法人が支払う税金は、法人税・住民税・事業税・消費税など様々な種類がある。税金について押えておくべき基本事項から損金算入できる税金に関する情報、仕訳例と実際の納付まで、具体例をもとに解説する。
目次
法人が支払う税金

法人が支払う税金の仕訳を理解するためには、法人が支払う税金に関する基礎的な知識が不可欠だ。この章では絶対に押さえておきたい法人の税金に関する情報を整理する。
法人税を計算するもとである法人の「所得」とは
法人税は「所得」に法人税率を乗じて計算する。ここでの法人所得は、会計上の利益ではないことに注意しよう。所得は、会計上の利益をもとに、会計と税務で異なる部分を抽出し調整することにより計算される。
会計と税務の違いで分かりやすいのは「交際費」だろう。会計上、支出をしたのであれば交際費はすべて費用として認められる。一方、税務ですべての交際費を費用(税務では損金と呼ぶ)として認めた場合、国として徴収できる税金は大きく減少してしまう。よって、法人税法では、交際費の損金算入限度額というルールを作り、交際費は一定程度までしか損金として認められないことになったのである。
会計は「保守主義の原則」に基づき、費用はなるべく早めに、多めに計上しておくことが望ましいとされている。税務は反対に、費用はなるべく遅めに、少なめに計上してもらわないと国としては困ってしまうのである。
法人が支払う税金の代表
法人が支払う主要な税金には、法人税・法人住民税・法人事業税がある。これらの税金は法人の所得に応じて変動するという点で共通している。
法人税とは、法人の所得に対して課される税金である。法人税は株式会社、有限会社、合同会社、医療法人など普通法人と呼ばれるほとんどの法人格に対して納税義務がある。法人税が課されない法人には、社団法人、財団法人、宗教法人などの公益法人が挙げられる。
法人住民税とは、法人所在地にある都道府県と市町村に支払う税金である。法人であっても公共サービスを利用しているという観点から税金の支払いが必要なルールとなっている。法人住民税は、法人税割と均等割から構成され、両者の合計額で計算される。
法人事業税とは、法人が行う一定の事業に対して課される税金である。法人事業税は、所得割、付加価値割、資本割に分けて計算される。
損金算入できる税金
損金算入できる税金は、酒税・事業税・事業所税・不動産取得税・自動車税・固定資産税・都市計画税などが挙げられる。事業税と事業所税が損金算入できる税金に入っていることは、法人税や住民税と間違いやすいポイントであるため、留意が必要だ。
参考:国税庁ホームページ
損金算入できない税金
損金算入できない税金は、法人税・地方法人税・都道府県民税及び市町村民税の本税が挙げられる。法人の所得をもとに計算される税金であるため、これらが損金算入されてしまうと永遠に法人税の計算が定まらないことになる。
法人税等の仕訳方法
法人が支払う税金について基本事項を押さえた後は、具体的な仕訳方法について解説する。
仕訳のタイミング
法人税等の仕訳は、法人税等の金額を計算した時に行うのが一般的である。法人税等は会社の決算が締まった後に計算できるようになるため、後述する中間納付がない場合は期末決算後の1回のみとなる。
企業の確定申告は決算日後2ヵ月以内、延長申請がなされている場合は3ヵ月以内に行う必要がある。そのため、法人税等の仕訳は決算日後、遅くとも2ヵ月または3ヵ月以内に行わなければならない。
中間納付とは
中間納付とは、事業年度の中間点において法人税の納税を行うことをいう。中間納付は、前年度に20万円を超える確定法人税額を支払った場合、NPO法人等を除いて実施しなければならない。
中間納付の計算方法は、2通りある。①予定申告と②仮決算だ。
1.予定申告
下記の計算式に則り、納付する方法である。
前事業年度の法人税額÷12(全事業年度の月数)×6=中間(予定)税額
2.仮決算
期末決算と同じことを中間決算でも行い、期末と同様に法人税等を計算する方法である。
実務上、仮決算は時間がかかるためほとんどの企業で①予定申告を採用している。予定申告を採用した方が、決算期末に一度に多額の法人税を納める必要がなくなり、資金繰りを予測しやすいといったメリットがある。
また、税金を徴収する側である国や地方自治体も、お金が早く入ってきた方が財政は楽になるため、予定申告は、企業と国・地方公共団体の両者にメリットがある制度といえるだろう。
タイミング別の具体的な仕訳例
中間納付は、事業年度開始後6ヵ月を経過した日から2ヵ月以内に実施しなければならない。例えば、決算日が12月末の場合、中間決算日は6月末、中間納付は遅くとも8月末までに行う必要がある。
中間納付の仕訳は下記のとおりである。あくまでも予定納付であるため、「仮払法人税等」という仮払科目を使うことに注目しよう。
借方 | 貸方 | ||
仮払法人税等 | 1,000,000 | 現預金 | 1,000,000 |
決算期の到来後、2ヵ月以内または3ヵ月以内に正式な法人税の申告納税を行う必要がある。期末の法人税は計算が固まった時点で下記の仕訳を計上する。
借方 | 貸方 | ||
法人税等 | 3,000,000 | 仮払法人税等 | 1,000,000 |
未払法人税等 | 2,000,000 |
仮払法人税よりも、実際の法人税が少なかった場合は還付申請となる。還付申請の際は、「未収法人税等」という勘定科目を使用する。
借方 | 貸方 | ||
法人税等 | 500,000 | 仮払法人税等 | 1,000,000 |
未収法人税等 | 500,000 | |
実際に法人税を支払った場合や還付を受けた場合は、未払法人税等や未収法人税等を取り崩す仕訳を行う。
<納付時>
借方 | 貸方 | ||
未払法人税等 | 2,000,000 | 現預金 | 2,000,000 |
<還付時>
借方 | 貸方 | ||
現預金 | 500,000 | 未収法人税等 | 500,000 |
納税のタイミング
納税は確定申告と同様の期間内に行う。すなわち、中間決算から2ヵ月以内、期末決算から2ヵ月以内(延長申請している場合は3カ月以内)に行わなければならない。
ただし、2020年は新型コロナウィルスの影響によりスケジュール通りに申告納付できないこともあるだろう。そのような場合には国税庁に申請することにより個別の延長が認められる場合がある。
詳しくは国税庁が出している「法人税及び地方法人税並びに法人の消費税の申告・納付期限と源泉所得税の納付期限の個別指定による期限延⻑⼿続に関するFAQ」を確認してもらいたい。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/pdf/0020004-044.pdf
その他の税金における仕訳例
ここまで、主に法人税等の仕訳について説明してきた。次に、その他税金の仕訳についても解説する。
租税公課
租税公課とは、国や地方公共団体に支払う、税金の「租税」と会費や手数料の「公課」を合わせた勘定科目である。
租税公課で処理すべき主な「租税」は下記のとおりである。
- 印紙税
- 固定資産税
- 不動産取得税
- 都市計画税
- 登録免許税
租税公課で処理すべき主な「公課」は下記のとおりである。
- 地方公共団体などに対する会費や手数料
- 住民票取得の際に発生する発行手数料など
租税公課は支払ったタイミングで下記の仕訳を行う。
借方 | 貸方 | ||
租税公課 | 1,000,000 | 現預金 | 1,000,000 |
なお、後述するが、消費税の経理処理を「税込経理方式」としている場合は、消費税も租税公課として仕訳計上することになる。
消費税
消費税における会計処理は、「税抜経理方式」と「税込経理方式」の2種類がある。「税抜経理方式」とは消費税額を売上高や仕入高に含めない方式であり、「税込経理方式」は、反対に売上高や仕入高に消費税額を含める方式のことを指す。
売上100万円、仕入80万円の時の仕訳例は下記のとおりである。
(1)税抜経理方式の場合
借方 | 貸方 | ||
現預金 | 1,100,000 | 売上 | 1,000,000 |
仮受消費税 | 100,000 |
借方 | 貸方 | ||
仕入 | 800,000 | 買掛金 | 880,000 |
仮払消費税 | 80,000 |
借方 | 貸方 | ||
仮受消費税 | 100,000 | 仮払消費税 | 80,000 |
未払消費税 | 20,000 |
(4)納付
借方 | 貸方 | ||
未払消費税 | 20,000 | 現預金 | 20,000 |
2.税込経理方式の場合
(1)売上計上
借方 | 貸方 | ||
現預金 | 1,100,000 | 売上 | 1,100,000 |
(2)仕入計上
借方 | 貸方 | ||
仕入 | 880,000 | 買掛金 | 880,000 |
(3)消費税計算
借方 | 貸方 | ||
租税公課 | 20,000 | 未払消費税 | 20,000 |
(4)納付
借方 | 貸方 | ||
未払消費税 | 20,000 | 現預金 | 20,000 |
なお、納税ではなく、還付が発生する場合は、雑益勘定を使って営業外収益とする。
消費税の納付回数は年1回、年2回、年4回、年12回の4パターンに分類される。前期の消費税納付額により決定され、48万円以下である場合は消費税の納付は必要ない。年12回のパターンは前期の消費税納付額が4,800万円である場合に該当する。
納付のタイミングは、例えば3月決算の場合で年4回納付する場合だと、納付期限は5月末、8月末、11月末、2月末となる。年2回の場合は、11月と5月の納付となる。基本的には法人税と同じ2ヵ月以内と覚えておくと良いだろう。
給与や報酬の支払い時に発生する税金
企業が従業員へ給与を支払う時、また外部専門家等に報酬を支払う際は、源泉所得税を差し引いた金額を振り込む。給与支払時には、源泉所得税は預り金として処理し、源泉所得税の納付時に相殺仕訳を行う。給料10万円、源泉所得税1万円の場合の仕訳は下記のとおりである。
借方 | 貸方 | ||
給与 | 100,000 | 現預金 | 90,000 |
預り金 | 10,000 |
<源泉所得税支払時>
借方 | 貸方 | ||
預り金 | 10,000 | 現預金 | 10,000 |
源泉徴収した所得税は、給与支払月の翌月10日までに、国に納付しなければならない。また、源泉所得税は、法人に関する税金ではないため、損益計算書には影響しない。
法人が支払う税金の基礎知識・仕訳
今回は、法人が支払う税金についての基礎知識と仕訳を網羅的に解説してきた。税金の計算自体は複雑で時間がかかるものだが、税金の仕訳自体はそこまで難しくない。仕訳の特徴としては仮払・仮受・未払・未収といった経過勘定がよく使われていることが挙げられるだろう。
納付期限も税金によって異なり、法人税は決算期後2ヵ月以内、消費税は前年度の消費税額により納付回数が変わる。また、源泉所得税は給与支払時の翌月10日など、納付のタイミングはさまざまなため、しっかりと理解しておくことが大切だ。
文・BUSINESS OWNER LOUNGE