前回、ここ数年のベンチャー、スタートアップを取り巻く環境の変化について聞いたインタビュー。今回はベンチャー支援者、VCの立場から思う、ベンチャーがいい人材を採るために経営者、経営陣が心掛けるべきことについて聞いた。

スタートアップ・エコシステムの一番難しいのは目に見えないところにある

ベンチャーキャピタル, 特集, 磯崎哲也, 起業のファイナンス
(写真=森口新太郎)

――今後スタートアップ・ベンチャーを取り巻く環境をさらによくして、イケてるベンチャー増やすうえでの課題は何だと感じていらっしゃいますか?

「ここがクリティカルな要因で成長が阻害されている」という要因は、もうさほど見当たらないんですよ。政府にしてもベンチャーキャピタルにしても、ベンチャーを応援する活動はここ数年とても盛んだったし、「この法律がダメ」とか「この税制の影響でベンチャーが伸びない」という、個別な大きな要因は大体解決されている。

スタートアップ・エコシステムの一番難しいところは、目に見えないところなんです。たとえば銀行だったら、お客さんとなる企業を発見してくる人が行内にいて、「この会社いいですよ」と提案するわけです。それで審査をして、貸付をして、回収するまで、全部1社内でできるので分かりやすい。

その点、ベンチャーに関わる人はエンジェルもいればベンチャーキャピタルもいて、エンジェルからベンチャーキャピタルに「この会社すごくいいよ」という情報が来たり、アーリーな段階で投資したベンチャーキャピタルから、ミドル、レイターステージに投資する別のベンチャーキャピタルに話が行ったりする。さらに関係者が外部の知り合いから「ベンチャーで働きたいという人がいるよ」といい人材を呼びむこともある。弁護士が契約書をチェックして、監査法人がついて会計監査をして、上場前になれば証券会社も関わる。このように、いろんな人が集まってはじめて、投資してから回収するまで成り立ってる世界なので、全員がレベルアップしないと、なかなかサイクルが回り出さないんです。

ベンチャー・エコシステムが発達していなかったのは、日本だけではありません。ついう最近まで、シリコンバレー以外の世界のどこもベンチャー・エコシステムが発達していなかったんですよ。その中でシリコンバレーだけはずっと30年ぐらい世界で断トツの存在で、それこそ同じアメリカの中でも、例えばテキサスとかデトロイトとかにはそういう動きはなく、シリコンバレー独特の現象だったんです。

それがここ10年くらいの間に、世界中でそういうエコシステムができ始めています。中国が一番急速に成長していて、投資もアメリカに追いつく規模の大きさですし、東南アジアでもアフリカでも南米でも、徐々にベンチャーキャピタルが出てきて、日本と同じように投資をし始めている。

「日本は個では弱いが組織では強い」は果たして本当か?

――世界中のあちこちでインキュベーションの施設もできていますね。

この(世界中でVCが生まれベンチャー支援が進んでいる)動きは産業革命と非常に似ているんじゃないかと思っています。次の世界の仕事のサイクルを回すのは何かという。

先日、テクノロジーの文脈で某誌からインタビュー受けた時に、先ほどのような「この20年は、市場メカニズムやインセンティブがイノベーションを促進し、世界を動かしてきた」といった話をしたところ、「そういう話が聞きたいんじゃなくて」と言われちゃったことがあったんです。おそらくどういうテクノロジーで、この20年変化してきたかみたいな話を聞きたかったらしいんですね。

僕がしたのは、テクノロジーも大事だけど、そのテクノロジーに注目したり生み出したりするためのインセンティブの構造が大事だという話でした。要はスタートアップを立ち上げることで、自分の思いどおりできるし、お金も集まって、いい人が採れて、すごい仲間と一緒にこういうふうにできると。

何の技術が使われるかは、そうした流れの結果に過ぎないわけで、目標を掲げて、それに向かって進む仕組み、それに必要な資金が集められる仕組みができてきたというのがすごく大きなことなんですよ、という話をしたんです。

たとえばインターネットのプロトコルとか、そういう技術は大事だし、それがあったからインターネットや、ネットを利用した各種のサービスが生まれ、広がったわけですけど、その技術を使ったビジネスが自動的に生まれてきたんではなくて、「むしろ、それを生むことになった仕組みのほうが大事だったんじゃないですか」みたいな話をしたら、ちょっと微妙な反応をされてしまって。

――次はAIが来るとか、ブロックチェーンが来るとか、そういうお話が聞きたかったんでしょうか。

そうだと思いますね。ただそんな分かりやすいものでもないですよね。産業革命だったら、蒸気機関がシュシュシュシュッて蒸気を出しながら走って、すごいパワーで客車を引っ張っているのを見れば、「これが次の世代のキーテクノロジーだ」と分かるでしょうけど。

――ベンチャーのエコシステムの問題も目に見えないと。

昔の日本の会社・企業では、極めて限られた学校の同質な人たちが新卒で入社してきて、30~40年勤めて社長になるという、分かりやすい仕組みの中で生きてきたわけです。

それがスタートアップはまったく違っていて、ちょっとオタクっぽくて、「人付き合いは悪いけどめちゃめちゃ優秀なコードを書ける男の子」とか、「すごいクールなデザインをする女の子」が入ってくる。一方で外資系の投資銀行で「金」の視点で物事を見るようなやつも入ってくる。

そういういろんな人がいて成り立っていて、それをどう組織化するか、会社の中でそういう人をうまくまとめる。「お前はここが欠けてるよ」と言って否定するのではなく、それぞれのいいところを発揮させて、それを組織化するというのがベンチャーの本質じゃないかと思うんです。

その「プロトコル」が今まで日本には存在しなかった。同質な人が飲み会や社員旅行を30年とか続けていれば「そりゃコミュニケーション取れるようになるよね」という話です。

よく「日本って、組織人としてはうまくいくけど、個々の人の能力はないですよね」と言われるんですけど、全然逆じゃないかと思うんですよね。

東大の先生もそういう研究をしてますが、むしろ日本人って個々の能力はめちゃくちゃ優秀なんだけど、組織行動が苦手なんじゃないかなと。苦手といっても遺伝子的に無理という話ではなく、そういうコミュニケーションの取り方の仕組み自体が、インフラとして根付いていないということです。

英語だとまず結論を言ってから説明、といった構成が自然だし、そういうことを学校の授業で習うわけです。日本だとそこは「以心伝心」でなんとなく通じちゃう。でもそこで、ちゃんと目的を説明したほうが異質な世界の人に伝わりやすいわけです。

異質な人たちが集まって、「一つの目標に向かってやっていこうぜ」というコミュニケーションのノウハウが、以前の日本ではなかった。それがスタートアップでの成功例、失敗例が生まれてきて、「こうやったほうがうまくいきそうだ」というノウハウも蓄積されてきてるんじゃないかと思います。 そのノウハウとはズバリ、「ビジョンやミッションを掲げる」、「ストックオプションなどの『ステイク』を持たせて、企業価値の上昇と社員の向いている方向性を合わせる」といった、スタートアップの経営そのもののことじゃないかと思います。

お金は魅力が薄いだけ お金が悪いわけじゃない

――異質なもの、いろんな人が集まるところというと、まさにアメリカはそういう国ですよね。ただ、今は右傾化、排他的な側面を指摘、懸念する声もありますが。その組織づくりの上で気になるのがインセンティブとの設計です。isologueにも記事を書かれていましたが、金銭的な見返り、キャリー(キャピタルゲインが出た場合の、GP=ゼネラルパートナー。VCの業務執行者=への割増分配額)とか、そういう設計はかなり重要ですね。

「金だけが目的でやるんじゃない」ということはよく言われることで、実際そうですよね。金だけのために転職してきた人を採ってもあまりうまくいかないし、経営者も「お金が欲しいんで上場目指してます」という人がうまくいってるのは見たことがありません。

ただそれは「お金が悪いものだから」と理解されがちなんだけど、僕はそうじゃないと思ってます。逆にお金の“魅力が薄い”ことが問題なんだと思うんですよね。

なぜかというと、例えば株式の過半数を持って上場して時価総額が50億円となると、「俺、25億円もの資産ができた」という話ですよね。25億円って普通のサラリーマンにとっては大金ですが、上場企業としては50億円って、最も小さい部類なわけです。

さらにお金を何に使うかというと、たとえば軽井沢に別荘持ちたいとか、フェラーリを買いたいとか、そういう願望を積み上げても、「500億円は必要だ」という人はなかなかいないですよね。ましてや1兆円や10兆円欲しいと思う人はいない。Facebookのマーク・ザッカーバーグとか、Googleのセルゲイ・ブリンとかラリー・ペイジも、「10兆円欲しい」と思って起業したわけでは絶対ないと思います。でも10兆円単位の資産ができてしまった。

それらの企業の成長の糧は、「10兆円欲しい」ということよりは、「これを世界中の10億人の人が使ったらどうなるの」とワクワクしたところだったと思います。

――お金が第一ではないが、それでもインセンティブ設計は必要だと。

例えばあるベンチャーキャピタルで、一人は100億円の会社を上場させました、もう一人は超がんばって上場させた企業の時価総額が5000億円になったとします。今までの日本企業だと、両方に「お前、よくやったな」という話で、ボーナスがちょっと上がるだけ、みたいなことがあるわけですよ。

経済的にもらえるものが生んだキャピタルゲインに比例しないうえ、失敗したら怒られるなら、誰もリスクとって失敗する可能性の高い5000億円の会社をつくるぞという意欲は持たないでしょう。

あとスタートアップの経営者って夢を追っているので、「金が目的じゃないから。100億円とか要らないから」とおっしゃるんですよ。そこで僕が言いたいのは、「あなたが金が欲しいかどうかじゃないんです。あなたがやろうとしてることは、これ本当に成功したら5000億円の価値がある話。それで、あなたの会社に入ってくる人がストックオプション1%持って50億円になるとすれば、ちょっとした上場企業を経営できるぐらいのすごいようなやつ、『会社つくって上場させたいと思ってるんです』というくらいの人を連れてこれるんですよ」ということなんです。

その起業家がその会社の50%を持っていれば、結果として2500億円の資産ができてしまう、という話です。2500億円欲しかったから5000億円の会社ができた訳ではない。

そういう人を引き込むためには、会社自体が大きくならないといけないわけです。ストックオプションのプールが20%あるとしても、1人1%持たせると、たった20人しか雇えない。もっとたくさんの人を雇わないと5000億円の価値のあるビジョンが実現しないとすると、そもそも普通は1%もあげられないわけで、0.2とか0.5%がいいところかもしれません。

それで上場企業の社長にもなれるようなすごいやつらを集めてこようと思ったら、そのぐらいのインセンティブがないと、嫁ブロックがあってもおかしくない。そういう人は800万とか1000万とか普通に稼いでいるし、自分で会社をやればもっと稼げるところをあきらめて来てくれるわけですから。

スタートアップで上場した大学先輩が何百億円の資産をつくって、生き生きと働いている例が目に入るような人だと、学生や若者はそっちのほうに自然といきますよね。

「自分で会社をやって、こういうモデルで上場させるところまでいきたい」という話ができる人をストックオプションを0.5%とか1%分で呼ぼうと考えると、会社としては数千億ぐらいを目指さないといけないわけです。

だから経営者が、「僕、お金そんなに要らないから、僕の会社もう、このぐらいの価値でいいや」と考えちゃうと、イケてるやつも呼び込めないんですよね。会社は異質なものをどんどん取り込まないと成長しないから、その会社の成長はもうそこで終わりです。

――イケてるやつを仲間に呼び込むためにも稼がないといけないし、稼いだものをちゃんと分配される仕組みをつくらないといけない。

以前は、企業は「今年の利益を稼ごう」と活動をしていたわけです。ベンチャー・スタートアップのどこが革命的かというと、「5年後にこれぐらいの市場を押さえます。そこから考えると、今俺たちにはこれくらいの価値がある。今は毎年10億円赤字だけど」ってことが言えるような世界になってきていることなんです。

それは確実な話ではないので、なかなかそこを理解してもらうのは難しいし、投資家も「利益出てないのに、なんでこんなバリュエーション高いの?」という話になったりするんですけど。

上場のときもそう。メルカリがグローバルオファリングをやりましたが、海外の投資家は、世界中の多くのイケてる類似の会社を見てるので、「いまは赤字だけど、この業界ではこういう利益以外のマルチプルで評価されるのが普通なので、これぐらいの大きな価値があるよね」ということを普通に言ってきます。

そこが日本の投資家だと、「利益出てないのに上場するんですか」みたいな話になったりする。そこで評価の額が全然違っちゃうんですよね。投資家は「出口」から逆算して今の価値を考えますので、海外のVCなら「上場してこのぐらいになる」と考えるところ、日本だと、「せいぜいこのぐらいにしかならない」となってしまう。

上場時から逆算して「今は、このぐらいの企業価値しかない」という見方をしちゃうと、投資できる金額も小さくなって、そのスタートアップができることも本当に小さいことだけになっちゃう。

逆に将来を見据えて「この時点でこうなっているから、今これだけの評価ができる。だから今これだけ投資ができる」という考え方になると、実際にすごいことができて、企業も実際に大きくなる訳です。

取材・濱田 優(ZUU online編集長) 写真・森口新太郎 ※本インタビューは2019年に実施されたものです)