「事業資本」の基本的な考え方や個人と法人の根本的な違いについてZUUの冨田和成代表取締役に聞いたインタビュー。今回は、ZUUの創業からこれまでの中で「事業資本」が生まれたといえる“転換点”について、また金融機関に勤める営業パーソンが「事業資本」の考え方を持つことによってどんなメリット、変化が期待できるか――などを聞いた。

経営者が思いを託し、ずっと残すことができるのが「法人」

――個人と法人の関係で思うのは、昨今、事業承継が問題になっているように、どうやって次世代につなぐかという点です。

経営者が会社を自分の子供にたとえることがあります。僕は、ご子息に対してでなく、企業や法人に対して自分の思いを託そうとする経営者はどんどん増えていくと思っているんです。子供に自分の遺伝子を託すみたいに会社に思いが乗り移らせることができれば、それは自分の死後もずっと生き続けていく。

本当の子供と比べていいのか分からないし、別モノだという意見もあるだろうけど、経営者の中には、会社こそが自分の思いや遺伝子を後世につなぐ手段と考える人もいるだろうと思うんです。

――さらにその会社の経営を誰に継ぐか考えたとき、昔は血縁で会社を相続する人が多かったけど、今は経営権を譲る先が実子とは限らないですよね。

その企業に遺伝子というか、理念とかビジョンというものは残り続けるものなんで。

――ただ、たとえばトヨタはある時期、豊田家以外から社長が出ましたが、創業家に戻りましたね。実子、血縁者でなくてもいいという考えがある反面、やっぱり子供に継がせたいという思いもあるのではないでしょうか。

トヨタの場合はリーマンショックがあったからというタイミングでしたが、それはさておき、たしかにそれはそうだと思います。ただ、名経営者が次世代の経営者候補をうまく育てられるとは限らないですよね。大手の企業で創業者、事業を大幅に拡大させた経営者の子息が自社にいても、なかなかトップまで上がれなかったりします。そういうケースは珍しくない。

――安田財閥の創設者である安田善次郎は跡を息子に継がせることにこだわったせいでうまくいかなかった。一方、そこにこだわらず、誰でも仕事できる人をどんどん引き上げていった三井弥太郎の三井物産は大きく成長しました。

だから多分、以前と比べて、そう(実子に継がせる)ならなくていいと考える人のほうが増えているし、ますますそうなるんじゃないかなと。「果たして自分の息子にやらせることが、その思いを紡いでいくために一番いいことなのか」と考えて、そう思うならそうすればいいし、子供以外に自分の思いを紡いでいく人材がいれば、その人に継承するようになっていくでしょう。

ただそういう環境や仕組みができているのはつまりガバナンスが効いた状態といえますが、関係者も増えているものだから、なかなか後継者が決まらなくなったりするんですけどね。

――ZUU onlineの読者には金融機関の営業パーソンも多いですが、この「事業資本」という考え方を持っておくと、アドバイスや提案内容、トークの仕方は変わるでしょうね。

僕は前職時代、よく、「社長は資産が飲食業界に集中しすぎだから、飲食業界じゃない資産や資本をポートフォリオに組み入れましょう」というような提案をしていましたし、経営者がビジネスを日本でやっていれば、自社株も含めて日本円建ての資産なので、「外国の通貨建ての資産も持ちましょう」という提案もしていました。

ただそれだけ言っても「はいそうですか」とはならないので、事業に関連する切り口で話を切り出したり、「別の注目業界の株を少し持てば関心が高まって情報収集にもつながります」というような話をしたりしていましたね。要はヘッジをするということです。

その方法として、たとえば飲食業界の経営者に対して、先ほどとは別の路線ですが「敢えて飲食業界のイノベーターの株を買いましょう」というような提案もしていました。自分の会社の業態とは違うところを買うことで、たとえ自社がうまくいっていない時期でも、全く違う業態なら好調かもしれない。

「選択と集中」という言葉がある一方、「ポートフォリオ経営」って言葉があって、これは相反するんですね。株の格言で「卵は1つのカゴに盛るな」というものがありますが、これは「分散しろ」ということですよね。ただ分散しすぎると、ポートフォリオ全体がインデックスの値動きとほぼ同じになっていっちゃうんですよ。東証に上場している企業100銘柄ぐらいに分散すると、おそらくほぼ日経平均225のインデックスの動きに似通ってくるでしょう。分散しすぎるとほぼ平均になるんですよ。かといって、1銘柄とか2銘柄だけに集中させると、それはそれでリスクなので、その案配が大事なんですよね。

アイデア・構想に投資したい人が現れた瞬間、「事業資本」が生まれる

――個人による法人設立・起業ではまず、どんな事業をするか、どうやって売り上げを立てるのかという「アイデア」だけある状態だと思うんです。それを具体化していくのが起業だとして、「アイデアはある」、逆にいえば「アイデアしかない」状態の人は、まだ事業資本を持ってるとはいえないでしょうか。

アイデアか構想を持っているのって、もうある意味、事業資本を持ってる状態になると思っています。資本とは、それに対して価値がつられる、現金や他の資本と交換可能という状態なので。逆に価値をつられないものは資本とはいえない。

ZUUも、2013年の4月に起業して1年4ヵ月後、2014年の8月に売り上げは月100万円もなかった時期、「1億円の資金調達をする予定です。現在の会社価値は10億円です、関心あれば言ってください」と何名かに声をかけさせて頂いたら、いろんな人たちが「出そう」って言ってくださったわけです。

――その瞬間が大きな転換点なのでしょうか。

「価値がついた」という意味では、そうかもしれません。ただ起業のときに僕が株を92%もって、あと8%は入れてもらったので、それは僕がやろうとしていたことに価値を見出してくれたからですよね。彼らは無給で1円もお金もらってなくて、将来の株のリターンを信じてお金を出してくれたので。その時点で事業資本が個人のバランスシート上に出現したといえるのかもしれません。

――アイデアに「これは価値があるな」と思って、出資や投資する誰かが生まれた瞬間に……。

変わるという感じですね。クラウドファウンディングがそのハードルを下げてくれましたよね。価値をつて「投資したい」「応援したい」っていう人たちが出てきたわけじゃないですか。アイデアに対してお金がつくのが早くなりました。

事業資本というものを意識したほうがいい理由として、起業がしやすくなった分、形にしたり継続したりするのは難しくなっていると思うんですよね。

サービスオフィスやコワーキングオフィスが増えてオフィスのコストを下げられるとか、起業へのエントリーコストが下がった。でも同じようなことを他で考えてやろうとしてくる人も絶対いるし、すぐに競合が現れるわけです。エントリーコストが下がるってのは、そのエントリーしてくる人たちの数が増えるわけなので、当然です。

だから1つのビジネスモデルが長い間成り立ち続けることが少なくなってきたと思うんですよ。エントリーコストが下がる分、競合も多くなる。かつ情報の伝達スピードが速いわけですから、常に事業資本を磨き続け、アップデートし続けないといけない。だからZUUもどんどん新しいモデルを作って出し続けていくつもりです。

先にも出た、「選択と集中」はGE社のジャック・ウェルチの言葉として有名ですが、GEはそれこそこれまでに数百の事業から撤退しているんです。いっぱい事業を立ち上げて、その中でナンバー1かナンバー2のものだけ残してあとは撤退する。そういう明確な戦略なんですよ。これは世の中の変化が激しいってことを前提に企業を運営してますよね。見過ごしちゃいけないのは、成功してナンバー1、ナンバー2になった事業の裏で、数千、下手したら1万近い事業が立ち上げられてるところなんです。

――やる前に選択して集中するんじゃなくて、やってから選択して集中する。

選択と集中を常にしながら、一方でずっと種まきもしまくってるっていうことです。日本企業の分析なんかで、不採算事業を切りまくるだけで「選択と集中だ」とか言うんですけど、それは「選択と集中」の意味をはき違えてると思うんですよ。

不採算事業を切りまくった結果、新しいものが出てこなくなった、イノベーションが起こらなくなったって、日本企業の研究でもよく言われてますね。