーや勉強会の費用を全額負担
- ゴーホーム制度 …実家へ帰省する費用を1万4,000円支給
- 飲み会制度 …社員同士の飲み会費用を1回に4,000円支給
- バースデイ制度 …パートナーの誕生日に食事代として1万4,000円支給
- お部屋探し支援制度 …引っ越しをする社員の部屋探しを支援
- 椅子選択制度 …使いやすい椅子を社員が自分で選べる
- ランチトーク制度 …幹部やマネージャーとのランチ費用を支給
freee株式会社
クラウド会計ソフトを提供するfreee株式会社も、以下のようなユニークな福利厚生を実践している。
- ドリンクフリー …勤務時間内の飲み物と軽食を無料提供。夜食のサポートも一部行う
- オフカツ …ミニ四駆部や自転車部、ボードゲーム部など30以上の部活動(オフカツ)の運営サポート
- 書籍費フリー …業務に必要な書籍は自由に購入できる
- スムーズな仕事環境 …社内のカフェやラウンジなどでも業務ができる。PCは好きなマシンを自由に選べる
- つばめハウス制度 …住宅手当、借上社宅制度、赴任サポート制度など、社員の住宅環境にも配慮
- 結婚出産時のお祝い金・プレゼント贈呈 …男性社員も含め産休・育休取得可
- つばめっこクラブ …ベビーシッターを半額で利用できるなど子育て中の社員を支援
GMOインターネット株式会社
アメブロなどのネットサービスを展開する、GMOインターネット株式会社の福利厚生もユニークで充実している。
- シナジーカフェ …ランチタイムはビュッフェ、20時までは本格的なカフェ、金曜夜はBarスペース、夜間はコンビニ自動販売機などがすべて無料
- キッズルーム …生後57日目から受け入れ可能な社内託児所
- マッサージ …プロによるボディケアサービスが格安で受けられる
- おひるねスペース …12時半~13時半までの間、20分程度のお昼寝を推奨
- 補助・支援 …資産形成支援、スポーツクラブなどの補助制度、イベント開催の補助金支給、健康保険組合保養所、慶弔見舞金、ヘルスケアカウンセリングなど
- 休暇関連 …リフレッシュ休暇、結婚・出産休暇、介護休暇、看護休暇、配偶者出産休暇、学校行事休暇など
- 評価制度 …キャリアチェンジ支援、人材育成・研修制度、表彰制度(グループアワード)など
福利厚生は社員の満足を第一に考えよう
ワークライフバランス重視の近年の流れから、優秀な人材の獲得と定着には福利厚生の充実が欠かせない。上記の事例を見ても、高い業績を上げる企業はユニークな福利厚生制度を実践していることが分かるだろう。
ただし、福利厚生はあくまでも社員が満足しなければ意味がない。会社のお仕着せになるのでなく、社員の意見に耳を傾けながら、ニーズに適った福利厚生を導入していこう。
文・高野俊一(ダリコーポレーション ライター)