企業経営における三大資源は「ヒト・モノ・カネ」といわれるが、個人の「人生経営」においても同様に「ヒト・モノ・カネ」が重要である。

今回はZUUの冨田和成代表取締役に、「事業資本」という考え方の重要性や、個人もその考え方を取り入れたほうがいい理由について聞いた。

「事業資本」とは――金融資本、人的資本との違い

事業資本, 特集
(画像=Minerva Studio / shutterstock.com)

――ZUUでは、個人もB/Sを作ることの重要性を指摘しています。その中に「事業資本」という考え方がありますが、その意図や定義、どういう経緯でそこに至ったのか、などをうかがいたいと思います。

まず“資本”というものを大きく4つに分けて考えていて、そのうち最も一般的なのは「金融資本」と「固定資本」ですよね。そのほかに「人的資本」と「事業資本」と分類しています。個人でも法人でも、資本というものを考えたときに、同じものとして一緒くたにすると扱いづらいんです。特に人的資本と事業資本の間に大きな乖離があって、もう1つは、金融資本と事業資本の間に大きな乖離がある。

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(画像=BUSINESS OWNER LOUNGE編集部)

――人的資本と事業資本の間の乖離とはどういうことでしょうか。

その一番分かりやすい例は、『大富豪が実践しているお金の哲学』(クロスメディア・パブリッシング)の帯にも記載した「大金持ちは仕組みで稼ぐ」ということかなと思います。

会社員、いわゆるサラリーマンは人的資本を使ってお金を稼いでいるわけです。時間給というか、固定給をもらって生活するのって、時間を費やしてお金を稼ぐという意味ですから。敢えて過激にいえば「時間の切り売り」をしているともいえます。

もちろん「自社の持株会に入ったり、ストックオプションとか持ったりするとそうじゃなくなる」わけですが、固定給で働いてる状態っていうことは、要はそういうことですよね。

たとえ独立したとしても、「まだ自分が動いて稼いでる」って状態は、あくまでもまだ時間売りの状態で、だから「人的資本」寄りの状態です。

ここで分かりやすく編集者の仕事でたとえると、編集者が一人で業務をしているうちは「人的資本」ですが、プロダクションを作って社長になって、自分はもう一切編集や執筆をしないという形を作ったとする。その仕組みで勝手に回っていくみたいな状態になると、これはもう、そこで生み出されるものは「事業資本」といえるということです。

――なるほど。それでは「金融資本」との違いはどう解釈すればよいでしょうか。なぜそれを区別したほうがよいのでしょうか。

たとえば自分の会社の株を持つとき、その会社の株は金融資本というよりも事業資本ととらえたほうが扱いやすいと思ってるんです。

先ほどの編プロの話を例にとると、株式会社にした場合、その会社の株と、トヨタやソフトバンクなど上場している企業の株の値動きって、コントローラビリティが全く違っていますよね。自社の株については、自分がその事業に影響を与えることができるけど、上場企業などへの株式投資はそうはいかない。

かつ流動性も全く違うわけです。流動性ってシンプルにいえば「売却を気軽に、かつ直ぐにできるか、できないか」です。上場企業でも(自社の株は)そんなに簡単に売却できるわけじゃないんですけど、でもトヨタの株の例で考えると、金融資本として持っている株は、売りたければ直ぐに売れるし直ぐに現金に変わるわけなんですよね。市場が開いている間なら、売り発注をワンクリックして終わりですから。

そういう意味では、そもそも性質が違うものなので、同じように扱わないほうがいい、違うものだと思うんですね。

その代わり、流動性が低かったりとかリスクが高かったりする分、事業資本ってリターンが大きくなるわけです。

前職でもやっていた「事業支援」 経営者が嬉しいのはそこにある

――そういう発想に至った経緯が気になります。ZUUの上場も契機かとは思いますが。

前職のプライベートバンカー時代も、僕がやっていたことは感覚としては事業支援なんですよ。お客さんはほとんど経営者だったんですが、経営者を支援するのが僕は好きだったし、経営者から最も必要とされていたのも事業支援だった。

もちろん金融資本面からも支援はするんですけど、でも事業資本の部分の支援はすごく頑張っていたんです。僕も大学時代から自分で事業をやっていて、関心が高かったこともあるんですけど、事業支援やってるときが一番喜んでもらえたんですよね。それが段々と分かってきて。まあ考えてみると、事業をやってる人は事業が伸びることがそりゃ一番嬉しいですよね。

ただ、にもかかわらず、事業を支援するっていう僕からすると当たり前なことを真剣に頑張っているバンカー、金融マンってほとんどいなかったんですよ。人不足で困っている方がいたら、経営者と人材会社とのマッチングもしたし、営業先を探してたり、事業提携先を探している場合などは、経営者同士、事業同士のマッチングもした。それは資金調達でも同じで、だから前職時代に、あるエンジェル投資家を紹介した企業の創業者の方(現在東証一部上場)は、今でも会う度に感謝の言葉をかけてくれますからね。

――昔はそういうことをしてくれる人が少なかったと。

ええ。でも僕がこうして経営者という立場になって、今ではいろんな金融機関さんがこの部分をだいぶ重要視してきていて、弊社もそうですが、マッチングしてくれるようになっているという変化は感じています。もはや、これからは金融機関が事業支援をしてくれるのが当たり前になっていくと思います。

富裕層の職業比率トップでもあるオーナー系経営者のバランスシートってのは、たいてい自社株が多いですよね。つまり事業資本が一番大きいわけです。以前、これを(株だからと)金融資本としてとらえていたときはハラオチしなかったんですけど、経営者にしてみれば、たとえば会社のマッチングをしてもらえるほうがありがたいわけですよ。

だから経営者は、「こういう(個人で)儲かる商品があるんですけど」とセールスされるより、事業が伸びることにつながる提案のほうが嬉しいわけです。それは資産が増やしたいからというより、事業が一番力を注いでいることだから。もちろん、それでもって、さらに事業が成長すれば資産も積み上がるわけで、尚更なわけです。

あとシンガポールにいたときに、あるマレーシアの上場企業の経営者と親しくさせてもらっていたんですね。彼はお金が大好きな人で、これは僕が日本円にして5億円くらいのボンド(債券)の提案をしたときの話なんですが、当時2011年くらいで、欧州ソブリン危機の時期だったので、すごく利回りも上がってきて、たとえば欧州金融機関の債券の中で10%ぐらいのものも出てきていたんですね。それをぶつけると、彼からは、「すごいいい提案だ、ありがとう」としたうえで、「だけど冨田さんね、僕はこの提案された(日本円で)5億円を事業に突っ込むと30%で回せるんだよ」と言われたんですね。

――30%なら当然そのほうが嬉しいですね。

債券で運用すると10%で、これでも相当いいパフォーマンスなんですよ、乱暴にいえば、債券なら償還期限まで(発行体が)つぶれなければ基本的には戻ってくるわけですから。

でも事業なら30%のパフォーマンスになると。もちろん流動性が全く違いますよって話はあるのですが、そう聞いちゃうと、30%にはまず勝てないですよね。利回りの数字もそうだし、自分のバランスシートの一番太い部分を強くできるんだから。

10年くらい前って、事業資本を持つことって、誰にでもできることという認識はなかったと思うんですよ。ただ今はもう変わってきている。それは圧倒的に起業コストが下がってるからということもある。だから独立する人たちが世の中に増えているように思うんです。

それはいいことだし、事業資本でとらえたほうがリターンにつながるかと思います。

クイーンが稼ぎ続けられる理由・個人と法人の根本的な違い

――ただ「事業資本」の考え方は、何も上場を目指している起業家、企業経営者だけじゃなくて、会社勤めをしているビジネスパーソンにも当てはまる考え方ですよね。

その通りです。いわゆる企業経営者、社長かどうかということとは関係ないです。また、1人でも、また3人や5人という少人数で一緒にやっているのでも同じです。

さらに、個人でやってはいるけどフリーランサーを数人束ねながら仕事を受けて回している人もいますよね。そういう人が生み出しているのはもう事業資本といえるでしょうし。

実は今、「今の資本主義の時代をどう生きるか?」というテーマで書籍を執筆する準備に入ってるんです。そのインタビューの中で話しながら改めて思ったことなのですが、個人と法人は根本的に違うって思っているんですね。

個人と法人って両方とも「人」なわけです。「個の人」と「法の下の人」。そしてその大きな違いは、法人にはある意味寿命がなくて永遠に生き続けることができるってことなんですよ。中には事業承継がうまくいかなかったり、倒産するところもありますから、引き継がれ続ければ、という前提ですが。

個人にはどうしても寿命っていうものが、少なくとも現在の世界では避けられないわけなので、個人のブランドで稼ぎ続けるのは難しいんですよ。たとえば、思い付きですが、美空ひばりさんくらいのブランドで、有名なみそらひばり記念館みたいなものを設立し、そこがいつまでも人が来続けるような存在になれば、もうご本人が存命していなくても事業になってますけどね。

そこでポイントなのは、たとえば個人に対して100億円の発注をすることはまずないだろうってことなんです。本当にないかどうかは確かめたわけではないですが、実際問題やりづらいですよね。おそらく普通の個人なら(売り上げ)10億円レベルでも難しいでしょう。メッシ選手とか海外の一流アスリートで数十億円で、さらには選手でいられる期間は短い。

でも法人に対してだったら、数百億円規模の取引をすることだってあり得ますし、実際にそれ以上の法人はたくさんあるわけですよ。それこそAppleはスティーブ・ジョブズという個人のブランドによって大きく成長しましたが、彼がいなくなってもAppleは健在なわけですよ。ティム・クックが引き継いで大きくしている。これは法人だからなわけです。

ここに個人と法人の根本的な差、信用社会においてどれほどの信用がつくか、という点があると思うんですよ。

――クイーンとかもそうですね。もうフレディー・マーキュリーはもういませんが、映画化されて存命のメンバーはかなりお金が入りそうだとニュースで読みました。

あれはもう「クイーン」っていうブランドになっていますし、レーベル、組織になっている。そこには根本的な差があると思います。

だから「個人でも信用がつくんですよ」って言ってる人は少なくないけど、そんな小さな差じゃないんだと思うんです。完全な個人事業主が「個人でもブランドがあるから、この法人よりは僕に発注したほうがいい」というのは正しくないと思います。

個人と法人は根本的に違っています。法人は全部決算で常に締めて、納税して国が管理していますし、決算書というものがある。では個人が法人のように資産をすべて開示するのかというと、開示しないですよね。

それに今の時代でも、信じがたいことですが夜逃げしちゃう人もいるし、個人の場合は、不慮の事故で亡くなってしまうかもしれない。だから数十万円やせいぜい100万円の取引ならまだしも、もっと大きな額の取引を個人とするのは、法人の経営者にとっては怖いと感じてしまう。

一方の法人は何十、何百というお客さんがついたら、そうそう逃げられないですし、資産の状況も明らかにしている。たとえ担当者が、それこそ代表者がいなくなったり替わったりしても、法人としては続くし、別の誰かが窓口になってくれるから、基本的には取引は続けられる。だから信頼して、法人に発注が来ると思うんです。

――お金の使い方についても違いがありますね。個人で稼いだお金は、当たり前ですが個人が生きてる間に使いたいものでしょう。一方で、法人で稼いだお金って、たとえ100億円規模のお金を稼いだとしても、そう簡単に経営者が使うわけにはいかない。

法人や経営者の信用にかかわりますからね。経営者が好き勝手できる部分は、会社が大きくなればなるほど薄まります。つまり法人のほうが詐欺だとかあからさまな仕事の手抜きだとか“変なことが起こりにくい”という前提がありますね。中には使い込んじゃうような経営者もいますが、ある一定以上の法人になっていけば、基本的には社内の監査の仕組みをはじめ、牽制がかかる、チェックする体制や仕組みというものがありますから。