AI,BI
(画像=Phonlamai Photo/ Shutterstock)

目次

  1. 「AI」と「BI」とは何かAIとBI。
  2. 2030年には700万人の失業者が生じる恐れ
  3. BIは人を幸せにするか
  4. AIの普及が人間にもたらすプラス

「AI」と「BI」とは何かAIとBI。

まるで語呂合わせのような組み合わせだが、この2つの言葉が今後の社会を大きく変える可能性を秘めている。

AI(Artificial Intelligence、人工知能)とBI(Basic Income、最低限所得保証)。この2つの言葉は一見、何の関連もなさそうだ。しかし、AIが人間から仕事を奪い、AIなどを扱う高度な知的労働階級と職を失う単純労働階級の二極化(デジタルディバイド)が進むと、社会を維持するには富の再分配を行う必要性がでてくる。その方法論として、注目されているのが「BI」という考え方だ。

最近では経営コンサルタントの波頭亮氏の著書『AIとBIはいかに人間を変えるのか』(幻冬舎、NewsPicks Book)も注目されている。

AIとBIの組み合わせは、人を幸せにするのか。その議論をたどってみよう。

2030年には700万人の失業者が生じる恐れ

2015年、野村総合研究所からセンセーショナルな予想が発表された。それは日本の労働人口の49%が人工知能に置き換えることが可能、という内容だった。将来AIに取って代わられるであろう職種が具体的に明示されたことを覚えている人も多いのではないだろうか。

その予想を証明するかのように、2017年末、メガバンク3行がAIを活用して大規模な人員削減に踏み込むと発表した。一方、日本政府は「日本再興戦略2016」の中で第4次産業革命を打ち出し、特に今後の生産性革命を生み出す鍵は、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、人口知能、ロボットセンサーの4つだと定義している。

この第4次産業革命に的確に対応していかなければ、労働者の中間層の崩壊を招き、その状態を放置すれば2030年には700万人もの失業者が生じると経済産業省は試算している。

BIは人を幸せにするか

富の再分配の一つの方法であるBIは、欧州の経済学者を中心に議論が高まっている。彼らは、国家が無条件に国民に対して最低限の生活を保障するための給付を行う制度を創設すべきだと主張する。

この考え方は、そもそも約500年前に英国の思想家、トマス・モアが著書『ユートピア』の中で提唱した理論だ。すべての市民は社会の価値ある一員であり、社会全体の富にあずかる権利を有するという主張であり、これがBIという概念を裏付ける理論として注目されている。

AIを擬人化することに対して議論の余地はあるが、「ロボットが人間の仕事を奪うなら、人と同じレベルでロボットに課税すればよい」とBIの財源としてロボット課税を提言したのがビル・ゲイツ氏だ。

一方、否定的な意見として、「働かない人になぜお金を配るか、それは社会主義と同じではないか」「その財源はどうするのか」といったものある。

実は米アラスカ州には30年以上前から似た制度が存在している。それは石油事業を元手にした「永久基金」と呼ばれるものだ。基金はすべてのアラスカ住民の利益のために運用するとされ、社会への貢献や富など関係なく、資格のある住民に一律の分配金が支払われてきた。2018年6月フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグ氏はそのアラスカを訪れ、永久基金などの同州の社会制度は他の地域にとって、大いに参考になると持ち上げた。

また2016年6月には、スイスで成人に対して毎月約27万円を支給するBIの導入の是非についての国民投票が行われ、結果的には否決されたが、その後フィンランドやオランダでも検討が始まっている。

新型コロナウイルスの影響で、ベーシックインカムは改めて注目が高まっているが、2020年5月、ついにスペインでベーシックインカムの導入が決まった。しかし対象は生活困窮者のみとなっており、すべての人が収入に関わらず平等に給付を受けられる本来的なベーシックインカムとは性質が異なると指摘する専門家もいる。

すでに申し込みを受付けており、申請者が殺到しているようだが、その審査や手続きなどは難航しているようだ。日本でも同様にベーシックインカムの議論は盛り上がりを見せている。

興味深いことに、BI制度はリベラル、保守の両方から支持される。リベラル派はAIが人間の仕事を奪うのでその貧困対策として、一方の保守派はそれとは関係なく、多くの執行コストがかかる現状の社会保障制度をスリム化しようとする観点からだ。

AIの普及が人間にもたらすプラス

AIの進行は、グローバル化の中で暴力的なスピードで人間の仕事を奪っていく。一方、それに対応する富の再分配の仕方については政治の世界の話なので、対応が後手に回ることは明らかだ。

AIの普及が結果的に人間にとってプラスになるか、マイナスになるか、今の段階では予測できない。理想を言えば、AIの普及で人間の生産性が上がり、その余った時間で人々は人間らしい生活を謳歌(おうか)できるのが望ましい社会の姿だろう。果たして私たちは、そんな社会を迎えることができるだろうか。

文・中村伸一(マネーデザイン代表取締役社長)