創業以来、手塩をかけて育ててきた会社の成長の実感として、「上場」を意識している経営者は少なくないだろう。上場は3年以上時間をかけて準備する必要がある大仕事だ。間もなく予定されている東証の新市場区分も交え、上場のステップを解説する。

目次

  1. 上場とは?上場で得られるメリットやステイタスは?
  2. 日本の株式市場の現況を知ろう
    1. 東証運営4市場がまもなく3市場に集約される!
  3. 東証新市場区分の特徴は?
    1. 新3市場の主な企業規模に関する新規上場基準の違い(東証2020年2月21日公表分)
    2. 想定される新3市場の特徴
  4. 上場までの流れはどうなる?
    1. 上場準備に必要な期間
    2. 上場に必要な体制構築
  5. あえて上場しない企業に見る上場のメリットとデメリット
    1. 上場を志向しない著名企業に見るケーススタディ(1)サントリー
    2. 上場を志向しない著名企業に見るケーススタディ(2)DMM
  6. 上場は、会社のSDGs(持続可能な開発目標)の大きなステップ

上場とは?上場で得られるメリットやステイタスは?

IPO
(画像=moonrise/stock.adobe.com)

「上場」の定義を正確に説明すると、「株式会社が発行する株式や債券等を、証券取引所で取引することが認められること」となる(日本証券業協会)。すなわち、公開市場で資金調達需要に応じてくれる相手を見つけやすくなる、という経営環境に会社を導くことに他ならない。

上場すると会社の知名度は格段に上がり、「きちんとした会社」という信頼感を顧客や取引先に持ってもらいやすくなる。創業オーナーは持ち株の一部を手放すことで、巨額の創業者利益を得ることが多く、何より上場させた経営手腕に注目が集まる。上場が会社や経営者が社会に認められる大きな登竜門となることは言うまでもない。

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日本の株式市場の現況を知ろう

日本には2020年8月現在、会社の株式の売買を取り扱う証券取引所は、日本を代表する東京証券取引所(以下、東証)のほか名古屋・福岡・札幌の3カ所あり、証券取引所の中に一般投資家が株式を売買できる場としてのべ11の「市場」が設けられている。市場とは、よく耳にする「東証1部」「マザーズ」などのことで、上場を認める会社の基準が異なるため、取引所の中で複数存在する。

日本の株式市場は、東証に圧倒的に取引が集中していることはよく知られている通りだ。2020年8月現在、東証が運営する4市場合計で日本の株式売買代金全体の99.8%を占める。また新規上場企業数でも、2019年間で東証が86.5%を占める。大阪証券取引所(以下、大証)が2013年に東証と経営統合し、現物株の取り引きが東証に集約されたことで、東京一極集中がさらに加速したのだ。

上場の最も大きな果実である資金調達は、何より買い手が多い市場の方が調達できる確率が高くなる。そのため事業の根拠地に単純に近い市場よりも、東証が選ばれやすくなるのは必然だ。以下、市場の特徴や基準の違いについては東証が運営する市場について述べる。

東証運営4市場がまもなく3市場に集約される!

東証は2020年2月、現行4市場運営で指摘されていた問題に対応するため、2022年4月に3市場に再編する方針を発表した。市場再編で対応をはかる問題は以下の3点だ。

1つ目は、新興企業向け市場のジャスダックとマザーズの重複感だ。これはジャスダックを大証が運営していた時代に、東証が対抗してより上場基準の緩いマザーズを立ち上げたことに起因する。

2つ目は、東証1部の上場企業数の肥大化と質の低下だ。一旦マザーズや東証2部に上場した企業が東証1部に市場変更する基準が、直接東証1部に上場する基準より緩かったことに起因する。主要国の最上位市場と比べた上場企業数でも東証1部が突出しており、「東証1部=優良企業に限定された市場」というイメージは大きく揺らいでいる。

3つ目は、上場廃止基準が緩いため、市場そのものへの信頼感が揺らいでいるという指摘だ。

2020年2月に新市場区分や新規上場基準の目安は公表されており、現行4市場への新規上場申請についても2020年11月以降、新市場のルールに準ずる基準に変更される方針が示されている。

参考PDF:東証「資本市場を通じた資金供給機能向上のための上場制度の見直しについて」

新市場のルールの詳細は今後変更される可能性もあり予断は許さない。東証が発表する新市場区分関連情報に留意しながら、上場を目指す市場を検討する必要がある。

東証新市場区分の特徴は?

新3市場について、おおまかな現4市場との違いをまとめる。新市場名はすべて仮称だ。なお現行ジャスダック市場は、厳密には企業の成長可能性の定義によりスタンダードとグロースで上場基準が異なることに留意されたい。

1.プライム:現1部企業が中心だが、経営の質が高い企業に絞られる
2.スタンダード:プライムに入れなかった現1部・現2部・現ジャスダック(スタンダード)企業が中心
3.グロース:現マザーズ・現ジャスダック(グロース)企業が中心

上場廃止や市場変更の基準についても、おおむね現行より厳しくなることが想定されている。現行基準で多く見られた「まずはマザーズに上場して1部に変更する」芸当はかなり難しくなる。

新3市場の主な企業規模に関する新規上場基準の違い(東証2020年2月21日公表分)

プライムスタンダードグロース
上場時株主数800人以上400人以上150人以上
流通株式数20,000単位以上2,000単位以上1,000単位以上
流通株式
時価総額
100億円以上10億円以上5億円以上
流通株式比率35%以上25%以上25%以上
収益基盤最近2年間の利益合計が25億円以上(※注)最近1年間の利益が1億円以上基準が設けられない可能性あり
財政状態純資産50億円以上純資産が赤字でない

(※注)売上100億円以上かつ時価総額1,000億円以上を満たすだけでもOK

現行市場で指摘されていた問題に対応する基準となっており、各市場の基準の違いもわかりやすい。

想定される新3市場の特徴

1.プライム
株式の流通性が特に重視されるため、より高い水準のガバナンスへの取り組みが求められる。「プライム」の名にふさわしい、日本を代表する企業中心に構成する質の高い市場となることを目指している。

2.スタンダード
日経平均やTOPIXといった著名な株価指数の算出対象とならず、1部と比べて影の薄かった2部や、新興市場と言われながらもマザーズと比べ売買代金が見劣りしていたジャスダック上場企業を中心に構成される。

上場企業数はまとまった規模になることに加え、スタンダード市場の値動きを的確に示す新しい株価指数の算出も有望視されている。新市場区分の中でも特に注目すべき市場だろう。

3.グロース
東証の新市場区分コンセプトで「高い成長可能性を実現するための事業計画とその進捗の適時・適切な開示が行われるが、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業のための市場」と位置付けられている。

スタートアップ企業向けの市場と言う位置づけをより明確にすることで、投資家や上場市場の選択の判断がしやすくなることが期待される。

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上場までの流れはどうなる?

2020年8月現在、新市場区分の確定ルールは発表されていないため、上場までの流れ(必要な手続き)も明確にはできない。そのため現行の新規上場ルールに基づいた流れで解説する。

新市場区分では情報開示を中心としたガバナンス管理がより強く求められるため、現行より必要な手続きの負担が増加する(=時間がかかる)可能性があることに留意されたい。

上場準備に必要な期間

東証による上場スケジュールの目安では、上場したい時期の3年以上前から準備を始めることが推奨されている。上場基準に基づくガバナンスを行う社内体制の整備、上場支援外部パートナーとの信頼関係構築、上場申請に必要な会計監査等を踏まえると、「3年未満での上場実現」は困難と考えられたい。

図:上場準備に必要な期間

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(※出典:東証 新規上場基本情報)

上場に必要な体制構築

上場申請後の審査では、直近の業績だけでなく、投資家に適切に判断材料を提供する内部体制の構築が厳しくチェックされる。外部パートナーで最も重要な役割を担うのは、上場サポートの中心的存在で新株発行を担う主幹事証券会社と、会計監査を担う監査法人の両者だ。上場準備を始める際に選定することが一般的である。

その他、株主名簿の管理を担う株式事務代行機関(信託銀行・証券代行会社)の選定も必要になる。

図:上場申請後の審査内容

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(※出典:東証 新規上場基本情報)

(注)図は1部・2部の場合、マザーズ・ジャスダックは審査期間が1カ月短い

東証では上場を検討する企業向けに、取引所としての上場審査の考え方や手続きを解説した「新規上場ガイドブック」を発行している。新規上場に関心を持つ経営者の方は、一読されることをぜひおすすめする。
東証:2019 新規上場ガイドブック(マザーズ編)PDFダウンロードサイト

あえて上場しない企業に見る上場のメリットとデメリット

会社の成長の実感の証としての上場は、一般的な社会通念として広く認められているが、世の中にはあえて上場しない著名企業もある。上場のメリットとデメリットを、上場しない理由から探ってみる。

上場を志向しない著名企業に見るケーススタディ(1)サントリー

日本を代表する著名企業で非上場の筆頭格はサントリーだろう。ビール事業に参入した佐治敬三元社長は「難しい事業だが、稼ぎ頭のオールド(ウイスキー)だけに依存していると、会社の緊張感が失われる」と語っている。上場していれば、短期で利益が見えない事業には、株主からの厳しい視線が注がれる。非上場の同族経営だからこそ実現できた長期インキュベーションといえる。

一方非上場のため、会社の財務体質を悪化させずに多額の資金調達が可能な「公募増資」ができないという弊害も指摘されている。2014年の米ウイスキー大手ビーム社の買収の際には、企業買収の常識だった資金回収必要期間5~10年を大きく上回る15~20年もの巨額買収資金、1.6兆円の6割以上を借入金で賄った。

20年も安定して利益を出し続けられるのか、巨額の資金を貸してくれる銀行があるのか、通常の会社ではこんな芸当はまず不可能だ。

上場を志向しない著名企業に見るケーススタディ(2)DMM

「非上場のウチにもゴーン氏とほぼ同額の役員がいるが、彼が株主でない以上、この報酬が高過ぎるかどうかは株主のオレ判断で良いだろう」。DMM・亀山敬司会長のTwitterでの発言だ。

日本のITビジネスの寵児の一角・DMMは、実は株式会社でなく「合同会社」であることは案外知られていない。合同会社とは、出資者=経営者という会社形態で、株主総会開催や取締役の選任が不要など、株式会社に比べ大幅に義務が少ない。自治の裁量が広いことが特徴で、非上場の株式会社よりさら会社の管理の手間やコストがかからない。

日本の合同会社は、Amazonやユー・エス・ジェイといった外資系日本法人が多い。合同会社に課せられた、以下のような事業上の大きな制約を気にする必要がない会社に限られるためだ。

・株式会社と比べ事業上必要な許認可を公的機関から得にくい
・自治体や公共団体との取引ができないことが多い
・会計監査人設置義務がなく、社外からの資金調達が困難

会社の管理はシンプルだが制約は極めて多い。強固なブランドを築いた後で合同会社に変更するならともかく、創業から時を経ない時点から合同会社として歩み続けるのは困難だろう。

上場は、会社のSDGs(持続可能な開発目標)の大きなステップ

会社は規模が大きくなるほど、社会とのつながりが密接になり、責任も大きくなる。上場はそうした会社と社会との関係を明確にする大きな機会となるだろう。パブリックに監視されやすい上場企業の方が、一定の規模になった会社を健全に持続させる確率が高くなるのではないだろうか。

文・高千穂一也(ビジネスライター)