個人も取り入れるべき「B/S」というフレームワーク、そして「事業資本」という考え方。その重要性について聞いたインタビューの最終回。こうした考え方が広がっていくことで、今後社会がどう変化する可能性があるのか。会社員の働き方、仕事観、会社との関係性も大きく変わりそうで、たとえ「今は起業なんて考えていない」というビジネスパーソン、サラリーマンにとっても影響は必至といえそうだ。

正社員でなくてもよくなり、サラリーマンの会社との関係性も変わる?

事業資本, 特集
(画像=Foxy burrow / shutterstock.com)

――BUSINESS OWNER LOUNGEの読者の多くは経営者・会社員だと思います。ビジネスパーソン、サラリーマンに向けて考えるべきことはありますか?

最初に「人的資本」の話をしました。以前は勤め先の企業で会社員としてずっと頑張っていくという人がほとんどで、“普通”でしたが、最近はいろんな形が生まれています。その一つがよく出てくる副業ですよね。副業をしている状態は、“分散”の状態に近づいていて、メインの仕事以外で生み出すお金などで仕組み化をすることができたり、固定でない取り組みなどができたりすれば、それは事業資本に徐々に近づいていると思います。

あとはサラリーマン大家さんも一つの固定資本運用の形ですが、会社を作ってそこで不動産を管理・運営する仕組みができていくなら事業資本に近づいていきます。個人で持っているうちは固定資本だったものが、法人として不動産を回す事業になった瞬間に意味あいが変わる。

固定資本ですらそういう風に位置づけが変わるし、フリーでも働きやすい状況になってきた。『ライフシフト』の中で指摘されているポートフォリオ・ワーカーはこれに近いような考えだと思います。

――そういう考えや働き方が広がっていくのはいいことなんでしょうか。

「いいか悪いか」を結論づけるつもりはないんですが、そうなっていくものだと思ってますね。

それで僕は、他者に信用してもらいたいんだったら、個人も資本データを開示するようになると思っています。今のバランスシートや人脈を明らかにする。すると、「この人はこの人ぐらいお金を持っているから夜逃げするようなことはまずないだろう」「この人は信頼度の高い人から評価されているから信用できる」と評価されるわけです。

そうなると嘘をつけない世の中になっていく。なぜ嘘をつくかというとインセンティブがあるからですよね。嘘をついて、その場をしのげるとか、相手によく思われるとか。

中国はいいのか悪いのは賛否あるのでしょうが、監視社会といわれていますよね。あらゆるものがスコアリングされて、見える化されてしまっている。でも成り立ってるんですよね。

そういう社会を、ニュースで見て嫌がる人もいるだろうけど、実は5年とか10年とかたったら、僕らもそっちのほうが楽だと思ってるかもしれない。だって嘘つく人、罪を犯す人が減っていくかもしれないわけですからね。いずれにせよ資本はどんどん可視化されていくと思います。

――働き方、サラリーマンの会社との付き合い方ももっと変わっていくでしょうね。

僕は、多分近い未来、フルタイムである企業で働いている社員が、個人で株式会社を作って、元の所属先の企業と契約を結んで、その個人会社に業務を発注して……というようなことが起きていくと思うんです。そっちのほうがリターンが大きくなると思うし、自由度も高まると思うんですよ。

もちろんその分緊張感は生じるとも思いますが。いずれにせよ現状は、企業と個人の関係が、あんまり適切でなくなってきていると思います。どちらもあんまりハッピーな状態じゃなくなっている。

――正社員でいるインセンティブも減っていくと。

会社側にしても、正社員の採用をなるべく減らしていくはずだと思いますね。そして個人はさらに、事業資本や人的資本を高めることに本気になっていく。さらにそうなっていくじゃないかなと思います。

――社員で抱えなくてよければ、従業員も増えていかなくて済みますね。いわゆる大企業が減っていくこともあり得るんでしょうか。

その可能性はあると思います。「大企業じゃなきゃ信用が得られない」という考えが薄れていくでしょうから、それはあり得るんじゃないですかね。

ただ正社員は少ないんだけど、業務委託で働いている社員が多くて業績を伸ばしてる企業もありますよね。

それに税制面でのリターンも個人より法人のほうがよくなることが多いのが実際です。よく「年収1,000万円もらう人が世の中で一番不幸」という言い方をするんですけど、1,000万円もらったら所得税や社会保険などもろもろで、本人の状況によって少しずつ差はありますが、ざっくりいって750万円程度しか残らないし、2,000万円になったらさらにとられる。もっと高くなれば所得税と住民税の合計で最高税率は55%まで上がっていきます。

法人税も今は下がってきてるわけで、ある一定以上の年収になると、給与所得として受け取ることが、割が合わないと考えてもおかしくない。そうなると、もう事業体になったほうがいい。

法人ならコストが使えるというのもありますね。交際費が800万円まで損金算入される特例措置もあって、法人化することで、いろいろかかるお金がコストにできる。

ちょっと乱暴だけど分かりやすくいうと、法人で1,000万円稼いでも、生活と関連するお金が交際費とかで計上できたとして、それが400万あったとしたら、400万円を差し引いた600万円に対して課税されるだけだし、法人税は減税傾向にあり、20%前半台に突入してきました。こう比較すると残る額が多くなりますよね。

まあみんなが事業会社を作るようになったら、税率が変わる可能性は十分にあるとは思いますが。

トラックレコードを大事にせよ

――最初の「アイデア×自分」を見せるときに、気をつたことは何でしょうか。

マーケットポテンシャルの大きさです。開拓できた場合のマーケットサイズが大きいこと。そこに課題を感じている人たちが多いということです。課題に思ってる人が多いということは、解決できたら大きなインパクトがあります。

あとは実現可能性があるということです。「こういうやり方だったらできるだろう」と。「できたらすごいけど、できっこない」ことを訴えても誰からも評価されない。

――あと、アイデアがあることだけではなく、自分がそれを実現可能な人間だと証明することも大事ですよね。

それは自分自身のトラックレコード(過去の会社)が証明してくれると思うんですね。自分がこれまで、どこでどんなことをしてきたか、だから今回のチャレンジも成し遂げられる可能性が高いと。ただ残念ながら、自分のトラックレコードを自分の手で汚してしまう人が多いですよね。自分のトラックレコードを批判するとかね。

「いや、めちゃくちゃいい会社で、その中でこんな結果出せたんだよ」っていうほうが単純にトラックレコード上大きくプラスなのに。そりゃ大変なことはあると思いますよ、でもそれを言ったって仕方ないし、僕も野村證券時代、正直すごく大変でしたけど、「めちゃくちゃ大変だけど、その中で鍛えられた、あの環境だから今がある」とか「◯◯な機会も、△△な機会も、自分自身を大きく高めた素晴らしい機会をいっぱいいただいた」とトラックレコードを語るようにしている。「自分がいた会社はレベルが低かった」と発言するということは、「自分はレベルの低い会社にしかいられない人間だ」って言っちゃうのと同じですからね。トラックレコードをどう見せるか?これは意外とできていない人が多いと思います。

――たしかに、モテる男は昔の彼女の悪口、言わない気がします。

そうなんですかね(笑)。その人を見るのに一番分かりやすいのがトラックレコードだと思うんですよね。もちろん話したときの感じとかも重要ですが、トラックレコードのほうが信用性があると思っています。

文・BUSINESS OWNER LOUNGE編集部