会社は、年間を通して監査を受けた後、監査人から監査報告書を受け取る。監査報告書に記載される監査意見は、内容によって会社の将来を左右しかねない。そのため非常に大きな影響力をもつ書類だ。監査報告書を作成する側になったときどのような書き方や手順で作成すればよいのだろうか。本記事では、監査報告の意味やスケジュール、監査報告書に必要な項目、ひな形を活用した文例について紹介する。
目次
監査報告とは?

会社は、貸借対照表や損益計算書などの財務諸表を適正に作成し定時株主総会で株主に報告したり債権者・投資家に公表したりする義務を負っている。財務諸表の作成に当たっては、引当金や固定資産の減損など会社基準と照らし合わせて判断すべき項目がありこれらはいずれも将来性や見込みの要素を含んだ項目だ。
「会社の業績を良く見せたい」という経営者の思惑が働きやすい事項であり会社にとって有利になるような解釈で処理される可能性もあるだろう。そこで会社から独立した第三者により会社が適正に財務諸表を作成していることを証明する必要性が求められる。書類の妥当性を客観的に監督・検査することや監督・検査する人・機関が「監査」である。
監査した結果に意見し表明することが「監査報告」だ。会社法第2条6項では、資本金5億円以上の会社や貸借対照表における「負債の部」の合計が200億円以上の会社は、監査役による計算書類などの監査前に会計監査人による会計監査を受けることが義務付けられている。
監査報告のスケジュール
監査報告のおおまかな流れは以下の通りである。
・STEP1.財務諸表や事業報告書、これらに付属する明細書の作成
・STEP2.会計監査人による会計監査
・STEP3.監査役または監査役会による財務諸表や事業報告書の監査
・STEP4.取締役会による、財務諸表や事業報告書、これらに付属する明細書の承認
・STEP5.定時株主総会における承認
監査報告書とは?
「妥当性が認められる会計基準に則って計算書類などが適正に作成されているか」「会社の財政状態や業績などが正しく示されているか」について監査役が意見を表明する書類が監査報告書だ。監査報告書には、以下の4つの意見区分がある。
- 無限定適正意見
- 限定付適正意見
- 不適正意見
- 意見不表明
1.無限定適正意見
一般に公正妥当と認められる会計基準により「計算書類などが適正に表示されていること」を監査報告書に記載する監査意見のこと。
2.限定付適正意見
一部に不適切な事項がある場合、その不適切事項を記載したうえで会社の財政状態が「その事項を除きすべての重要な点において適正に表示されていること」を監査報告書に記載する監査意見のこと。一部の不適切事項が財務諸表全体にそれほど大きな影響を与えていないと判断された場合に用いられる。
3.不適正意見
一部に不適切な事項がありそれが財務諸表などの全体に大きな影響を及ぼしていると判断された場合、不適切である理由を明記したうえで会社の財政状態が「適正に表示されていない」と監査報告書に記載する監査意見のこと。
4.意見不表明
重要な監査手続きが実施できずに十分な監査証拠が入手不可能な場合、その影響が財務諸表などに対する意見表明ができないほどに重要だと判断した場合に会社の財政状態を「適正に表示しているかどうかについての意見を表明しないこと」「その理由」を監査報告書に記載する。
上記4つの意見のうち基本的には「無限定適正意見」が表明される。「不適正意見」「意見不表明」が監査報告書に記載される場合は、会社にとって不適切な事項を公表していることになり信頼を失いかねないだろう。
監査報告書の提出期限
監査報告のスケジュールにおいて会計監査人および監査役・監査役会は、監査報告の内容を通知する期限が定められている。
会計監査人の監査報告
会計監査人は、特定監査役および特定取締役に対し、以下のうちどれか遅い日を期限とし、監査報告の内容を通知しなければならない。
1.すべての計算書類を受け取った日から4週間経過した日
2.計算書類に付属する明細書を受け取った日から1週間経過した日
3.特定監査役・特定取締役・会計監査人の3者合意により定められた日
なお「特定監査役」とは、監査報告の通知を受ける監査役のことであり監査役会で定められる。定めていない場合は、すべての監査役が該当する。また「特定取締役」とは、監査報告の通知を受ける取締役のことだ。特定取締役を定めていない場合は、計算書類などの作成に携わった取締役および執行役が該当する。
監査報告の内容を通知された日を、会計監査人の監査を受けた日とみなすことができ、期限までに通知を受けなかった場合も、監査を受けたものとみなすことが可能である。
監査役または監査役会の監査報告
特定監査役(監査役または監査役会)は、特定取締役に対し以下のうちどちらか遅い日を期限とし監査報告の内容を通知しなければならない。
1.会計監査報告を受け取った日から1週間経過した日
2.特定監査役・特定取締役の2者合意により定められた日
監査報告の内容を通知された日を監査役または監査役会の監査を受けた日とみなすことができ期限までに通知されない場合も監査を受けたものとみなすことができる。
監査報告書の記載項目
監査報告書に盛り込むべき記載項目とそれぞれの概要について解説する。なお2020年3月期より監査報告書の記載方法が変更されているため注意が必要だ。今後も定期的に更新される可能性があるため、常に最新情報へのアンテナを張っておく必要があるだろう。
タイトルと宛名
タイトルは、会社から独立した第三者が作成したことを示すために「独立監査人の監査報告書」とすることが望ましい。取締役会が作成した財務諸表に対して監査報告を提出することから原則として宛名は取締役会宛となる。宛名の下には、「監査人の所属法人」「肩書き」「署名押印」が必要である。また、監査報告書に記載する日付は、監査業務が終了した日以降とされている。
提出した日以降に会社で行われたことについては、監査を行っていないということを示す意味もあるため、適当な日を記載すべきではない。
監査意見
記載方法が改定されたことにより冒頭から監査意見を記載するようになっている。監査意見では、財務諸表の年度や種類を記載し「適正か」「不適正か」を記載することが必要だ。前述した通り基本的には「全体的に適正であった」という内容が記載される。
監査意見の根拠
「どのような監査基準に基づいて監査したか」「独立性は保たれているか」「監査証拠を十分に入手したか」などを記載する。
監査上の主要な検討事項
2020年3月期より早期適用され2021年3月期より義務付けられる項目だ。監査人がリスクを判断した項目や監査手続きの詳細が不明瞭であったことから投資家保護を目的として導入された項目といえる。
経営者、監査役、監査人の責任
財務諸表に重要な間違いがあったとしても財務諸表作成の責任はあくまでも経営者にあり「監査役や監査人は監査の責任のみ追う」ということを明記する。
利害関係
会社と監査人に特別な利害関係がないことを明記する。
監査報告書の文例
独立監査人の監査報告書
20××年〇月〇日
株式会社○○
取締役会 御中
□□監査法人
▲▲事務所
指定社員 公認会計士 △△ 印
監査意見
当監査法人は、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に基づく監査証明を行うため、「経理の状況」に掲げられている株式会社○○の×年×月×日から×年×月×日までの連結会計年度の連結財務諸表、すなわち、連結貸借対照表、連結損益計算書、連結包括利益計算書、連結株主資本等変動計算書、連結キャッシュフロー計算書、連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項、その他の注記及び連結附属明細表について監査を行った。
当監査法人は、上記の連結財務諸表が、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、株式会社○○及び連結子会社の×年×月×日現在の財政状態並びに同日をもって終了する連結会計年度の経営成績及びキャッシュフローの状況を、すべての重要な点において適正に表示しているものと認める。
監査意見の根拠
当監査法人は、わが国において一般に公正妥当と認められる監査の基準に準拠して監査を行った。監査の基準における当監査法人の責任は、「財務諸表監査における監査人の責任」に記載されている。当監査法人は、わが国における職業倫理に関する規定に従って、会社から独立しており、また、監査人としてその他の倫理上の責任を果たしている。当監査法人は、意見表明の基礎となる十分かつ適切な監査証拠を入手したと判断している。
監査上の主要な検討事項
(監査上の主要な検討事項の内容及び決定理由の内容を記載する)
(監査上の対応を記載する)
財務諸表に対する経営者並びに監査役及び監査役会の責任
経営者の責任は、わが国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して財務諸表を作成し適正に表示することにある。これには、不正又は誤謬による重要な虚偽表示のない財務諸表を作成し適正に表示するために経営者が必要と判断した内部統制を整備及び運用することが含まれる。
財務諸表を作成するに当たり、経営者は、継続企業の前提に基づき財務諸表を作成することが適切であるかどうかを評価。わが国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づいて継続企業に関する事項を開示する必要がある場合には当該事項を開示する責任がある。監査役及び監査役会の責任は、財務報告プロセスの整備及び運用における取締役の職務の執行を監視することにある。
財務諸表監査における監査人の責任
※長文のため以下URLを参照
監査報告書の文例
利害関係
会社と当監査法人又は業務執行社員との間には、公認会計士法の規定により記載すべき利害関係はない。
以上
最新の記載例を常にアップデートしておこう
監査報告書の書き方は、国際的な最新の基準を合わせるなどの理由から定期的な見直しが図られている。新たに追加される項目については、文例自体がまだ豊富に見つからないことが多いため、常にアンテナを張っておく必要があるだろう。監査報告書に記載すべき内容は、年度ごとに変わってくるのが一般的だ。
テンプレートをコピーし自社に合うよう書き換えながら前年度分がある場合は矛盾点がないかどうかもしっかりと確認しよう。
文・八木真琴(ダリコーポレーション ライター)