IT技術の発展によるビジネス環境の変化を、肌で感じている経営者も多いだろう。IT技術によってもたらされるデジタルイノベーションを導入できるかどうかが、今後のビジネスの行方を左右するといっても過言ではない。経営者はその変化に適応しながら、新たな経営戦略を立てる必要がある。

目次

  1. イノベーションとは?
    1. プロダクト・イノベーション
    2. プロセス・イノベーション
    3. 組織イノベーション
    4. マーケティング・イノベーション
  2. ITを活用したイノベーションが注目される背景
  3. ITによるイノベーションの可能性、もたらされる変化
  4. どのようなITイノベーションが誕生?
  5. デジタルイノベーションは企業の成長には不可欠

イノベーションとは?

デジタルイノベーションの加速でビジネスも急速に変化
(画像=everythingpossible/stock.adobe.com)

経営者であれば、IT技術の進歩は否が応でも目にせざるを得ない。しかしながら、それによって起こるイノベーションとは一体何を指すのだろうか。この点がイマイチ明確ではないかもしれない。イノベーションとは、一般的に「これまでに存在しなかった製品やサービスを新たに生み出し、技術的な革新をもたらす」と定義されることが多い。その革新によって新しい価値が創造されるのだ。

プロダクト・イノベーション

イノベーションは主に4つの類型に分けられて定義される傾向がある。「プロダクト・イノベーション」は、競合他社と一線を画すような新たな製品やサービスを世に送りだすことを指す。プロダクト・イノベーションと一口にいっても、これまで存在していなかった革新的な商品を開発したり、すでに出回っている商品に新たな素材や原材料を用いることで性能や機能に革新をもたらしたりするアプローチがある。このプロダクト・イノベーションは、製品やサービスといった最終形で現れるため、比較的見分けやすいイノベーションともいえる。

プロセス・イノベーション

2つ目に挙げられる「プロセス・イノベーション」は、商品やサービスの製造過程において革新がもたらされることを指す。生産技術を改善したり、新たな生産方式を導入することで、生産性が向上し、製品やサービスのコスト削減につながる効果が見られる。かつては一部の富裕層のみに手が届く乗用車が、中間層の世帯にも普及するようになったのは、乗用車の製造過程でプロセス・イノベーションがもたらされ、製品が割安となった結果であった。

組織イノベーション

イノベーションによって製品やサービスを世に送り出すのは企業や個人事業主である。3つ目はそうした組織側に変革をもたらす「組織イノベーション」が挙げられる。組織が変われば、供給される製品やサービスにも変革がもたらされるという発想だ。具体的には、これまで自社の利益一辺倒だった企業が、環境や持続可能性に配慮する組織へとイノベーションで転換を図った場合、その理念に沿った製品やサービスが新たに生まれてくると考えられる。

マーケティング・イノベーション

最後に、「マーケティング・イノベーション」についても触れておこう。マーケティング・イノベーションは、既存の製品やサービスにイノベーションを起こすことが難しい場合でも、変化をもたらすポテンシャルを秘めている。

伝統的なマーケティングの場合、顧客へのアプローチはDMや雑誌・新聞などの紙媒体やテレビでのCMが主流であった。しかし、SNSが浸透した現在では、こうしたチャネルを使用したマーケティング・イノベーションが起きている。特に伝統的な手法と異なるのは、技術の革新によってある程度ターゲットを絞って、潜在的な顧客にダイレクトにアプローチができるようになった点であろう。

製品やサービスに変革をもたらすイノベーションに、新たなツールとして存在感が増しているのがIT技術であることは言及するまでもない。これらを活用した「デジタルイノベーション」が年々注目されている。デジタルイノベーションの引き立て役ともなるIT技術には、IoTやビッグデータ、AI、ロボット、情報通信技術などが存在感を増している。

ITを活用したイノベーションが注目される背景

IT技術を活用したデジタルイノベーションが注目される背景には、こうしたデジタルテクノロジーが急速に進歩していることが挙げられる。ひと昔前は、ロボットがビジネスの場に登場するのは、SF映画の世界だけと思われていたが、いまやあらゆる産業においてロボットの導入が進んでいる。また、AIやビックデータの技術進歩には目を見張るものがあり、今後増々IT技術の存在感が高まり、さらなるイノベーションに期待がかかる。

「技術大国」を掲げる日本では、政府もこうしたデジタルイノベーションの促進を後押しすべく、「官民戦略プロジェクト10」において、IoTやビックデータ、AIを活用した第4次産業革命の取り組みを官民で推進している。

具体的な例としては、建設現場の生産性向上のため、ドローンによる測量を導入し、生産性を2025年までに20%向上させることなどが挙げられる。また、無人自動走行に向けた車両の開発やインフラ整備も進められている。国を挙げてのデジタルイノベーションは、自社の製品やサービスにも将来的に関わってくる問題のため、経営者はその動向を注視しておいた方が賢明であろう。

ITによるイノベーションの可能性、もたらされる変化

プロダクトやプロセス、組織、マーケティングを通じたイノベーションについて説明したが、最近はIT技術やデータを活用して新たな価値を創出するイノベーションの可能性が広がっている。特にSNSやブログのプラットフォームが浸透したことにより、顧客を巻き込んだ価値の創造が実現可能となった。

例えば、新製品が発売されると、SNSを通じて顧客から使い勝手や性能について即座にフィードバックを得ることができるようになった。また、不足している機能などの要望を顧客から吸い上げることで、次なる新製品のアイデアに活用することができる。顧客の声に基づいた新たなイノベーションは、需要も裏付けされており、企業にとっては活用しない手はない。企業と顧客の関係は人と人とのつながりであり、一見その結びつきはアナログのようだが、ITの進歩がその結びつきを強化することでイノベーションへと発展していくという流れだ。

イノベーションに限らず、IT技術の発展によりビジネス界の変化は目まぐるしい。これまで安定して成長を遂げてきた事業といえども、その変化によって荒波に飲み込まれるリスクも存在する。こうした変化に柔軟に対応しつつ、企業として成長を遂げながらビジネスの世界で生き残るためには、企業の内部資源だけに依存していては限界がある。

そこで注目されるのが「オープンイノベーション」だ。これは、企業内部と外部のノウハウや資源を積極的に交流させることでイノベーションを引き起こし、企業がイノベーションによって創造された製品やサービスなどを市場に提供していくことである。オープンイノベーションを活用すれば、社外の優秀な人材と連携して自社の人材不足を補うことができる。また、先行する社外のノウハウや資源をうまく取り入れることで、自社で1からスタートさせるよりもコストを削減することができるだろう。

どのようなITイノベーションが誕生?

NECがITイノベーションの促進に向けて導入したのが、社内SNSである「イノベーションカフェ」である。このプラットフォーム上でブログを開設したり、閲覧してコメントを寄せたりしている。このSNSを通して、部署や職位を超えたコミュニケーションが促進され、人と人のつながりが生まれる効果がもたらされた。

さらにこのプラットフォーム自体が新規事業に結び付いた。NEC内でブログソリューション事業を立ち上げ、ドリコム社などと共に企業向けのIP電話システムと連携した社内ブログシステムの販売にまでに至った。NECが自社でスタートさせた社内ブログのイノベーションカフェが、企業内の新たなコミュニケーションツールとしての商品にまで変革を遂げたのだ。

オープンイノベーションで実績を残しているのがコニカミノルタである。複写機のリーディングカンパニーとして知られている同社だが、ペーパーレス化に伴い売上の約8割を占める複写機に依存する構造からの脱却を目指し、オープンイノベーションを経営戦略として取り入れた。日本と米国を含む世界5拠点にビジネスイノベーションセンターを設立し、このセンターを拠点にして顧客ニーズの把握に努めている。

顧客ニーズを実現するために求められる技術は、オープンイノベーションを活用して社内外と積極的に連携している。プロジェクトの1つに、「MELON」と呼ばれる医療機関向けのサービスがある。日本語を話せない外国人患者とのコミュニケーション支援サービスであり、外国人患者が入院から退院までの一連の手続きを情報通信技術(ICT)とタブレット端末などを活用しながら、多言語で対応できるサポートを提供する。この実施にあたり、非営利法人や医療系のシンクタンク、ベンチャー企業と連携してオープンイノベーションを積極的に進めている。

デジタルイノベーションは企業の成長には不可欠

IT技術によって目まぐるしい変化を見せるビジネスの世界においては、安定した経営もある日を境にして突然、厳しい環境に追い込まれる可能性は否定できない。企業の安定した経営には成長が欠かせないが、それにはイノベーションが求められる。

従来であれば、そのイノベーションにも資源や創造力が求められていたが、IT技術を活用すれば資源が限られた中小企業でも十分にデジタルイノベーションを起こせる可能性がある。特にオープンイノベーションを採用すれば、自社に不足する人材やノウハウを外部から補いながら効果的にイノベーションへとつなげることもできるだろう。企業経営には、変わらない信念が必要だ。しかし、それと同時に外部のノウハウまでをも活用しながら、変革を遂げて成長していく柔軟性も不可欠である。

文・志方拓雄