損益計算書の中には売上総利益という勘定科目がある。売上総利益の計算式自体は単純だが、何に注目すれば経営状況をよりよく理解することができるだろうか。売上総利益の定義、計算方法の解説とともに、上場企業を事例にとって売上総利益の一般的な水準について解説する。

目次

  1. 売上総利益とは?
    1. 売上総利益の計算方法
    2. 売上総利益は業種により水準が異なる
  2. 売上総利益の具体的事例
    1. 外食産業の売上総利益
    2. 小売業の売上総利益
    3. SaaS系サービスの売上総利益
    4. 銀行業の売上総利益
  3. 売上総利益を比較する上での留意点
    1. 売上原価と販売費および一般管理費との入り繰り
    2. 営業利益・経常利益・税引前利益も比較すべき
  4. 売上総利益を経営に活かすためには

売上総利益とは?

売上総利益とは?売上総利益の重要性について解説
(画像=Blue Planet Studio/stock.adobe.com)

売上総利益とは、商品やサービスの販売により直接的に稼いできた利益のことである。別名、「粗利」とも呼ばれている。「売上総利益÷売上=売上総利益率(粗利率)」も財務分析ではよく使われる指標のため、覚えておくとよいだろう。

売上総利益の計算方法

「売上高―売上原価=売上総利益」と計算される。売上高とは、商品やサービスの販売により稼いできた金額のことで、売上原価とは売上高に紐づく直接的なコストのことを示している。簡単な数字例を元に詳細を見ていこう。

・事例1

家電を1つ10万円で2つ仕入れ、1つ20万円で販売した。 この場合、キャッシュベースでみると、20万円―20万円=0円である。一方、売上総利益は、20万円―10万円=10万円と利益が出ることになる。

・事例2

家電を1つ10万円で2つ仕入れ、1つ20万円で販売した。追加でネット広告により10万円を支出した。 この場合、売上総利益自体は、事例1と同様に10万円のままである。ネット広告費は商品の売上高に直接紐づくコストではないため、売上原価には含まれない。販売費として計上されるため、損益計算書は下記のとおりとなる。

売上高20万円―売上原価10万円=売上総利益10万円
売上総利益10万円―販売費10万円=営業利益0万円

売上総利益は業種により水準が異なる

売上総利益の水準は業種によって異なるため、売上総利益率を業種間で比較することにより、儲けが出やすい業種とそうでない業種を見極めることができる。新規事業を立ち上げる場合やM&Aにより他業種を買収する場合などには、まずは売上総利益率や営業利益率などの利益率に着目しビジネスモデルを簡単に把握しておくと効率的だろう。

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売上総利益の具体的事例

ここからは、上場企業の実際の数字を使って売上総利益や売上総利益率の金額を確認していこう。

外食産業の売上総利益

ゼンショーホールディングスは、牛丼チェーンすき屋を中心になか卵・ココス・ジョリーパスタ・はま寿司など複数ブランドを運営している、外食産業で売上高国内1位の企業だ。まずは、ゼンショーホールディングスの売上総利益をみていこう

ゼンショーホールディングスの連結損益計算書(2020年3月期)
売上高 6,304億円
売上原価 2,676億円
販売費および一般管理費 3,418億円
営業利益 209億円

ゼンショーホールディングスの連結損益計算書(2020年3月期)をもとに筆者作成

売上総利益率は57%、営業利益率は3%と計算される。売上原価は、主に原材料の仕入コストすなわち、肉、野菜、米、飲み物などが含まれる。外食産業では売上総利益率が50%以上確保できていても、店舗運営費用や人件費などの負担も大きく、営業利益率は小さくなる傾向がある。

小売業の売上総利益

小売業で売上高国内1位は、イオングループである。イオングループは、グループ従業員数58万人、店舗数1万9,000以上の巨大小売グループだ。

イオンの連結損益計算書(2020年2月期)
売上高 8兆6,042億円
売上原価 5兆4,687億円
販売費および一般管理費 2兆9,199億円
営業利益 2,155億円

イオンの連結損益計算書(2020年2月期)をもとに筆者作成

売上総利益率は24%、営業利益率は2%と計算される。小売業の場合、卸業者から仕入れて店舗で販売する業種であり、薄利多売のビジネスモデルである。売上総利益率が24%ということは、だいたい売値の76%が平均仕入コストと計算することができる。営業利益率も2%台と低いものの、イオンは食料品など生活必需品を主に販売しているため、営業基盤は安定しているといえるだろう。

SaaS系サービスの売上総利益

SaaSとは、Software as a Serviceの略であり、今まではソフトウェアで売り切りだったものを、クラウド上でサービスとして利用する形式とした点で新しい。2019年はSaaSの大型上場が相次いでおり、ますます注目が集まる業界といえる。SaaSの中でも2019年に上場したFreeeの売上総利益をみてみよう。

Freeeの連結損益計算書(2020年6月期 第3四半期)
売上高 48億円
売上原価 11億円
販売費および一般管理費 57億円
営業利益 -19億円

Freeeの連結損益計算書(2020年6月期 第3四半期)をもとに筆者作成

Freeeは営業赤字であるが、売上総利益率77%、営業利益率▲39%と計算できる。着目すべきポイントは売上総利益率の高さだ。ゼンショーホールディングス57%、イオン24%と比べてもその高さが分かるだろう。Freeeの場合、クラウド会計システムをサブスクリプション(定期購読)の形で販売しており、1人顧客が増加しても売上原価はそれほど増えることはない。

売上原価となるのは、サーバー関連の費用などが含まれるが、売上の増加率と比べると売上原価はそれほど増加しない点が特徴である。そのため、今は販売を拡大するため広告宣伝費などを多額にかけているが、ある一定の顧客数を獲得できてしまえば将来は安定して営業利益を稼ぎ出す会社となるだろう。

銀行業の売上総利益

銀行業には売上総利益という利益項目はない。そもそも売上もない。例として、メガバンクである三菱UFJフィナンシャルグループを確認してみよう。

三菱UFJフィナンシャルグループの連結損益計算書(2020年3月期)
経常収益 7兆2,990億円
経常費用 6兆633億円
経常利益 1兆2,357億円

三菱UFJフィナンシャルグループの連結損益計算書(2020年3月期)をもとに筆者作成

売上高、売上原価の代わりに経常収益と経常費用に置き換わっていることが分かる。銀行業の場合、物を販売して稼ぐといったことはなく、預金で調達した資金を貸出金や有価証券で稼ぐことが基本的なビジネスモデルとなっている。

銀行業のほかにも、保険業、証券業など金融業の多くは売上や売上総利益という勘定科目は存在しない。すべての業種に売上総利益があるわけではないことは頭に入れておこう。

売上総利益を比較する上での留意点

企業を分析する際、売上総利益の重要性は説明してきたが、決して売上総利益だけに注目すればよいわけではない。損益計算書には、売上総利益のほかに、営業利益・経常利益・税引前当期純利益・当期純利益という利益タイプがある。

一口に利益といっても意味していることは全く異なっている点にも留意しておこう。例えば、経営者同士の会話で利益がいくらといった会話になることもあるが、それがどこの利益を指しているのかによって、だいぶ話の意味合いが変わってくる。

それぞれの利益がどのようなことを意味しているかは下記のとおりである。

・売上総利益:商品力やサービス力の強さ
・営業利益:本業としての稼ぐ力
・経常利益:本業としての稼ぐ力に、金融投資などで稼ぐ力を加えたもの
・税引前当期純利益:特殊な要因も加えた税金を考慮する前の利益
・当期純利益:税金を差し引いた最終的に手元に残る利益

売上原価と販売費および一般管理費との入り繰り

企業間を比較する際、売上総利益と営業利益は必ず比較すべきだろう。一方で、売上原価と販売費および一般管理費との間には、入り繰りが発生しやすいことには注意が必要である。

AレストランとBレストランの損益計算書を比較する際を例に取ろう。Aレストランの売上原価にはシェフの人件費が含まれているが、Bレストランの売上原価には含まれず、全て販売費および一般管理費の人件費として処理されている場合だ。この場合、一概に売上総利益や売上総利益率を単純比較することはできない。Aレストランのシェフの人件費を調整するなどして、同じ基準で比較できるようにすべきだろう。

事業の買収を考えている場合など、財務デューデリジェンスと呼ばれる監査を行うことがある。その際は、売上原価や販売費および一般管理費の内訳はきちんと確認し、あるべき売上総利益率や営業利益率を把握しておくことが大切だ。

営業利益・経常利益・税引前利益も比較すべき

売上総利益だけでなく、営業利益・経常利益・税引前利益も比較すると、より詳細に複数企業の分析を行うことができる。特に税引前利益は会計基準が異なる海外企業でも比較しやすい。日本の会計基準のほかには、米国会計基準やIFRS(国際会計基準)が主要な会計基準であるが、営業利益や経常利益といった区分がない会計基準も存在する。

税引前利益はどの会計基準にも含まれており、国による税率の違いも気にせずに比較することができるメリットがある。

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売上総利益を経営に活かすためには

ここまで、売上総利益の概要や上場企業の売上総利益の比較、そのほかの利益項目の重要性について解説してきた。売上総利益は勘定科目の中でも最初に来る項目であり、ビジネスが成り立っているかどうかを確認できる重要な指標の一つといえる。

仮に、売上総利益がマイナスとなっている場合、何が起こっているか想像してみよう。100円で仕入れてきて、80円で販売するような場合が当てはまる。このような商売をしてしまっては、いつかはお金が尽きてしまう。売上総利益がマイナスの財務諸表に遭遇した際は、何がおかしいか注意が必要になる。

売上総利益を増やすためには、売上を増やすか、売上原価を減らすかの2択しかない。もう一段因数分解すると、「販売数量×販売単価×売上総利益率(粗利率)」とも表現することができる。ここで、努力によってマネジメントしやすいのはやはり売上総利益率だろう。販売数量や単価については顧客ありきの数字であり、特に販売単価を上げることは難しいケースが多い。

一方で、売上総利益率は、より安い仕入先を見つける、もしくは既存の仕入先と交渉する、大量に仕入れて値引きしてもらう、など様々な解決策がある。売上総利益を改善するためには、まずはコスト面に着目してみるとよいだろう。

今回は売上総利益について詳細を解説してきた。損益計算書の基本的な要素であるが、改めて内容を確認し、自社の経営改善や他社の経営分析に今回の知識を活用してもらえれば幸いである。

文・BUSINESS OWNER LOUNGE編集部