前回、ベンチャーキャピタリストを志したきっかけや、VCの醍醐味、面白さなどについてうかがったインタビュー。今回は、田中氏の社長・CFO経験、どんな人がベンチャーキャピタリストに向いているのか、さらには新入社員に渡しているという参考書のリストの中身などについてうかがった。

パワポやエクセル上で考えてしまうコンサルや金融マンが陥りがちな勘違い

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(画像=森口新太郎)

――数多くのベンチャー経営者を見てきて、成功するベンチャーの経営者、それはまさにアントレプレナーという意味においてですけど、何か共通してるところはありますか。

高い志を持っている人ですね。私心をなくして世のため人のためになることに全力で取り組む、心から没頭することは大事です。

私は実は6年ほど投資先ベンチャーに出向して社長やCFOとして経営に携わった経験があるのですが、社長ってものすごく大変です。特にゼロイチをやられるような社長というのは、ハード・シングスをたくさん乗り越えなきゃいけないので、並大抵のマインドセット、心持ちでは乗り越えられません。強烈な思い、情熱……高い志がないと、成功できないと思います。

――経営を経験されたとのことですが、どこかのベンチャーに出向されたのでしょうか?

出向先は2社ありまして、1社目はシェアリーというクーポンをWeb上で提供する会社で、社長として行きました。創業から最終的には楽天に売却するに至るまで代表を務めました。

2社目は、教育関連の事業を行っている会社です。こちらはターンアラウンドです。SBIが80%程度の株式シェアを持っている会社にCFOとして派遣されました。

――実際、ご自身でやってみられて、VCとして支える側のほうが自分として楽しいと思われましたか?

VCのほうが楽しいというよりは、圧倒的にベンチャー企業の経営者は大変だと思いました。

投資と経営は近いので、投資をしていると「経営もできる」と思いがちですが、それは勘違いです。実際投資と経営は全然異なります。言うこととやることの違い、そこに大きな壁があることを痛感しましたね。お客様から売上を上げて、取引先に費用を払って、従業員に給料を払い、事業を継続するだけでも、どれだけ大変かを痛感しました。同時に事業を創り、雇用を生み出す経営者の尊さを学びました。

――特にご自身が代表として経験されたときに、やるのが大変だったことって何ですか。

我々のような金融マンはPowerPointとかExcel上で上手くいけば、実際に仕事も上手くいくと考えがちなんですが、実際の現場はそうじゃありません。なかなか合理的には説明できない、ウェットな人間関係や感性で物事が動きます。

BtoCの事業を行って痛感したのは、お客さま、消費者も経済合理性だけでは動かない。オフィスや店舗にいらして、雰囲気で物事を判断されることを含めて、細部までしっかり見ていく必要がある。お客様は本当に敏感なので、その会社が何を大切にサービス提供しているのかを動物的な本能で感じ取っているんです。そこまでしっかり考えて経営判断を行っていかないと事業はうまくいかないということを思い知りました。

また、組織を動かして成果を出すというのは単純な事では無く、すごく難しいなと感じました。

特に感じたのが、経営再建を行うために出向した時ですね。いかに前経営陣が駄目かを示し、自分たち新しい経営陣が会社をしっかりコントロールしていくという絵を描くのは比較的簡単なんですよ。

何が難しいかって、乗り込んでいった時に自分たちが言ったことが、1年後、2年後に実現できているのか、自分たちがうまく経営できているかという結果が出てくるわけですよね。最初の言葉が自分に刺さってくる。やっぱり中にはできていないこともあって、「言うは易く行うは難し」と実感しましたね。

――発言がブーメランのように返ってきた。

本当にそうです。キャピタリストの仕事って、一般的に「言う」だけで、やってもらう側ですよね。あくまで「やる」側じゃないですから。ただ、その時の苦しい経験が間違いなく今の自分の糧になっていると思います。

新卒の社員に毎年渡している「リスト」

――どういう人がベンチャーキャピタリストに向いてると思われますか?また、ベンチャーキャピタリストになりたいなら、こういう経験がプラスになる、というものはありますか?

私個人としては、好奇心が旺盛でアンテナが高い人、トレンドや人のネットワークにすごく関心が高い人は向いていると思います。

良くも悪くも、一つのことに集中して深掘りするというよりは、日々いろんな人に会って様々なことに取り組むことが多いので、それが好きな人が向いています。

あと人間力が高いことも重要ですね。相手は経営者でいろいろな経験をしている、百戦錬磨な人もいますから。しっかり信頼をしていただくという観点で、人間力がないといけない。

もちろん、ファイナンスのスキルとか、MBA的な知識は最低限必要だと思いますが、それに加えて人間力が高いことが望ましいです。

――経営者と信頼関係を築く上で何かやってらっしゃることはありますか。

本が好きなので、本をひたすら読んでいますね。ビジネス書もそうですし、新領域の技術書とかも読んでいます。

――最近読んだ本、もしくは今年読んだ本でよかったなというのは?

最近読んだ本でよかったのは、1997年に出た本なんですが、『アメリカ金融革命の群像』という翻訳本です。

1990年代にアメリカの金融制度が大きく変る中で、アメリカは貯蓄から投資がすごく進んだわけです。消費者の意識も変わっていく中で、決済や資産運用ビジネスが米国で大成功した。そういったアメリカの金融ビジネスや制度がどのように変わり、消費者がどう動いていたのかを分かり易く分析されています。

「貯蓄から投資へ」については、日本では政府や各金融機関が昔から取り組んでいますが、なかなかダイナミックな動きが起きない中で、なぜアメリカはうまくいったのか、そのヒントになるかなと思って読みました。

あと面白かったのは、みさき投資の中神(康議)さんが書かれた『投資される経営 売買される経営』(日本経済新聞出版)です。上場株を扱うファンドマネージャーが書いた本なんですけど、長く投資家に信頼して投資してもらえる経営、企業というのはどういうものかというのかが書いてあります。

それとブリヂストンの前CEOの荒川(詔四)さんが書かれた『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)ですね。リーダーというと図太い人という印象がありますが、実際には小心者で繊細な方が細かいコミュニケーションを武器に大きな組織を率いて成功されるという話が印象的でした。少し話が飛躍しますが、私が考えるに織田信長に代表されるような歴史上のリーダーには繊細で細かな点に気が付く方が多い印象だったので、優れたリーダーの共通点を学べた気がしました。

――お読みになるのは経営とかビジネスとかに関わる本だけですか?若手に本をおすすめされたりすることはありますか。

息抜きで、文学・小説とかも読んだりします。若手への推薦もしますよ。新卒の社員が入ってきたら、10~15冊ほどの推薦図書一覧を毎年渡しています。8~9割は同じで、1~2割はトレンドを入れています。社会人としての基礎知識、論理的思考から、ファイナンスの基礎、ベンチャー経営、ベンチャー投資の有名な本、最低限これぐらいは読んでおいてね、という感じで構成しています。

――どんな本を挙げてらっしゃるのか、教えてもらえますか?

構いませんが、役員から「お前そんなこと言える立場じゃないだろ」と言われちゃうかもしれません(笑)。ベン・ホロウィッツの『HARD THINGS』(日経BP)、ピーター・ティールの『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』(NHK出版)、『リーン・スタートアップ』(エリック・リース著、日経BP)とか。あと、磯崎さんの『起業のファイナンス』(日本実業出版社)などですね。

社会に大きな変革を起こす起業を生み出したい

――SBIインベストとして、今後こうしていきたいという戦略や、まだできていないがこうしていきたいとかといった展望をお聞かせください。

SBIグループが標榜する「金融を核に金融を超える」というスローガンや、経営理念の一つに「新産業クリエーターを目指す」というのがあるのですが、常日頃から意識しています。それらを体現するようなベンチャー企業やイノベーションの領域に投資をしていきたいと思っています。その結果として、社会に大きな変革を起こすような企業を生み出したいですし、その中からユニコーン企業が生まれたらよいなと思っています。

――ユニコーン企業というと日本より海外で多く生まれていますが、御社は海外の企業にも投資していらっしゃいますね。

時期にもよりますが、直近では4割程度が海外への投資です。

――Webサイトに出てる投資先の事例は継続中ということですか。

一応これが直近2、3年で投資させていただいた企業です。上場した銘柄もありますが。ヘルスケアとかロボット、宇宙の分野にも投資しています。

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(写真=森口新太郎)

――拝見するとAI、ビッグデータの分野が多いですね。

2018年1月に「SBI AI&Blockchainファンド」を組成しまして、600億円の規模で運用しています。次は600億を超えるようなファンドを作ろうと考えていますね。現在のファンドの数としては、CVCで7本、投資部門で管理しているものが5本程度です。

――1年を通してみた時に、ベンチャーキャピタリストとして何月が特に忙しい、といったことはありますか?あと働き方も気になるのですが、土日や深夜まで働かれるのでしょうか。

月や時期による違いはほぼないです。別に年度末が忙しいというわけでもないですね。相手がベンチャー企業なので、良くも悪くも繁閑の波はないですね。働き方でいうと、20代の頃は土日も働いたりしていましたが、最近はそういうことはないですね。

――働き方改革も推進されていますしね。ただ若手は「働きたいのに働けない」ということもありそうです。

たしかに一つの企業を見つけて投資するまでには、結構大変なプロセスがあります。そこで時間の制限があると、デューデリが浅くなったり、経営者、経営陣との関係構築が浅いままプロセスを進めなくてはいけなくなるケースもでてきてしまうかもしれません。個人の成長や成果を出すという観点でも、ワークライフバランスの実現は悩ましい問題ですよね。

私は出資からIPOまである程度経験してきたので、効率的にできる部分もありますが、若手はなかなかそうもいきませんから。

――若手への指導で気を付けてらっしゃることはありますか。

OJTで、出来る限り多くの投資やEXIT、ハンズオンを実際に体験させるということですかね。

――今投資部にいらっしゃる方の男女比など構成を教えてください。海外の方もいらっしゃいますか。

海外出身者もいます。男女比でいうと男性が多いです。この業界は競合他社も含め男性がとても多いですね。ベンチャー経営とかベンチャー投資って、ハードワークなイメージが強く、今まではなかなか女性が入りづらかったのかもしれません。

しかし、最近では女性のキャピタリストが増えてきています。弊社にもCVC事業部に加藤(由紀子氏)というキャピタリストがいます。ヘルスケア、バイオ系に強く、Forbesの日本版The Midas Listでも2015年に1位になりました。他社でも女性が増えたなという印象のVCはいくつもありますので、これからもっと活躍の場が増えると思います。

取材・濱田 優(ZUU online編集長) 写真・森口新太郎 ※本インタビューは2019年に実施されたものです

(特集「ベンチャーキャピタル〜VCが果たす役割、起業家・投資家の期待〜」全7回、おわり)