事業計画書の作成は、創業時の大きな課題である。事業計画書は、売上や利益・資金計画を詳細に記載するとともに、経営者の経歴や企業のビジョン、理念をしっかりと書き込むことが重要だ。それでは実際に事業計画書の作り方について見ていこう。
目次
事業計画とは?

事業計画とは文字通り、事業を今後どのように運営・拡大していくかの計画のことを指す。
事業家なら、事業の計画を頭の中で思い描いていることだろう。しかし、自分の頭の中にあるだけのものを理解することは誰にもできないし、実現可能性を検証することもできない。「事業計画書」として具体的な形に落とし込んではじめて、他人が理解でき、実現可能性を検証できるものになるのである。
事業計画書の目的は?
事業計画書の目的は、金融機関や投資家に提示し、資金調達することである。事業を運営する上で資金調達は不可欠だ。そのため、事業計画書は資金調達する上で必須のものとなる。
資金調達の方法には、返済義務のある「融資」と、返済義務のない「投資・出資」の2つがある。融資を受けられるのは、政府系金融機関や信用保証協会などの公的金融機関や、銀行・信用金庫などの民間金融機関だ。また、投資・出資は株式と引き換えに、ベンチャーキャピタルや個人投資家などから受ける。
いずれも、事業計画書なしに融資や出資を受けることはできない。金融機関やベンチャーキャピタル・投資家は、言うまでもなくそれぞれ自分が利益を上げるために融資や投資を行う。融資は金利により、投資・出資は株式の値上がり益であるキャピタルゲインにより利益を上げる。
説得力のある事業計画書があることに加え、企業に成長の可能性を感じて利益を上げられると確信するからこそ、金融機関は融資を、投資家は投資・出資を実行するのである。
事業計画書を作るメリット
事業計画書を作るメリットついて見ていこう。
資金調達
事業計画書を作る最大のメリットは、資金調達がしやすくなる点だ。金融機関や投資家に融資・出資の依頼をする際には、その融資や出資を実行することにより、将来的にどの程度の利益が上げられるようになるかを明確に示さなければならない。事業計画書としてコンパクトにまとめることにより、金融機関や投資家に将来の見込みを確実に伝えることが可能となる。
また、金融機関から融資を受ける際には、審査が行われる。しっかりとした事業計画書を提出すれば、審査に合格する可能性が高まるだろう。また、審査の期間についても短縮され、短期間で融資が実行される可能性が高くなる。
事業の方向性を従業員に示す
事業計画書を作るメリットは、資金調達だけではない。会社の従業員に対しても大きなメリットがある。
従業員には、経営者である自分と同じ方向を向いてもらわなくてはならない。従業員がそれぞれ違う方向を向いていたのでは、事業は進められないからだ。事業計画書は、事業の将来の見込みを示したものである。従業員に提示することにより、事業の方向性を的確に示すことができる。
思考が整理される
また、事業計画書の作成は経営者自身にとっても大きなメリットがある。思考が整理されるのだ。
経営者であれば、事業の将来についてさまざまなことを思い描いているだろう。それを事業計画書に落とし込んでいくことによって思考が整理され、事業が本当に成り立つものであるかについて客観的に精査することが可能となる。
事業計画書を作ってみると、事業について考えなければいけないことはこんなに多いのかと驚くこともあるかもしれない。それら一つ一つについて綿密に考えていくことで、事業計画に現実味が加えられ、事業が成功する可能性が高まる。
項目別に見る事業計画書の作り方
事業計画書の作り方について、項目別に解説する。
企業の概要
企業の概要には、商号や所在地、役員、株主構成、電話番号、ホームページURL、主要取引先、主要商品などを記載しなければならない。また、事業を創業する際には「創業者のプロフィール」を詳細に書くことが重要だ。
創業時には企業の実績はまだ何もない。そのため、創業経営者のこれまでの経験を事業にどう活かしていけるかを伝える必要がある。
事業の概要・コンセプト
始めようとする事業が「誰に」「何を」「どのように」提供するかをしっかり伝えよう。加えて、事業を通して実現したいビジョンや理念、目的などのコンセプトを書き込むことも重要だ。創業時の企業の本気度は、この「実現したいこと」が一つの目安となる。
競合や市場規模
競合や市場規模など自社を取り巻く環境を分析する必要がある。競合は、最低でも3社は取り上げ、それぞれの強みを分析しよう。分析の際には、マーケティングにおける「4P」を参考にすると取り組みやすい。4Pとは以下のことを指す。
・Product(商品)
・Price(価格)
・Place(販売チャネル)
・Promotion(販売戦略)
4Pのそれぞれが自社と似通っている企業が競合といえる。
自社の強みと弱み
競合と比較して、自社の強みと弱みがどこにあるかを記載する。強みや弱みは、技術やノウハウ、資格、スキル、企業風土、組織力などの観点から分析しよう。
たとえば、カフェを始める場合、カフェは市場に山ほどある。「コーヒーの種類が多い」「小説や漫画の世界観を取り入れている」「仕入原価を低く抑えられる」など、他社にない特徴を打ち出そう。
サービスや商品の概要
サービスや商品の概要は、「価値」と「価格」について以下のように顧客目線で記載することが重要だ。
・価値 …顧客にとって自社のサービスや商品がどのような価値をもたらすか
・価格 …自社のコストや他社との比較だけでなく、顧客がその価格をどのように受け取るか
また、サービスや商品の品ぞろえを充実させることも、事業の成長を目指すためには大切だ。
販売戦略やビジネスモデル
販売戦略・ビジネスモデルは、まずターゲットを明確にすることが大切だ。自分の事業が狙うターゲットの性別や年齢、職業、家族構成、趣味やライフスタイルなどをできる限りはっきりさせよう。
また、サービスや商品が顧客に届き、代金を回収するまでの「販売チャネル」を分かりやすく記載することも重要だ。販売チャネルには、店舗や代理店販売、ネット通販、チラシやDMによる集客などさまざまなものがある。
体制や人員計画
意思決定や役割分担を明確にした社内組織図を書こう。また、事業を成長させるには人員も必要だ。人員がどの程度必要になるかを予測し、人件費や採用募集費も含めた人員計画を作成しよう。
財務計画
財務計画は、大きく分けて売上計画、利益計画および資金計画の3つがある。
・売上計画
売上計画は創業後3年まで想定し、1ヵ月ごとに予想しよう。サービスや商品が複数あるなら、それぞれについてイメージする。予想は根拠を提示し、厳しめに行うことが重要だ。
・利益計画
売上から売上原価、人件費、減価償却費、販管費、借入利息、法人税などを予測しよう。また、売上総利益と営業利益、経常利益、税引き後利益も示すことが大切だ。
・資金計画
利益計画とは別に、資金計画を立てよう。利益が出ていても、実際にどの程度の現金が手元にあるかは、入出金の状況を詳細に分析しなければ分からないためだ。
事業計画を作るときの注意点
事業計画を作るときの注意点を見ていこう。
なるべく具体的に書く
事業計画を作るときは、なるべく具体的に書くことを意識しよう。特に注意しなければならないのは、一見計画に関係なさそうなことでも、具体性が求められるケースがある点だ。事業計画書を見る金融機関や投資家は、「計画が本当に実現するのか」を問うためだ。
たとえば、経営者のプロフィールや会社の沿革、ビジネスモデルの概要、あるいは会社として把握している課題や問題点などは、計画とは直接関係ないようでも具体的に書いた方がよいだろう。これらを知ることにより金融機関や投資家は、計画の実現可能性を前向きに評価することが可能になる。
ロジックを確認する
事業計画に盛り込む内容は多岐にわたる。それぞれの内容が整合的になるようにロジックを確認しよう。
たとえば、「従業員を5名雇用する」としているのに、5名分の人件費が損益計画に計上されていない、あるいは「消耗品を100万円分購入する」としているのに、販管費が計上されていない、などはありがちだ。整合性がないと、事業計画書の信用が一気に低下してしまう。注意しておこう。
数値で記載する
事業計画の内容は数値で記載することが重要だ。ただし、その数値には「根拠」が必要になってくる。特に売上の数値については、根拠のない数値を書いても金融機関や投資家から信用してもらえない。
売上を根拠付ける方法には、まず条件が似たような事業者の売上を参考にすることが挙げられる。また、BtoBの取引であれば、契約書や発注書は強力な根拠となるだろう。
事業計画書のサンプル
事業計画書のサンプルとして以下のものが参考になる。
日本政策金融公庫の事業計画書
公的金融機関である日本政策金融公庫が提供している事業計画書のサンプルは、さまざまな業種について、A3版用紙1枚で簡潔にまとまっている。金融機関に提出する事業計画書のひな形として利用できるだろう。
・洋風居酒屋
・美容業
・中古自動車販売業
・婦人服・子供服小売業
・ソフトウエア開発業
中小機構の事業計画書
以下は、中小企業をサポートする独立行政法人 中小機構が提供する事業計画書のサンプルだ。日本政策金融公庫のものと比べて、より一般的に使える汎用で詳細な形式となっている。
・飲食業
・小売業
・サービス業
事業計画は入念に作成しよう
事業計画は、資金調達のためになくてはならない存在だ。従業員に会社の方向性を示し、また自分の頭を整理するためにも作成することが望ましい。
事業計画に書き込む必要がある項目はさまざまだ。それぞれを詳細に検討し記載しなければならない。入念に作成して熱意を示し、資金調達を成功させよう。
文・高野俊一(ダリコーポレーション ライター)