法人を設立し事業をしていると法人税がかかる。法人税は決して安い金額ではないため、支払うことで、資金繰りに支障が出ることもある。とはいえ、脱税は絶対に許されず、合法な範囲で節税をする、つまり税金対策をすることが法人の経営には欠かせないのだ。
節税と脱税は違う。上手に節税対策を行うことで、納税額を減らしながら、自社の経営基盤を強化することができる。今回は法人税と節税対策について考えてみよう。
目次
法人税の種類

個人が支払う所得税は「累進課税」であり、所得が高くなればなるほど税率も上がる。一方、法人税の税率は企業の規模(資本金や所得)によって一律だ。
(例:「法人税」)
資本金規模1億円超の大企業:一律23.2%
資本金規模1億円以下の中小企業:所得800万円以上23.2% 所得800万円未満15%
法人化した場合支払わなければならない「法人税」は大まかに分けて以下の3つになる。
法人税
個人の所得税に相当する税金だ。ここで取り上げるのもこれになる。
益金(売上) − 損金(経費) = 所得
で所得に一定税率をかけたものが実際に支払う法人税だ。企業の利益にかかる税金で、ここの見直しが節税のポイントになるのだ。
法人税率は会社の規模と所得によってほぼ一律に税率が定められている。
詳しくは財務省のHP( https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm)を見ればわかるが中小企業の場合、税率は15%~23.2%と決まっている。
法人住民税
個人の住民税と同じように住んでいる自治体や都道府県に支払う税金だ。やはり所得に応じて支払うことになる。
法人住民税は
均等割:法人の資本金別に額が決まっているもの
法人税割:法人税(上の一般的な法人税)額に応じて一定の税率をかけて計算されるもの
の合計で計算される。
つまり、均等割の場合、所得の有無にかかわらず赤字でも支払う必要がある。個人住民税では、障害者などは一定所得(125万円)以下の場合に住民税が免除になるが、法人にはそのような制度はない。
法人税割のほうは、通常の法人税額に比例して支払う。したがって法人税の「節税」が重要になる。
法人事業税
法人事業税の計算は以下のような式になる。
法人事業税額 = 所得 × 法人事業税率
所得に応じて税率が異なっており、東京都では、年400万円以下の所得の場合3.4%、年400万円超〜800万円以下の所得の場合5.1%、年800万円超の所得の場合は6.7%となっている。
所得がない=赤字の場合は0円である。また、法人事業税は損金(経費)に計上できるなど、上の2税とは異なる特徴もある。
節税と脱税・租税回避の違い
節税は合法的なもので、脱税、租税回避とは全く違うものだ。それぞれの違いを認識しておこう。
節税
合法で認められている範囲内で、税の負担を減少させることである。具体的には、青色申告控除などの適用や、事業に必要なものの経費としての計上、そして特定措置の適用などがある。
脱税
税金逃れのため架空のものを計上する、また事実と異なるものを計上することである。具体的には、本来の売上とは異なる架空の書類を作ること(二重帳簿)や、売上を計上しないでポケットマネーにすること(売上の除外)、存在しない経費を計上すること(買っていないものを経費にする)、私的な支出を経費にすること(架空経費の計上)などが挙げられる。脱税は立派な犯罪であり許されるものではない。
租税回避
あまり聞き慣れない言葉だが、税法が想定しない手法で法人税を減らす方法だ。有名なのは「タックスヘイブン」(租税回避地)である。
租税回避地に形式上の本社を置くと、租税回避地の著しく低い法人税率(あるいは法人税0)で済み、結果的に法人税の支払額を大きく減らすことができる。
完全に違法とはいえないが、グレーな行為のため、発覚すると社会的評価は大きく下がり、経営にとってもマイナスになるだろう。
今すぐ取り組める税金対策
税金対策としてすぐに取り掛かれるものを紹介する。
経費を見直す
法人税は【売上(益金)-経費(損金)】にかかるため、損金になる経費を増やせば税額は減る。架空の経費や私的な飲食費などを経費計上することはできないが、今まで自己負担していたものが経費として計上できることがある。細かい積み重ねだが、経費として認められるものはすべて計上するのが節税にとっては非常に大切なのだ。
在庫を減らす
法人税は【売上-経費】にかかると前述したが、正しくは【売上-売上原価-販管費】にかかる。売上原価は、【期首の在庫+仕入れ-期末の在庫】で計算される。不良在庫、売れない在庫子をそのまま抱えていると、「期末在庫」が増え、期末在庫が増えると売上原価の数字が低くなり、【売上-売上原価】が大きくなるため法人税が増えるのだ。
以下の例を見てみよう。
売上:100
期首在庫:10
仕入れ:20
期末在庫(不良在庫):10
販管費:10
の場合、
法人税は【100-(10+20-10)-10】=70×法人税率
となる。ここで不良在庫10のうち5を期中に処分したとすると
法人税は【100-(10+20-5)-10】=65×法人税率
となる。不良在庫は期中に処分したほうが法人税額が下がり、節税になる。
設備投資をする
設備投資をして備品を買えば、【売上-経費】の経費の金額が大きくなり、法人税率の根拠となる所得が減るため、法人税額が下がり節税につながる。
ただし、事業を営む上で必要な設備投資である。新しい機械などを購入するのは問題ないが、事業用と偽り会社などを買ってしまうと、税務調査で問われることになるので注意しよう。
役員報酬の再検討
役員報酬を再検討するのも節税のポイントだ。2000万円の売上で、役員報酬が300万円の場合と600万円の場合では、後者のほうが、法人税が下がる。
では役員報酬を上げれば上げるほどよいかというとそうではない。役員報酬=個人の所得なので、当然個人が支払う所得税や住民税が上がる。所得税は累進課税だから、役員報酬を増やしすぎると「所得税+住民税>法人税」になる可能性もある。
家族も役員にするなどして、個人が支払う所得税や住民税を分散させ、結果的に「法人税>所得税+住民税」にすることで、総合的な節税にもっていく。役員報酬の再検討は重要だが、役員報酬を増やすことではないので注意が必要だ。
生命保険の節税効果は「幻」
個人の所得税の場合、生命保険は一定額まで「生命保険控除」があり税金が減る=節税効果がある。また、病気で入院などをして受け取った保険金は「事業主借」となり、売上にも所得にもならず、税金とは関係のない収入になる。
一方、法人が加入できる生命保険は同様に考えられない。確かに、法人で支払う生命保険料は経費(損金)として計上できるのだが、保険金支払事由が発生し(本人や社員が入院など)、保険金が支払われえた場合、それは収入となり法人税額が増える。
また、健康保険が節税になるというテクニックが広く知れ渡ったため、度重なる税制改正で損金(経費)に算入できる幅が狭まりつつある(現在は30万円まで)。
もちろん、経営者や社員のために会社の売上から生命保険料を支払うことは悪いことではないが、30万円の上限は誰かが入院や手術をしただけであっという間に超えてしまう。
つまり、節税目的で生命保険に加入するのはむしろ損であり、節税観点ではなく、自分や従業員の健康という観点から多少身銭を切っても入るべきものという考えに変わっている。生命保険は節税対策ではないのだ。
節税に関わる税制改正の内容をチェックする
法人税をはじめ税金については、毎年の税制改正で大きく変わるので、これまでと同じやり方では節税ができなくなっている可能性がある。ぜひこまめにチェックをしよう。
上記の生命保険料周りもここ数年で大きく変わった。
たとえば、2020年税制改正で法人税に関する部分でも
- 連結納税制度を見直し、「グループ通算制度」への移行
- 5G投資促進税制の創設
- オープンイノベーション促進税制の創設
- 企業版ふるさと納税の見直し
などがある。5G環境整備への設備投資は法人税が従来よりも減る制度などが創設された。これを知っていれば、上記の節税措置「設備投資」の積極的な実施や内容の選択と集中ができるはずだ。
節税には「マメさ」が必要
このように法人税の節税を進めるためには、「経費計上できるかのチェック」「もらっている役員報酬がいいのかどうかの確認」「不良在庫の見極め」「毎年の税制改正のチェック」など、手間のかかる作業が必要だ。
しかし、塵も積もれば山となるので、地道に積み上げていくことで、法人税額を減らせる。節税に特効薬はなく、地道な努力と順法精神が必要になる。架空計上や帳簿の書き換えをすると、見かけ上法人税は大きく減るが、こちらは立派な脱税、違法行為であり絶対に行ってはいけない。
点滴石をもうがつ
繰り返しになるが、節税は一朝一夕にできるものではなく、小さな努力と根気のよさの積み重ねになる。点滴石をもうがつ、1滴の滴る水でも、長い年月をかけると、石に穴をあけることもできる。
小さな努力が大きな成果を導きくので、たとえ節税によって減る法人税が少額でも、これを続けることで、単に税金が減るだけではなく、経営が改善され増益につながる新陳代謝をもたらすのだ。
不良在庫を抱えたままでは、事業転換が難しく、新しい設備投資もしづらいだろう。きっかけは法人税の節税でも、その効果はそれにとどまらないことを知っておくとともに、最新の税制や会計に気を配ることが大切だ。法人税の節税は大きな経営改善効果があるので、できることから少しずつ始めてみては どうだろうか。
※記事中の法律・税制などに関する記載は2020年7月時点のものであり、現在は法律等が改正されている場合が考えられますのでご注意ください。
文・松田謙太郎(ダリコーポレーション ライター)