事業主は労働者を雇い入れた場合、労働の見返り(対償)として給与(賃金)を支払わなければならない。労働基準法での給与(賃金)とは「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべて」とされている。

労働者にとって給与は生活するために重要な資金であり、基本給の他に、どんな手当がつくのかによって働き方も変わってくるだろう。だからこそ、給与を支払う事業主は、給与計算に必要な基礎知識を大まかにでも知っておく必要があるのだ。

目次

  1. 給与計算のルール
    1. 賃金支払いの5原則
    2. 就業規則や給与規程で定める
    3. 最低賃金について
  2. 給与の構成
    1. 基本給
    2. 手当
    3. 割増賃金について
    4. 給与計算方法
  3. 給与から控除されるものは?
    1. 控除とは?
    2. 税金と徴収方法
    3. その他の控除項目
  4. 給与計算の流れ
  5. 給与計算のルールを知って労働者との信頼関係を築く

給与計算のルール

給与計算の知っておきたい基礎知識!税金、社会保険料についても解説
(画像=toshi/stock.adobe.com)

労働基準法第24条において、給与(賃金)についてのルール「賃金支払い5原則」が記載されている。事業主と労働者は対等の立場であるが、労働者が弱者とならないように労働の対償である給与が確実に支払われるよう規定している。

賃金支払いの5原則

・通貨払いの原則
給与の支払いは、通貨で支払わなければならない。通貨以外のもの(現物給与)として、支給することは、原則禁止されている。ただし、法令に別段の定めがある場合(現在定めはない)、労働協約で定めがある場合には例外的に認められている。例えば通勤定期券や本人指定の金融機関の口座振込みすることなどが該当する。

・直接払いの原則
給与は、労働者本人に直接支払わなければならない。法的に例外はないが、使者に支払うこと、派遣労働者の給与を派遣先の事業主を通じて支払うことは通達で認められている。代理人に支払うことは禁止されているが、ケガや病気で給料日に取りに来られない労働者に変わって、配偶者が使者として受け取ることは可能である。

・全額払いの原則
給与は全額を支払わなければならない。ただし、法令に別段の定めがある場合、労働協約で定めがある場合には、賃金の一部を控除することが例外的に認められている。前者の定めとは、所得税法の規定に基づく源泉所得税や地方税法の規定に基づく住民税、社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料)である。後者の定めとは、労働組合費や団体生命保険料などが該当する。

・毎月1回以上払いの原則
給与は毎月1回以上、支払わなければならない。「以上」であるため、週払いや日払いでも可能だ。ただし、臨時に支払われる賃金や賞与は、この原則には該当しない。また年俸制によって給与が定められている場合は、毎月1回以上に分割して支払うことが必要である。

・一定期日払いの原則
給与は、一定の期日を決めて支払わなければならない。例えば、月1回の支給であれば、毎月10日、毎月25日や毎月末日と決めなければならない。例外として、特定した日が日曜日などに当たる場合、繰り上げて支払うことは可能である。例えば、毎月25日から月末までの間に支払うという曖昧な決め方はできない。

就業規則や給与規程で定める

就業規則とは、常時10人以上の労働者を使用する場合に作成し、行政官庁(所轄労働基準監督署長)に届け出なければならない。就業規則には必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)と定めをする場合には記載しなければいけない事項(相対的必要記載事項)がある。給与(賃金)については前者の必ず記載しなければいけない事項(絶対的必要記載事項)だ。必要に応じて給与規程で定めることもできる。

最低賃金について

給与は原則、事業主と労働者との合意に基づいて決定する。ただし、最低賃金法によって、最低基準が定められており、給与の最低基準が守られているため、事業主は最低賃金以上、給与を支払わなければならない。万が一、最低基準以下の給与の定めをした場合、その部分は無効とされ、最低賃金と同様の定めをしたとみなされる。

最低賃金には「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2種類がある。特定最低賃金は地域別最低賃金より高く設定されているため、両者に該当する場合は特定最低賃金が優先される。また最低賃金は時間給で定められているため、給与が月給制の場合、時間あたりの金額に換算して判断する。

地域別最低賃金は47都道県別に定められており、金額は毎年10月ごろ改定される。特定最低賃金は、特定の産業について設定されている最低賃金である。例えば、鉄鋼業、印刷業、自動車小売業など、特定の産業に設定されている。

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給与の構成

給与の構成を考えるとき、給与支給明細書をみると理解しやすい。給与支給明細書は大きく3種類に区分されている。「勤怠項目」、「支給項目」、「控除項目」である。勤怠項目とは労働者の出勤や退社をはじめ、残業時間や休暇など、出勤状況を記載したものだ。支給項目は基本給をはじめ、時間外手当や遅早控除など計算し、給与に反映させる。控除項目は賃金支払い5原則の全額払いの例外をもとに控除額を計算する。

基本給

基本給はその名のとおり、労働者の給与の基本となる金額である。基本給の内容は会社によって異なるが、給与計算のうえでは、原則金額は変動しない。昇級や降格があった場合以外は変わらないため、毎月変更することはない。

手当

手当の内容や金額は、事業主が自由に決めることができる。役職手当、精勤手当、皆勤手当などは、割増賃金の計算の基本となる金額に含めなければならない。一方、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われる賃金、1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与)の7つの手当は、割増賃金の計算の基礎から除く。

通勤手当については、公共交通機関を利用し支給する場合は、1ヵ月あたり15万円まで所得税は非課税となる。ただし、マイカー通勤は距離で判断される。例えば、通勤手当を6ヵ月の通勤定期券で現物支給する際、1ヵ月の通勤手当は6ヵ月を1ヵ月に換算した金額で計算する。

割増賃金について

労働基準法では原則として、法定労働時間を超えて、または法定休日に労働させることは禁止されている。ただし、非常災害時、公務のため臨時の必要がある場合、労使協定(36協定)を締結し届出をした場合には、時間外労働または休日労働をさせることが認められている。

労働基準法では時間外労働、深夜労働、休日労働に対して、割増賃金を義務づけている。法定労働時間を超えて時間外労働をさせた場合、2割5分以上の割増賃金の支払いが必要である。深夜労働(原則、午後10時から午前5時まで)をさせた場合、2割5分以上の割増賃金が必要である。法定休日に休日労働をさせた場合、3割5分以上の割増賃金の支払いが必要である。

例えば、時間外労働が深夜の時間帯に及んだ場合、時間外労働の2割5分と深夜労働の2割5分をたして、5割以上の割増賃金を支払わなければならない。休日労働が深夜の時間帯に及んだ場合、休日労働の3割5分と深夜労働2割5分をたして、6割以上の割増賃金が必要である。

給与計算方法

給与支給明細書をもとに給与計算をすると、まず労働者一人ひとりの勤怠を計算し支給項目の計算をする。支給項目の計算を合計すると総支給額を求めることができる。総支給額は労働者が労働の見返り(対償)の合計金額だ。

給与から控除されるものは?

労働基準法では、給与(賃金)は全額払いとするのが原則としている。ただし、例外として控除できるものがある。法定控除として、所得税法の規定に基づく源泉所得税や地方税法の規定に基づく住民税、社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料)である。その他に控除できるものが、労使協定で決めたものである。ただし、何でも控除してもいいということではないので、注意したい。

控除とは?

対象期間に働いた給与の総額から、必要な経費を天引きするものを控除という。本来は、労働者に支給される給与の一部であるが、事業主があらかじめ天引きし労働者の代わりに税金や社会保険料を納めている。

税金と徴収方法

事業主が労働者の代わりに納める税金には、所得税と住民税がある。所得税は給与の総額から非課税給与(通勤手当など)と社会保険料控除額を差し引き、課税対象額を求める。課税対象額を「源泉徴収税額表」にあてはめ、税額を確認する。その際、「扶養控除等申告書」が提出されていれば、甲欄を使用し、提出されていなければ、乙欄を使用する。

住民税は前年の給与をもとに計算され、6月から翌年5月までの住民税額が決まる。新入社員であれば、1年目は住民税が発生しない。2年目の6月から控除が始まる。事業主が労働者に代わって納めている。これを特別徴収という。

その他の控除項目

法定控除以外のものが、その他の控除項目だ。労使協定で定めたものである。代表的なものとしては、労働組合費や財形貯蓄、団体生命保険料などがある。労使協定は労働者の過半数で組織する労働組合、労働組合がない場合は、労働者の過半数代表者と締結しなければならない。

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給与計算の流れ

給与計算は大きく分けて3段階で構成されている。第1段階は給与の総支給額を計算する。月給制であれば、1ヵ月間の出社退社の記録(タイムカード)から出勤日数や残業時間など集計し、給与明細書の勤怠項目に記載する。勤怠項目で集計したものをもとに残業代などを計算する。支給項目に手当などを記載し合計すると総支給額が求められる。

第2段階では、税金や社会保険料の控除額の計算をする。社会保険料は、固定給与に大きな変化がなければ毎年9月の改定まで変更はない。住民税は毎年6月から徴収税額が変わる。所得税については毎月課税対象額から計算をする。社会保険料、税額の合計が控除項目の合計だ。

第3段階では、総支給額から控除額の合計を差し引いた額が差引支給額となる。差引支給額は手取り額ともいい、給料日に労働者は手取り額を受け取るか、労働者本人の金融機関口座に手取り額が振り込まれる。

給与計算のルールを知って労働者との信頼関係を築く

給与は事業主と労働者をつないでいるものであり、労働協約、就業規則及び労働契約のもとで支払われている。だからこそ、お互いの信頼関係を築くためには、ルールを守ることが大切だ。事業主は給与計算のルールにもとづいて計算し、労働者に支払わなければならない。事業主が給与ルールを知っておくことで、労働者との信頼関係が深まるのではないだろうか。

文・Business Owner Lounge編集部