2020年度の税制改正により、「電子帳簿保存法」の施行規則が改正された。施行は2020年10月からとなるが、これにより、経費精算の書類を電子化するハードルがぐっと引き下げられる。今回は、「電子帳簿保存法」の内容とその導入方法について解説する。

目次

  1. 電子帳簿保存法により領収書は電子データで保存可能に
    1. 2015年、2016年の改正でスキャナによる電子的保存が可能に
    2. 2020年の改正で紙の領収書が不要に
  2. 電子データで保存するメリット
    1. ペーパーレス化による生産性向上
    2. 長期的な保存が可能
    3. 紛失リスク軽減やセキュリティの向上
  3. 電子帳簿保存法の制度導入に必要なことは?
    1. 申請に必要な書類
  4. 領収書の電子化でデジタルトランスフォーメーションの第一歩を

電子帳簿保存法により領収書は電子データで保存可能に

経費精算の領収書を電子化しよう!法律と導入方法を確認
(画像=SASITHORN/stock.adobe.com)

電子帳簿保存法とは、電子的に受領した請求書等を電子データとして保存する場合の方法を定めている法律である。1998年に制定され、2005年以降の数回の改正を経て、使いやすさを増している。

これまで、経費精算の領収書を紙媒体で保存するのは煩わしいと思いながらも、なかなか制度の利用に踏み切ることができなかった企業は多いのではないだろうか。現行制度で認められている電磁的保存方法は、大きなシステム投資や体制の整備を必要とするため、中小企業には特に導入が難しいといった背景もあった。

しかし、今回の改正で状況は変化し、領収書の電子化を現実的に捉えることができるようになった。技術革新による生産性向上の波が、経費精算の領域にまで届こうとしているのだ。

この波に乗り遅れ、紙の書類整理や領収書の糊付け作業に多くの時間を割き続けることにならないように、制度の導入を検討し始めた経営者もいるのではないだろうか。

ビジネス環境が急速に変化する中、競争優位を維持拡大していくためには、変化に対して前向きに対応する経営者の姿勢は重要である。ここでは、まずこれまでの改正内容と、2020年度の改正について概要を説明する。

2015年、2016年の改正でスキャナによる電子的保存が可能に

2015年度の改正では、スキャナ保存の対象となる書類の範囲拡充、スキャナ保存の要件緩和などが行われた。さらに2016年度の改正では、「受領者等が読み取りを行う場合の手続の整備・読み取りを行う装置に係る要件の緩和」が行われたことにより、実務的に使いやすくなった。

2020年の改正で紙の領収書が不要に

今回の改正では、電子的に受領した請求書等をデータのまま保存する場合の要件が緩和された。これにより、データが適正に保存されていれば、紙の請求書や領収書等の受領やスキャン作業は不要となる。具体的な変更点を解説しよう。

改正前の要件は下記の2点だ。

【改正前の要件】
a.データの受領後遅滞なくタイムスタンプを付与、又は
b.改ざん防止等のための事務処理規程を作成し運用

改正前は、タイムスタンプを付与するための専用サーバー設置もしくは、データの改ざんを防止する事務処理規定の作成・運用が求められ、中小企業にとってはハードルが高かった。

一方で、改正後は上記に加え下記2点の要件も追加されたことで、選択肢が広がった。

【改正後に追加された要件】
c.ユーザー(受領者)が自由にデータを改変できないシステム(サービス)等を利用
d.発行者側でタイムスタンプを付与

なお、cの「ユーザー(受領者)が自由にデータを改変できないシステム(サービス)等」とは、クラウド会計・経費精算サービス等のことで、ユーザーによるデータ改変ができないことが条件となっている。

電子データで保存するメリット

紙の請求書や領収書等の受領、スキャン作業が不要になったことで、経理・税務手続きの電子化・自動化、ひいてはバックオフィスの効率化が可能になった。その具体的な内容について見ていこう。

ペーパーレス化による生産性向上

ペーパーレス化は、まず第一に経理部門の作業効率化に寄与する。

例えば、電子データはコンピューター上での検索が可能であり、必要なときに書類を探すのが紙と比べて容易になるため、その分の作業時間を削減できる。また、電子データ化に伴って会計システム等を導入すれば、これまで人手で行っていた作業を自動化することも可能だ。

これは、決算や監査の時期などに、膨大な作業に追われる経理部門の働き方改革につながることだろう。加えて、経理部門以外の従業員にとっても、経費精算の効率化という恩恵がある。

これまで、出張や物品購入などに伴う立替経費精算の申請のために、従業員は忙しい業務の合間をぬって領収書の糊付け作業に追われていた。紙の書類を経理に提出するため、テレワーク中であってもわざわざオフィスに出向かなければならなかった。

電子データによる経費精算が認められれば、自宅や出張先、客先などから申請を行うことが可能になり、所要時間も大幅に削減されるだろう。

これによって、より価値の高い業務に従業員が時間を使うことにつながり、企業全体の生産性が向上することだろう。

長期的な保存が可能

電子データ化することで、紙の書類を保管するために必要だった物理的なスペースが不要となる。これにより、倉庫などの保管コストを削減できる。その分、長期にわたる保存にも耐えられるため、法定の7年を超えて必要な期間、保存することも可能となる。

紛失リスク軽減やセキュリティの向上

電子データ化すれば紙の書類を回覧する必要がなくなるため、紛失リスクが軽減する。また、途中で書類が紛失した場合の捜索や手続きの手間が削減できるだろう。地震や水害といった災害時にも、書類がクラウドサーバー上に保存されていれば、消失するリスクが軽減される。

また、紙の書類はコピーを取ったり抜き出したりしても記録が残らないため、セキュリティ対策が難しかったが、電子データなら容易である。

こうしたことから、電子データ化は経理部門のガバナンス向上に寄与すると考えられる。

電子帳簿保存法の制度導入に必要なことは?

制度を利用するためには、事前に申請内容に応じた書式の申請書と添付書類を揃えて、所轄税務署に持参もしくは送付する必要がある。

また、提出するタイミングは承認を受けようとする国税関係帳簿の備付けを開始する日の3月前の日までとなっている。

申請に必要な書類

自社のプログラムで電子計算機出力マイクロフィルムの保存をしたい場合と、市販のソフトウェア等を使用したい場合によって一部申請書が異なる。

前者の場合は、「国税関係帳簿の電磁的記録による保存等の承認申請書」が必要だ。また、後者においても同様の申請書が必要になるが、JIIMAの認証を受けていることが記載されているものを使用する。

いずれも、承認を受けようとする帳簿の名称と備付け開始日、納税地等及び保存場所を記入する。また、国税関係帳簿の作成・保存に使用する電子計算機(パソコン・プリンタ・サーバーなど)も併せて記載する必要がある。

市販のソフトウェア等を使用している場合は、名称やバージョン、メーカー名などの記入が求められるため、事前に確認しておこう。

申請書については、国税庁の「[手続名]国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等の承認申請」からダウンロードできる。

また、申請時には下記3点の書類を申請書と併せて提出する必要がある。

  1. 承認を受けようとする国税関係帳簿の作成等を行う電子計算機処理システムの概要を記載した書類
  2. 承認を受けようとする国税関係帳簿の作成等を行う電子計算機処理に関する事務手続の概要を明らかにした書類(当該電子計算機処理を他の者に委託している場合には、その委託に係る契約書の写し)
  3. 申請書の記載事項を補完するために必要となる書類その他参考となるべき書類

自社開発や委託開発のプログラムを利用する場合、システムの開発に際して作成した書類や、操作説明書が求められるため準備しておくとよいだろう。

領収書の電子化でデジタルトランスフォーメーションの第一歩を

ここまで、「電子帳簿保存法」の改正内容や導入メリット、申請手続きの方法について紹介してきた。

制度を導入するためには、新たなシステムの導入や体制の整備といった手間やコストがかかるものの、領収書をはじめとした書類の電子化が生産性向上に大きく寄与することを考えれば、導入しない手はないのではないだろうか。

特に、「自社のデジタル化は遅れている」と考えている経営者は、これをきっかけにデジタルトランスフォーメーションへの第一歩を踏み出すつもりで、電子帳簿保存法の活用を目指すとよいだろう。

近年、技術革新に伴い、クラウドサービスやキャッシュレス決済が多くの企業に普及している。そして、これらのIT技術を活用すればするほど、実際に生産性が向上することも示されている。

中小企業庁が発行している2018年の小規模企業白書によれば、間接業務のIT導入度が高い方が、直近3年間の経常利益額や売上高が増加傾向にある割合が高かったという。直近3年間の経常利益額が増加傾向にあると回答した割合はIT未導入企業では21.3%に過ぎないのに対し、導入度が高レベルにある企業では、36.9%だった。

また、直近3年間の売上高が増加傾向にあると回答した割合はIT未導入企業では24.9%で、導入度が高レベルにある企業では、39.6%だった。

この事実から、間接業務の代表格である経理業務こそ、デジタル化が遅れている企業が優先してデジタル化を進めるのにふさわしいといえるのではないだろうか。

経済産業省の「DX推進ガイドライン」によれば、デジタルトランスフォーメーションとは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」である。

デジタルトランスフォーメーションをしなければビジネス環境の変化から取り残され、競争優位を失ってしまうことが懸念される。

そうならないためにも、まずは領収書の電子化によって、煩瑣な作業を伴う税務関連書類の管理から経理部門を解放し、その分より高度な業務を遂行してもらおう。

そこから少しずつ、社内の業務全体のデジタルトランスフォーメーションを進めていくのがよいだろう。

自社の生産性を改善させたいと考えている経営者はぜひ、電子帳簿保存法の制度導入でデジタルトランスフォーメーションへの第一歩を踏み出そう。

文・BUSINESS OWNER LOUNGE編集部