国内では、2020年4月からの税制改正が注目され企業の法人税に対しての見直しが急務となっている。中でも、巨額な利益を生み出す大手グローバル企業の節税効果が国家予算の提案にも影響を及ぼしていることが世界経済の論点となる。
この記事では、世界各国および日本国内でも広がりつつある企業の法人税について、節税をめぐる当局との争いに焦点をあてて解説していこう。さらに、国内の企業が法人税の見直しについて参考になる5つの施策についても取り上げていく。今後の節税対策の参考にしてみてほしい。
目次
法人税の節税は世界的に企業の命題

今日では、法人税の節税が企業にとっての経営施策命題となっている。そのため、世界的な法人税の減税対策への活動が盛んになっているのだ。
参考のために過去を振り返って米国のアップル社が1980年代に生み出した節税対策について取り上げてみよう。
・世界的企業の「節税」の実態(アップルなど)
世界的な企業の節税対策では、アップルやグーグル、アマゾンなど大手グローバル企業の名前が挙がる。これらの大手企業は、合法的な節税の仕組みを確立し、それが実質的に成長の大きな要因となっている。
アップルが確立した法人税対策「ダブルアイリッシュ」
アップルの節税対策は、1980年代に子会社にアイルランドの会社2つ(ダブルアイリッシュ)を保有した。1つの子会社は、ペーパーカンパニーとなるアイルランドHDである 。
アイルランドHDは、米国アップル本社と費用の分担契約をするライセンスの付与だけの関係でつながっている。そのため、米国アップルは、アイルランド子会社に管理支配にあたる部門を移設したのだ。
その理由として、国外に移設したアイルランド国内での税法では、非課税になる仕組みだからである。これは、「タックスヘイブン方式」と呼ぶ租税回避地や低課税地域に子会社を設立する節税対策となる。
さらにアップルの巧みな点は、アイルランドで非課税になった利益を課税が顕著に軽減される国や地域に移動する手配まで実施したことである。まさに、ほぼ完全な非課税策を実現したのである。
ダブルアイリッシュとなるもう1つのアイルランド企業は、実際に営業活動をする企業である。実態のある企業として、米国以外の市場で展開する子会社「アイルランド」は、1つ目の「アイルランドHD」からライセンスを受け、支店という位置関係になる。
そして、アイルランドの実態のある企業の利益すべてがペーパーカンパニー「アイルランドHD」へのライセンス使用料として支払われる。実際には、所得が発生しない状況になり、法人税は“ゼロ”になるのだ。
上記のように、アップル社の減税対策は他企業から注目されて、時を重ねて実用化する企業が増えていった。そのため、タックスヘイブン対策税制を実施したい課税国の米国では、米国税庁が設定する条件の下、米国企業の利益となる課税対象を全世界に広げるようになった。
アップルのケースでは、ペーパーカンパニーであるアイルランドHDだけの設定だと法人税が発生してしまう。そのため、さらなる子会社のアイルランド支店を設置して実態経営をさせることで、法人税の適用除外要件を満たせることに成功したのである。
もう1つ、念入りな仕組みとして、アイルランドのライセンス使用料をアイルランドHDに直接支払うと、源泉税が発生する点にも課税免除の対策を実施した。
アイルランドが締結している源泉税対象外国「オランダ」がある。そのオランダに現地法人を設立し、アイルランド2社の間に挟み込み、課税を免除させることに成功したのだ。
アップルが生み出した節税対策を「ダブルアイリッシュダッチサンドウィッチ」という。 グーグルもアイルランドとオランダの税制を活用した対策が取り入れた。
アップルを参考にしたグーグルの法人税対策
米国法人「グーグル米国本社」の場合、アイルランドのグーグルアイルランドホールディングス(以下GIH)にライセンスを付与する形式になる。そして、法人税の免除を受けるために、バミューダ諸島に管理会社を設置した。
GIHは、アイルランドの法人税を免除されるためにグーグルアイルランドリミテッド(以下GIL)にサブライセンスを付与する。さらに、GILを経由して世界各国のグーグル子会社にライセンスが付与される仕組みである。
結果的に各国のグーグル子会社から、事実上GILに向けてライセンス料が支払われていることになる。
さらに、グーグルの場合GILから一旦、オランダ法人のグーグルネザーランドホールディングス(GNH)にライセンス料が支払われ非課税となるのだ。
オランダ法人のGNH経由で非課税となったライセンス料がGIHに支払われて、最終的に非課税のライセンス料がグーグルの米国本社に支払われる仕組みになる。
このようにグーグルの節税に対して、やり過ぎている印象が強くなり、各国の政府よりグローバル企業の節税が問題視されるようになっていった。
一方、日本ではタックスヘイブン税制対策に対して厳しく規制しているため、国内では採用できない。
アマゾンジャパンの日本での法人税対応
そのような状況下において、米国のアマゾン本社から業務委託を受ける仕組みで節税していたアマゾンジャパンは、国内の売り上げを純粋に計上している。
結果的に日本法人のアマゾンジャパンは、平成29年度と平成30年度の2年間を合わせて300億円の法人税を納付しているのだ。この対応の事情として、アマゾンは日本国内での事業展開拡大のための基盤を構築することが大きな目的となっている点があげられる。
節税一辺倒ではないアマゾンの場合、各国の事業展開の状況により、柔軟な対応に出ているのが特徴である。
法人税の節税は日本でも企業にとって中核的な取り組み
日本国内の状況では、大手企業の節税対策が目立っている。国内企業にとって中核的な取り組みとなる節税対策は、どのように行われているのだろうか?大手ソフトバンクグループを例に見ていこう。
・広がる法人税回避の動き
2020年度、政府から税制改正の対象としてソフトバンクグループ(以下SBG)をはじめとする国内大手の租税回避への対応に乗り出した。日本政府の動きからも、国内企業が法人税回避の動きを活発にしていることがうかがえる。税制改正に向けた対象の企業の1つ、SBGの節税対策のポイントは次の2点である。
・外国子会社配当益金不算入
・損失計上
外国子会社配当益金不算入とは?
国内大手のSBGは、海外に設置した子会社が現地で得た株式配当に対して、ほぼ税金がかからない状態で配当をもらっている。海外に設置した子会社は、現地当局で課税されることから、二重課税ができない仕組みとなるのだ。そのため、国内の親会社であるSBGが受け取る時点では、ほぼ減税されていない配当が受けられる。
これにより、SBGは現地企業の株式を大量に入手することが可能になった。この節税の仕組みは、親会社と子会社、孫会社の関係を維持した税金がかからない方法となる。
さらに、海外にある子会社の株式4分の3を国内の親会社が保有することにより、子会社は実質4分の1の企業価値となるのだ。
法人税対策としての損失計上
実際の企業価値を低くすることにより、下落した海外子会社の株式を別に設立したソフトバンクビジョンファンド(SBVF)に現物出資として移した。SBGがとったこの手法は、あえて損失計上を目的として株式を高く買い、現物出資で安くSBVFに移動させることで大きな損失の事実を創り出すことがポイントだ。
実際に、損失計上に対して親会社であるSBGは損をしていないのだ。SBVFへの現物出資の対応により、海外企業の株式や海外子会社へ影響を及ぼさない点が特徴になる。
SBGの節税は、高額な利益を損失計上により相殺されることが目的である。結果として、法人税の大幅な節税になるのだ。
しかし、この節税対策は違法にはならないけれど、意図的な赤字の創出に世論が懸念している状況である。今後は、財務省による「子会社を購入する際の取り決め変更」に影響をおよぼすだろう。
昨今の企業活動が柔軟になっている状況に対して、新しい租税回避方法も生み出されている。そのため、今後も制度の穴をかいくぐるように、企業の節税対策は続いていくだろう。
・法人税は日本経済の活力という側面
現状では、グローバル企業による節税が企業経営の重要な施策としてかかげられている。
そのため、日本経済の活力ともなる法人税は激しい引き下げ競争をくり返しているのだ。
政府は、大企業の節税対策が国家予算編成に深刻な影響をもたらすことから、誘致競争に歯止めをかける動きがはじまった。
企業は法人税とどう向き合うべき?
現状の大手企業の節税対策の動きから、どのように法人税と向き合ってくべきかについて見ていこう。
・必要な範囲で節税策を考える
企業は、法人税に対して必要な範囲で節税対策を考えていく必要がある。例えば、役員の給料や賞与を配当ではなく、毎月の一定額に変更することで経費として計上できる。このように永久節税型の経費を増やすことも法人税の節税策となるのだ。
具体的な法人税の節税対策5選
それでは、企業が取り組むべき具体的な5つの節税策を紹介しよう。
小規模企業共済に加入する
独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する小規模企業共済は、中小企業の役員などが退職金の準備となる積立共済のことである。
内容的には、個人単位の節税になるが、共済掛金を投資した同額の役員報酬を増やすことにもなる。つまり、結果として役員個人の税金を増やさないで会社の税金を減らすことができるのだ。
不動産を会社に貸付
もし、家族や個人名義の不動産などがあった場合、不動産を会社に貸すことにより所有者に賃貸料を支払うことになる。会社から個人に賃貸料を支払うことで、結果的に会社の経費が増える計算だ。
在庫評価見直し
在庫のある業種の場合、一定の取得原価であれば評価を減らすことができる。その理由は、経費計上の際に「棚卸資産評価損」として経費計上ができるからだ。
在庫評価の見直しは、無駄な法人税の支払いを減らすことにつながるのだ。
固定資産の整理による利益の減少
また、使っていない固定資産や廃棄してしまった固定資産を除却など整理することが利益の減少になる。固定資産の整理は、「廃棄」「売却」「除却」などがあり全て経費にすることができるからだ。
人材と設備への投資
最後に、人材や設備への投資も節税になる点も見ていこう。具体的には、「機械等の取得」や「経営改善設備の取得」「生産性向上設備の取得」「人材投資」などがあげられる。
基本的に、ほぼすべての業種が対象になるが、経営改善設備投資は、建設業や製造業は対象外になる。
これから成功する企業は法人税とどう向き合うべきか
以上のように、企業の節税は身の回りの細かい部分を見直すだけでも、積もれば大きな成果となる。大企業が得意とする海外に子会社を設置するような節税対策は、国との税制改正争いになるだろう。
2020年4月より、企業の税額控除の適用条件は厳格化されている。それは、企業による行き過ぎた節税への対策が強化されるためである。
具体的には、「電子帳簿保存法の更なる見直し」や「連結納税制度の見直し」「グループ通算制度への移行」などの導入が挙げられる。さらに、「5G投資促進税制」の導入により、設備投資や5G整備による法人税減税への移行も必要になる。
文・Business Owner Lounge編集部