会社の役職には社長、常務、専務、執行役員などさまざまな呼び方があるが、これらは会社法に定義のない通称に他ならない。会社法が定める役員とは「取締役」「会計参与」「監査役」の3役職である。今回は経営者として実際に会社を舵取りする取締役についてその役割や責任、法律の定義も含め解説していこう。

目次

  1. 会社の取締役とは?
    1. 取締役と従業員の違い
    2. 取締役は株主総会で選任される
    3. 登記に必要な書類について
    4. 取締役の員数と任期について
  2. 取締役の責任と役割は?
    1. 善管注意義務と忠実義務
    2. 株主代表訴訟
    3. 取締役会
  3. 株主総会での対応
  4. 取締役に求められる資質とは?
  5. 資質を持った人間が取締役になるのではない

会社の取締役とは?

人事
(画像=pressmaster/stock.adobe.com)

取締役とは、株式会社の重要事項や方針を決定する権限を持つ役員だ。取締役会が設置されていない会社では1名以上、設置されている会社では3名以上必要となり数名で取締役会を構成する。通常は、取締役会の中の1名が代表取締役として選任。まずは会社内における取締役の立場について基本的な事項を確認しておこう。同じ会社内で勤務しているが従業員との違いは仕事内容だけではない。

取締役と従業員の違い

従業員とは、その言葉通り「業務に従事している人」である。もう少し細かく定義すると使用者(雇用主)と雇用契約などを締結し労働条件通知書などに従って業務を遂行する人のことを表す。したがって正規雇用の社員に限らず契約社員やアルバイト、パートなどの非正規社員と呼ばれる人たちも従業員ということになる。

では取締役は、従業員と何が違うのだろうか?取締役とは、会社法に定められている「役員」の中の一つだ。会社法第329条における役員とは、取締役、会計参与、監査役を指す。会社法施行規則ではこれに執行役、理事、監事などを含めているが近年よくある執行役員を含め会社法上では取締役、会計参与、監査役以外は役員ではない。

役員は経営者であり上記で定義した従業員とは異なる。従業員が役員に昇格する場合には、退職届を会社に提出し一度退職し経営者として改めて契約(通常は取締役委任契約)することが必要だ。契約形態が違うため、受け取る報酬も従業員のように給与ではなく「役員報酬」と呼ばれる。従業員の給与は経費として扱われ労働の対価として損金計上することになるが役員報酬はこの限りではない。

整理すると従業員は労働者であり取締役(役員)は使用者でその契約形態も含め立場は明確に違うのだ。ここで役員と名前が付いていることから勘違いされやすい「執行役員」についても触れておこう。先述のように会社法の役員とは、取締役、会計参与、監査役を指す。会社法施行規則では執行役、理事、監事も役員と呼んでいるが執行役員は明確に役員ではない。

執行役員は会社法や商業登記法にもその定めがなく立場はあくまで従業員だ。(取締役兼執行役員などとなっている場合を除く)そのため執行役員は、役員のように会社の重要事項や方針を決定する権限は持っていない。執行役員は役員が決定した重要事項を実行する立場であり役員が経営に専念できるように「業務執行」の部分を任されている。

欧米などでは以前から導入されている執行役員制度だが上記のような役割で基本は従業員であるため、執行役員は部長や課長などを兼任する場合もある。執行役員は会社の役員ではなく取締役でもないことを覚えておこう。

取締役は株主総会で選任される

取締役は従業員の昇格のように上長の推薦や人事委員会の選考などで決まるわけではなく会社法で定められた株主総会で選任される。株主総会は、定時株主総会と臨時株主総会の2つだ。

・定時株主総会
定時株主総会は、毎事業年度の終了後、一定の時期(3月決算の場合、6月の下旬までに行われることが多い)に招集(開催)される。これは会社法で開催が義務づけられているものだ。

・臨時株主総会
臨時株主総会は、必要に応じいつでも回数に制限なく開催することができる。

どちらの株主総会も開催の2週間前までに招集通知を発しなければならない。株主総会では、以下のような事項が決議される。

  • 会社の根本に関わる事項(定款の変更や合併・事業譲渡、解散)
  • 株主の利害に大きく影響を与える事項(剰余金の配当に関わる事項や役員の報酬など)
  • 会社の役員の人事に関する事項(役員の選任・解任)

つまり取締役も株主総会で選任されるということだ。

登記に必要な書類について

会社法に定義された役員が就任や退任をした場合には、2週間以内に管轄法務局に届け出(登記申請)を行うことが必要だ。実務上は、司法書士などの専門家へ依頼することとなるだろうが以下のような書類が必要になる。

【取締役・監査役が新たに就任した場合】

・変更登記申請書

法務局が定めた定型書式(株式会社や持分会社などの会社形態によって異なる)で申請する。なお申請には、登録免許税として1万円(資本金の額が1億円超は3万円)が必要になる。納付は収入印紙等で行う。

・株主総会議事録

取締役、監査役の選任・解任の場合には、全員が認印を押した株主総会の議事録を提出しなければならない。代表取締役が選任された場合には、代表取締役は会社実印を押印する。

・株主の氏名または名称、住所および議決権等を証する書面

会社実印が押印され、株主の氏名や住所、議決権数などが記載された株主リストを添付しなければならない。

・就任承諾書

選任された取締役が就任を承諾する意思を持っていることを証明する書面。取締役会設置会社は認印でよいが非設置の会社で新任の場合は実印が必要になる。

・印鑑証明書

就任承諾書に実印を押印した場合は必要

・本人の確認ができるもの

住民票の写し、運転免許証、マイナンバーカード表面のコピーなど

・委任状

本手続きを司法書士に依頼した場合や総務部の担当者などが書類を提出する場合に必要

取締役の員数と任期について

取締役の員数(人数)については、上記の通り取締役会を設置していない会社では1名以上、設置している会社では3名以上が必要になる。任期は原則として2年で最大10年まで延長することが可能だ。任期の2年については少しややこしいが、正確に記すと以下のように定められており2年はあくまでも原則だ。

・会社法第332条(取締役の任期)

「取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。ただし定款又は株主総会の決議によって、その任期を短縮することを妨げない」
出典:電子政府の総合窓口「e-Gov(イーガブ)」

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取締役の責任と役割は?

取締役の本来の役割は、会社の重要事項や方針を決定し決定された事項が正しく実行されているかを監視して問題があれば是正するように監督・指導することだ。この他にも、取締役の会社に対する責任は会社法や民法で定義されている。ここでは、主なものを確認しておこう。

善管注意義務と忠実義務

善管注意義務とは、もともと旧商法第254条3項に定められた「会社と委任関係にある取締役は良識ある管理者として注意深く職務にあたらなければならない」という規定であった。また忠実義務とは、旧商法第254条の3に定められた「取締役は法令・定款規定と株主総会会議を遵守し、会社のため忠実に責務を果たす義務がある」という規定だ。

会社法が制定されてから上記は商法上で削除されており善管注意義務は会社法第330条、民法第644条、忠実義務は会社法第355条で以下のように謳われている。

・会社法第330条(株式会社と役員等との関係)

「株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う」
出典:電子政府の総合窓口「e-Gov(イーガブ)」

・民法第644条(受任者の注意義務)

「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意を持って、委任事務を処理する義務を負う」
出典:電子政府の総合窓口「e-Gov(イーガブ)」

取締役には従業員の安全なども含め管理者として会社(業務)に忠実な対応が求められるのだ。他にも会社法第356条(競業及び利益相反取引の制限)で責任と義務が定められている。

株主代表訴訟

株主代表訴訟とは通称であり正式には「株主による責任追及等の訴え」(会社法第847条)として会社法に定められている。役員などが適正な業務を行わなかった場合には、会社法第423条1項に定められている任務懈怠責任(にんむかいたいせきにん)を問われることになる。

・会社法第423条(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)

「取締役、会計参与、監査役、執行役または会計監査人(以下この節において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」
出典:電子政府の総合窓口「e-Gov(イーガブ)」

怠った任務として追及される主なものは「法令などに違反する行為をする」「監視・監督義務を怠る」「経営判断の失敗により会社に損害を与える」といったことだ。しかし総じて職務の怠慢もしくは失敗、会社価値への毀損行為により会社に損害を与えたことが問題となる。このような場合に株主が会社を代表して役員その他一定の者に対して法的責任を追及するために提起する訴訟を株主代表訴訟という。

取締役を含む役員の任にある者は、職務に対して忠実でない場合、このような訴訟を受ける責任も負わなければならない。

取締役会

取締役会は、上場企業などの場合を除いて設置義務が課されているものではない。未上場で小企業の場合は、設置していないことも多いのが実態だ。取締役会が未設置の場合、取締役は1名以上、設置している会社では3名以上の選任が必要となる。ただし会社法第362条「取締役会の権限等」で定められている事項を決議するには、取締役会の決議が必要となるため、中規模以上の会社では設置されていることも多い。

【取締役会の決定事項】

  • 株主総会の招集の決定
  • 自己株式の取得株数、価格等の決定
  • 株式分割
  • 株式無償割当てに関する事項の決定
  • 公開会社における新株発行の募集事項の決定
  • 公開会社における新株予約権の募集事項の決定
  • 取締役による競業取引および利益相反取引の承認
  • 計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書の承認重要な財産の処分及び譲り受け
  • 多額の借財
  • 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
  • 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
  • 募集社債の金額、社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項
  • 法務省令で定める体制の整備
  • 定款の定めに基づく取締役、会計参与、監査役、執行役または会計監査人の会社
    に対する責任の免除の決定

取締役は取締役会が設置されている場合、上記のような重要事項決定のため取締役会に出席のうえ会社としての意思決定に参加しなくてはならない。

株主総会での対応

株主は通常、直接会社の経営は行わず取締役などの役員に経営を任せている。株主総会は株主を招集し会社の状況や今後の経営方針を説明、経営にかかわるさまざまな決議を行う会議だ。株主総会では先述したように「会社の根本にかかわる事項」「株主の利害に大きく影響を与える事項」「会社の役員の人事に関する事項」などが決議される。

取締役は株主総会に出席して担当業務への株主からの質問があれば回答し決議事項の議決に寄与しなければならない。

取締役に求められる資質とは?

2017年に日本能率協会(JMA)がトップマネジメントの研修プログラムに参加した役員へ行った「経営者に求められる資質等に関するアンケート」によると「職場で評価されていると思う資質」のトップ10は以下のようなものであった。

順位評価されていると思う資質割合
1位論理的思考22.8%
1位変化への柔軟性22.8%
3位本質を見抜く力19.9%
4位統率力16.3%
5位人への興味・愛情15.4%
6位国際的経験14.1%
7位ビジョンを掲げる力13.5%
8位過去からの脱却12.5%
8位しつこさ12.5%
10位情熱11.2%

取締役に求められる資質を一言で言うなら「冷静で論理的な思考とリーダーシップを持った、人間力豊かな人物」といえるだろう。

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資質を持った人間が取締役になるのではない

取締役には、求められる資質をすべて備えた人間が選ばれるわけではない。はじめからそのような資質を備えた人間はおそらく希有な存在だ。取締役とは、役員に課された義務と責任を受容し求められる資質を持つことに努力できる人間がなれる役職なのではないだろうか。

※記事中の法律・税制などに関する記載は2020年8月20日時点のものであり、現在は法律等が改正されている場合が考えられますのでご注意ください。

文・長田小猛(ダリコーポレーション ライター)