人生100年時代を迎え、ヘルスケアや医療分野は病気の治療という側面だけなく、健康に長生きするための研究も進められている。こうした潮流を多方面からサポートすべく、スタートアップ企業が続々と誕生し、ヘルスケア分野に熱いまなざしが向けられる。

目次

  1. ヘルスケア・医療領域は33兆円の潜在的市場規模
    1. 少子高齢化でも伸びる市場
    2. 特に注目が集まるのはオンライン医療やAI
  2. ヘルスケアのさまざまな領域で躍進するスタートアップ企業
    1. 予防分野で活躍するスタートアップ企業
    2. 診断分野で活躍するスタートアップ企業
    3. 治療分野で活躍するスタートアップ企業
    4. その他の分野で活躍するスタートアップ企業
  3. スタートアップ企業の台頭が著しいヘルスケア領域

ヘルスケア・医療領域は33兆円の潜在的市場規模

ヘルスケア分野で活躍するスタートアップ企業9選!オンライン医療やAIに注目を
(画像=Jacob Lund/stock.adobe.com)

ヘルスケアは、健康維持やその促進のために実施する健康管理のことで、それを取り巻く領域は医薬品、医療機器、医療ITなど多岐に渡る。経済産業省によると、ヘルスケアの市場規模は2016年には約25兆円だったが、2025年には約33兆円にまで拡大すると見込まれている。

少子高齢化でも伸びる市場

少子高齢化社会を迎えている日本では、国内市場の縮小によって苦戦を強いられる産業がある一方、ヘルスケアは今後も成長分野として高い期待が寄せられる。

成長市場にスタートアップ企業が集まるのは当然のことであるが、ヘルスケア分野は政府の成長戦略の重要な柱としても掲げられており、市場や雇用の創出が見込まれる分野として位置づけられている。ヘルスケア産業を振興することで、国民の健康寿命を延伸し、生涯現役社会の構築を方針として掲げている。

特に注目が集まるのはオンライン医療やAI

次世代ヘルスケアの取り組みとして推奨されているのが、オンライン医療やAI(人工知能)などである。オンライン医療では、診察から服薬指導に至るまでのプロセスをオンラインで受けられる体制の整備を推進する。

オンライン医療が進展すれば、遠隔医療も身近になることが期待される。そのためには情報通信技術(ICT)のさらなる発展が不可欠である。

AIはゲノム医療、画像診断支援、診断・治療支援、医薬品開発、介護・認知症、手術支援の6分野を重点的にして開発が促進される。

成長産業分野である上、今後さらなる技術の開発によってサービスの革新が期待され、医療関連企業だけにとどまらず、異業種が幅広く参入する機会に溢れている。貪欲なスタートアップにとってヘルスケア分野は千載一遇のビジネスチャンスとなる可能性を大いに秘めているため、その参入が相次いでいるわけである。

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ヘルスケアのさまざまな領域で躍進するスタートアップ企業

ヘルスケアといってもその領域は実に多岐に渡る。病気や疾病にかからないように予防の段階から、実際に症状が発生した際の診断、それから治療、治療後のケアなど一連のプロセスに及ぶ。それぞれの領域においてスタートアップ企業がその存在感を増している。

予防分野で活躍するスタートアップ企業

・パーソナル栄養検査を提供する「ユカシカド」

株式会社ユカシカドは「誰でも簡単に栄養改善ができる世界」を掲げて、栄養診断サービスを提供している。「VitaNota」と呼ばれるサービスでは尿を送ると栄養状況を診断し、自身の栄養バランスがグラフや数値でスマートフォンやパソコンでいつでも可視化でき、検査結果に基づき食生活の改善に繋げて病気の予防を図る。 また、検査結果から不足している栄養素をサプリで補充するため、オーダーメイドで対応するサービスも提供している。

・60万人以上が登録!腸活アプリの「ウンログ」

ウンログ株式会社が提供する腸活アプリの「ウンログ」は、便の観察を記録することで体調をチェックする。便の状態を記録するとスコア化され、同時に食事やサプリメントの摂取状況も記録するプラットフォームが準備され、腸活と排便の関連性をチェックできる。

アプリを使用して排便の状況をスコア化することで、体調をコントロールしながら病気の予防に繋げる。これまではお腹の調子が芳しくないという認識に留まっていた症状も、こうしたアプリの登場で、記録に基づいたデータとして1人1人が症状を認識できるようになっている。登録者は60万人を超えた。

診断分野で活躍するスタートアップ企業

・インフルエンザの診断時間をAIで短縮した「アイリス」

2018年に日本国内で2000万人が罹患したとされるインフルエンザ。インフルエンザの診断には、発症から24時間以上が経過しないと検査の精度が十分に上がらないとされる。この時間を経過したとしても現在主流となっている鼻粘膜からウイルスを検出する方法ではその精度は6割程度にとどまるという。

そこでアイリス株式会社は、インフルエンザに罹患した際に喉頭後壁に出現するリンパ濾胞に着目。インフルエンザに罹患してから6時間程度でこの濾胞は確認できる。従来の検査よりも発症から確認までの時間が大幅に短縮される。

インフルエンザの濾胞は色や光沢、大きさや形状で通常の風邪や健康体で発生する濾胞とは区別できるが、それを見分けるには専門医の熟練を要する。そこでAIの機会学習の機能を活かして、喉頭の画像からこのインフルエンザ濾胞を認識する仕組みを開発。インフルエンザをいち早く診断することで、社会における感染拡大を事前に予防することにも寄与することが期待される。

・がんの見落としを防ぐ!「AIメディカルサービス」が開発するソフトウェア

日本人の死因のトップを占めるのはがんで、日本対がん協会によると死因全体の27.4%(2018年)を占めている。がん治療には予防とともに早期の発見、治療の開始が欠かせないものの、先進医療でもある内視鏡を用いた検査でもがんが見落とされるケースがある。

株式会社AIメディカルサービスは、過去に学習したデータを活用し、画像解析の診断をサポートするソフトウェアを開発中である。最終的ながんの診断は医師の手に委ねるものの、がんの見落としを撲滅することを目標に、AIが医師とのベストパートナーとなり、診断の精度アップに貢献すべく、診察分野に参入している。

治療分野で活躍するスタートアップ企業

・手術の安全性を向上させる「iMed Technologies」

AIの活躍は診断分野にとどまらず、手術の現場でも執刀医を支えるチームの一員となる可能性を秘めている。株式会社iMed Technologiesは、AIの機械学習活用し、脳梗塞、くも膜下出血の手術をサポートするAIの開発を目指す。

脳梗塞やくも膜下出血に対して実施される脳血管内手術は、身体への負担が少なく、手術件数は年々増加している。しかし現場では、1ミリメートル以下のカテーテルをX線透視下で用いながら手術を施しており、画面が見えにくく安全性が低下するという課題が生じている。

この問題にアプローチを試みているのがiMed Technologiesだ。脳血管内手術を支援するAIを開発し、過酷な労働環境で勤務する医師をサポートするとともに、手術の安全性の向上に貢献することを目指している。

・遠隔で集中治療を支援する「T-ICU」

集中治療室を完備していても、専門医が常駐していない病院では重症患者のケアも行き届かないケースがある。株式会社T-ICUは遠隔で集中治療を支援する仕組みの整備を実現した。現場の医師や看護師から提供された患者の情報や様態をベースにして、24時間体制でアドバイスを実施する。

集中治療専門医は病院に常駐することなく、遠隔地に居ながら病歴やバイタル情報から診療方針を決定する。病院としても集中治療専門医を雇用するよりも、コストを抑えられる。遠隔地からでも万全の体制で患者の集中治療にあたることで、重症患者の集中治療室における死亡率も低下したというデータも確認されている。

その他の分野で活躍するスタートアップ企業

・リハビリの効果をデータで可視化する「Moff」

ウェアラブル端末を使用したサービスを提供する株式会社Moffは、予後の分野に進出するスタートアップ企業だ。この端末は、3Dモーション認識をベースにして、身体能力や認知能力をリアルタイムで評価できる。

医療の現場では、リハビリの効果をデータで可視化の実現に繋げた。理学療法士から日々のリハビリの成果を言葉でかけられても、なかなか患者が改善を実感できないケースもある。

ウェアラブル端末を利用してリハビリに挑めば、しっかりとデータに計測され、その結果を確認しながら患者がリハビリに対してモチベーションを保つことにも寄与することが期待される。

・ひとり院長をサポートする「リグア」

接骨院・整骨院では、個人事業主として患者に対する施術に加え、経営管理も1人で実施している医院も多く、ひとり院長は多忙を極めているのが実態である。

株式会社リグアはそうした接骨・整骨院に対し会計やスタッフの採用、分院の展開などをサポートする。サポートを受けた医院では、患者と向き合う時間にゆとりが生まれ、患者1人1人の症状の改善、健康体の維持に寄与できる運営に繋げることができるようになるという。

・病院の業務をオンライン化させる「Linc’well」

「テクノロジーを通じて、医療を一歩前へ」をミッションに掲げる株式会社Linc’well(リンクウェル)が提供するのは、WebやLineでの予約、Webでの事前問診、iPadによる問診、決済、電子カルテとの連携である。クリニックの業務をデジタル・オンライン化することで、経営管理の効率化を推進する。

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スタートアップ企業の台頭が著しいヘルスケア領域

これまで聖域ともみられ異業種やスタートアップが参入するための敷居が高いともみられていたヘルスケア分野であるが、実際には既に多数のスタートアップが参入し、その存在感が増している。

その参入を後押しするのはITやAIといった技術革新も去ることながら、ヘルスケア市場が成長分野として将来に渡って有望であることも、多くのスタートアップを引き付けている要因であろう。さらなる技術の進歩がみられれば、より一層のスタートアップのヘルスケア分野での台頭が顕著になると見込まれる。

文・志方拓雄(ビジネスライター)