自ら立ち上げた事業が軌道に乗り経営も安定してきた局面において、経営者はいくつかの選択を迫られることになる。その1つとして挙げられるのが経営の多角化だ。今回は、多角経営のメリット・デメリット、成功させるポイントについて解説する。

目次

  1. 多角経営とは?
  2. 多角経営のメリット
  3. 多角経営のデメリット
  4. 多角経営を成功させる5つのポイント
    1. 1.利益が確保できているタイミングで多角経営に取り組む
    2. 2.従業員の理解
    3. 3.小規模から始める
    4. 4.既存事業に関連する分野を選ぶ
  5. 5.多角経営の成功事例 
  6. 経営が軌道に乗れば、多角経営が次のステップとなる

多角経営とは?

多角経営が求められる理由は?成功させるポイントを解説
(画像=Blue Planet Studio/stock.adobe.com)

多角経営とは、企業が異なる事業を複数経営することを指す。例を挙げると、衣料品の小売業を経営するA社が、その店舗で利用できるクレジットカードを金融事業として立ち上げたり、老人ホームの経営にも乗り出したりするといった具合である。

一方、多角経営の対極としてとらえられる集中戦略は、ターゲットとする顧客を絞り込み、販売地域や流通させるチャネルを集中させる経営方法だ。例えばB社は衣料品の小売業の中でも、中高年のアウトドア愛好者をターゲットにした商品を実店舗のみで販売するようなスタイルをとっている。多角経営と集中戦略は、企業の組織内で経営する事業の数によって分類されることになる。

多角経営が推奨される要因はいくつか存在するが、現況のコロナ禍をみてもその重要性は読み取れるだろう。社会的隔離政策の推奨によって外出が控えられた結果、観光業、飲食業などは大打撃を受けた。しかし会社の中に、社会的隔離政策で恩恵を受けた巣ごもり需要を取り込むような事業が展開されていれば、マイナスの影響を受けた事業をカバーすることもできただろう。

つまり、多角経営は会社の生き残りをかけた状況において効果を発揮してくれる経営戦略ともいえるのだ。

多角経営のメリット

経営者であれば、1つの事業を成功させるのに苦慮したケースもあり、多角経営はリスクが大きい印象があるかもしれない。しかし、苦労の末に掴んだ主力事業の成功といえども、その運営はライバル社の登場やトレンドの終焉による環境変化などで未来永劫に保証されているものではない。

また、一時的に業績が落ち込んでも将来的には有望な事業の場合、資金繰りが悪化して需要が回復するまで事業を継続できない場合もある。その際、社内の他事業で利益を確保できれば、業績が振るわない事業でも、ポテンシャルがあるものは継続するといった選択肢が増える。社内でさらに収益の柱となる事業を立ち上げるリスクを取ることは、結果的には既存の事業を支えてくれる可能性もあり、リスクを分散した経営を実現させることにつながるだろう。

異なる事業がそれぞれ別々の会社によって経営されていれば、事業の効果は限定的なものにとどまる。これを同じ会社内で多角経営を展開すると、事業AとBを足して単純に2ではなく、3や4といったようなシナジー効果を生む可能性もある。事業AとBで原材料の調達が必要であれば、まとめて発注することで仕入れ値を引き下げることができるだろう。また、物流や商品を保管する倉庫を異なる事業間で共有できればコストの削減にも効果が期待できる。

既にコアビジネスが軌道に乗っている企業には、ブランド力や技術力、マーケティングなど蓄積された経営資源がある。多角経営でスタートさせる事業そのものはゼロからのスタートであったとしても、こうした経営資源を上手に活用することで、新事業の経営も軌道に乗せやすくなるだろう。

多角経営のデメリット

多角経営は魔法の杖ではなく、時にはデメリットとなるリスクも潜在する。集中戦略で1つの事業を展開している間は会社の経営が順調だったが、多角経営によって非効率さが目立つようになる場合もある。特に、積み上げた経営資源が新たな事業にも割かれることで、主要事業における経営資源が不十分になり、業績が傾いてしまう恐れがある。

会社の経営安定に貢献してくれることが期待される多角経営は、シナジー効果によって新事業およびコア事業のコスト削減が期待できる。しかしながら、そのメリットを享受するにも、まずは新事業を立ち上げる初期投資費用が必要だ。このコストを事業で回収することができなければ資金繰りが悪化し、多角経営を目指したばかりに、順調だった経営そのものが危機に晒される場合もある。

多角経営を成功させる5つのポイント

多角経営のデメリットおよびリスクについて認識したところで、多角経営の成功に秘められたいくつかのポイントを見てみよう。

1.利益が確保できているタイミングで多角経営に取り組む

まずは、主力事業が利益を確保できているときに多角経営に挑戦することが大事だ。主力事業で赤字を抱え、それを補うために新規事業を立ち上げて、補完させるような多角経営はリスクが高い。特に新たにスタートする事業が立ち上げ段階の期間は、資金面でもサポートできるように、主力事業が収益化しているときに手を付けるべきである。

主力事業で収益が上がっていても、市場が飽和状態で成長が期待できないために、別の事業への多角経営へ逃避すると、共倒れになってしまうこともある。そのため、主力事業の状況を見極めることが大切だ。

2.従業員の理解

多角経営には従業員の理解が欠かせない。主力事業が赤字を抱えているのに、経営者から新たな事業の展開を告げられた従業員の本音は、足元の主力事業の立て直しが優先課題であり、多角経営に非協力的になりかねない。そのため、多角経営に取り組む際は従業員への真摯な説明が必要不可欠だ。

3.小規模から始める

新たな収益の柱として新規事業を成長させるために、多額の初期投資を講じてスタートさせるのはリスクが伴う。会社の資金繰りが悪化して、収益化された主力事業に影響を及ぼさないように、まずは小規模から多角経営を目指すのが賢明だろう。

多角経営のメリットで前述したように、複数の事業を展開することで経営リスクの軽減を目指すのであって、新たなリスクともなるような大規模の新規事業は慎まなければならない。小規模でスタートすれば、万が一に新規事業がうまくいかなくても、撤退の決断がしやすいために損失も限定的なものになるだろう。大規模な新規事業は、コストをかけたからというバイアスが働き、潔い撤退に踏み切れず、結局、撤退の決断が先延ばしされて損失も大きく膨らんでしまう傾向がある。

4.既存事業に関連する分野を選ぶ

多角経営のためにIT業を主力に営む企業の経営者が、少子高齢化に機運を見出して老人ホームの経営を新たなビジョンとして掲げても、成功する確率はそれほど高くないだろう。可能であれば、既存事業に関連する分野に参入することが多角経営を成功に導く鍵となる。その理由としては、類似した業種であれば、より高いシナジー効果が期待できるからだ。さらに、既存の技術やノウハウ、社内における仕組みを横展開できる事業であれば、既存の資源をフル活用できるメリットもある。

既存事業と類似した事業であれば、社内の役員や従業員からの多角経営への理解も得やすくなる。新規事業の成否は、役員や従業員を巻き込みながら取り組めるかどうかが鍵となるからだ。経営者の一人よがりのビジョンによる多角経営ではなく、社内一丸となって企画・立ち上げ、運営管理までを進めていくことが成功への近道となるだろう。

5.多角経営の成功事例 

多角経営の成功例として挙げられる企業はいくつかあるが、代表的な例としてソニーがある。ソニーといえば、ウォークマンに代表されるように、第一印象としては音響機器やテレビ、カメラといったような電化製品メーカーを思い浮かべる方は多いだろう。

しかし、そのほかにもプレイステーションでヒットを飛ばしたゲーム事業や映画・テレビ番組製作、ストリーミングを含めた音楽事業も主要な事業として多角経営を支えている。音楽や映画事業は共通する点も多く、シナジー効果が生まれやすい。コロナ禍の影響下では電化製品の販売、音楽、映画事業は打撃を受けた。しかし、2021年3月期の第1四半期の連結決算では売上・最終利益ともに前年同期比で増加した。

ソニーの伝統的な事業が社会的隔離措置の影響を受ける中、業績を牽引したのは金融事業である。ソニーは生命保険やネット銀行も展開し、多角経営の裾野を広げている。この戦略が奏功し、今回の危機的な状況においても好調な業績を上げることに成功した。

ソニーのような日本を代表する企業以外でも、新興企業の中において多角経営で注目を集めている企業がある。DMMである。「領域とわず、なんでもやる」と同社が掲げているように、幅広い事業を展開している。動画配信サイトの事業からスタートして以降、電子書籍のリリースやDVDレンタルへと多角経営を進め、現在はFX(外国為替証拠金取引)サービスからゲーム配信、オンライン英会話などのITを駆使した事業まで事業領域を拡大させている。

また、消防車両開発や水族館運営といったハード面の事業への参入も目立ってきた。一見相関関係がないような事業でも、他の事業で培ったノウハウをうまく応用させながら、様々な事業を展開することで、右肩上がりの経営を実現させている。

経営が軌道に乗れば、多角経営が次のステップとなる

集中戦略として、1つの事業で会社を成長させることに成功した経営者は、さらなる成長を目指す上で、既存事業の規模拡大ではなく多角経営に踏み出すことも検討に値する。新規事業の立ち上げには、労力や費用もかかるが、すでに事業での成功を収めている経営者であれば、その成功体験をもとにして新しい事業にチャレンジする勇気も備わっているだろう。

新たな事業が収益の柱として成長することができれば、シナジー効果で既存事業にも好影響を及ぼすことが期待できる。また、会社全体の経営にも更なる安定性をもたらしてくれる可能性も十分あり得る。既存事業の経営が軌道に乗った経営者は、多角経営を次のステップとして視野に入れたいところだ。

文・志方拓雄(ビジネスライター)