「経費精算だけは税制上、紙を使う業務が残っても仕方がない」と思っている方は多いのではないだろうか。しかし、令和2年度の税制改正でついに紙の領収書が不要になる。今回は、税制改正の概要からスケジュール、制度適用の条件まで詳しく解説していく。

目次

  1. 税制改正により経費精算の領収書が不要に
    1. 電子帳簿保存法とは?
    2. 改正のポイント
  2. 改正の背景とこれまでの経緯
    1. 電子帳簿保存法創設の背景にはペーパーレスの進展
    2. 過去の改正ではスキャナ保存が可能に
  3. 領収書が不要になる要件は?
    1. キャッシュレス決済や銀行振込による支払い
    2. クラウド会計・経費精算サービス等の利用
  4. 制度改正のスケジュールは?
  5. 制度を利用するためには?
    1. 申請に必要な書類
  6. 制度をうまく活用して生産性の向上を!

税制改正により経費精算の領収書が不要に

2020年度税制改正で領収書が不要に!重要ポイントを整理
(画像=Vittaya_25/stock.adobe.com)

2020年10月から導入される予定の新制度は、2019年12月20日に閣議決定された「令和2年度税制改正の大綱」に盛り込まれたものだ。これを受け、「電子帳簿保存法」の施行規則も改正された。

電子帳簿保存法とは?

そもそも、電子帳簿保存法とはどのような法律なのだろうか。所得税法や法人税法では、取引相手から受け取った請求書や領収書などの書類は、原則7年間保存しなければならない。

請求書等のやり取りを書面で行うか電子的なデータで行うかは自由だが、電子帳簿保存法では電子的に受領した請求書等のデータを保存する場合の方法を定めている。

改正のポイント

改正のポイントは2点ある。

1点目は、電磁的記録の保存要件が緩和されたことだ。

現行制度では、紙の領収書を一旦もらってスマートフォンなどで撮影するかスキャンした後、3日以内に不正防止のためのタイムスタンプを付与する必要がある。

改正後は、発行者側でタイムスタンプが付与された電子データであれば、受領者側でタイムスタンプを付与する必要はない。

これにより、タイムスタンプを付与するための専用のサーバーを準備する必要がなくなり、予算の少ない中小企業でもペーパーレス化を進めやすくなると予想される。

また、リモートワークを行っている従業員が経費精算のためにわざわざオフィスへ出向いて紙の領収書を提出する必要もなくなる。

2点目のポイントは、新たな電磁的保存方法が認められたことである。

令和2年度税制改正の大綱には、「電磁的記録について訂正又は削除を行った事実及び内容を確認することができるシステム(訂正又は削除を行うことができないシステムを含む。)において、その電磁的記録の授受及び保存を行う方法」と記載がある。

現行制度で認められている電磁的保存方法は、多大なシステム投資や体制整備を必要とするため、中小企業には導入のハードルが高い。具体的には、電子データ受領後ただちにタイムスタンプを付与するための専用サーバー設置もしくは、データの改ざんを防止する事務処理規定の作成・運用が求められる。

一方で改正後は、受領者が自由にデータを改変できないシステムやサービスを使えば、タイムスタンプが不要となる。これにより、キャッシュレス決済やクラウドサービスを使えば、中小企業でも電磁的保存がしやすくなるだろう。

改正の背景とこれまでの経緯

今回の電子帳簿保存法改正には、バックオフィス業務の効率化による生産性の向上という狙いがあると考えられる。

少子高齢化で生産年齢人口が減少する中、急速な技術革新による国際的な競争環境の変化に対応するための働き方改革や労働生産性の向上は、政府の重要な政策である。

しかし、日本は他国と比べてキャッシュレス決済の普及などが遅れており、その結果、経理業務の大部分に非効率的な紙のやり取りが残っている。

こうした状況を受け、クラウドサービスやキャッシュレス決済の普及を目指す方針とも相まって、このような形の改正に至ったと推察できる。

経済産業省は、「令和2年度(2020年度)経済産業関係 税制改正について」という資料の中で、電子帳簿保存制度の改正について、「近年、経済社会のデジタル化等に伴い、クラウドを活用したサービスやキャッシュレス決済が普及。これらを踏まえ、電子的に受領した領収書等の国税関係書類の保存について、時代に即した整備を行う」と述べている。

そもそも、電子帳簿保存法の創設や過去の改正も、技術革新による時代の要請を踏まえたものであった。

電子帳簿保存法創設の背景にはペーパーレスの進展

1998年に制定された電子帳簿保存法は、国税関係帳簿書類の電子データによる保存を認めた法律である。

国税庁によれば、高度情報化・ペーパーレス化の進展を背景として会計処理の分野でもコンピュータを使用した帳簿書類の作成が普及する中、強い要望が寄せられるようになって、制度の創設に至ったという。

当時、政府税制調査会の「平成10年度の税制改正に関する答申(平成9年12月16日)」では、「新しい時代の流れに対応し、納税者の帳簿書類の保存の負担軽減を図る」という方針が示された。

2005年以降、数回の改正を経て使いやすくなったため、電子帳簿保存法を申請する企業は近年増加傾向にある。

過去の改正ではスキャナ保存が可能に

2005年の改正では、スキャナを利用して作成された電磁的記録による保存が認められることになった。ただし、当時は「特に重要な文書である決算関係書類や帳簿、一部の契約書・領収書を除き、原則的に全ての書類を対象に、真実性・可視性を確保できる要件の下で」という厳しい要件が付いていた。

2015年の改正では、スキャナ保存の対象となる書類の範囲拡充、スキャナ保存の要件緩和などが行われた。

さらに2016年の改正で、「受領者等が読み取りを行う場合の手続の整備・読み取りを行う装置に係る要件の緩和」などが行われると、企業の間に制度の利用が広がった。

領収書が不要になる要件は?

タイムスタンプの付与も不要な新しい電磁的保存方法を利用して完全に領収書をなくすためには、2つの要件を満たすことが求められる。

キャッシュレス決済や銀行振込による支払い

1つ目の要件は、クレジットカードや電子マネーなどのキャッシュレス決済や銀行振込によって、支払いデータが電子的に発行されることだ。これらの利用明細データが領収書の代わりになる。

クラウド会計・経費精算サービス等の利用

もう1つの要件は、決済データをシステム連携で取り込める機能を備えた、会計や経費精算の民間クラウドサービスを使うことだ。これらのクラウドサービスを利用して決済データを取り込んでいれば、ユーザー側で自由にデータを改変できないと考えられるためだ。

制度改正のスケジュールは?

新しい制度は、2020年10月から施行予定となっている。とはいえ、施行後、即時に制度を利用できるわけではない。前述の要件を満たすための検討はもちろん、税務署への申請もしなければならず、それなりの期間が必要だ。

余裕を持って、早めに準備を始めることをおすすめしたい。

制度を利用するためには?

電子帳簿保存法を利用するためには、事前に税務署への申請が必要となる。具体的には、承認を受けようとする国税関係帳簿の備付けを開始する日の3月前の日までに、申請内容に応じた書式の申請書と添付書類を揃えて、所轄税務署に持参または送付しなければならない。

申請に必要な書類

自社開発のプログラムを用いて電磁的記録による備付け並びに電磁的記録または電子計算機出力マイクロフィルム)による保存を行いたい場合、「国税関係帳簿の電磁的記録による保存等の承認申請書」を提出する必要がある。

また、市販のソフトウェア等を使用する場合は、JIIMA(公益社団法人 日本文書情報マネジメント協会 )の認証を受けていることが明記されている「国税関係帳簿の電磁的記録による保存等の承認申請」を使用する。

参考:国税庁ホームページより https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/10.htm

これらの申請書では、仕訳帳、総勘定元帳、仕入帳などの帳簿の種類ごとに、備付け開始日と納税地等及び保存場所を申請する。また、帳簿の作成・保存に使用するパソコン、プリンタ、サーバーといったハードウェアや市販プログラム等のソフトウェアについても概要を申請する欄がある。

これらの申請書は、国税庁のホームページからダウンロードすることが可能だ。

また、申請時には下記3点の書類を申請書と併せて提出する必要がある。

1.承認を受けようとする国税関係帳簿の作成等を行う電子計算機処理システムの概要を記載した書類

2.承認を受けようとする国税関係帳簿の作成等を行う電子計算機処理に関する事務手続の概要を明らかにした書類(当該電子計算機処理を他の者に委託している場合には、その委託に係る契約書の写し)

3.申請書の記載事項を補完するために必要となる書類その他参考となるべき書類

自社開発や委託開発のプログラムを利用する場合、システムの開発に際して作成した書類やシステムの操作説明書も必要になるため注意が必要だ。

制度をうまく活用して生産性の向上を!

ここまで、2020年度の税制改正による電子帳簿保存法の変更点や制度を利用する方法について解説してきた。

電子帳簿保存を導入して領収書を不要にするためには、システム環境の整備や利用申請といったハードルがある。それにかかる手間やコストを考えると、導入に尻込みしてしまう経営者も多いかもしれない。

しかし、中長期的な視点で導入のメリットとデメリットを天秤にかけてみると、気持ちが変わるのではないだろうか。

法定に従って紙の領収書を保存し続けていると、大量の書類を保管するための物理的なスペースが必要なことに加え、それを管理する人手も必要だ。過去の領収書を閲覧する必要が生じた際、たった1枚の紙切れを膨大な書類の中から探すために、多くの時間を費やしてしまうことも十分あり得る。

また、立替経費を精算する従業員は、忙しさの合間をぬって領収書の糊付け作業を行わなければならない。書類を電子データで保存できるようになれば、保管場所、書類整理や検索の人手、本来の業務と関係ない書類の糊付け作業といった価値を生み出さないコストを削減できる。

結果として、会社にとってより価値のある業務にリソースを費やすことができるようになるのではないだろうか。自社の生産性を向上させたい経営者はぜひ、今回の改正を契機に電子帳簿保存の導入を検討してみてほしい。

※記事中の法律・税制などに関する記載は2020年9月時点のものであり、現在は法律等が改正されている場合が考えられますのでご注意ください。

文・BUSINESS OWNER LOUNGE編集部