資本家思考とは、自分ごと化である。渋沢栄一の玄孫(やしゃご、孫の孫)に当たる渋澤健氏(コモンズ投信会長)のインタビューから、「資本家思考とはなにか?」に対する一つの答えが導き出せた。

そこで、健氏の著書『渋沢栄一 100の訓言』(日本経済出版社)に記載のあった「日本資本主義の父」が残した言葉の中でも特に、自分の人生をコントローラブルにするために役立つ訓言をピックアップした。

日々眺めていれば「資本家思考」をより効率よく吸収できそうだ。

渋沢栄一の資本家思考#4
渋澤健氏の著書『渋沢栄一 100の訓言』と『あらすじ論語と算盤』(写真=森口新太郎)

資本家のスタンスを表す5つの訓言

・自分で箸を持て
かくお膳立をして待っているのだが
これを食べるか否かは箸を取る人のいかんにあるので、
御馳走の献立をした上に、それを養ってやるほど
先輩や世の中というものは暇でない。
【『論語と算盤』立志と学問】

・自分の足で立って生きよ
およそ人は自主独立すべきものである。
すなわち自営自活の精神は、
実に同胞相愛の至情とともに、人生の根本をなすものである。
【『渋沢栄一訓言集』処事と接物】

・順境も逆境も自分が作り出すものである
世人は、一も二もなく彼を順境の人と思うであろうが、
実は順境でも逆境でもなく、
その人自(みずか)らの力でそういう境遇を作り出したに過ぎない。
【『論語と算盤』成敗と運命】

・公益を口実に、他人に保護を求めるな
公益を口実にして
他の保護を求めるは日本人の通弊である。(中略)
世間には随分勝手な説を立てる者がある。
【『渋沢栄一訓言集』道徳と功利】

・「悪いことをしない」とは「いいことをする」という意味ではない
ただ悪い事をせぬというのみにては、
世にありて、何も効能もない。
【『渋沢栄一訓言集』処事と接物】

渋沢栄一は欧米での海外視察を生涯で何度か行っている。その経験からだろうか、日本人のある種の「受け身体質」を嘆いているようだ。

何もしないことを良しとせず、積極的にリスクをとることを正と見なしている。さまざまな人生があるだろうが、新しい時代をつくっていくときには、世の中のことを自分ごと化し、積極的に自ら動ける人間が必要なのかもしれない。

渋沢栄一の資本家思考#4
(写真=三越石垣会にて、大正12年8月3日、渋沢史料館所蔵)

欲との付き合い方に関する2つの訓言

・欲がない人はダメ
無欲は怠慢の基である。
【『渋沢栄一訓言集』一言集】

・人間は物欲の奴隷になりやすい
人情の弱点として、利欲の念よりややもすれば
富を先にして道義を後にする弊を生じ、過重の結果、
金銭万能のごとく考えて、大切なる精神上の問題を忘れて、
物質の奴隷となりやすいものである。
【『論語と算盤』仁義と富貴】

渋沢栄一は欲望が人の活力になり、国力を高めることにつながると考えていたようだ。確かにどんなに自分ごと化ができていても、大きな野望がなければ国を動かすほどのエネルギーにはなりづらいかもしれない。

一方で、欲がいき過ぎることにも警鐘を鳴らす。欲望を捨てるのではなく、上手にコントロールすることが人生をコントローラブルにするためには重要なのである。

お金との付き合い方に関する4つの訓言

渋沢栄一の資本家思考#4
写真=日本国際児童親善会。答礼人形送別会、日本青年会館、昭和2年11月4日。中央は粟屋文部次官、渋沢史料館所蔵)

・お金はうまく集めて、うまく使え
よく集めてよく散じて社会を活発にし、従って経済界の進歩を促すのは
有為の人の心懸くべきことであって、真に理財に長ずる人は、
よく集むると同時によく散ずるようでなくてはならぬ。
【『論語と算盤』仁義と富貴】

・信用すなわち資本と思え
信用は実に資本であって
商売繁盛の根底である
【『渋沢栄一訓言集』実業と経済】

・信用は信念から生まれる
信用は暖簾(のれん)や外観の設備だけで、
収め得られるものではなく、
確乎たる信念から生ずるものである。
【『渋沢栄一訓言集』座右銘と家訓】

・信じていないことは口に出すな
自分が信じぬことは言わず、
知った以上は必ず行うという念が強くなれば、
自然に言語は寡黙になり、行為は敏捷になるものである。
【『渋沢栄一訓言集』立志と修養】

渋沢栄一は「金もうけ」を前向きに捉えていた。一方で、資本とは信用であり、信用を生むのは信念であるという。信念を持つために大切なこととして、多くを語らないようにと釘を差していることも特徴的だ。

学び続けることに関する3つの訓言

渋沢栄一の資本家思考#4
(写真=朝の内飛鳥山邸で来訪者に会う。来訪者ゴルドン 栄一の右は通訳小畑久五郎、大正15年5月26日。渋沢史料館所蔵)

・毎日、新しいものを探そう
日々に新(あらた)にしてまた日に新なりは面白い、
すべて形式に流れると精神が乏しくなる、
なんでも日に新たの心懸(こころがけ)が肝要である。
【『論語と算盤』理想と迷信】

・理想を持って、人生を変化させよう
人は死ぬまで同じ事をするものではない。
理想に由(よ)って生きるのが、
趣味ある人の行動である。
【『渋沢栄一訓言集』座右銘と家訓】

・老人たちこそ学問をせよ
しかして文明の老人たるには、
身体はたとい衰弱するとしても、
精神が衰弱せぬようにしたい、
精神を衰弱せぬようにするは学問によるほかはない。
【『論語と算盤』立志と学問】

渋沢栄一はおよそ500の会社の設立に携わった。金融、通信、繊維、紙パルプ、食品、鉄鋼、ガス、電力……業種はさまざまであり、多岐にわたる。

渋沢栄一の頭の中には「時代が変化していくこと」に対する強烈な思いがあったのかもしれない。だからこそ、人間も時代に取り残されないよう、学び続けるべきだと説いたのではなかろうか。

仕事の効率アップにつながる2つの訓言

・細かくこだわりすぎる心は元気をすり減らす
あまりに堅苦しく物事に拘泥(こうでい)し、細事に没頭する時は、
自然に潑溂(はつらつ)たる気力を銷磨(しょうま)し、進取の勇気を挫くことになる(中略)。
潑溂たる活動をなし、初めて大事業を完成し得るものであるから、近来の傾向については、大いに警戒せねばならぬ。
【『論語と算盤』成敗と運命】

・忙しくても、二つのことを同時にやるな
いかに忙しき時とても、仕事を考えながら人と談話し、
談話しながら事務上に心を配るなどは、
過誤を招く所以(ゆえん)である。
【『渋沢栄一訓言集』諸事と接物】

ビジネスを行っていると思いのほか、本来的ではない仕事に時間がとられてしまうことがある。大事業を成し遂げる場合であればなおさら、関係者も多く巻き込む必要があり、外部要因による影響も受けやすい。完璧さや詳細にこだわりすぎず、前に突き進む勇気を持つことが重要なのかもしれない。できるだけ効率よく時間を使うという意味でも、状況に応じて仕上がりを「腹八分目」にとどめておくことはポイントだ。

また、中途半端に2つ以上のことを同時にやるのではなく、1つずつ仕事に注力した方が効率はよいだろう。

こうした「適度な力加減でやること」と「目の前のことに集中すること」という、一見すると相反する2つの行動をうまく使い分けることが、渋沢栄一は上手だったのかもしれない。

渋沢栄一の資本家思考#4
渋沢栄一の玄孫、コモンズ投信会長の渋澤健氏(写真=森口新太郎)

取材・山本信幸
写真・森口新太郎