決済手段に「キャッシュレス化」の波が押し寄せている。さまざまな企業からQRコードなどに代表される二次元バーコードを利用したモバイルキャッシュレス決済サービスがリリースされ、国内でも利用者は徐々に増えている。

ただし、日本における決済手段のキャッスレス比率は2割程度と、先進国の中では最低水準である。なぜ、日本ではキャッシュレスの普及が遅れたのか?今後どのような動きを見せるのだろうか?キャッシュレスが社会にもたらす変化について「NCB Lab.」代表の佐藤元則さんにインタビューを行い、その未来を予測してみたい。

キャッシュレス決済には歴史がある。中国でキャッシュレス決済がここ数年で急速に普及した背景には、クレジットカードに端を発する、キャッシュレスの歴史が深く関わっていた。

佐藤元則(さとうもとのり)さん
NCB Lab.代表。1952年生まれ。1989年にカード・決済専門コンサルティング会社の「株式会社アイエスアイ」を設立。日本初の自由返済型クレジットカードや国際ブランドつきデビットカードなどを開発。1997年に日本カードビジネス協会(現NCB Lab.)代表に就任。キャッシュレス社会の普及とニューペイメントの発展に取り組み、NCB Lab.として年間600回以上のセミナーを開催している。著書に『金融破壊者たちの野望』(東洋経済新報社)などがある。https://www.ncblibrary.com

キャッシュレスの始まりは米国

キャッシュレス
(画像=Nattakorn/stock.adobe.com)

──まずは、キャッシュレス決済の歴史をおさらいさせてください。

いま、キャッシュレスといえば「PayPay」などのモバイル決済という印象があるかもしれませんが、最初の「キャッシュレス決済」はきっと多くの方がお持ちの「クレジットカード」を使ったものです。

1950年にダイナースクラブが発行したものがクレジットカードの始まりとされていますが、当時はクレジットカードではなく「T&E(トラベル・アンド・エンターテインメント)カード」と呼ばれるものでした。

──旅行や娯楽で使うもの、ということですか。

ダイナースクラブの創業者が友人と食事に行った際、財布を忘れてしまって支払いができなかったというエピソードから生まれたということです。現金を持っていなくても信用があるから食事ができる。支払いは翌月でOKという簡単なしくみのものでした。

クレジットカードの誕生はもう少し後で、ダイナースクラブの後をアメリカン・エクスプレスが追随し、さらにバンク・オブ・アメリカなどの銀行が参入した時です。

当時の銀行が担っていた機能は大きく分けて預金・融資・決済(為替による送金)の3つでした。このうちの融資の拡販をめざすなかで、「翌月に支払えない場合にローンを使える」という手段を開発したのです。

──カードの支払い時に残高が不足していても、ローンでまかなえるということですね。

T&Eカードは「翌月一回払い」のみ。クレジットカードは、銀行のローンを利用して少しずつ支払うという選択肢ができたというわけです。これが現代でいう「クレジットカード」の始まりだったといえるでしょう。

スマートフォンの登場で、モバイル決済も加速?

──クレジット文化の次に登場したのがモバイル決済です。モバイル決済誕生の時代背景はどのようなものだったのでしょうか?

クレジットカードはいわゆる与信商品で、カードを発行してもらうには審査が必要ですよね。審査の必要ないデビットカードも登場し、こちらも米国では広く使われています。

一方で、2007年にはiPhoneが発売され、スマートフォンの普及が進み始めました。当時、日本では「おサイフケータイ」に代表されるような、IC内蔵型の非接触決済機能を持った携帯電話が販売されていました。

──ありましたね。「タッチするだけで簡単決済」というようなキャッチコピーをよく見ました。

ただ、当時の携帯電話には、機種によって非接触決済機能があるものとないものが混在していました。また、「Apple Pay」や「Google Pay」などもiPhoneのみ、Androidのみと対応端末が限られていて、カード以上の利便性が見出されず、大きく普及はしませんでした。

さらに、こうした非接触決済機能には専用の端末も必要で、各手段に対応するためのお店側のコスト負担も5~10万円ほどと大きく、これも普及を阻んだ要因といえるでしょう。

“カードが使えない国”で、モバイル決済が爆発的に普及

──米国はクレジットカードやデビットカードなどの“カード文化”が浸透していますが、モバイル決済はどうでしょうか?

クレジットカードの利用が浸透した国では「カードがあれば事足りる」とモバイル決済を使わない人もいます。

反対に、経済発展が後から進んだ中国では、モバイル決済の利用率が大きく伸びています。そこには、「カード対応インフラがなかったこと」が大きく関係しているんです。

──つまり、クレジットカードを使える場所が少なかったということですね。

中国は国内での経済格差が大きく、与信どころか銀行口座も持っていないためにクレジットカードを持てない国民が大勢いました。また、非接触決済機能も導入にコストがかかるため、個人商店や市場では普及しにくい環境でした。

つまり、「銀行口座を持っていない国民が多く」、「カードを使えるお店も少ない」から、クレジットカードは普及していなかったのです。

そこで脚光を浴びたのがモバイル決済です。ユーザーにコードを読み込んでもらうタイプの決済方法なら、お店側は印刷した二次元バーコードを店先で貼っておくだけで対応でき、導入コストを大幅に下げられます。

──お客側のメリットはどのような点でしょう?

中国で最も高額な100元紙幣は、偽札も多く流通してしまっています。その中で、モバイル決済であればお金はデータ化されているので、偽札を持たされてしまうリスクがなくなります。お店にとっても同じで、偽札をやりとりすることがなくなります。

そしてやりとりされたお金は同様にデータとして、即座に使うことができます。導入の簡単さと利便性で、2014年頃からモバイル決済の利用が大きく伸びました。

クレジットカードを受け入れるインフラがなかったからこそ、現金に変わる新たな決済手段として、モバイル決済が選ばれたという形ですね。

***

クレジットカードの誕生に端を発するキャッシュレス決済の歴史と、新たに登場した決済手段であるモバイル決済について現状を教えていただいた。

日本でもさまざまな「〇〇Pay」などのモバイル決済サービスが登場し、群雄割拠の様相を見せているが、世界と日本ではその普及のスピードや形に違いはあるのだろうか?続けて、キャッシュレス普及の進捗状況について、国際的な視点から見てみたい。

取材、文・藤堂真衣