新型コロナウイルス流行で、経営者の中にはテレワークの導入を検討している方も多いだろう。しかしながら、短期間でのテレワーク導入は容易ではない。導入に先立っては、テレワークの基本的な知識と導入方法について理解を深める必要がある。

目次
テレワークとは?

「テレワーク」という言葉は、「tele = 離れた所」と「work = 働く」をつなげた造語で、1973年にNASAのエンジニアであったジャック・ニールズ(Jack Nilles)が造ったといわれている。
近年では、テレワークと同様に「リモートワーク」という言葉を耳にする機会も多い。いずれも、オフィスから離れて働くことという意味では同じであるが、テレワークについては一般社団法人日本テレワーク協会によって以下のように定義されている。
テレワークは「情報通信技術(ICT = Information and Communication Technology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」。
テレワークの導入を検討している経営者にとって重要なことは、「テレワークを導入する目的を明確にし、現在の業務プロセスや組織体制をよく把握した上で具体的な手法の検討に入ること」だ。
また、テレワーク導入にあたってはソフトウェアや機器の準備にまとまった資金が必要になる。場合によっては国や地方自治体の助成金・補助金を活用することができるため、参考にすると良いだろう。
テレワークの3つの種類
総務省によれば、テレワークには企業に勤務する被雇用者が行う「雇用型」と、個人事業主・小規模事業者が行う「自営型」がある。「雇用型」のテレワークは、さらに以下の3通りに分類される。
1.在宅勤務
自宅を就業場所とする働き方を指す。会社とはパソコンとインターネット、電話などで連絡をとる。外出が不要で人との接触を避けられること、子育てや介護との両立がしやすいことから、コロナ対策に有効な働き方として注目を集めている。
デメリットは、家事に気をとられて業務に集中できなかったり、インターネット環境やワークスペースといった自宅の就業環境が整っていなかったりする場合に生産性が落ちる可能性がある点だ。
2.モバイルワーク
顧客先や移動中のカフェ、公共交通機関の中など場所にとらわれず自由に働く働き方だ。パソコンやタブレット、スマートフォン・携帯電話を利用する。営業職などの外回りが多い職種やSEなどの客先常駐が多い職種によく適用される。
デメリットは、不特定多数の人がいる公共の場所で仕事をすることも多いため、画面の覗き見や端末の紛失など、セキュリティ面のリスクが増大することが挙げられる。
3.施設利用型勤務
サテライトオフィスと呼ばれるテレワーク用の自社専用オフィスや共同利用オフィスなど、勤務先以外のオフィススペースを就業場所とする働き方を指す。在宅勤務と違って通勤は発生するが、オフィススペースは勤務先よりも自宅から近いことが一般的なため、通勤時間を短縮することができる。デメリットは、オフィスの賃料などのコストが大きくなりがちな点だ。
テレワークが注目される3つの理由
言うまでもなく、現在テレワークが注目を集める最も大きな理由は新型コロナウイルス予防のためである。しかしながら、国は新型コロナウイルス流行前から、「意識改革」「ノウハウ支援」「導入補助」「周知・啓発」といった施策によりテレワーク導入を推進してきた。
その背景には、少子高齢化による労働人口の減少や、過剰労働といった社会問題がある。テレワークによって、社会問題の解決が期待されているのだ。
経営者の立場としても、感染症以外でテレワークが注目される理由を知ることで、明確な目的意識を持ってテレワークの導入を検討できるのではないだろうか。
テレワークが注目される理由は、突き詰めれば次の3点といえる。
1.生産性の向上につながる
日本テレワーク協会は、テレワークの効果の1つとして「生産性の向上」を挙げている。
主に営業職など、顧客と関わる仕事の人は、テレワークによってオフィスへの通勤時間を削減することで顧客への迅速かつ的確な対応が可能になる。研究・開発職やスタッフ職の人も、テレワークを導入することで計画的・集中的に作業ができるようになるため、業務効率の向上が見込まれる。
また、日本テレワーク協会がテレワークの効果として挙げている「オフィスコスト削減」や「環境負荷の軽減」も、効率化に寄与するという意味で「生産性の向上」に含めることができる。
2.優秀な社員の確保につながる
テレワークの導入により、社員にとってはより働きやすい環境となるだろう。通勤が不要になることで、育児や介護など家族のためのタスクに時間を割くことができるようになるからだ。
働きやすい職場の実現により、育児や介護を目的に仕事をやめる社員は減るだろう。また、新たな採用についても、テレワークを導入済の職場は求職者にとって魅力的なため、優秀な人材が集まってくると考えられる。
3.感染症予防に有効
感染症の流行時には、他人との接触を防ぐことによって感染拡大を抑える社会的な取り組みが必要だ。実際に、2020年のコロナ禍に伴って、雇用維持やテレワーク等に関して適切な配慮を行うように国から関係団体に対する要請が出された。
2020年のコロナ禍が落ち着いた後も、同じように要請が出されることがあるかもしれない。地球環境の変化やグローバル化により、パンデミック(世界的大流行)のリスクが高まっているといわれているからだ。そのため、今後も常に備えが必要だ。
企業としても、こうした社会的取り組みには積極的に協力し、流行の抑止に貢献することが責任ある対応として求められるだろう。
テレワークを導入するには?
テレワークを導入する際のポイントは、「テレワークを導入する目的を明確にし、現在の業務プロセスや組織体制をよく把握した上で具体的な手法の検討に入ること」である。目的意識があれば自ずとテレワーク対象者や対象業務も絞り込まれ、併せて自社の現状を分析することで自社に合ったテレワークの形が見えてくる。
総務省が公表している『情報システム担当者のためのテレワーク導入手順書』においても、「実際の導入プロセス」の1番目は「導入目的の明確化」、2番目は「対象範囲の決定」、3番目は「現状把握」となっている。
それでは、「具体的な手法の検討」についてはどうだろう。何について検討すべきだろうか。主要な検討事項は以下の3点である。
1.労務管理方法の決定
テレワークの導入にあたっては、テレワーク勤務時の労務管理ルールを就業規則に定め、それを所轄労働基準監督署に届け出ておく必要がある。そして、テレワークを実施する際も、労働基準法などを遵守しなければならない。
労働基準法を遵守して確実に労務管理を行うためには、新たな労働時間管理の制度を取り入れる必要が出てくる場合もある。例えば、労働時間の算定ができるのであれば変形労働時間制やフレックスタイム制を導入することも考えられる。また、労働時間の把握が困難な場合は事業場外みなし労働時間制、仕事の進め方を全て任せたい場合は裁量労働制といった制度を適切に取り入れることが大切だ。
2.システム整備
テレワークでは、インターネットにつながったPCやモバイル端末はもちろんのこと、職場外でも仕事ができるように専用のソフトウェア環境が必要になることが多い。
例えば、Web会議ツールなどのコミュニケーション管理ツールを導入したり、社内ネットワークに社外から安全にアクセスできる仕組みを整備したりといったことである。社外で仕事をすることによる情報流出のリスクもあるため、セキュリティ面への配慮も重要だ。
3.テレワークのルール作り
テレワークで円滑に業務を行うためには、
- テレワーク開始・終了時の報告方法
- 労働時間の算定方法
- 業務中のコミュニケーション方法
- テレワーク勤務者の評価方法
- テレワーク時の給与や通信費の管理方法 といったルールの作成が必要だ。
テレワーク導入に使える補助金・助成金
テレワークの普及は国としても積極的に推し進めており、それを補助する制度も整備されている。
1.厚生労働省 働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)
厚生労働省の公式ホームページによれば、働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)は「時間外労働の制限その他の労働時間等の設定の改善及び仕事と生活の調和の推進のため、在宅又はサテライトオフィスにおいて就業するテレワークに取り組む中小企業事業主に対して、その実施に要した費用の一部を助成するもの」という内容になっている。 支給対象は中小企業に絞られており、テレワークを新規で導入する場合や継続して活用する場合に限られている。
2.経済産業省 IT導入補助金
正式名称は「サービス等生産性向上IT導入支援事業」である。新型コロナウイルス感染症に対する具体的な対策(サプライチェーンの毀損への対応、非対面型ビジネスモデルへの転換、テレワーク環境の整備等)に取り組む事業者によるIT導入等を優先的に支援する。
3.東京都 事業継続緊急対策(テレワーク)助成金
常時雇用する労働者が2名以上999名以下で、都内に本社または事業所を置く中堅・中小企業等を対象とする東京都の助成金である。都が実施する「2020TDM推進プロジェクト」に参加しているほか、利用にはいくつかの要件がある。
テレワークを導入するなら今がチャンス!時代に合った働き方を
以上のように、テレワークは感染症予防以外にも多くの導入メリットがある。2020年のコロナ禍によって強制的に導入せざるを得なくなった場合でも、「生産性の向上」や「優秀な人材の確保」といったメリットを意識しながら導入してほしい。
また、コロナ禍の真っ只中にある2020年7月現在は、各省庁や自治体といった公共機関が様々なテレワーク推進のための施策を実施している。補助金・助成金もあるため、以前からテレワークを導入したいと考えていた経営者にとっては絶好のチャンスだ。
ぜひ、これを機に時代に合った柔軟な働き方ができる企業を目指してテレワークを導入しよう。そして、従業員や社会に対する責任を果たす企業であることを示してほしい。
文・BUSINESS OWNER LOUNGE編集部