新規事業を立ち上げると、一人前に育つまでは自転車操業のように走り続けることが少なくない。そんな時、いかに効率よく走れるかを「見える化」してくれるのがマーケティングプランだ。社内外で事業ブランドの求心力を高めるにもとても役立つ。

目次

  1. マーケティングプランはなぜ役に立つのか?
    1. 著名な機関・研究者によるマーケティングの定義
    2. マーケティングと営業・販促・宣伝とのすみわけは?
    3. マーケティングプラン策定はブランディングそのもの
    4. マーケティングプランの利用シーンは実に多様
  2. マーケティングプランに盛り込む要素
    1. 事業活動の「目標」設定
    2. 目標が達成可能な「環境」にあるかを検証
    3. 目標を達成するための戦略を「具現化」
    4. 戦略をよりリアルに実感してもらう「戦術」表現の極意
  3. マーケティングプランに終わりはない
    1. マーケティングプランの実行と検証は同時並行で
    2. マーケティングプランのバージョンアップは最低年1回以上が目安
  4. マーケティングプランは組織の「ぶれ」を少なくする

マーケティングプランはなぜ役に立つのか?

マーケティングプランとはどのようなもの?経営への必要性、作成方法をわかりやすく解説
(画像=greenbutterfly/stock.adobe.com)

「マーケティングの定義を説明せよ」という命題を与えられると、「売れる仕組みを作る」「顧客に価値を届ける」「市場を創造する」など、回答者それぞれが実に多様な表現で説明を行うだろう。マーケティングとはそれだけ奥が深い概念であり、プランを作成する前にあらためてマーケティングの概念をおさらいすることをおすすめしたい。

著名な機関・研究者によるマーケティングの定義

それぞれ実に美しい言葉で語られている。マーケティングプラン作成にあたって迷った際は、これらの定義を見直すとよい。頭の中をスッキリさせるのに必ず役立つ。

・日本マーケティング協会:
マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である。

・グロ-ビス経営大学院:
マーケティングとは、顧客満足を軸に「売れる仕組み」を考える活動。

・アメリカマーケティング協会:
マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである。(高橋郁夫訳)

・経営学者フィリップ・コトラー:(1)
マーケティング・マネジメントとは、標的市場を選択し、優れた顧客価値の創造、伝達、提供を通じて、顧客を獲得、維持、育成する技術である。(恩藏直人・大川修二訳)

・経営学者:ピーター・ドラッカー:(2)
マーケティングの目的は販売を不要にすることだ。(上田惇生訳)

(1)(2)出典:フィリップ・コトラー著「コトラーのマーケティング・コンセプト」東洋経済新報社

マーケティングと営業・販促・宣伝とのすみわけは?

マーケティングは事業活動の潮流を「戦略」として定義するもので、営業・販促・宣伝は戦略を実現するための具体的な「戦術」に相当する。いわばマーケティングは川上にあたる上位概念で、事業活動における憲法のような存在だ。しっかりと定められていないと、販売のやり方にぶれが生じ、結果的に事業継続ロスが大きくなってしまう。

マーケティングプラン策定はブランディングそのもの

マーケティングプランの策定とは、経営幹部の頭の中に暗黙知として格納されている概念を「言語化」することだ。言葉という万人共通の尺度で事業活動戦略を表現することで、事業活動そのものの意義を誰にでもわかりやすく伝えることができる。マーケティングプランにより、事業活動の意義をステイクホルダーに好意的に受け止めてもらう行為は、事業活動のブランディングそのものに他ならない。

マーケティングプランの利用シーンは実に多様

  • 金融機関融資や官公庁補助金、クラウドファンディング獲得の際の有力なアピール材料になる
  • 取引先やパートナー企業に、自社との取引にメリットがあると感じてもらえやすくなる
  • 従業員が事業活動の意義をきちんと理解でき、モチベーションの向上につながる
  • 事業活動の潮流を見直す必要に迫られた際に、たたき台になる

マーケティングプランは上記のようなシーンでの利用が想定される。結果的に様々なステイクホルダーに公開することとなるため、「マル秘のノウハウまでオープンにするのか?」と危惧される方もいるかもしれないが、そんな心配は無用だ。ライバルにマネされては困るノウハウは、生産~販売の現場における具体的なテクニックであり、マーケティングプランに盛り込まなくとも、戦略の表現においては一般的に支障ない。

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マーケティングプランに盛り込む要素

マーケティングプラン策定にあたっては、事業によって特性は大きく異なることもあり、どのような暗黙知を「棚卸し」すればよいか、戸惑うことも少なくないだろう。普遍的な要素さえ外さなければ、きちんとしたプランをあらゆる事業で策定することができるので、安心されたい。

下述する要素の順は、プラン策定の絶対的な順番を示すものではない。マーケティングは様々な要素や環境が複雑に絡み合った上で成立するため、状況に応じて変える必要があることに留意する。「鶏が先か、卵が先か」という論理と同じで、手順を固定化することは適切でない。

事業活動の「目標」設定

営利・非営利にかかわらず、事業を通じてどんな成果を達成したいかを具現化する。事業が受容されることで、市場や社会にどんなメリットをもたらし、結果的に自社にどのような成果をもたらすかを、可能な限り数字で設定する。数字で設定できないと達成基準があいまいになり、目標への信頼性は低下してしまう。

達成基準の数字は、他に盛り込む要素を整理していく過程で変更することに躊躇する必要はない。見た目の数字にばかりこだわって、達成できる可能性が低くなるのであれば本末転倒だ。「ちょうどよいラインを見極める」ことこそ、経営者に最も求められる能力である。

目標が達成可能な「環境」にあるかを検証

様々なマーケティングの教科書で紹介されている「3C分析」が、やはりわかりやすい。3Cとは、顧客・市場(customer)、競合(competitor)、自社(company)を指す。社内外それぞれの環境を検証し、目標の達成可能性を明確にするフレームワークだ。3者それぞれでチェックすべき普遍的な要素を理解されたい。

・顧客・市場(customer)
市場規模(既存商品・サービスへの追従参入の場合) 市場や顧客のニーズ・ウォンツ、潜在顧客数(新規商品・サービスの立ち上げの場合) 市場の拡大・縮小を裏付ける社会環境(天災・政治情勢などリスクも交えて)

・競合(competitor)
市場シェアの現状と将来予測 競合の強み・弱み(生産・供給体制、販売チャネル、品揃え、価格、サービス品質) 参入障壁(競合のスケールメリット、チャネルの確保、顧客のスイッチングコスト、法規制)

・自社(company)
商品・サービスの生産・供給体制 価格優位性、収益性 ブランドの優位性(既知顧客の誘引力)

市場規模やシェアは、政府・自治体統計や業界団体の公表値、調査機関の販売データといった公開されているデータを利用することが基本だ。リソースとしては、ネット上で参照できるものから図書館の冊子でしか得られないものまで様々におよぶ。有償のものもある。リソースの把握は、最初はかなり手間がかかるが、一旦把握すれば以降は楽になる。プラン策定の最初の「壁」として向き合ってほしい。

人脈を通じて得た非公開情報をプラン上で文書化することは絶対にNGだ。社内だけに留めるならぎりぎり許容されるが、社外用と社内用のマーケティングプランを併用すると、きわめて非効率になる。出典を明示しないデータは、そもそも受け手に不信感を与える。問題が明るみになると情報提供者にも迷惑をかけることになり、信頼関係を一瞬で失ってしまう。

マーケティングプランはこのように、その事業の「持続性」をありとあらゆる角度から検証する。事業のPDCAサイクルを効果的に回していく上では欠かせないものだ。

目標を達成するための戦略を「具現化」

事業活動を通じてどのようなベネフィット(恩恵)を顧客に提供できるかを具現化するステップは、3つに分類できる。

1.事業活動が受容されるニーズや利用シーンを具現化する「セグメンテーション」

  • ニーズや利用シーンで競合との優位性を具現化する
  • 性別・年齢や業種・企業規模など、デモグラフィック属性で絞り込むものではない

2.セグメンテーションにフィットする顧客像を具現化する「ターゲティング」

  • ターゲットへのアプローチが可能か、アプローチコストに見合う利益が得られるかを見極める
  • 性別・年齢や業種・企業規模などデモグラフィック属性で絞り込めるとプロモーションしやすくなるが、近年は困難な場合が多い

3.ターゲティングした顧客に刺さる利用価値を具現化する「ポジションング」

  • 顧客目線で理解しやすい事業コンセプトとして落とし込む
  • 競合との優位性が確保できているか、今一度見極める

これらステップまで整理できれば、事業活動を理解されやすくする5W(when/where/who/what/why)要素は、ほとんど具現化できたことになる。あとは1H(how)だけだが、これをいかに表現するかが経営者としての最大の腕の見せ所だ。

戦略をよりリアルに実感してもらう「戦術」表現の極意

「マル秘のノウハウまでオープンにする必要はない」と上述したが、正直これは「物は言いよう」だと告白したい。マーケティングプランの受け手にとっては一般的に、マル秘情報が含まれていると感じられるほど、造り手=経営者の意気込みを感じやすくなる。肝となる情報は文書化するのではなく、面会時に口頭で意味深に伝える。古今東西幾多の強者が、相手を口説くために活用してきた王道テクニックだ。

戦術の普遍的な要素を整理するには、マーケティングの教科書でよく見かける「4P分析」がわかりやすい。4Pとは、Product(製品の魅力)、Price(ベネフィットに見合う価格)、Place(流通チャネルの利用しやすさ)、Promotion(販促・宣伝・コミュニケーションのわかりやすさ)を指す。

4Pは売り手の視点に基づいた理論であるのに対し、買い手の視点に基づいた「4C」もある。Customer Value(顧客にとっての利用価値)、Cost(顧客が費やすお金と価値のバランス)、Convenience(顧客にとっての利便性)、Communication(顧客とのスムースなコミュニケーション)を指す。

これら4P/4Cの最適な組み合わせを表現することが戦術策定にあたっては肝要だ。マーケティングプランの策定はあらゆる可能性をチェックする作業に他ならない。最初はとても高い「壁」に映るだろう。この壁を乗り越えられるかで、経営者としての「肝」が試されるといっても過言ではない。

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マーケティングプランに終わりはない

マーケティングは、一旦策定しても情勢変化に応じて見直さなければならない。見直すと言っても決して後手に回っているわけではない。見直すとは「先手を打っている」と理解すべきだ。

マーケティングプランの実行と検証は同時並行で

4P/4Cの視点に基づいて作成した戦術を実行しながら、常にプランが適切だったかをチェックする姿勢が必要だ。問題が発生すれば社内で素早く共有し、いち早く解決策を見つけなければならない。マーケティングプランは事業活動の憲法であり、常に実際に起こっている事象と照らし合わせることで、問題点を具現化することに役立つ。

マーケティングプランのバージョンアップは最低年1回以上が目安

完璧なマーケティングプランを策定し、半永久的に使い続けたいと思うのが人情だが、そんなことはありえない。市場や社内外の環境は常に変化するものであり、目立った変化がなくとも「年1回」は見直すことを心掛けられたい。事業規模が小さいほど、マーケティングプランと組織全体の経営計画の境界はなくなるものだ。

マーケティングプランは組織の「ぶれ」を少なくする

マーケティングプランは憲法のようなものだと再三述べてきたが、日本国憲法のように改正すること自体にセンシティブになってはならない。絶えず変化する環境に対応できなければ行き詰ってしまう事業を持続させるために、マーケティングプランのバージョンアップは絶対に欠かせないものだ。

従業員にとっても、日々の業務に対するモチベーションを上げる意味で、企業理念よりマーケティングプランの方がはるかに腹に落ちやすい。策定したマーケティングプランの品質が高いほど、組織の方向性は明確になる。

文・高千穂一也(ビジネスライター)