人生において最も重要な資本である「健康」を維持し、QOLを上げていくために必要な健康知識を聞く内科医・名取宏氏へのインタビュー。健康維持するために必要な食事について聞いた。

これまで調査されていないものは原則眉唾

我慢
(画像=stock.adobe.com)

――「ブルーベリーは目にいい」「シジミが二日酔いにいい」といった食事に関する情報はある程度、当たり前のように受け入れられていますが、それほど効果がないのでしょうか。

それほど効果も期待できませんが、極端にとりすぎなければ問題ありません。つまらないかもしれませんが、現実はやはり「さまざまなものをバランスよく摂取する」ということが一番重要です。

残念ながら、そんな当たり前のことを書いた本は売れないでしょう。売れている本は「ふくらはぎ揉むだけで健康になれる」といった出オチ的な内容も多いですから。

――読者側にも「分かりやすく努力したい」「簡単に健康になりたい」という欲求があるんでしょうね。

そうした部分はあると思います。「これだけ苦労したからリターンがあって然るべきだ」といった意識もあるでしょう。

――スッポンも一般に精力増強に効果があるとされていますが、著書の中に「プラシーボ効果ぐらいはあるかも」と書かれていてショックを受けました。

これも検証されたことがないですよね。

スッポンを食べた人と食べてない人をグループ分けして経過観察するというような実験はこれまで聞いたことがありません。単純なイメージでそう言われているだけなんです。ですから、やはり、これまで調べられてないものは、基本的には眉唾だと思った方が良いでしょう。

タンパク質ではあるので、タンパク質が不足しがちだった時代は「食べたら元気になる」ということぐらいはあったかもしれません。しかし、加熱して食べるわけですから、それほど特別なものが入っているとは考えにくいですね。

――テレビなどで、さも効果がありそうなCMをよく見かけますが。

大手企業のCMは薬事法に触れないようにした上で、いかにも精力増強になりそうに仕上げています。

そもそも本当に効果があるなら私だって処方します。成分がしっかりと研究されて、スッポンエキスが本当に精力増強になることが明らかになれば、儲かるでしょうから製薬会社が商品にしているでしょう。

そうなっても保険は効かないかもしれませんが、少なくとも薬としては販売されることになると思います。効果が明確に証明されていないから、ぼんやりしたキャッチフレーズだけで販売されているのです。

――そう言われると反論できないですが、何だかがっかりしてしまいますね。

ただ、おそらくスッポンは生で食べなければ害がないので問題ないと思います。

味も悪くないですし、「精力増強になるかも、わはは」と楽しく、美味しく食べるのであれば、まったく問題がありません。ただ、錠剤にしたものを毎日高いお金出して飲むのはもったいないという話です。私も美味しいスッポンを食べてみたいですよ(笑)。

お酒も有害だが我慢もほどほどに

――お酒も「百薬の長」などと言われていますが、最新の研究では有害だという論調が多くなってきているそうですね。

私自身もお酒は飲むので、とても残念なのですが少量の飲酒でも健康に悪影響があるという報告が多くなってきています。なので、害があることを理解した上で、節制しながら楽しく飲むぐらいがちょうどいいと思います。

――タバコほど「明らかに害」というわけではないのですか?

ここは難しいところなのですが、少量から中量ぐらいの飲酒であれば、タバコの害のほうが大きいのですが、大量になるとアルコールのほうが害の度合いが大きいと思います。

アルコール依存症になると、仕事もできない、家庭環境も崩壊するという事例もよくあります。一方、ニコチン依存症の人は、タバコ臭くて迷惑ではあるけれど、仕事は普通にできるし、家庭が壊れることもそれほど多くないでしょう。

なので、タバコとアルコールで、どちらの害が大きいかというのは、明確には言えません。飲酒運転のように酔った末に起こす犯罪なども加味するとアルコールの社会全体へのインパクトは大きいので。

――なるほど。

私自身もお酒を飲みますから、タバコを吸う患者さんに、「絶対やめろよ」と言うことはできません。「タバコは害があるし、禁煙外来という方法もあるので、どうですか?」というぐらいです。

――明確なエビデンスがあるものが少ない中でも「これは多少効果があるかな」「あるかもしれない」という例もあります。具体的にはナッツや玄米や果物などですが、こちらもあまり縛られず、様々な選択肢の中で自分の人生の満足度を下げない程度の中で意識してやるのがいいということでしょうか。

玄米も昔はまずかったと言われていますが、今は食べてみたら意外とおいしいですから。 そういうものは、ぜひ試していただいて、「口に合わないな」と思ったら、別のものを試せばいいと思います。

同じものを長期間にわたって大量に食べるのは良くありません。現代人は忙しいので仕方がない部分もあると思いますが、それこそファーストフードや牛丼といったものを毎日食べていると、栄養が偏ってしまいます。

なので、お金と時間が許す範囲内で、比較的体にいいもの、具体的には野菜、玄米、果物、ナッツなどですが、そういうものを試してみるというのはいいと思います。

――日々、患者さんとお話しされていると、変な食べ物にはまってしまう方もいるのでしょうか。

これは本にも書いたのですが、ある日、患者さんから「先生、酢納豆が血圧を下げるって本当ですか?」と聞かれたことがあります。インターネットで検索してみると、山ほど出てきてびっくりしました。「今の流行り、これかあ」と思いましたね。

醤油の代わりに酢を使えば塩分が減るので本人が美味しければ、そういう食べ方も良いとは思います。しかし、私は「別々に食べれば良いのに」と思いましたし、その患者さんも「美味しいとは思ってない」と言っていました。なので「なら普通に食べていいですよ」と言いました。

有害なものや効果がないものに注意を払うことは当然ですが、我慢しすぎるのも良くないと思います。

たとえば、80歳ぐらいの方が入院された際に高血圧の病名がつくと自動的に塩分制限されることになります。その人に「梅干し食べさせていいですか?」と、ご家族などから聞かれたりするのですが、「いいじゃないか、梅干し1個2個食べても」と私は思います。

高血圧の病名がついていて、塩分制限が必要だから、梅干しなんか食べてはいけないというのもわかりますが、そこはQOLとのバランスだと思います。もちろん「塩分取り過ぎたら死んでしまう」という人は仕方ないですが、実際にそんなケースは稀です。

「塩分取り過ぎたら、少し血圧上がるかなあ」程度であれば、高齢者が「自分が漬けた梅干し食べたい」という希望を制限することに、それほどの利益はないでしょう。

医療の目的として、「個人のQOLを損なわない」ということもあると思うので、QOLを損なってまで塩分制限するのはおかしいと思います。糖尿病や肥満の治療においても同じですが、制限することにはデメリットもあるということを自覚するべきだと思います。

――最低限のところを守りながら、楽しみながら健康を目指すべきということですね。

そうですね。最終的にはバランスが重要です。

個人への助言であれば、その人の食生活などを聞いた上でお話できますが、一般的な話をするのであれば、あまり具体性はないですが、やはりバランスよくということになります。

昔、「1日30品目食べましょう」といった標語がありました。「バランス良くいろんなものを食べましょう」という程度のキャッチコピーだったのですが、真面目にやりすぎる人が「今日は29だから、あと1品目食べる」と考えた結果、食べ過ぎてカロリーオーバーになってしまうケースもあり、現在では使われなくなりました。

なので、つまらないかもしれませんが、あまり極端なことはせず「運動して、バランス良く食べて、禁煙する」ぐらいのことを意識すると良いでしょう。その上であまり我慢が必要ない健康法に取り組むのが精神的にもコストパフォーマンス的にも良いと思いますね。

医師が教える 最善の健康法
名取 宏(なとり・ひろむ)
内科医。医学部を卒業後、大学病院勤務、大学院などを経て、現在は福岡県の市中病院に勤務。診療のかたわら、インターネット上で医療・健康情報の見極め方を発信している。ハンドルネームはNATROM。

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