雇用保険などの電子申請が2020年4月1日より大企業などの特定の法人について義務化された。中小・ベンチャー企業などにとっては従来通りの書面による申請が認められてはいるものの、電子申請の流れは今後拡大していくものと見込まれる。メリットも多くある電子申請に中小・ベンチャー企業も対応していく必要があるだろう。
この記事では、雇用保険などの電子申請のメリットややり方について詳しく解説していこう。
目次
雇用保険などの電子申請義務化がいよいよスタート

最初に雇用保険などの電子申請義務化について概略を見ていこう。
電子申請とは
電子申請とは、行政に対する申請や届け出などの手続きをインターネット経由でパソコンから行えるようにするものである。これまでもCD-Rや光ディスクなどの電子媒体での提出が義務化されるなど行政手続きの電子化が進められてきた。しかし電子申請はそれとは異なる。電子申請の義務化では、インターネットを利用した手続きのみが認められCD-Rや光ディスクなどの電子媒体による提出は認められない。(やむをえない場合を除く)
義務化の対象となる法人
電子申請義務化の対象となるのは「特定の法人」でその内容は以下の通りだ。
- 資本金または出資金の額が1億円を超える法人
- 相互会社
- 投資法人
- 特定目的会社
したがって資本金が1億円以下の中小・ベンチャー企業は義務化の対象となっていない。しかし電子申請の流れは今後拡大することが見込まれる。また電子申請には24時間いつでも申請できるなどのメリットも多い。中小・ベンチャー企業も電子申請に対応できるように準備しておくことが望ましいといえるだろう。
義務化の対象となる手続き
義務化の対象となる申請・届け出の内容は以下の通りとなる。
保険の種別 |
申請・届け出の内容 |
健康保険・厚生年金保険 | ●被保険者報酬月額算定基礎届 |
●被保険者報酬月額変更届 | |
●被保険者賞与支払届 | |
労働保険 | ●継続事業(一括有期事業を含む)を行う事業主が提出する以下の申告書 |
・年度更新に関する申告書(概算保険料申告書、確定保険料申告書、一般拠出金申告書) | |
・増加概算保険料申告書 | |
雇用保険 | ●被保険者資格取得届 |
●被保険者資格喪失届 | |
●被保険者転勤届 | |
●高年齢雇用継続給付支給申請 | |
●育児休業給付支給申請 |
雇用保険などを電子申請するメリットとデメリット
雇用保険などの申請・届け出を電子申請によって行うメリットとデメリットは以下のようなものがある。
電子申請の3つのメリット
電子申請のメリットとして以下の3つが挙げられる。
・申請に費やす時間や交通費などのコストを削減できる
電子申請はわざわざ役所まで足を運ぶ必要がなく家や会社から手続きできる。また役所へ行けば複数の窓口をまわらなければいけない場合もすべて一括して申請することが可能だ。24時間いつでも申請できるため、スキマ時間を有効に利用することもできる。
・書類を紛失するなどによるセキュリティを向上できる
書類は、役所へ持ち運ぶ場合に紛失する可能性もある。しかし電子申請なら書類は持ち運ばないため紛失のリスクはなくセキュリティの向上が期待できるだろう。
・手数料を電子納付できる
電子申請では、手数料もインターネットバンキングなどを利用して電子納付ができる。会計ソフトなどを利用して銀行の利用履歴を取り込んでいる場合には便利だろう。
電子申請の3つのデメリット
一方で電子申請には以下のような3つのデメリットがあるともいわれる。
・電子申請を導入するためにコストがかかる場合がある
電子申請を利用するためには、パソコンやインターネット接続、ICカードリーダーなどの設備が必要だ。それらが現状でない場合には、設備投資のためのコストがかかることになる。
・電子申請に不慣れだとかえって時間がかかることがある
電子申請は、慣れればたしかに役所へ行くより時間を節約できるだろう。しかし不慣れでまだ電子申請のやり方を十分に理解できていないときには、書面の作成よりかえって時間がかかることもありえる。
・手続きが完了するまでの期間が遅くなることがある
役所へ書類を持ち込めば受付の際に確認してもらえるため、もし書類に不備があってもその場で修正することが可能だ。一方電子申請では、送信時に人間の目による確認がないため書類の不備が後日になって判明し書類が返戻される可能性が否めない。そのため手続きが完了し離職票などの書類が送付されてくるまでに書面での手続きより遅くなることがある。
雇用保険などの電子申請の方法
雇用保険などを電子申請する方法として以下の2つがある。
- e-Govから申請する
- API連携したソフトを使用する
それぞれの概略を見てみよう。
e-Govから申請する
電子申請の方法の1つとして「電子政府の総合窓口」である「e-Gov」から手続きすることが挙げられる。e-Govは、電子申請のほか法令検索、パブリックコメント検索、白書・統計調査結果検索などを行う「電子政府の総合窓口」だ。e-Govから電子申請を行うためには以下のような流れが必要になる。

手続きの流れは、以下の8つだ。
1.申請する手続きを検索する
2.申請データの入力を行う
3.電子署名する
4.申請書が到達する
5.到達番号・問い合わせ番号が返信される
6.到達番号で問い合わせを行うことにより進捗が確認できる
7.進捗が確認されると、進捗状況が返信される
8.手続きが終了し、公文書がダウンロードできるようになる
電子申請の入力は「通常申請(新規申請)」と「一括申請」の2通りの方法がある。通常申請は、申請書類の入力をサイト上で行うものだ。1件1件入力していかなければならないため、件数によっては大きな労力がかかる。一方「一括申請」は、申請に必要となる書類を圧縮し一括して登録できるものだ。通常申請と比較すれば入力の手間が省けるものの圧縮には専用のソフトウェアが必要になってくる。
以上の通り2020年4月時点でe-Govからの電子申請は使い勝手がよいとはいえない。場合によっては書面での申請より時間と労力を費やすこともあるだろう。したがって電子申請を行う際には、以下で見る「API連携したソフトを利用する」ことがおすすめだ。
API連携したソフトを利用する
「API(Application Programing Interface)」とは、情報システムを外部のソフトウェアから利用する際の規格を定めたものである。電子申請はAPI連携に対応しているため、外部のソフトウェアから電子申請のデータを利用し操作することが可能だ。電子申請とAPI連携しているソフトウェアは多く販売されており特に人気なのが労務・会計管理のクラウドソフトである。
労務・会計管理のクラウドソフトを電子申請に使用するメリットは主に以下の4つだ。
・労務・会計ソフトウェアのデータを電子申請に利用できる
API連携している労務・会計ソフトウェアを使用することによりソフトウェアに登録されているデータが電子申請にそのまま利用が可能だ。そのためデータを新たに入力する労力が軽減される。
・労務・会計ソフトウェア上からすべての操作ができる
API連携している労務・会計ソフトウェアを使用すればソフトウェアから電子申請に関するすべての操作が可能だ。ソフトウェアの慣れた操作の延長上で操作ができるため、操作を覚える時間を短縮することができるだろう。また多くの労務・会計ソフトウェアは、同種の操作を反復して行うことができるようになっている。
そのため大量の反復的な申請を行う際には、労力の大幅な削減を見込めるだろう。
・手続きの進捗管理を行いやすい
電子申請後に取得される到達番号は、労務・会計ソフトウェア上で従業員のデータと紐付けされるため、手続きの進捗管理が行いやすい。
・Windows以外のパソコンからも利用できる
e-Govを利用して電子申請を行う際に、パソコンのOSはWindowsでなければならない。一方労務・会計ソフトウェアによる電子申請は、OSについての制約がなくなる。
以上のようにAPI連携している労務・会計ソフトウェアから電子申請を行うことは、e-Govから行うことと比較して大きなメリットがある。ただし労務・会計ソフトウェアを導入するためにはそれなりのコストがかかることは認識しておきたい。労務・会計ソフトをこれから導入するのなら電子申請のみならず労務・会計ソフトウェアを社内で使用するニーズをしっかりと見極める必要があるだろう。
雇用保険を電子申請するに当たっての留意点
雇用保険などを電子申請するにあたっての留意点を見てみよう。
電子申請の費用は?
電子申請をするためには「電子証明書」を取得することが必要だ。電子証明書は、証明期間に応じて以下の費用がかかる。

最長の証明期間である「27ヵ月」の場合、費用は1万6,900円(1ヵ月あたり約626円)となる。役所へ足を運ぶための人件費や交通費、郵送するための郵便費用などと比較すれば十分元を取ることはできるのではないだろうか。
審査の期間は?
電子申請による審査は書類に不備がない場合、数日で終了し離職票などの公文書をダウンロードすることが可能だ。しかし前述の通り書類に不備がある場合には「数週間」がかかるケースもあることは認識しておきたい。書類の不備は書面で提出する場合、窓口の担当者の確認で修正できるケースが多いだろう。
ところが電子申請の場合には、提出時の修正ができないため、どんなに小さな不備であっても書類が返戻されてくる。修正は一度で完了すればよいものの、場合によっては数度にわたり返戻される可能性もあるだろう。そうなると審査の期間は大幅に伸びる。電子申請にあたっては、書面で提出するとき以上に書類の記載内容をしっかりと確認することは必須だ。
雇用保険などの手続きは電子申請を利用して効率的に行おう
大企業については義務化された雇用保険などの電子申請は2020年4月時点では資本金が1億円以下の中小・ベンチャー企業については義務化されてはいない。しかし電子申請の流れは今後拡大していくことが見込まれる。書面での申請と比較して申請のための時間と労力および費用を軽減することができるのが電子申請の大きなメリットだ。積極的に導入し業務を効率化させていこう。
文・高野俊一(ダリコーポレーション ライター)