役員退職金は、役員の退職時にその功績に報いるなどの目的で支給される手当のことである。今回は、役員退職金の支給額や税金の算出方法について説明する。税金額を素早く知りたい人向けに税金の速算表も載せているので、計算の参考にしてみてほしい。(2020年7月21日時点)

目次

  1. 役員退職金とは
    1. 役員退職金を受け取れる役員の定義
    2. 役員退職金の支給時の注意点
  2. 役員退職金の支給額・税金の算出方法
    1. 役員退職金の所得税・復興特別所得税の計算の仕方
    2. 役員退職金の住民税の計算の仕方
    3. 退職所得控除額とは
    4. 役員が死亡している場合
  3. 役員退職金による節税効果
    1. 役員退職金を損金に算入するための要件
    2. 損金不算入だとどうなるのか
  4. 支給前に損金に算入できる額を調査するといい

役員退職金とは

役員退職金の税金と支給額はどう算出する?適正な算出で節税効果を高めよう
(画像=takasu/stock.adobe.com)

役員退職金とは、役員の退職に基づいて支払われる手当のことである。まずは役員の定義や支給時の注意点について確認したい。

役員退職金を受け取れる役員の定義

役員退職金が支給される役員については、まずはその会社の就業規則や労働契約、退職金給付規程など社内のルールを確認する必要があるが、一般的には会社法上の役員を指すと考えてよいだろう。

会社法や会社法施行規則における役員とは、取締役、会計参与、監査役、執行役、理事、監事その他これに準ずる者である。(会社法第329条、会社法施行規則第3条)。

役員退職金の支給時の注意点

・役員退職金に支給義務はない?

退職金を支給するかどうかの判断は、基本的には会社に委ねられる。ただし、就業規則や労働契約、退職金給付規程などによってすでに支払うことが決められている場合は賃金扱いとなり、その内容にしたがって支給しなければならない。

・株主総会の決議が必要

役員退職金の法的な性質としては、賃金の後払い、功績に対する報償、生活の保障といったさまざまな解釈がある。

しかしながら、いずれも金額として算定することが難しいため、役員の「お手盛り」にならないよう、支給額やその算定方法についてのチェック体制が求められる。

このことから会社法では、役員退職金を支給するとき、定款に定めがなければ株主総会の決議によって、金額や算定方法などを定めることになっている。(会社法第361条第1項)

なお、退職金給付規程などに基づき、役員への退職金の支給を取締役会に一任する方法もある。具体的にいくら支給するかを決めるときは、規程の内容や法人税の損金算入ルールを考慮して検討する。

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役員退職金の支給額・税金の算出方法

退職金を受け取る役員個人には、退職金の金額に応じた税金(所得税・復興特別所得税、住民税)がかかる。

税金は給与と同じように会社側が支給時に天引きして徴収し、決められた期日までに納付する。(原則、翌月10日まで)

この徴収方法を、所得税・復興特別所得税は源泉徴収、住民税は特別徴収という。会社が役員に対し、実際に支給する退職金は、税金を差し引いた金額になる。この項では、実際に支給する役員退職金にかかる税金の計算方法を解説する。

役員退職金の所得税・復興特別所得税の計算の仕方

役員退職金から源泉徴収する所得税・復興特別所得税の額は、「退職所得の受給に関する申告書」の提出を、退職者から受けているかどうかで変わる。

・「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けている場合

源泉徴収する所得税・復興特別所得税の額は、次の計算式となる。

<計算式>
退職所得の額(※)×所得税率×102.1% (※)1,000円未満切り捨て

・退職所得の額
次の方法で計算する。
(退職金の額-退職所得控除額)×2分の1
退職所得控除額の計算方法は、後述する。

・所得税率
5%~45%で、金額の大きい価格帯ほど高くなる。

・102.1%
復興特別所得税(所得税の額の2.1%)も徴収するため、最後に102.1%をかける。

<税金の速算表>
所得税率は超過累進税率であり、通常の方法で計算するのは大変だ。そのため、下記の速算表を使って計算する。

<速算表を使った計算式>
(A×B-C)×102.1%

退職所得の額(A) 所得税率(B) 控除額(C)
195万円以下 5% 0円
195万円を超え 330万円以下 10% 97,500円
330万円を超え 695万円以下 20% 427,500円
695万円を超え 900万円以下 23% 636,000円
900万円を超え 1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円を超え 4,000万円以下 40% 2,796,000円
4,000万円超 45% 4,796,000円

(出典)国税庁「別紙 退職所得の源泉徴収税額の速算表」

【例】
・退職所得の額 1,000万円

<源泉徴収する税額>
(1,000万円×33%-1,536,000円)×102.1%=1,801,044円

・「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けていない場合

「退職所得の受給に関する申告書」の提出がない場合は、次の計算式で計算した所得税・復興特別所得税を源泉徴収する。

<計算式>
退職金の額×20.42%

「退職所得の受給に関する申告書」とは、退職所得控除額を正しく計算するための書類である。

通常は退職前に会社側から退職者に用紙を配布して、提出してもらう。それがなければ上記の計算額を源泉徴収し、退職者自身が確定申告を行って差額の税金を精算する。

役員退職金の住民税の計算の仕方

<計算式>
退職所得の額×10%(市区町村民税6%・都道府県民税4%)

退職所得の額の計算方法は、所得税と同じである。この金額を特別徴収する。なお、退職をした月の翌月以降に給与から徴収するはずだった未徴収の住民税がある場合は、一括徴収することを忘れないようにしよう。

退職所得控除額とは

退職所得控除額とは、退職所得の額を計算するときに必要となる額で、勤続年数が長いほど多くなる。20年目までは1年につき40万円、それを超えると1年につき70万円の控除となる。

なお、1年未満の端数は、1年に切り上げる。(例:13年1ヶ月→14年)

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数(最低80万円)
20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

【例】
・役員退職金の額3,000万円
・勤続年数25年

<退職所得の額>
(3,000万円-1,150万円※)×2分の1=925万円
1,150万円=800万円+70万円×(25年-20年)

<源泉徴収する税額>
(925万円×33%-1,536,000円)×102.1%=1,548,346円

なお同じ年に2つ以上の退職金を受け取った場合や、過去に別の退職金や確定拠出年金などを受け取っている場合では、勤続年数の計算が変わることがある。他の退職金や確定拠出年金などの受給状況は、「退職所得の受給に関する申告書」の内容で確認する。

・役員の勤続年数が5年以下の場合

勤続年数5年以下の役員など(以下、「特定役員等」)がその期間に対する退職金を受け取った場合、退職所得の額の計算の際、2分の1とする措置がなくなる。

なお、ここでいう役員などとは、法上の役員のことである。法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事、清算人や、法人の経営に従事している者で一定の者(法人税法第2項第15号)などを指す。(所得税法第30条第4項)

【例】
・役員退職金の額1,000万円
・勤続年数4年10ヶ月

<退職所得の額>
1,000万円-(40万円×5年※)=800万円
※4年10ヶ月→5年(1年未満は、1年に切り上げ)
2分の1とする措置がないため、退職金の額のほとんどが課税対象になってしまう。

・特定役員等の退職金と別の退職金が一緒に支給される場合

当初は使用人(従業員)として勤務し、途中から役員に変わったケースでは、使用人の勤続期間に対する退職金と役員の勤続期間に対する退職金が、退職時に一緒に支給されることがある。この場合、役員としての退職金が特定役員等の退職金にあたるとき、退職所得の額は、次のAとBの合計額となる。

<退職所得の額>
A+B
A:特定役員退職金の額 - 特定役員退職所得控除額(※)
B:{退職金の額 - (退職所得控除額 - 特定役員退職所得控除額)} × 1/2

(※)特定役員退職所得控除額
特定役員の退職所得控除額は、1年あたり40万円である。
ただし、特定役員等でない勤続期間と重複している場合は、下記の「あり」の計算式を用いる。

重複期間 退職所得控除額
なし 40万円×特定役員等勤続年数
あり 40万円×(特定役員等勤続年数-重複勤続年数)+20万円×重複勤務年数

役員が死亡している場合

退職金の支給時に役員が死亡している場合、退職金給付規程などに基づき、配偶者など遺族に「死亡退職金」が支払われることがある。

この「死亡退職金」のうち、役員の死亡後3年以内に支給が確定したものは「相続税」の対象となる。この場合は、所得税・住民税の対象にならないため、支給しても源泉徴収や特別徴収はしない。

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役員退職金による節税効果

ここまでは、退職金を受け取った役員個人の税金についての話であった。ここからは、退職金を支給した会社側の法人税の話になる。役員退職金を支給した法人は要件を満たせば、その支給額をすべて損金に算入できる。役員退職金を損金に算入する要件を確認していこう。

役員退職金を損金に算入するための要件

支給する金額が、役員退職金として過大でない金額であれば損金に算入される。過大である場合は、過大となる部分が損金不算入となる。また「業績連動給与」に該当する役員退職金であれば、業績連動給与が損金に算入されるための要件を満たす必要がある。

・過大でない金額とは

過大でない金額かどうかは、下記の項目に照らし合わせて判断される。(法人税法施行規則第70条第2号)

・業務に従事した期間
・退職の事情
・業種や規模が似ている会社の支給状況

役員退職金の計算方法に決まりはないが、実務では「功績倍率法」(※)という方法が用いられることが多い。ただしこの場合でも、金額が過大であれば損金不算入となる点に注意が必要となる。

(※)役員の退職の直前に支給した給与の額を基礎として、役員の法人の業務に従事した期間及び役員の職責に応じた倍率を乗ずる方法により支給する金額が算定される方法である。(法人税法基本通達9-2-27の2)

・業績連動給与とは

業績連動給与とは、利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標その他の同項の内国法人または当該内国法人との間に支配関係がある法人の業績を示す指標を基礎として算定されるもののことである。(法人税法第34条第5項)なお、過大な部分は損金不算入となる。

損金不算入だとどうなるのか

役員退職金が損金不算入になった場合、その金額は、法人税などの課税対象となる。修正申告などにより、不足分の納税額を支払わなければならない。場合によっては、延滞税・加算税も発生する。

支給前に損金に算入できる額を調査するといい

役員退職金について、支給額や税金の算出方法について解説した。役員退職金は、損金に算入できる額が問題となりやすいため、支給する前に税理士などに相談して判断することが大切である。

文・BUSINESS OWNER LOUNGE編集部