「営業とマーケティングがうまく連携できなくて困っている」。こんな声をあちこちで耳にする経営者や幹部は少なくないだろう。なぜ両者は仲が悪くなるのか。どうやったら仲良くできるのか。原因と対策を明確化することで、組織が同じ目標を共有し、売り上げと利益を究極に高めることができる。

目次

  1. 営業とマーケティングはなぜ仲が悪くなりがちか?
    1. 直接的な顧客接点を持つ営業部門の「功罪」
    2. 顧客接点を持たないマーケティング部門の「功罪」
    3. 仲が悪くなる原因は「仮説」が共有されていないから
  2. 仮説を重視することで営業は変わる
    1. 顧客と会うことを営業の目標にしてはならない
    2. 令和の営業に求められるのは「全社共通の仮説」に基づいた行動
    3. ネットでは困難な仮説検証をすることに営業は注力すべき
  3. 営業部門が「不要」になる時代は日本にもやってくる
    1. 事業規模に応じて営業・マーケティングの線引きは異なる
    2. マーケティングを営業に理解させるために必要な能力
    3. 日本の日中の地下鉄はとかくスーツ姿の乗客が目立つ
  4. 「御用聞き」は営業だけではできない

営業とマーケティングはなぜ仲が悪くなりがちか?

営業の効率はマーケティングと融合できているほど高くなる
(画像=SFIO CRACHO/Shutterstock.com)

従業員とは、与えられた職務の成果を最大化することで、自らの評価を高め、給与や権限を高めようとする「生き物」だ。組織においては、職務が異なると目標となる成果も異なるため、部門間の対立がおこることもよくある。営業とマーケティングの対立の原因も、目標となる成果のズレに他ならない。

直接的な顧客接点を持つ営業部門の「功罪」

営業部門は一般的に、顧客とリアルで対面した接点を持っていることが、最大の武器であり、それにより社内での発言力は大きい。顧客接点を表す面会数や成約数、売上高が評価基準になっていることが多いだろう。

顧客の声を伝えるのが営業の役割であるが、売り上げに結びつかない場合、製品そのものやマーケティングのやり方が悪いと、自己弁護することになりがちだ。営業の自己弁護は、生産やマーケティング部門との対立を促進する大きな要因となる。

顧客接点を持たないマーケティング部門の「功罪」

マーケティング部門は一般的に、顧客とリアルで対面する接点を持っていない。見込み客のリストアップ数や成約率が評価基準になっていることが多いだろう。

マーケティング部門は、仮説に基づくプロモーションにより、見込み客を絞り込むスキルには長けている。しかし、顧客の生の声が届きにくいため、その仮説が正しいかは営業に比べ判断が甘くなりがちだ。「営業のやり方が悪い」と自己弁護したくなるのも人情だが、組織としては悪循環の増幅であることは言うまでもない。

仲が悪くなる原因は「仮説」が共有されていないから

事業活動を行う組織では、営利では利益を最大化する、非営利では利用者数を最大化する、といった目標は従業員共通に認識されている。目標を達成しないと組織が持続しないことを、少なくともみなわかっているからだ。目標は共有されているのになぜ仲が悪くなるのだろうか。

普遍的な組織内の対立の根本原因としては「仮説の共有」を肝に銘じてほしい。部門や職務によって成果目標が異なるのは当然だ。しかし、従業員全員が「どうすればうまくいくか」を常に共有し続けられていれば、コミュニケーションはスムーズになり、問題解決のスピードも速くなる。

「仮説」という日本語で表記する二文字の言葉は、自然界の生き物と同じく、自らが持続するために最も大切な概念だ。どうすれば環境に適応して命を長らえるかという答えは、すべて「仮説」から始まる。

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仮説を重視することで営業は変わる

  • マーケティングは「頭がいい」から優れたプランを作成するのは当然だ
  • 営業はとにかく顧客と会わないと話にならない
  • 頭はマーケティング、足は営業
  • 売上あってこそ組織は成り立つ、だから営業は「偉い」

多くの日本人に深く刻まれている概念だが、遠い昔の昭和の高度成長期の頃と、残念ながらあまり変わってはいない。ネットがなかった昭和の頃は、顧客の反応を確かめるにはリアルに営業が接するしかなかった。令和の今、顧客の反応は、ほとんどの事業でネットでもかなり確認できる。マーケティング部門が、営業部門を通じなくとも顧客の反応をそれなりに把握できる時代なのだ。

顧客と会うことを営業の目標にしてはならない

営業部門の成果は、売上額・成約数といったクロージングの数値で語られることが一般的だ。となると、アポを取る、顧客と面談する、といった「クロージング成果を生み出す前提を作る」行為が美談化されがちになる。成約効率を上げないと組織の持続と成長には貢献しない。一般的に新規顧客を獲得するより、リピート顧客を維持する方が、はるかに営業コストは抑えられる。

顧客と対面することが、売り上げにつながる。これは、日本の昭和の高度成長期や21世紀のアジア諸国であてはまる、需要が供給を明らかに上回る状態に社会がある場合の方程式だ。人口が減少する令和の日本では、供給が需要を下回ることが多い。加えて商品・サービス特性のレベルが高くないと、舌の肥えた顧客を振り向かせることはできない。単純に営業が顧客に会うだけでは、もはや需要を喚起できないのだ。

令和の営業に求められるのは「全社共通の仮説」に基づいた行動

「こうやれば売れる」という仮説は、一般的にマーケティング部門がたてることが多い。ネット上での反応やプロモーション効果、統計データといった、川上で顕在化している事象を集約して仮説を立案していることが多いだろう。

仮説はPDCAサイクルの根幹をなすことは言うまでもない。PDCAサイクルをより高度に循環させることで、事業の競争力はいっそう高まる。究極は、著名なマーケティング研究者であるドラッカーが述べたように「営業せずとも売れる」状態を持続することだ。

営業部門では、マーケティング部門が立案した仮説を「理想論に過ぎない」と上から目線のように見下すことは絶対にNGだ。「こうやれば売れる」仮説は、事業の成長と安定を導く戦術の根幹となる。根幹であるがゆえに、全社一丸となって向き合わなければならない。「マーケが悪い」「営業が悪い」と呼応する会議は、無駄な時間を創出しているだけだ。

ネットでは困難な仮説検証をすることに営業は注力すべき

消費財・耐久財、B2B・B2Cといった商品・サービス特性にかかわらず、関心を持った顧客のほぼ100%はネット上でまずは検索するのが令和の常識だ。成約に落とし込む口説き文句を確立させるためには、自社の公式サイト上で説明できること・できないことを明確にし、営業の役割を絞るのが良いだろう。

顧客とリアルに対面する営業部門は、ネット上では説明が困難な、仮説に対する顧客の反応の検証に注力する。そしてマーケティング部門が最も知りたいリアルな情報をフィードバックすることで、社内コミュニケーションもスムーズになる。

リアルに顧客と接しなければできない営業部門の役割を効率化することが、組織全体の競争力と持続力の向上に大きくものをいう。

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営業部門が「不要」になる時代は日本にもやってくる

顧客接点の入り口は、21世紀以降ほとんどの事業で明らかにネットにシフトしている。見込み客を見つけるという伝統的なマーケティング部門の役割も、主戦場はネットだ。となるとリアルに顧客と接する営業部門の存在意義が問われてしまう。営業部門の将来像を考察してみる。

事業規模に応じて営業・マーケティングの線引きは異なる

上述した論理をまとめると「営業とマーケティングは融合させる」ことが理想形だが、事業規模が大きくなるほど、管理上の課題がネックとなり両者を融合させることは難しくなる。加えて事業の特性によっても組織の線引きは大きく異なる。以下はケーススタディとして理解されたい。

マーケティング部門がリストアップした見込み顧客の反応を確かめるために、面会アポを取る業務を「インサイドセールス」部門として独立させることはよく行われる。営業部門に、成約と受注継続というクロージングに注力させるためだ。

組織の枠を超えるシステムであるMA(マーケティング・オートメーション)を導入することも多い。無料コンテンツのダウンロードのためにメールアドレスを登録したような、ネット上で反応があった見込み客が、その後どんな反応を示したかを管理できるデータベースだ。営業とマーケティングの壁を取り除く仕組みとして、近年は大いに注目されている。

マーケティングを営業に理解させるために必要な能力

「仮説検証を社内に橋渡しできるか」につきる。やみくもにアポを取り顧客と会うことを美談化する営業部門の空気を、まずは否定しなければならない。

営業の目的はあくまで「利益を持続的に生み出してくれる」顧客の獲得にある。そうしたブランドの「ファン」になってくれる顧客を獲得するためには、顧客の満足度を高め続ける必要がある。顧客の満足度は、地道に仮説検証して品質を常に上げ続けないと、維持できない。

日本の日中の地下鉄はとかくスーツ姿の乗客が目立つ

海外によくお出かけになる方は何となく気づかれているだろう。大都市の平日の日中の地下鉄で、スーツ姿の乗客は日本が明らかに多い。調査データとして根拠を上げることはできないが、筆者の肌感覚として強く感じられる。日本は営業の外回りが目立って多いためと推測される。

日本は東京に極端に経済活動が集中しており、国内ビジネスにおいては対面で顧客と会うことに不便さをあまり感じない。しかし世界に目を向けると、欧米でも中国でも、そのような文化はない。日本のように国内市場だけでビジネスが成り立つ国は多くなく、同じ都市にビジネス拠点が極端に集中していることもないからだ。

日本でも「テレワーク」をキーワードに、リアルに対面することなく業務を進めることが今後は普及するだろう。将来の組織論の方向性として、頭の中に留めてほしい。

「御用聞き」は営業だけではできない

あらゆる商品・サービスにおいて、顧客がニーズを感じる初期段階では、具体的なスペックをほぼ100%イメージできていない。ニーズは、ソリューション欲求から始まるためだ。一方多岐にわたる顧客ニーズを自社の商品・サービスだけでソリューションすることは通常できない。見込み客の絞り込みをいかに効率化するかが、営業部門の生産性に大きく影響を与える。

見込み客を絞り込むためには、営業スタッフの人件費よりWebサイト運営コストの方が安いことは今や一般的だ。営業部門の位置づけは、時代を表す鏡でもある。

文・高千穂一也