現在、人生100年時代といわれ、健康寿命を延ばしながら長く働くことを希望する高齢者が増えている。そのような背景も踏まえ、65歳以上の労働者は高年齢被保険者として雇用保険の適用対象となった。

これまで65歳以上の雇用保険の加入者(被保険者)については、雇用保険料の徴収が免除されていたが、2020年4月から、65歳以上の被保険者も雇用保険料を納めることになった。毎年のように変化している雇用保険制度について、雇用保険の加入条件など事業主は理解を深めておきたいところである。雇用保険の概要や適用拡大について解説する。

目次

  1. 雇用保険とは
    1. 雇用保険はどのような制度か(役割)
    2. 適用される基準
    3. 保険料の負担は?
    4. 保険料の計算方法
    5. 手続きは雇う側が行う
    6. 変更手続きが必要な場合とは
    7. 加入義務を怠るとどうなる?
  2. 雇用保険が免除になる条件とは
    1. 対象となる社員
    2. 期間
    3. 雇用保険の適用拡大で免除制度は廃止に?
    4. 免除制度廃止後、徴収はいつから?
  3. 雇用保険適用拡大により事業者に求められる対応
    1. 高年齢被保険者の雇用保険料を徴収・納付
    2. 高年齢被保険者の保険料と必要な届け出
  4. 雇用保険の加入要件を確認し、徴収・納付を

雇用保険とは

雇用保険の加入、高齢者も免除されない?適用拡大について解説
(画像=fizkes/Shutterstock.com)

雇用保険は、法人であれば原則1人でも常時労働者を雇用する場合は強制適用事業場となり、雇用保険に加入しなければならない。個人事業主であっても常時労働者を雇用すれば、一部の業種(農林水産業等)を除いて強制適用事業場となる。一部の業種(農林水産等)であっても、常時5人以上の労働者を雇用する事業は、雇用保険の暫定任意適用事業所となり、任意で加入できる。

社長などの会社役員は雇用関係の立場にはないため、原則として雇用保険に加入することはできない。またアルバイトやパートタイマーについては、1週間の所定労働時間が20時間未満であり、かつ31日以上雇用される見込みのない人は雇用保険の被保険者とならない。

雇用保険はどのような制度か(役割)

雇用保険は、主たる事業の「失業等給付」と付帯事業の「雇用保険二事業」大きく2つに分けられる。失業等給付は雇用保険の主な目的の1つで、労働者が失業した場合に必要な給付を行い、労働者の生活および雇用の安定を図る。雇用保険二事業には失業の予防や雇用を維持するための雇用安定事業と、能力の開発や向上促進のための能力開発事業がある。

雇用保険制度の主たる事業の「失業等給付」には「求職者給付」「就職促進給付」「教育訓練給付」「雇用継続給付」に大別される。それぞれの役割について説明する。

・求職者給付
よく知られているのは、労働者が会社を辞めたこと(離職)により失業した場合、生活保障として受けられる求職者給付の代表的なものが基本手当である。基本手当は労働者が失業した場合や雇用の継続が困難となる事由が生じた場合、安定した生活を支援し、安心して求職活動を行えるようにするために行う。

・就職促進給付
就職促進給付は、再就職することを援助、促進するための給付である。早期に再就職した場合や公共職業訓練を受けるために住所を変更する場合などに支給される手当である。

・教育訓練給付
教育訓練給付金は、一定の要件を満たしている被保険者等が厚生労働大臣の指定する教育訓練を行い修了すると支給される。資格の取得を目的とする講座を受講し修了すると、受講費用の20%(上限額10万円)支給される。

さらに早期のキャリア形成に資する特定一般教育訓練を修了すると受講費用の40%(上限額20万円)、中長期的なキャリア形成につながる専門的な教育訓練を受講し修了すると受講費用の50%から70%(上限額あり)支給される。

・雇用継続給付
雇用継続給付は、労働者(被保険者)が高齢になった場合または育児休業、介護休業を取得したことにより、賃金が低下した場合に支給される給付金である。

適用される基準

雇用保険では、雇用保険の適用事業場に雇用される労働者の年齢や働き方により、労働者を「一般被保険者」「高年齢被保険者」「短期雇用特例被保険者」「日雇労働被保険者」の4種類に区分している。この区部により雇用保険の受給できる給付が異なる。基準が満たされていれば非正規雇用も対象となることもある。

保険料の負担は?

雇用保険料と労災保険料とあわせたものを労働保険料という。労災保険料は、事業主のみが負担する保険料だが、雇用保険料は事業主負担分と労働者(被保険者)の負担分がある。雇用保険料の計算のもととなる雇用保険率は、毎年度見直される。

2020年度の雇用保険率は次の表のとおりだ。被保険者の負担率は失業等給付と育児休業給付金のみ事業主との折半で負担する。事業主はその他に雇用保険二事業率も負担する。

【2020年度の雇用保険率】

雇用保険の加入、高齢者も免除されない?適用拡大について解説

保険料の計算方法

雇用保険料は、労働者が負担する保険料額は毎月の給与や賞与から天引き(控除)することになる。例えば給与が25万円であれば、25万円×3÷1,000=750円となる(一般の事業)。

事業主は、事業主分と一緒に天引きした被保険者分も納める。保険料は、保険年度(4月1日から3月31日)単位で徴収することとされ、保険年度の当初に1年度分の見込額を概算保険料として申告納付し、保険年度終了後に実績額に応じて確定保険料として精算することになっている。

確定保険料は、前年度の雇用保険の加入労働者の給与と賞与の合計額から千円未満を切り捨てた額に保険料率を乗じて求める。毎年度継続している事業場の場合、原則として6月1日から40日以内、つまり7月10日までに申告し、保険料を納めることになる。金額が一定額以上であれば、3回を限度に分割して納めることができる。

手続きは雇う側が行う

事業主は雇用した日の属する月の翌月10日までに「雇用保険被保険者資格取得届」をハローワークで手続きをする。手続きが完了すると、事業主と労働者に通知書が交付される。申請する際、労働者本人の個人番号を記入するため、本人確認として番号の確認と身元確認を行うことが必要である。

変更手続きが必要な場合とは

労働者が氏名を変更した場合や転勤をした場合以外にも事業所の住所や名称が変更した場合には変更届をハローワークに提出しなければならない。

加入義務を怠るとどうなる?

事業主が労働者の雇用保険の加入手続きをしなかった場合、労働者が働いていた期間が雇用保険の期間として加算されない。万が一、労働者が失業した場合、基本手当が受けられなかったり、手当の給付期間が短くなったりする。必要な教育訓練給付金が受けられなかったりすることもある。

労働者に不利益がないように事業主が加入の義務を怠るとペナルティーが科される。ペナルティーは6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金となるが、実際には労働局から指導や勧告が行われ、是正しないなどの悪質な場合に罰則が適用される。

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雇用保険が免除になる条件とは

労働者を雇用する事業主は、その業種、規模にかかわらず、すべて適用事業場となり雇用保険に加入しなければならない。しかし雇用期間や立場などによって適用事業所に雇用される人であっても免除や適用除外される労働者がいる。

対象となる社員

事業主が労働者を雇用した場合、1週間の所定労働時間が20時間以上で31日以上雇用する見込みがあれば、雇用保険の加入手続きを行なわなければならない。それは、たとえ試用期間中であっても適用され、労働者の希望の有無にかかわらず加入必須だ。

アルバイトやパートタイマーのように1週間の所定労働時間が20時間未満である労働者や、継続して31日以上雇用されることが見込まれない労働者は、適用除外される。さらに季節的に雇用される労働者で4ヵ月以内の期間を定めて雇用される労働者や1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満に該当する労働者も雇用保険の加入する義務はなく、適用除外となる。昼間学生も雇用保険の加入条件からは除外される。

保険年度初日(4月1日)において、満64歳以上の高年齢者においては、2017年1月1日以降、雇用保険の加入義務になったが、移行期間として保険料は免除されていた。

期間

2019年度の保険年度初日(4月1日)において、満64歳以上の常時雇用される高年齢者は雇用保険に加入しているものの、雇用保険料については支払いを免除されていた。免除されていた高年齢者を免除対象高年齢者といい、事業主も労働者も保険料は免除である。

しかし、2020年度からは65歳以上であっても雇用保険に加入している場合、雇用保険料を支払いが生じるようになった。

雇用保険の適用拡大で免除制度は廃止に?

2017年1月1日以降、高齢者であっても常時雇用される高年齢者は雇用保険の加入対象となった。しかし2019年度までは移行期間として雇用保険は加入しているものの、保険料については免除されていた。雇用保険の適用拡大により、免除制度は廃止となる。

免除制度廃止後、徴収はいつから?

2017年1月1日以降、雇用保険の適用対象となった65歳以上の労働者について、2019年度までは保険料の徴収は免除されていた。2020年4月1日から「一般被保険者」同様に、事業主も65歳以上の労働者も保険料を負担することになる。労働者は給与から雇用保険料が天引き(控除)される。

雇用保険適用拡大により事業者に求められる対応

適用拡大により65歳以上の労働者も高年齢被保険者になり、雇用保険料の徴収も必要になった。事業者としては、どのようなことが求められるだろうか。

高年齢被保険者の雇用保険料を徴収・納付

2020年4月1日以前では、65歳以上の労働者を雇用した場合、雇用保険に加入はしても雇用保険料は徴収されなかった。しかし、2020年4月1日以降は事業主と労働者は雇用保険料が徴収される。労働者は給与や賞与から雇用保険料が天引き(控除)される。事業主は労災保険料と一緒であれば、労働保険料として保険料を負担する。

2020年4月1日以前は、65歳以上の労働者の雇用保険料を算入していなかったため、忘れがちであるが、雇用保険料率を確認のうえ、確実に徴収し納付することが求められる。

高年齢被保険者の保険料と必要な届け出

高年齢被保険者の保険料は雇用保険の一般被保険者の人と同じ計算方法となる。65歳前から継続して働いている人は65歳の誕生日前日までは、一般被保険者であるが、65歳になると高年齢被保険者となる。この場合、自動的に一般被保険者から高齢被保険者に変更されるため、届け出は必要ない。

また65歳前に働いていなかった人が65歳以降に新たに働いた場合、高年齢被保険者として雇用保険の資格取得手続きが必要となる。

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雇用保険の加入要件を確認し、徴収・納付を

以前は雇用保険の対象ではなかった65歳以上の労働者も、平均寿命が延び、健康であれば働き続けたいと考える方が多くなった。そのためか、65歳以上の労働者も雇用保険の対象となった。定年を迎えた人が老後の生活資金やセカンドライフの生きがいなどのために働き続ける人が増えているからであろう。

雇用保険は労働者が失業したときの生活を守るとともに、雇用の安定や労働者の能力向上を支援するためのものだ。事業主は雇用保険の加入要件について確認し、要件を満たしている場合は必ず加入しなければならない。それは高齢者についても同様だ。高年齢者への雇用保険の適用拡大は長く働く人が増える社会にとって朗報と考えられるのではないだろうか。

文・Business Owner Lounge編集部