営業や宣伝が売上につながらないとお悩みの方は、アプローチの目線を顧客中心に変えてみてはどうだろうか。方法の一つにWebマーケティングがある。Webサイトへの集客・回遊・再訪を促す施策とデータ分析により、高度な顧客創造の仕組みを作ることができる。
ここでは、Webマーケティングの基礎知識、そしてなぜWebマーケティングが重視されるのか、具体的な手法を解説する。
目次
Webマーケティングとは?

Webマーケティングを一言で表現すると、「Webを用いたマーケティング」である。もう少し噛み砕いた言葉で表現するならば、「Webサイトを用いた顧客創造の仕組み作り」であるともいえる。
そもそも、マーケティングとは何だろうか?日本マーケティング協会の1990年の定義によれば、「マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動」である。市場という言葉は、顧客に読み替えるとわかりやすいだろう。
さらにドラッカーによれば、マーケティングの理想は「販売を不要にすること」だという。すなわち、自社の商品を顧客に無理矢理売りつけるのではなく、顧客が自発的に買ってくれるような仕組みを構築することが、マーケティングの目指すところなのだ。
日本マーケティング協会によるマーケティングの定義が言うところの「総合的活動」とは、この「仕組み作り」に他ならない。これらを簡潔にまとめれば、マーケティングとは「顧客創造の仕組み作り」と定義し直すことができる。また、一般的に企業にとってWebといえば、自社のWebサイトのことである。
つまりWebマーケティングとは、「Webサイトを用いた顧客創造の仕組み作り」であると考えて良いだろう。
デジタルチャネルを使ったデジタルマーケティング
Webマーケティングと似たような言葉にデジタルマーケティングがある。これも前述のマーケティングの定義を使えば、「デジタルマーケティングとは、デジタルチャネルを用いた顧客創造の仕組み作りである」と定義できる。
デジタルチャネルには、メール、モバイルアプリ、ポイントカードやデジタルクーポン、アーンドメディア(SNSやまとめサイトなど)といったものが含まれる。もちろんその中にはWebサイトも含まれるので、Webマーケティングはデジタルマーケティングに包括される概念であるといえる。
デジタルマーケティングの一環としてWebマーケティングが担う役割(Webマーケティングの狙い)は、Webサイトに人々を集めて商品購入や資料請求などの行動を促すこと、そして一旦つながりを持った顧客との関係が継続するように働きかけることである。Webサイトはいわば企業の顔として、最初の、かつ継続的な顧客接点になることを期待されているのである。
ここまで、マーケティングとは「顧客創造の仕組み作り」であると繰り返し述べてきた。しかし、Webマーケティングで作ろうとする顧客創造の仕組みとはどのようなものだろうか?
それは、「Webサイトへの集客→サイト内でのコンバージョン(購入、資料請求、問い合わせといった行動)促進→継続的な顧客ケア」という一連のサイクルを回すことである。その具体的な手法は、Webマーケティングの歴史と共に変遷してきた。
オンライン雑誌のバナー広告から始まったWebマーケティングの歴史
Webマーケティングの歴史は、インターネットが普及し始めた1990年代にさかのぼる。米国の電話会社であるAT&Tが、1994年、オンライン雑誌に世界初のバナー広告を掲載した。これがWebマーケティングの始まりとされる。
また、1990年代にはショッピングサイトを運営するEコマース企業も次々と登場。1995年にAmazon、1997年に楽天、1999年には中国のアリババが創業している。
その頃、検索エンジンの登場により、Webマーケティングは大きく変質する。1990年代後半、検索エンジン大手のYahoo!(ヤフー)やGoogle(グーグル)がサービスを開始。Googleが「ロボット型検索エンジン」と呼ばれる自動的な検索の仕組みを発表すると、SEO(検索エンジン最適化)対策の手法が発達した。
インターネット広告の急発展がみられた2000年代
2000年代には、さまざまなインターネット広告の手法が急速に発展する。まずは、ブログやメールマガジンといった個人メディアが普及してきたことを背景に、これらの個人メディアに広告を貼ってショッピングサイトに誘導するアフィリエイト広告が成長。
2002年には、検索結果の表示画面に検索キーワードと関連した広告を出すリスティングのサービスをYahoo!、Googleが開始。2000年代後半になると、ユーザーの行動履歴を基にターゲットを絞って広告を配信するリターゲティング広告が登場した。
また、2000年代末期から2010年代前半にかけては、スマートフォンをはじめとする高性能のモバイルデバイスが一気に普及。これにより、いつでもどこでも人々がインターネットに繋がるようになるという革命的な変化が起きた。その先駆けとなったのが、2007年に登場したiPhoneである。
iPhone発売とほぼ同時期に、TwitterやFacebookなどのソーシャルネットワークサービス(SNS)が登場。SNS上の企業アカウントから自社サイトに誘導するといった手法が発展した。
Webマーケティングが重視される3つの理由
Webマーケティングが注目を集める理由は、以下の3点に集約される。
1.消費者の生活におけるインターネットの重要性が増しているため
2.カスタマーエクスペリエンスにおいてWebサイトが果たす役割が大きいため
3.企業のWebサイトが顧客データ収集のハブとして機能するため
それぞれの理由について詳しく説明していこう。
1.消費者の生活におけるインターネットの重要性が増しているため
現代の消費者は、インターネットにどっぷりと浸かって生活している。読者の日常を思い浮かべていただいても、ちょっとした調べ物や買い物から身近な人とのコミュニケーションまで、多くの行動がインターネット上で完結していることに気付くだろう。
そうした実感を裏付ける数字もある。総務省情報通信政策研究所「平成29年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」によれば、全国の男女の平均的なインターネット利用時間は平日100.4分、休日123.0分である。いずれも、平成24年の調査開始時から一貫して増加しているという。インターネットは今や、人々が毎日100分以上時間を費やしているメディアなのである。
しかもインターネットは、商品を購入すべきかどうか判断するために使われることが多い。総務省が取りまとめた平成27年度版情報通信白書の「目的別の利用メディア」によれば、「ネットショッピング」を利用すると回答した人は72.2%。20代から60代まですべての年代で60%を超えており、もはやネットショッピングをしない人の方が珍しいと言える。
消費者とのコミュニケーションのために自社のWebサイトを使うことは、非常に効率的というわけだ。
2.カスタマーエクスペリエンスにおいてWebサイトが果たす役割が大きいため
国内でデジタルマーケティングサービスを手掛ける富士通によれば、カスタマーエクスペリエンス(Customer Experience、以下CX)とは、「商品購入の前後も含めて、顧客がどのような体験・経験をしているのか。その際に、商品そのものや、それを提供している企業にどのような印象を抱いているのか。全てを含めたもの」である。
インターネットが普及して多種多様なデジタルデバイスが発展してきた今日、CXにおいてデジタルチャネルが果たす役割はますます大きくなりつつある。中でもWebサイトは、CX向上を目指す上で最も重要なチャネルの一つとして位置付けることができる。
なぜなら、インターネット検索を経て商品認知のきっかけになったり、最終的に商品を購入する場になったりと、Webサイトがカスタマージャーニーの入口と出口の役割を担うことが多いためである。CXを向上させようとすれば、必然的にWebマーケティングに力を入れることになるケースが多いだろう。
3.企業のWebサイトが顧客データ収集のハブとして機能するため
顧客属性や行動履歴のデータを収集・分析して次のマーケティング施策に活かすというプロセスは、デジタルマーケティングならではのものだ。
インターネット上でのユーザーの行動は、リアルな世界における消費者の行動と比べて把握がしやすい。そうした行動データを分析すれば、ユーザーの価値観や趣味嗜好を推測した上で、パーソナライズされた施策を展開することも可能になる。
特に企業のWebサイトでは、会員登録や商品購入、資料請求などのために、顧客が自ら情報を入力する機会が多い。また、Webサイトへの流入経路からいつ・どのボタンをクリックしたかに至るまで、さまざまな行動履歴もデータとなって残る。
そのようにして集めた顧客情報は、Webマーケティングの再訪施策に使われるだけでなく、さまざまなデジタルチャネルから得たデータを紐付けるためのハブとしても機能する。そして、デジタルマーケティング全体のデータ分析をより充実させることに貢献するのだ。
Webマーケティング、知っておきたい3つの手法
Webマーケティングの施策は、その機能により集客施策、回遊施策、再訪施策の3種類に大別できる。これら3種類の施策を組み合わせたマーケティングキャンペーンと、データ分析による反省・改善を繰り返すことが、Webマーケティングの基本である。
それぞれの施策にはどのような手法があるのか、詳しくみていこう。
1.集客施策
集客施策の機能は、自社サイトなどにユーザーを引き寄せることである。具体的な手法としては、検索上位に表示させてユーザーの目を惹くSEO対策や、各種Web広告が挙げられる。
・SEO(検索エンジン最適化)
検索エンジンで、ユーザーが自社の商品などに関連するキーワードを検索すると、自社のWebサイトが検索結果の上位に表示されるようにする施策。
・リスティング広告
検索エンジンの検索結果画面に表示される広告枠に、テキストの広告を掲載する手法。
・アフィリエイト広告
個人ブログやメールマガジンなどに、自社のWebサイトへ誘導する広告を掲載してもらう手法。
・アドネットワーク広告
Webサイトやブログ等の複数のWeb広告媒体を集め、広告を配信するネットワークを作り、一括で広告を配信する手法。
2.回遊施策
自社のWebサイトに流入してきたユーザーをサイト内でのコンバージョン(購入、資料請求、問い合わせといった行動)に誘導するのが、回遊施策だ。
ランディングページや入力フォームを中心に、Webサイトの魅力を上げることが主な手段である。
・LPO(ランディングページ最適化)
ユーザーが検索などから自社のWebサイトにアクセスした最初のページ(ランディングページ)の仕様やデザインを改善すること。
・EFO(入力フォーム最適化)
Webサイトの入力フォームが利用しやすくなるよう、仕様やデザインを改善すること。
3.再訪施策
自社のサイトを訪れたユーザーに対する継続的なケアを行い、そのユーザーが再度サイトを訪問してコンバージョンにつながる可能性を高めるための機能が、再訪施策である。
マーケティング分野でもデータサイエンスが発達した近年、一人一人のユーザーについて収集されたデータを活用し、パーソナライズされたアプローチで差別化を図ることが重要性を増している。
・リターゲティング広告
ユーザーが過去に閲覧したWebページに基づいて、関連する広告を何度も表示する手法。
・メールマーケティング
属性や行動特性に基づいて絞り込んだ顧客や見込み顧客にメールを送って自社のWebサイトへ誘導する手法。
・ソーシャルメディア対策
SNS上の企業アカウントを使ってユーザーとコミュニケーションをとりながら、自社のWebサイトへ誘導する手法。
Webマーケティングで顧客へのアプローチを変えよう
ここまでみてきたように、Webマーケティングは自社のWebサイトを中心とした集客・回遊・再訪施策とデータ活用を組み合わせて顧客創造の仕組みを作るプロセスである。顧客一人一人の属性やWeb上での行動を分析することにより、パーソナライズされたアプローチをとる点が特徴の一つである。
施策実行とその振り返りを繰り返し、試行錯誤しながら顧客一人一人との関係性を深めていけるところに、Webマーケティングの醍醐味があるといえよう。これは、従来のマスマーケティングと比べると、価値観の多様化が進んだ現代の消費社会によりふさわしい、「顧客中心」のアプローチではないだろうか。
顧客へのアプローチを変えて他社との差別化を図りたければ、Webマーケティングは有効な方法となるだろう。
文・BUSINESS OWNER LOUNGE編集部